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騙され裏切られ処刑された私が⋯⋯誰を信じられるというのでしょう? 【連載版】 作者:榊 万桜
61/61

61:変化は少しずつ


 ──────────マルリナ聖国に帰国され1月後、セリア様の訃報が知らされた。


 聖国では、民が悲嘆に暮れており、喪に服すように街中の活気がなくなってしまったそうだ。セリア様が枢機卿として必死に抑えつけていたオークとオーガなど言われている者達は、民に向けては喪に服すような下手なパフォーマンスをし、裏では酒池肉林な祝杯を上げていることを殿下の所有している影(諜報員)から報告が上がった。

 アースの執務室に集められた私たちは、その報告内容をクラウスから伝えられた。


「マルリナ聖国はもう駄目だろうな」


「既に良識のある者たちを僻地へ派遣という名の追放にしたり、冤罪で破門しているようです。中には神殿から自ら逃げ出す者も出ている始末。……オークにグールと頭が湧いている者ばかりだと思いましたが、存外悪知恵は働く者もいるようですね。しかし、先を見越した行動ができているわけではないので、滅びは必然ですけどね。ということは、やはり奴らの頭は湧いていることになりますね。困ったものです」


「我が国にも確実に影響が出ますわね。マルファイ伯爵にも警告が必要ですわ。かの方が治めておりますマリスは聖国と繋がりのある地ですから……これから、大変になりますわね」


「確かに。父上たちはすでに書簡を送っているだろうし、マルファイ伯爵も愚かな方ではないから、独自の情報網を屈指して聖国の状況は把握できていることだろう。それでも、一つの国が荒れれば周辺の国にも少なからず影響が出るからね。特に聖国の立地的に避難民の大半が我が国に流れてくるだろうし、西の辺境が荒れる可能性が高い。早めに対処しなくては」


 アースは今後のことを考えて頭痛がするのか、額を抑えながら陰鬱な様子で呟いた。その呟きに、新たに得られた情報を加えて毒を吐くクラウスは、鋭く冷たい瞳でアートの机に広げられた地図上のマルリナ聖国を見つめている。その瞳が、軽く「困ったものです」と言った言葉とは裏腹に冷たい殺意が込められていることに集まった人たちは気づいていて、あえて何も追求しなかった。


 アースが言うように避難民が我が国に流れてくる可能性が高い。違法に入国しようとする者も出てくるだろうし、職にありつけない者たちが盗賊や浮浪者などに身を落とせば国が荒れる。また、その対処に奔走している間に、これ幸いとレザン帝国が攻めてくるだろう。頭が痛くなる問題に元凶となる聖国の愚かな人達へ殺意を向けるクラウスの気持ちが理解できてしまった。

 多分、皆同じ気持ちだったため、クラウスの言葉を諫めなかったのだろう。


 我が国一番の大きさを誇る聖堂があるマリスを含む領地を治めるマルファイ伯爵は、教会の信者の一人でもある。マルファイ伯爵家の縁者には出家しマルリナ聖国で神に仕えし者も多くいることもあり、マルリナ聖国との結びつきが一番強い我が国の貴族と言えばマルファイ伯爵家である。そのため、マルリナ聖国の影響が一番に出るのは信徒が多く住むマリスと聖国と繋がりが強いマルファイ伯爵家であることは確実である。


「そうだね。西が荒れると、帝国に付け入る隙を与えちゃうし、サッサと避難民の受け入れ地を選出するべきだよね。あと移住希望者の名簿管理も必要になるね。たぶん、その対処は僕たちに回ってきそう」


「その時は受け入れ可能な領の選出・交渉をロベルトにお願いしようかな。クラウスには避難民の名簿管理と受け入れしてもらう領への援助金の管理もお願いするよ。西が荒れないよう管理するのは国境警備隊だけでは困難だからね。二個師団ほど国境に向かって貰えるように騎士団長と交渉しなくては。アイザックはいつも通り私を警護し、国境の兵達と連絡をとり状況の把握に努めてくれ。まだ、父上から何も言われていないけど、ロベルトの言う通り、こちらに回ってきそうだからね。動き出すなら早い方がいい」


 ロベルトは外務大臣の子息であり、外交官として経験を積むため国外を走り回っているアートの側近を1人だ。

 まだ外交官としては見習いであり、他国の重役と繋ぎを作っている最中だ。本来なら今も他国で先輩外交官と飛び回っているはずだったのだがセリア様の悲報を知り、今後の情勢がどうなるのか不安定のため見習いがいては邪魔になるかもしれないと送り返されたのだ。


 本当のところ、外務大臣の子息に何かあっては困るというのが本音だろう。外務大臣の子息がいることで他国も先輩外交官も心労が増すだけだ。ロベルトもそれが分かっているから抵抗することなく帰国したようだ。そうして久方ぶりに自国の地に足を付けたロベルトは、アートの側近として登城して来たのだった。


 ロベルトがソファに座りのんびりと紅茶を飲みながら、今後起こりうることを声に出し、その仕事が自分たちに回ってくることを予想して嫌そうな顔をした。それに頷きながら、即座に自身の側近へそれぞれの特性に合わせた役割を采配していく。アートは柔和に笑いながら側近たちへ軽く指示を飛ばすが、その雰囲気は既に王者の風格が備わっており、側近たちも粛々と指示を受け入れている。


 それぞれ自身の役割を果たすため早速動き始めようとしたので、軽く手を叩き声をかけて引き留めた。


「皆様、お待ちになって。役割を果たされるため尽力されることは、よろしいことと存じますが、それぞれの婚約者の方々にお声かけを忘れないでくださいましね。特にロベルト様、貴方は久方ぶりに帰国されたんですもの。それにマルファイ伯爵家はこれから大変なのですから、フェミニア様に少しだけでも心配りしてくださいね」


「おぉ! 忘れるところだった。シェリー嬢、感謝する!」


「私は抜かりありません。しかし、要らぬ心労を与えぬよう手紙でも書きましょうか」


「そうだね。あまり時間は作れないけど一度顔を見に行ってくるよ。フェミー元気かな?」


「シェル、私の愛しい人。待っていて、君との幸せな時間を邪魔されないようサッサと片付けてくるよ」


「アート、無理はしないでね。皆様も無事に事が収まることをお祈りさせていただきますわ」


 アートも含め仕事優先なのはいいことだが、それを理由に婚約者を蔑ろにしていいことではないので、一応忠告をしておいた。

 特にロベルトの婚約者のフェミニア様はマルファイ伯爵家のご息女であるため、今回の騒動に心を痛めているはずである。只得さえ、外交官として他国を飛び回っているロベルトはフェミニア様と会う回数が他の側近に比べても少ないものだから、心配になって口を挟んでしまった。

 本来、家同士で取り決めた婚約に対し口を挟むなどマナー違反であるが、この人たちは仕事に集中すると婚約者のことを忘れてしまっているかと心配になるほど仕事にのめり込んでしまう。それで割を食うのは婚約者の女性たちなのだ。


 アートの側近で将来有望だけでなく、皆一様に見目麗しいためご令嬢に大変人気であり、少しでも粗を見つけるとチクチクと攻撃してくるのだ。それだけならいいが、まるで本当の様に醜聞を広げようとする方もいる始末。それらをうまく制御しながら優美に社交界を渡らなくてはならず、失敗すれば最悪婚約が破棄されてしまう。女性が婚約破棄などされれば傷がつくので、次の嫁ぎ先も見つけにくくなる。多くの者は下位貴族へ嫁ぎ、中には出家する者もいるのだ。

 アートの側近も優秀だが、その婚約者の方々もとても優秀である。それに、それぞれの婚約者と仲睦まじい様子なので、今後の平和のためにも今更挿げ替えられるのは困るのだ。なので、マナー違反だが口を挟んだ。


 皆嫌な顔せずに素直に了承されて執務室を後にされた。こういうところも好ましく思われる点だろう。


 その後、国王より避難民と盗賊などの対応を一任されたアートが各方面と調整を図るため忙しくなり、私も聖国のことでざわつく社交を制御しながら、アート達へのフォローと各種方面の根回しを陰ながら行った。

 特に大きな問題が生じることなく、避難民の受け入れが行われた。西部のいくつかの領が避難民受け入れを表明してくれたため、比較的スムーズに移動も行えた。今のところ西部が荒れることもなく、帝国も手が出しずらい状況のようだった。


 そんな中、またも新たな問題が生じた。

 件の聖女が我が国に書状を送ってきたのだ。内容はセイラ様の悲報と聖女としての就任の挨拶であることが記されていた。


 王たちは、先の一軒もあり受け入れしない方向へ話が進んだそうだが、何故かマルファイ伯爵と他数人が反対をしており、話し合いが難航しているとのことだった。


「何を考えているのでしょうかね? 今、聖女を我が国に招き入れれば、聖国の馬鹿どもが我が国が奴らを受け入れたと勘違いして動きが活発化してしまうでしょうに。マルファイ伯爵はそんなことも考え付かない方でしたかね?」


「そんな方ではないはずなんだけど、なんか変なんだよね。最近はフェミーにも合わせてくれないし……今度、探りを入れてみるよ」


「そうしてくれ、何か嫌な感じがする」


「シェリー嬢、もしフェミーに会うことが合ったら、それとなく気にかけてくれるかな?」


「えぇ、他の方々の婚約者の方も注視しておきますわ」


「ありがとう」


 王たちの話し合い内容を知り、避難民などのことを定期的に報告し合う場で、アートが情報共有を図った。すかさずクラウスが嫌そうに顔を歪めて、聖女を受け入れない理由を正確に把握しながら、それを理解できず反対をしている者たちに呆れを示してしまっていた。

 クラウスの言葉に、頷きながらロベルトが首を捻る。マルファイ伯爵に何かしらの違和感を感じているようだが、確信できるものがなかったようだ。そこで、自身の義父になろう人を躊躇なく調べることにしたようだ。アートもそれに同意しながら、珍しく眉間に皺を寄せて口に手を置き、漠然とした嫌悪感を感じていた。

 ロベルトはアートの後ろに控えていた私に視線を向けると、婚約者のことを気にかけてほしいと懇願した。ほかの側近の方も婚約者のことを気にされている様子が感じられたので、彼らが安心して仕事が行えるよう声をかけた。皆一様にホッと息をついている様子から婚約者を大切にしていることが読み取れた。


 彼らの婚約者の彼女達も相手を好ましく思っているようなので、彼らの反応に自分のことのように嬉しくなり笑顔が漏れてしまった。すぐに腕を引かれ、アートの胸に顔を埋めさせられて、他の方に顔が見えないようにされてしまった。


「はぁ、アーサーがシェリー嬢を好きすぎることは分かっておりますが、そんなに嫉妬心丸出しでは呆れられても知りませんよ」


「アーサーは、シャリー嬢のことになると素が出るね」


「はっはっは! いつものことではないか。こればかりは治らないだろ」


「うるさいっ‼ サッサと仕事に戻れ」


「はいはい」


 皆が呆れたような溜息を吐きながら、自身の仕事に戻っていった。


 後日、マルファイ伯爵を調べていたロベルトから緊急の知らせが届いた。

 _____________伯爵家に聖女が滞在している。と



こんばんは。

更新遅くなりました!

どうぞよろしくお願い致します。

今後も更新頑張ります!

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