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パワハラ会議で追放された召喚士、旧友とパーティを組んで最強を目指す~今更戻って来いと言ってももう遅い。えっ、召喚獣だけでも貸してくれ? 悪いが、それもお断りだ~ 作者:月島 秀一
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第十七話:ラココ族

「それで、これからどうするんだ?」


 俺の問い掛けに対し、ルーンは懐から書類を取り出す。


「えっと……夕方の四時にラココ族の村へ現着(げんちゃく)、今夜の『封印決戦』に備えて族長と会談、その後は現場の流れに任せて――という感じですね。今はまだ午前十時なので……後六時間ほど、特にすることがありません。当初の予定ではこの空き時間を使って、派遣されてきた特級冒険者の方と話し合い、お互いの術式や簡単な連携などを共有するつもりだったのですが……」


 ルーンは苦笑いを浮かべながら、ポリポリと頬を()く。


「まぁ俺もステラもルーンも、それぞれの術式はほとんど知り尽くしているからな」


「連携だって、冒険者学院時代のものが丸々使えるしね」


「えぇ、そうなんですよ」


 俺たちは冒険者学院の三年間、互いに切磋琢磨(せっさたくま)しながら魔術の研鑽(けんさん)を積んできた。

 今更になってわざわざ術式を開示する必要もなければ、急ごしらえの連携を作る必要もない。


「さて、これからどうするか……。六時間って結構長いからなぁ」


「先にラココ族の村へ行っちゃうのは、駄目なのかしら?」


「一応、先方からは、『きちんと時間通りに来るように』と言われています。どうやら今夜の封印に備え、朝早くから夕方ごろまで、伝統の舞踊と祈祷(きとう)を行うらしく……。その途中で来られても、迷惑なんだそうです」


 なるほど……。

 独自の文化や伝統なんかは、ちゃんと尊重する必要がある。


「ということは現状――」


「――完全に手持無沙汰ってこと?」


「すみません、そうなっちゃいますね……っ」


 わずかな沈黙の後、ステラがポンと手を打った。


「そうだ! せっかくカルナ島まで来たんだし、どうせなら遊んでいきましょう!」


「あっ。それ、名案です!」


 その提案に、ルーンはすぐさま飛び乗った。


「えっ、いやでも……これは仕事だし……」


「大丈夫、大丈夫! 自由時間にリラックスするのも、仕事の一つよ!」


「行きましょう、アルトさん!」


「えっ、あっ、ちょ……ステラ、ルーン!?」


 俺は二人に手を取られ、美しいエメラルドグリーンの海へ連れて行かれたのだった。



 三十分後――俺は白い砂浜にパラソルを突き立て、下に敷いたレジャーシートに座っていた。

 ステラとルーンが更衣室で着替えている間、『荷物の番』をしているのだ。


(しかし、高くついたなぁ……)


 今回俺たちは氷極殿の封印を補助するため、カルナ島を来たのであって、決して観光目的で足を運んだわけではない。

 当然ながら、持ってきた荷物の中に水着はなく……必然的に現地調達することになった。


 ただまぁ、『観光地価格』というやつなのだろうか。

 極々(ごくごく)普通の水着が、通常の三倍以上の価格で売られていた。


これ(・・)で五千ゴルド、か……)


 俺が今穿()いているのは、店の中で一番安かった水着だ。


(まぁ『黒』の『無地』だし、今後も使えると思えばギリギリ……アウトかなぁ……)


 高いものは高い。


(……働こう)


 身を粉にして、限界ギリギリまで働こう。


 そうして勤労意欲をメラメラ燃やしていると、後ろの方からステラとルーンの声が聞こえてきた。


「アルトー!」


「アルトさーん、お待たせしましたー!」


「あぁ、ステラ、ルーン……っ」


 振り向くとそこには、水着姿の絶世の美少女が二人。


「え、えっと……どう、かな……?」


「に、似合ってますかね……?」


 ステラとルーンは頬を赤らめ、恥ずかしそうにしながら、感想を求めてきた。


 ステラの水着は、可愛らしいビキニ。

 白い布地に赤のライン、腰回りには白のパレオを巻いており、彼女の亜麻色の髪と健康的な肌にとてもよくマッチしていた。


 ルーンの水着は、黒いホルターネック。

 飾り気のないシンプルなもので、彼女の透き通るような銀髪と大人びた黒のコントラストが非常に美しく、思わず見惚れてしまいそうになった。


 二人の豊かな胸と健康的やかな柔肌(やわはだ)が、視界を埋める。


「あ、あぁ……二人とも、とてもよく似合っていると思うぞ」


 あまりにも刺激が強過ぎたため、視線を逸らしながら返答する。


「そ、そっか……っ。……ありがと」


「えへへ、嬉しいです」


 ステラは亜麻色(あまいろ)の髪を指でシュルシュルといじりながら、ルーンは恥ずかしそうに頬を掻きながら、天使のように微笑んだ。


「……(これは、目のやり場に困るぞ……っ)」


「……(や、やった……! アルトが似合っているって、とても可愛いらしいって、好きかもしれないって言ってくれた……!)」


「……(黒の水着はちょっと恥ずかしかったですけど……。アルトさん、気に入ってくれたみたいでよかった……っ)」


 なんとも言えない沈黙が降りる中、


「そ、それじゃ張り切って遊ぼうか!」


「え、えぇ! せっかくの海だもんね!」


「はい、全力で楽しみましょう!」


 俺たちは妙なハイテンションに身を任せ、海へ向かってひた走るのだった。


 その後、みんなで一緒に白波に揉まれたり、レンタルしたビーチボールで遊んだり、スイカ割り大会に参加したり――カルナ島の海を満喫。

 お昼は近くの出店で、カレーライス・焼きそば・イカ焼きなんかを適当に頼み、みんなで取り分けておいしく食べた。


 そうして思いっ切り遊んだ後は、観光名所の一つ『ラコルタ博物館』へ足を運ぶ。


(これはまた、凄い資料の数だな……っ)


 歴史的な価値のある魔具・ラココ族の民族衣装・威風堂々とした古い石像――広大な博物館の中には、様々な展示物が所狭(ところせま)しと飾られていた。


 カルナ島で育ったルーンは、何度もここへ通ったことがあるのだろう。

 俺とステラが気になった展示物なんかをわかりやすく説明してくれた。

 彼女の柔らかい口調で(つむ)がれる話は、合間に豆知識や小話なんかも入れてくれているため、とても面白くて楽しかった。


「――ねぇルーン、これはなんの絵なの?」


 ステラがふと足を止め、『名称不明』という立て札の掛けられた、大きな壁画を指さした。

 そこに描かれているのは、青白く描かれた女性・中空に浮かぶ大きな結晶・必死に逃げ惑う人々――おそらく相当古いものなのだろう、非常に抽象的な描き方だ。


「こちらの壁画は今から千年以上も昔、『神代の魔女』がカルナ島に降り立ったとき、ラココ族の画家が描いたものだと言われています。彼女は恐ろしい『氷の魔法』を振るい、ありとあらゆるものを氷漬けにしたとか……」


「その恐ろしい化物が、氷極殿の最下層に封印されているのよね……?」


「はい、大暴れしているようです」


 千年前の魔女、か……。

 本当にスケールの大きな話だ。


 それからしばらくの間、博物館の中を歩き回っていると――非常によく目立つ、とても大きな立方体が目に入った。


(これは……石碑?)


 よくよく見れば、その表面には、文字らしきものが薄っすらと刻まれている。


(……古代文字っぽいな……)


 ほとんど消えているため、これではちょっと読めない。


「なぁルーン。この石碑について、教えてくれないか?」


「はい。その大きな立方体は、『ラココの真碑(しんひ)』。ラココ族に古くから伝わる、不思議な石碑です。ちなみに……目の前のそれは、複製魔術で生み出された、とても精巧な複製(レプリカ)なんです」


「なるほど……。表面に薄っすらと文字が刻まれているんだけど、これはなんて書かれているんだ?」


「確か……著名な考古学者が調べたところ、『万象を従えし救世(きゅうせい)()、外界より(あらわ)るるとき、天地鳴動(てんちめいどう)す。天は鳴き、地は割け、歓喜の雷が振り落ちるだろう』だったと思います」


「その伝承、ラココ族はみんな信じているのか?」


真碑(しんひ)原典(オリジナル)は、村の(ほこら)で大事に保管してあるそうなので……。おそらくですが、みなさん信じていらっしゃると思いますよ」


「そうか、ありがとう」


 これは中々、面白い話が聞くことができた。


 天地鳴動――この伝承は、召喚のストックに加えさせてもらおう。


 伝承召喚は、その起源が古ければ古いほど、人々がそれを信仰していれば信仰しているほど、より強い効果を発揮する。


(あまり戦闘向けじゃなさそうだけれど、いつかどこかで使えるときが来るかもしれない)


 手札は一枚でも多い方がいいしな。



 ラコルタ博物館を十分に満喫したところで――時刻は午後三時三十分。

 そろそろいい時間になってきたため、ラココ族の村へ向かうことにした。


「えっと……こっちの道を左ですね」


 現地の詳細な地図を片手に、ルーンが道案内をしてくれる。


 活気に溢れた中心部から離れ、鬱蒼(うっそう)と茂った森をしばらく進んで行くと――ラココ族の村が見えてきた。


 おそらく総人口は百人にも満たないであろう、とても小さな村だ。

 周囲には高い木の柵が建てられており、さらにそれを取り囲むようにして、深い堀が張り巡らされている。

 そして――前方に見える大きな門には、衛兵と思われる二人の村人が立っていた。


(ふぅー……)


 カルナ島の観光はもう終わり、ここから先は特級冒険者専用の超々高難易度クエストだ。


 俺が気を引き締め直していると、


「私、ちょっと行ってきますね。魔術協会から発行された『入村許可証』があるんです」


 ルーンはそう言って、正面の門を守る二人のもとへ向かい――村へ入る許可をもらった。


「魔術協会の特使様と特級冒険者様ですね。どうぞこちらへ――」


 門を守っていた一人が、恭しく頭を下げ、村の中へ入っていく。


(大変申し訳ないんだけど、特級冒険者じゃないんだよなぁ……っ)


 俺たちは彼の後に続き、ラココ村へ足を踏み入れた。


「……見られているな」


 周囲には、まったく人影がないけれど……。

 よくよく意識を払えば、すぐにわかった。


 みんな家の中に引き籠り、窓越しにジッとこちらを見つめているのだ。


「まぁ余所者(よそもの)だからね」


「こんなに注目されると、なんだか心臓がバクバクしちゃいます……っ」


 村民にジロジロと見られながら、中央の一際大きな建物に入る。


 それは巨木を繰り抜いて作った独特な家屋。

 どうやらここが、族長の家らしい。


 客室のような場所へ通され、長椅子に座りながら待つこと数分――奥の扉が勢いよく開かれた。


 先頭を歩むのは屈強な大男、それに付き従うのは三人の村民。

 おそらくあの男性が、ラココ族の長だろう。


「――ラココ族の長ディバラ・マスティフだ」


 ディバラ・マスティフ。

 身長は190センチほど、年齢おそらく四十代半ば。

 大きく(いか)めしい目・(ひたい)に走った古い傷痕・小麦色に焼けた肌、中々に密度の高い人だ。


 自らの名を名乗った彼は、品定めするような目をこちらへ向けてくる。


「――ディバラさん、お初に御目にかかります。私は魔術協会の特使ルーン・ファーミです。そしてこちらが――」


「冒険者ギルドより派遣されてきました、D級冒険者アルト・レイスです。よろしくお願いします」


「同じく、冒険者ギルドより派遣されてきました、B級冒険者ステラ・グローシアです」


 俺たちが自己紹介した直後、


「――帰れ」


 まさに『開口一番』、短く、容赦なく、はっきりとした『拒絶』を告げられてしまった。


「あ、あの……せめてお話だけでも――」


「――儂は『特級』を要請したはずだ。貴様等のようなどこの馬の骨とも知れぬ三流冒険者では、戦力の足しにもならぬ! ()く、帰るがいい!」


 やっぱりというかなんというか……まったく歓迎されなかった。


「ち、父上……っ。せっかく冒険者の方が来てくださったというのに、そんな言い方はないんじゃないですか……?」


 ラココ族の若い女性が、(たしな)めるように言った。

 父上という呼び方からして、ディバラさんの娘なのだろう。


「やかましい! そもそも儂は、冒険者ギルドや魔術協会のような余所者(よそもの)に頼るつもりなどなかったのだ! それを貴様、勝手に外部と連絡を取りおって……! ラココの誇りを忘れたのか!?」


「し、しかし……! 私たちの力だけでは、もはや封印を維持できません! このままでは神代の魔女が復活を果たし、カルナ島が滅んでしまいます……!」


「それを阻止するのが、我らラココの『至上の使命』だろうが!」


「その通りでございます! 封印の維持こそが、我らの至上の使命! これを全うするためならば、たとえ部族の矜持(きょうじ)に合わぬ方法でも、迷わずに選択するべきではないでしょうか!? 外部の者の力を借りてでも、神代の魔女を封印し続ける――これこそが、祖霊(それい)の願いではないのでしょうか!?」


「ぐっ……こ、の、馬鹿娘が……っ。くだらぬ屁理屈を並べおって……!」


 ディバラさんは大きく手を振りかぶり、女性はキュッと目をつむった。


(……ラココ族の問題に首を突っ込むつもりはないけど……)


 さすがにこれは見逃せないな。


(――簡易召喚・スライム)


 (かかと)をタンと打ち、召喚術式を刻む。


「ぴゅ……いぃ!?」


 ディバラさんの平手打ちは、スライムに直撃。


「ぬっ!?」


「え?」


 しかし、スライム種に打撃は無効。


「ぴゅいー!」


 見事にクッションの役割を果たしたスライムは、俺の肩にぴょんと飛び乗った。


「……小僧。なんのつもりだ?」


「いや、すみません。うちの子、元気いっぱいなものでして……時々ひょっこり飛び出しちゃうんですよ」


 あくまで今のは『事故だ』とすっとぼける。


 緊迫した空気が流れる中、ルーンが頑張って声をあげた。


「あ、あの……! こちらのアルト・レイスは、確かに特級ではありませんが……。実は、冒険者ギルドにおける『秘密兵器的な存在』なんです! だから、なんというかその……彼の大魔術を見れば、みなさんにもきっと納得していただけると思います!」


 必死に説得を試みる彼女に対し、


「はぁ……」


 ディバラさんは大きなため息をつく。


「そこまで言うのならば……一度だけチャンスをくれてやろう。もしもこのD級が、儂を納得させるほどの大魔術を披露したならば、特級クラスの冒険者と認めてやる。ただし――儂の貴重な時間を使うのだ。もしも失敗すれば、それ相応の代償は覚悟してもらうぞ……?」


 彼は完全にこちらを見下しきった目で、そんな脅し文句を突き付けてきた。


(はぁ……。どうしてこう最近、トラブル続きなんだろうか……)


 俺は心の中で大きなため息をつきながら、ディバラさんの提案を引き受けるのだった。

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