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福島の甲状腺検査の倫理的問題を問う(第一部)「0~18歳まで全員検査」が引き起こしたこと

細野豪志 衆議院議員

手術をしないという選択を伝えても

細野  一次検査で何らかの異変が疑われての二次検査となってくると、針を刺す検査で子供に恐怖心を与えることにもなります。さらに、二次検査でパスできなかった場合、その親は心配して手術を希望するケースが多くなる。その辺のトラウマって、お医者さんとしては非常にシビアですよね。

緑川  ある時期から、私は二次検査の担当としても入るようになりましたが、本人や親御さんたちが二次検査に来た時に抱えていた悩みは相当深刻でした。

 今でも非常に鮮明に思い出すのは、一次検査でしこりが見つかった場合、所見があるわけですから詳しい写真をたくさん撮らなくちゃいけないんですね。だから、検査の時間がその子だけ他の子たちより長くなっていく。そうやってたくさん写真を撮られている時点で、本人は「自分はがんなんだ」って思ってしまって。その後、二次検査の通知が来たことで、いよいよ「やっぱり自分はがんで、この検査に行ったらそのまま入院して、もう二度と生きて家には帰って来られないんだ」と思い詰めて、でも親御さんを心配させたくなくて、それを言えないんですよ、小学生のお子さんが。それで二次検査のブースに入ってきた途端に、その子は糸が切れたみたいに泣き崩れてしまって、ご両親もびっくりするような状況がありましたね。

 そこまでではなくても、「これは見ただけでがんじゃないって分かりますから、大丈夫ですよ」と言ったとしても、親御さんとしては「心配だから細胞を取ってがんじゃないことを証明してください」というような人もたくさんいました。でも、親御さんはそういうふうに言うけれど、本人は首に針を刺されるのはすごい恐怖で、それを必死で我慢しなくちゃいけないという感じになって。

細野  本人もそうだし、家族の心配も本当に切実ですよね。先生がご覧になって、本当は手術する必要はないんだけれど、本人やご家族が手術を決断するケースもあったんですか。

緑川  その決心をする子供さんはたくさんいました。臨床の場を実際に想像していただくと分かるのですが、例えば「これはがんです。ただ、小さいし甲状腺がんは予後がいいし、このままずっと経過観察で終わる可能性もあります。もしかすると、いつか大きくなって手術が必要になる可能性もあります」という説明を受けたら、多くの人は「だったら今のうちに治してください」となる。子供たちも若いから、まさか自分が病気になるなんて想定をしていませんし、手術して治るんだったら早く取って治しちゃいたいと思うんですよね。だから、やっぱりどうしても手術を選択しがちになります。

細野  医者の側としては、手術しないという選択があることを伝えているわけですよね。

緑川  伝えているとは思います。

細野  それでも手術を選択する子供が多い。一度がんだと分かってしまったからには。

緑川  私が福島医大で放射線健康管理学講座の実習を担当した時、5、6人ずつのグループの中で「あなた方は全員甲状腺検査の対象者で、全員が検査を受けたとします。検査を受けた結果、がんと診断されました」という条件を仮定してディスカッションさせたんです。学生の中には福島県出身で、実際に検査の対象者であった方もいました。

 ディスカッション参加者は全員医学生ですから、甲状腺がんの性質をしっかり勉強しています。改めて甲状腺がんの予後のデータを見せて、それぞれの選択理由もディスカッションの中でじっくり話してもらいますけれど、それらを全部重ねたうえで、最終的に「手術を今受けますか。それとも経過観察を選びますか」と選ばせたら、半分の人が手術を受けることを選択しました。そういう講義とディスカッションを3年くらい続けてやりましたけれど、平均しても大体半分以上の学生は手術を受ける選択をします。

 それは、「ずっと経過観察をすることが怖い」というのが大きな理由ですね。本来は経過観察すらもいらないはずのものだけれども、やっぱり一度見つかって知ってしまえば、大きくなっていないかをチェックしたくなってしまう。「一生心配しながら半年に1回、あるいは一年に1回検査を受け続けるくらいなら、学生の間に手術してしまったほうがいいと感じました」というようなことを言う学生も多いですし、「予後が良いなら尚更、手術をしてしまえば、再発や転移を心配する必要がなくなって定期的に病院に通う必要もなくなるので、そちらのほうが良い」として手術を選ぶ人は医学生にも多く見られました。

細野  ましてや一般の方は医学的な知識がないわけですからね。小さなお子さんを抱えておられるお父さん、お母さん方が手術を希望する気持ちはすごく分かりますよね。

緑川  がんですから。それだけでもう、命を脅かす病気で早期発見・早期治療が最善策だと信じる方は多いですね。「がん」と一概に呼ばれても性質がそれぞれに全く違うという常識は、世の中にはまだ全然浸透していないので。(第二部『若者の人生の選択に影響を及ぼしていいのか』に続きます)

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筆者

細野豪志

細野豪志(ほその・ごうし) 衆議院議員

1971年(昭和46年)生まれ。2000年衆議院議員初当選(現在7期)静岡5区。総理補佐官、環境大臣、原発事故担当大臣を歴任。専門はエネルギー、環境、安保、宇宙、海洋。外国人労働者、子どもの貧困、児童虐待、障がい児、LGBTなどに取り組む。趣味は囲碁、落語。滋賀県出身

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