骨と卵   作:すごろく

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どうも、作者です。

悟さんは一人っ子設定でしたね。
それと江戸っ子じゃないかと、きっとそうに違いない!と
独自解釈しました。

でわ、ごゆっくりお楽しみください。


その15 お兄様とお姉様。

「騒々しい!静かにせよ!」

 

雷鳴の如く鈴木の声が鳴り響いた。

 

ーーーーー

 

ラナーの根回しで鈴木とパンドラズ・アクターは王宮謁見の間に来ていた。

2人とも以前買った"普通の"服を着ている。

 

「ラナーたっての望みでこの場を設けたが、サトル・スズキと申したか?要件を申してみよ。」

国王ランポッサは重々しく口を開いた。

 

「国王陛下、それに貴族の皆様方。私共の様な者にこの様な場をお与え下さり恐悦至極に存じます。では、陛下の御言葉に甘え早速。お忙しいお時間を頂いておりますれば単刀直入に。陛下、王位を第二王子ザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフ殿下にお譲りいただきたい。その上でバハルス帝国ジルクニフ皇帝との和平を。」

 

「な、何をっ!」「バカなっ!」「無礼な!」

周りの貴族から堰を切った様に罵声が飛ぶ。

 

「何を言い出すかと思えば、、、王位継承はさておき和平交渉とは荒唐無稽。仕掛けて来たのは帝国ぞ?無駄な時間を過ごした、早々に立ち去れ。今なら無礼の罪は問わん。」

 

「お待ち下さい。仰せの通り仕掛けたのは帝国ですが、この話はその帝国ジルクニフ皇帝より直々にお預かりして来ております。」

 

「よくも抜け抜けと!」「貴様!帝国のスパイか!」「ひっ捕らえろ!」

ランポッサは騒ぎ出す貴族を手で制し先を促す。

 

「ジルクニフに会ったと申すか?」

 

「はい、先日帝国へ赴きまして直に。」

 

「そちは何者じゃ?」

 

「懸命に生きる民の安穏を望む者。敢えて名乗るなら平和の使者、で御座います。」

 

「民の安穏、か、、、。何故、第一王子のバルブロではいかんのだ?」

 

「恐れながらバルブロ殿下は素行に問題が御座います。」

 

「きっさまーっ!いい加減にせんかっ!今すぐ叩っ斬ってやる!そこへ直れ!」国王の傍に控えていた体躯の立派な男が一歩前に出る。

 

「ほう、貴方様がバルブロ王子様で?」

 

「そうだ!我がリ・エスティーゼ王国第一王子バルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフだ!」

 

「そうですか。では、このリストをどうぞ。」

鈴木はラナーから受け取っていた書類を近くの兵士へ渡す。

兵士は書類をバルブロへ渡しそれを見たバルブロの顔色が見る見る変わってゆく。

 

「貴様っ!これをどこで!」

 

「それは後程。それよりそのリストに覚えが?」

 

「知らんっ!この様な娼館の顧客名簿に見覚えがある理由がない!  ハッ!」

 

「これは先日の娼館襲撃事件の後、蒼の薔薇が回収した物で御座います。本日初めて公にされたリスト。何故、娼館の顧客名簿とお分かりになったのでしょう?」

鈴木は始めてニヤリと笑い見渡すと貴族の中に顔面蒼白な者が数名居た。

 

「知らん!知らん!知らん!えーい!何をしておる!此奴らをサッサとひっ捕らえんか!」

 

「国王陛下。このリストはある娼館の顧客名簿です。その娼館ではそれは惨たらしい行為が行われて半ば強制的に連れて来られた女たちは文字通り使い捨てになっておりました。この様な場所へ出入りしていた者を王として国民は敬愛出来るでしょうか?どうか、ご英断を。」

 

「もう我慢出来ませんぞ、陛下!」

1人の貴族が口を開く。

「かの娼館襲撃事件は私も存じております。翌朝早速に調査へ向かいました所、現場は血の海。息のある者は1人も居りませんでしたので付近を聞き込みました。すると、なんと!

前の戦士長によく似た男の姿が確認されておりました!

それと漆黒と真紅の鎧姿の者。此奴らが殺人の主犯だと思われます。」

「ガゼフが?」ランポッサは呻く。

「左様です。あの夜の時点ではガゼフはまだ王国戦士長の職に就いております。事もあろうか陛下の身辺を警護する者が民間人を惨殺するなど、、理由の如何に関わらず言語道断!事件後、行方を眩ましているのも動かぬ証拠でございます。」

 

「ガゼフが?」「あのガゼフか!?」「所詮が平民出よの」

「ではあの2人もグルか」「なんと言う失態」「面汚しだ!」「ガゼフを探し出せ!」「こいつらも捕まえろ!」「帝国の策略か?」「リストも捏造か」「許されん!」

騒ぎ出す貴族たち。

 

 

「騒々しい!静かにせよ!」

 

雷鳴の如く鈴木の声が鳴り響いた。

 

ーーーーー

 

目立たないローブを取ると下は漆黒の鎧と真紅の鎧。

「おうおうおう!黙りやがれ!この腐れ外道どもが!黙って聞いてりゃあ言いたい放題。なに?捏造だ?失態だ?殺人だあ?ふざけんなってんだよ!テメーらの国が認めた冒険者、その最高位アダマンタイト級が持ってきたって言ってるだろーがよ!べらぼーめ!

いいか!?もう一度だけ言ってやらあ、耳の穴かっぽじってよく聞け!このバカ王子はなあ、罪もねぇ女を殴る蹴るで暴行した挙句、己の快楽だけの為に殺したんだよ!このバカだけじゃねえ他の貴族も居る。おうさ!ガゼフも居たよ?それがどうした?ああ?八本足だか六本指だか知らねぇがな、あんな外道は許しちゃおけねぇーんだよ!人としてな!だから皆殺しにした。これが罪だってんなら女たちを見殺しにしたそこの王さんも罪にしろや!なあ?王サマよお、違げえかい?何か間違った事言ってるかい?」

一気に捲し立てる。

遠くの山で桜吹雪が舞いそうな勢いである。

 

場内は静まり返る。

バルブロの手からリストが落ち、すかさずそれをザナックが拾うと内容を一読しランポッサの方を向き頷きあった。

 

「バルブロとそのリストにある者どもを捕らえよ。」

王は静かに命令を下す。それは深い悲しみに満ちていた。

 

「な!何を!父上!これは何かの間違いだ!陰謀だ!私は嵌められたのだ!信じてくれ!父上!信じて下さい!」

 

「お兄様、この期に及んで見苦しいですわよ。お父様がどれほどの想いで命じられたか少しはお考え下さいませ。」

 

「ラナー!お前まで・・・」

 

「奴隷禁止令をかい潜るなどとお父様、いえ国王陛下を愚弄する行為。王族として恥を知って下さい。」

その目は冷たくまるで嘲り笑う様だった。

 

「くっ!」

 

「バルブロ王子は地下牢へ幽閉。他の者は領地没収の上、打首に処す。宜しいですか、陛下。」

ザナックが言うとランポッサはゆっくりと首を縦に一度振った。

 

「イヤだあああああ!これは罠なんだああああ!」

虚しい叫び声と共にバルブロは引きずられる様に退場する。

 

「スズキ殿。お見苦しい所をお見せしました。誠に申し訳ないのですが、国王陛下は心労著しい、出来れば日を改めては貰えないだろうか?第二王子として、いや、王家を代表して、この通りだ。」

ザナックは深く頭を下げる。それに合わせてラナーも頭を下げた。

 

「国王陛下。残念な結果になったが貴方にはまだこの様に父を想いやる優しい兄妹が居られる。どうかその事もよくお考えになり、私のご提案をお選びいただけたらと思います。」

鈴木とパンドラズ・アクターは体を返し閲覧の間を後にした。

 

ーーーーー

 

王都大通りに面したカフェ。

折角来たのだからと父子でお茶をしている。

 

「ふ〜、帝都のカフェに負けないなココの珈琲。」

「すっかり珈琲通ですね、父上。」

「だって仕方ないだろ?食えないんだからせめて匂いくらいはこの世界の食べ物を楽しませてくれよ。」

「それで父上、あの男を生かしておいて宜しかったので?」

「ああ、それなら心配ない。近々に病死と発表される。これもまた"お約束"だ。ああゆう地位の奴はな処刑すればしたで世間体が悪いのだ。だから病死にしてしまうのが一番。」

「さすがで御座います。」

「まあ、後はラナーとジルが上手いことやるだろうさ。俺たちの仕事はここまでだ。これで戦争は無くなる。」

「父上は今回の戦争を手間までかけて回避するのはカルネ村の事ですか?」

「それは1番だ。何も言っても俺たちが手を付けた場所だからな。でもそれだけじゃない。やっぱ戦争はいけないよ。ゲームじゃないんだから。何人殺して手柄だとかさ。」

「そんなものですか?」

「そんなものだよ。それよりココの珈琲ほんと美味いな、豆買って帰ろ。」

「飲んでないじゃないですか、、、」

 

ーーーーー

 

「ラナー、これもお前が仕組んだ事なのか?」

ザナックはラナーの入れた紅茶を飲みながら言った。

「まさか。少しだけ手助けしただけです。」

「それで俺が王位を継いでも良いんだな?」

「はい。私、王位には何の執着も御座いませんもの。それに。」

「それに?」

「リ・エスティーゼ王国はお父様の代で終わりです。これからはバハルス帝国リ・エスティーゼ領となります。ですからお兄様は広大な土地を収める領主様になるのです。」

「そうか。そこまで話は出来ているのだな。まあ俺の器量ではあの貴族連中を抑え尚且つ隣国の脅威から民を守るなどは無理だ。いっそ帝国に飲み込まれて我が国民、いや領民か、を安寧に導く方のが正解だろうよ。」

「流石、お兄様です。」

「ハハ、褒めているのか貶しているのか。」

「勿論、褒めているのですわ。だからこそ上のお兄様には御退場願ったのですから。」

「で、可愛い我が妹よ。あのスズキとやらは本当は何者なのだ?騒々しい静かにせよ、子供の時に摘み食いがバレて親父に怒鳴られた時以来だったぞ。あれは昨日今日で出来る芝居ではない。生粋の支配者が持つ威厳だ。」

「私にも詳しい事は分からないのです。ですが全てが上手く行ったのです、無用な詮索はすべきではないと思います。それと、一つお約束下さい。決してあの方々に刃を向けないと。もし守っていただけないと、この地の生きるもの全てが死に絶えます。」

ラナーは兄の少し歪んだ影を見てそう言った。

 

「な、何者なんだ、、、一体」

ザナックは冷めた紅茶をゴクリと飲み干した。

 

影は元に戻っていた。

 

ーーーーー

 

「陛下、万事上手く行きました。」

「そうかロウネ、報告ご苦労。」

(あのラナーから丁寧な礼状が届いたからな、しかし腐った貴族どもの粛清も済ませてしまうとは。手間が省けた。)

「ロウネ、早馬を出せ。近々、私が直接ランポッサに会うとな。そして調印を行う。調印後は直ちに諸国へ触れを出せ。直ぐに調停案を纏めろ、秘書官を総動員しても良い最優先だ。」

(サトル。お陰で一滴も血が流れずに歴史が動く。)

 

ーーーーー

 

「だからあ!ちょっとだけ動かしてくれって言ってるでしょ!」

 

カルネ村にクレマンティーヌの怒鳴り声が木霊する。

 

「動かす訳にはいかん!ここが1番見晴らしが良いのだ!」

 

こんどはガゼフが珍しく怒鳴り返す。

 

「いったいどうしたのだ?朝っぱらから。騒々しい静かにしろ。」

 

「あ!サトル様!ガゼフ様が頑固でお姉様の言う事を聞いてくれないのです。」

娘たちが頬を膨らませている。

 

(お姉様?)

「どうした?2人とも。話してみろ。」

 

「それがですね、サトル様。この石頭がこの場所に見張り台を作るって聞かないのです。」

「誰が石頭だ!見張り台は防衛の要だぞ?必要なのだ!」

「何故この場所では駄目なのだ?クレマンティーヌ。ガゼフの言う通り見張り台は必要だ。警備担当なら分かるだろう。」

クレマンティーヌは黙り込む。

「お姉様は悪くないです!お姉様を叱らないで下さい!」

「おいおい、別にクレマンティーヌを叱ってはいないぞ?理由を聞きたいのだ。この場所ではいけない理由をな。」

「それは私たちがいけないのです!私たちがお姉様に頼んだから、、、」

「ちょっと待て。順序立てて話してくれ。」

「はい。ここに見張り台を建てるって話をピニスンさんたちに言ったら日当たりが悪くなるから止めて欲しいって。美味しい果実には日当たりが大事だって。それで少しだけ場所を変えて欲しいってガゼフ様に頼めないかってお姉様にお願いしたんです。だからお姉様は悪くないんです!」

そう言ってとうとう泣き出してしまった。

(ピニスンさん"たち"?)

「話は分かった。ガゼフ、お前の言う事も最もだが彼女たちの言う事もわかる。後でじっくり話し合おうじゃないか。なあ?」

「俺もついカッとなって大人気なかった。すまん、クレマンティーヌ。」

「もう良いよ。アタシも意地になってたし。ゴメンね。」

「よーし!これにて一件落着だ!解散!解散!それとな、後でツアレに部屋までくる様に誰か頼む。」

「「ハイ!」」笑顔の娘たちが答えた。

 

ーーーーー

 

「それでツアレ。2つ聞きたい事がある。

一つ目は、娘たちがクレマンティーヌの事をお姉様と呼んでる事。

二つ目は、ピニスンたちってなんだ?」

「ああ、その事ですか。あの娘たちが薬草取りに行った時に野生の狼や巨大蜘蛛からクレマンティーヌ様がいつも守ってくれる姿がカッコ良いとかでいつしか敬愛を込めてお姉様と呼ぶ様になったとか。私もそうなんですが彼女たちもまた男性には酷い目に遭わされましたから、どうしても異性に対しては恐怖心があるのです。だからクレマンティーヌ様の勇姿には余計惹かれるんだと思います。」

(なるほどなぁ。クレマンティーヌも昔は酷い目に遭ったって言ってたから気持ちが分かるのかもな。しかしあの殺人狂が随分と変わったなぁ)

「ではピニスンの件は?」

「はい。ピニスンさんもあのコたちに良く世話をして貰っていて大層この村が気に入ったらしく沢山友達を呼んで来たのです。」

「友達?!」

「何でも森のあちこちに居るらしく長い付き合いだとかなんとか。」

「それでどんな"友達"なんだ?そいつら。」

「それがもう。素晴らしいお友達でして!柿や葡萄や梨や栗や桃もありましたよ!」

(なにそれ?青果組合?JAカルネ村?)

「そ、それでその事をエンリは?」

「ハイ。村長は村の発展に繋がるから大歓迎だって。」

(確かに戦争は無くなったし特産品は多くあった方がいいよな。)

「ヨシ分かった。ありがとう、ツアレ。それと最後に頼みだが、お姉様の件な、アレを聞いた事はココだけの話にしてくれ。」(ジェンダー系は慎重にな!)

「そんな!お礼なんて仰らないで下さい!私たちこそ感謝しても仕切れないんですから。」

そう言って一礼して部屋から出て行った。

 

(カッコいいお姉様、かぁ。その内、剣とか振り抜いたら蝶が飛ぶかもな。)

 

鈴木は高校生なのに婦人と呼ばれた少女を思い出しながら窓の外を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お疲れ様でした。

作者は梨が大好きです。(笑)
でも梨狩りには行きません。
冷えてないからです!
同じ理由でイチゴ狩りにも行きません。

じゃあまた、よろしくお願いします。
ありがとうございました。


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