黄金と言うのはその輝きで人を惑わすのかも知れません。
今回はそんなお話です。
あと、鈴木さんは食べられないので別のアプローチをやってみます。
上手くいってくれると良いのですが。
でわ、ごゆっくりお楽しみください。
元貴族のレイナース行きつけのお洒落なカフェ、その二階のテラス席で珈琲を飲む2人。
マーケットでのレイナース号泣にすっかり慌てた鈴木は魔王ロールも忘れいつもの鈴木さんに戻っていた。
「お洒落なお店ですね、レイナースさん」
(それにこの珈琲!本物はやっぱ香りがスゲーな!これだったら飲めなくても十分楽しめるわ)
珈琲フレーバーしか知らない鈴木は初体験を堪能した。
しかし楽しむ鈴木とは逆に思い詰めた表情のレイナース。
「あのですね。何も金輪際治さないって言ってる訳じゃないですから、そう落ち込まないでくれます?」
「約束して下さいますか?この件が一段落したらきっと治して下さると。」
「約束してもイイですが、その代わりに貴女は私に何を下さいますか?」
「そ、それは、、、」
(そうだ、当たり前だ。急な話に浮き足立っていた。無償などと虫が良すぎるではないか!?何だ?何が私に払える?金か?この身体か?ええい!一体、、、)
「ウッソぴょーん!」
「エ?」
「ハハ!嘘ですよ、レイナースさん。治したからって何も貰おうなんて思ってませんよ。困ってる人が居たら助けるのは当たり前、ですからね。」
「で、ですがそれではあんまり都合良すぎです!私の気が済みませんっ!」
暫く考えて、そしてカップを持ち上げ言った。
「では、もう一杯、ご馳走になりましょう。」
ーーーーー
ダメ!ダメ!ダメ!ゼッタイ、ダメ!
アルシェ・イーブ・リイル・フルトは仲間の元へ走った!
逃げなきゃ!逃げなきゃ!逃げなきゃ!
活動拠点の「歌う林檎亭」の看板が見えて来た。
「ヘッケラン!ロバー!イミーナ!」
叫びながら飛び込む。
「どうしたの?アルシェ。血相変えて。ヘッケランは買い物に出たわよ?ロバーは神殿へ行ってるの。2人とも直ぐに戻るわ。だから落ち着いて、何があったか話してみて?」
少し耳が尖った女性が店員に水を頼む。
アルシェは運ばれた水を一気に飲み干し、昨日マーケットで見た事、そして今日また見た事を話した。
「それでそれって、あら、2人が帰って来たみたい」
彼女たちは帝国に拠点を置くワーカーと呼ばれるチーム「フォーサイト」のメンバーである。
戻った男たちの痩せた方はチームリーダー、ヘッケラン・ターマイト、もう1人は元神官のロバーデイク・ゴルトロン。
「ただいま、ってどうしたアルシェ、スゲー汗かいて?今日はそんなに暑くねーぞ?」
「それがね、アルシェが言うにはこの帝国にこの世を破滅させる魔王が居るから直ぐ逃げないと皆んな死ぬって」
「イミーナの話では大雑把過ぎてわからない。アルシェ、もう少し詳しく。そして一度、深呼吸しなさい。」
アルシェは言われるままに深呼吸した。
「ありがとう、ロバー。少し落ち着いた。じゃあ話すね、よく聞いて。実は昨日・・・・・・」
「アルシェのタレントは確かな代物だ。まあ世界が破滅かどうかは話を聞いてもちょっと信じられねーがな。どうするよ?少し帝国離れて様子見るか?」
「そうね。実は私たち・・・」
「結婚するのですね。」
「ロバー!どうしてそれを!?」
「ハハっ、普段からあんなに当てられたらどんな鈍感でも分かりますよ。」
「エ?そうなの?イミーナ、ヘッケラン!」
「ま、まぁな。コイツがいつ迄も宙ぶらりんはイヤだっつーしよ。やっぱ男としてビシッとケジメは付けねーとよ?」
「ではお2人は新天地で末永くお幸せに。私は前から言ってた通り、神の教えを探求します。」
「「アルシェは?」」
アルシェは困った。
フルト家は貴族だったが皇帝の粛清にあい没落してしまった。しかも現実を受け止められない両親は見栄の為に散財に走りその借財は全てアルシェが支払っていた。しかしアルシェが困ったのはそんなバカ親の事ではなかった、そんなバカ親は娘の方から親子の縁を切る覚悟は出来ていたのだ。
問題は幼い双子の姉妹だった。
これで最期と用意した金は今まで世話になった使用人たちへの支払いに使ってしまった。何処からそう遠くない街で仕事を見つけて妹たちと3人で細々とでも暮らして行こうと考えていた。しかし今は出来るだけ帝都アーウィンタールから離れなければいけない。長旅をする路銀がないのだ。
黙って俯くしか出来ないアルシェに3人は優しく声をかけた。
「「これを使いなさい」」」
テーブルに出された皮袋には、纏まった金が入っていた。
「何故?知ってたの?」
「知ってたわよ。貴女の両親の事も借金の事も、そして2人の妹の事もね」そう言ってイミーナはウインクした。
「いつから?」
「ん〜と、いつだっけか。お前が居ない時に借金取りが来た事があってよ。そん時そいつから聞いた。」
「それでなアルシェ相談したんだよ。いつかは両親にサヨナラを言って妹と暮らすのがアルシェの為だってね。で、アルシェは借金の返済で余裕が無いだろうから3人で少しずつその日の為に貯めておいたんだよ。」
「そんな、、みんなのお金なのに、、貰えないよ。私、返せないよ、、」
「アルシェ、これはアルシェのお金なのよ?アルシェの取り分から貯めたの。だから私たちのじゃないから遠慮しなくていいのよ。」
「そんなのウソだ!みんな、みんな、嘘つきで、いっつも庇ってくれて、優しくて、可愛がってくれて、それから、それから、、、ヒック、ヒック」
「「さあ!アルシェ!時間が無いんだろ?妹さんたちを連れて早く!」」
その頃、世界を破滅させる魔王はマーケットで珈琲豆を買い求めていた。
ーーーーー
「ジルクニフ殿。世話になった。一旦は村へ帰ってその後話した通り王都へ行く。」
すっかり観光を満喫し土産まで買った鈴木だった。
「では最後に忠告だ。"友"の言葉と受け取って欲しい。」
「友と呼んでくれるのか?」
「社交辞令だよ」
「素直じゃないな」
「王室を根絶やしにするなと言ったな?ランポッサの3人の子供の事をどこまで知っている?」
「会った事もない」
「やはりな、サトルは慎重な所と無鉄砲な所、両方あるからな」
「流石、鮮血帝。見事な洞察力だ。」
「茶化すな。先ず長男はどうにもならん、あれが王位を継承する事だけは容認出来ん。」
「覚えておこう」
「次に次男だが、コイツは比較的マシだ。帝国の希望としてはコレに継承させて領主にでもする事だな。」
「だったらそれで決まりじゃないのか?」
「話は最後まで聞け。問題は第3王女だ。」
「王女?」
「そうだ。第3王女ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフだ。」
(よく覚えてるな?とても一度で覚えられん。ジルのフルネームもカンペ持ってたから言えたんで今でも言えんもん)
「そのラナーとやらの何が問題だ?」
「コイツはな。ある意味で狂人なのだ。幼き時より知力に優れていたのに不幸にしてそれに周りは気付かずただ君悪がった。結果、性格が歪んでしまい塔にある自室に引き篭もってしまった。」
「ではやはり問題ないではないか、出て来ないんだろ?」
「だから最後まで聞けと。それが珍しく外に出た時に"犬"を拾ってな。それから急に政策に口を出す様になるし孤児院などの経営にも乗り出している。情報によればアダマンタイト冒険者チーム蒼の薔薇とも仲が良いらしい。」
「なるほど。性格の歪んだ知謀の王女、か」
「侮るなサトル。俺も随分と煮え湯を飲まされたんだ」
「ジル程の男がか?それは気を引き締めんと」
「王都攻略はラナー攻略と思って間違いない。頼んだぞ。」
2人は固く握手し別れた。
サトル・スズキ。
不思議な男だ。アンデットなのに話して居るとそんな気がドンドン無くなってくる。まるで普通の人間と話している気がする。深い読みがある様のかと思えば、ただの平和のためになどと青い事を言い出す。世界を破滅させる力がありながら、レイナースの話ではマーケットで泣いた彼女に狼狽したとか。そんな男がそうまで拘るカルネ村。
一度行ってみたくなった、な。
ジルクニフは何かを懐かしむ様に微笑んだ。
ーーーーー
「帰ったぞー!」
「「お帰りなさい!サトル様!」」
鈴木は王都で買えなかった娘たちの服を帝都で買っていた。
ついでに自分やパンドラズ・アクターの"普通の服"や帰る時には来ているだろうネムや婆さんの物まで買っていた。
「お義父さん、僕のは?」
「あ!忘れた!」
「あんまりだ!ガゼフさんのまであるのに!」
「いやいや、ガゼフのは短剣だよ?良さげなのが売ってたから少し魔化してやったんだよ、これで切れ味は全く衰えない!」
「あと、ピニスンのもあるじゃないですか!なんで木に腹巻きが要るんですか!?」
「それは腹巻きじゃないよ?こも巻きだよ?草の事は詳しいのに木の事は知らないんだ。冬季の害虫対策だよ。ピニスンが虫に食われたら可哀想だろ?折角林檎作ってんのに」
と言いながら無限袋から前掛けを数枚出した。
「ほら、忘れて無いよ!お前は服とか興味ないだろうし仕事で前掛けいくらあっても邪魔にならんだろ?」
「お義父さんっ!」
「あーもー、泣くなよー、鬱陶しいなー」
ーーーーー
「と言う訳でな。即開戦の危機は脱した。それで色々と話す内に皇帝とも打ち解けた様な気がする。」
全員がリビングに集合して話を聞いている。
「それでな、ガゼフ。実際どうなんだ?そのラナー王女は」
「確かにそれっぽい話は俺も聞いた事があるんだが、塔の上に部屋があってな戦士長と言えど王女の自室へは行けんのだ。それで直接話した事はないのだ。」
「法国でも王女の噂はあります。でも良い噂ばかりでしたよ?奴隷の解放とか麻薬の撲滅とか戦争孤児の面倒を見るとか」クレマンティーヌは首を傾げる。
「そうさな、ワシらの間でも王女を褒めさえすれ貶す者はおらなんだぞ?」婆さんも口を揃える。
「父上が皇帝から聞いて来た王女像と食い違いますね。これは乗り込む前に偵察する必要があるのでは?」
「そうだな息子よ。ジルの言う通り、ラナー攻略が鍵になる。」
ーーーーー
鈴木の帝都出張中にカルネ村防衛計画は着々と進行しており、婆さん加入による戦力増大でポーション作りも生産性が飛躍的に向上していた。
「父上。ただ今、戻りました。」
「お疲れ様。どうだった?」
ラナー偵察の命を受けてパンドラズ・アクターは王宮へ忍び込んでいた。
「メイドや衛兵に化けて探ってみたのですが、決め手になる様な情報はありませんでした。ただ一つだけ。」
「ただ一つだけ?」
「はい、一度だけラナーお付きの兵士、クライムと言うのですが、それに化けた時だけ他の者とは違う反応がありました。」
「恋、か?」
「最初はそう思ったのですが、なんと言いますか、私、クライムですね、を見る目が単純に恋愛対象を見つめるそれとは何か違う、例えば好きと言う感情にペットに対するものを乗せている、そんな感じです。」
「対人に関して歪んでいるそうだからな。一度会ってみるか?」
「今回は私もお供いたします。」
「ああ、頼む」
ーーーーー
「こんばんわ、王女様。」
転移門と不可視を駆使して難無く侵入に成功した2人は、ラナーの自室に居た。
最初こそ驚いたラナーだったが直ぐに落ち着いた。
「そろそろお越しになる頃だと思っておりました。
私は、、いえ、もうご存知ですわね。ジルクニフ皇帝から聞いて。」
「私たちの姿を見ても驚かぬとはな、噂に違わぬ王女サマだな。どこまで知っている?」
「カルネ村襲撃事件の件、八本指の警備部隊殲滅、そして単身での帝国乗り込み。ぐらいですわね。そのどれを取ってもとても人間技とは思えない。私にもアダマンタイト級冒険者のお友達が居ります。それくらいの推測は容易につきますわ。」
(成る程、全てお見通しか。ならば。)
「なら話は早い。何を望む?」
「私の望みは只一つ。民の安穏。」
(食えないな。とても少女とは思えないよ。なんかやり手の営業マンみたいだ)
「王女、クライム君と亡命、と言うのは如何です?」
(パンドラズ・アクター?)
「貴方は、、、そうですか。以前クライムに化けていたのは貴方ですね?」
「お分かりでしたか。」
「ハイ。あの子の私を見る瞳は特別ですから。」
「では先程の答えは?」
「お受けいたしましょう。」
鈴木は2人の会話がさっぱり分からなかった。
何故、王女は従者と亡命する?それが望み?
どうなっている?
「ゴホン。話が纏まった様でなりよりだが、
良かったら私にも内容を教えて貰えるかな?」
ーーーーー
ラナーの部屋から村へ転移し鈴木はパンドラズ・アクターから詳しい話を聞く。
「さっきの話な。アレどゆ事?」
「またまたぁ〜父上。あの場で話し難いからでしょう?」
「いやマジで。」
「え?マジ?・・・父上は何でもご存知なのに男女の事になると・・・」
「だ・か・ら。そーゆーの良いから!早く!」
「だから、そーゆー事ですよ。ラナーはあの従者にお熱なのです。だけど王族と平民では叶わぬ恋。それさえクリアー出来るなら彼女は母国さえ裏切りますよ?」
「そんな、、、父や兄、それに国民もか?!」
「ハイ。その通りです。あの女の恋愛感情は非常に歪んでます。あの目で分かります。己の目的の為なら手段を選びません。」
「恐ろしいな。いや、女の情念はそうかも知れん。」
(しかし、ジルの言う通りだったな。正にバケモノだ。)
「それで、これからどう動く?」
ラナー攻略に一応の手応えを得た父子は具体的な作戦を練るのだった。
お疲れ様でした。
実は作者は20歳まで珈琲飲めませんでした(笑)。
でも、香りは大好きなんですよ。
そんな事を思い出して鈴木さんにも楽しんで貰いました。
じゃあまた、よろしくお願いします。
ありがとうございました。