はじめに書いた通り「勘違い」が好きです。
その「勘違い」の宝庫が帝国だと思います。
楽しい人、多いですよね?
でわ、ごゆっくりお楽しみください。
そりゃあ誰しも火を使うがの。
多くの火は何も産まん。
全てを失ってしまうだけじゃよ。
誰だっけ?
言葉だけがボンヤリと浮かんだ。
助け出した不幸な娘たち、街のマジックアイテム屋の親父、都のスクロール屋の店員。
そりゃあ屑も居たさ。でも大部分は今日という日を懸命に生き、明日という日を夢見ている。
「だから、戦争は止めなくてはいけないんだ。」
そう決意を新たにした。
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バハルス帝国首都アーウィンタールは活気が溢れていた。
(クレマンティーヌの言う通りだ。賑やかなのは王都も同じだが、なんと言うか活力が漲っている。道も整備されてある。統治者によって違うものなんだな。)
鈴木は目立たない地味なロープを深く被り、街を見て回っていた。交渉相手の現状視察は基本である。
すると突然。
「ウゲェええええええ〜 おぅげぇええええ〜」
盛大に吐いている少女が目の前に居た。
吐き方が尋常じゃない。内臓まで吐く勢いだ。
「だ、大丈夫か?」
「ヒ、ヒ、ヒ、ヒぇえええええええーっ!!!」
少女はよく分からない叫び声を上げながら這う様に逃げて行ってしまった。
(なんじゃあれは?あの歳で昼間っから泥酔?)
やはり世の中にはよく分からん人がいるな、と思った。
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「バハルス帝国皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス陛下に御目通り願いたい。私は此度の戦争を止めに来たサトル・スズキと申す。」
鈴木は絶望のオーラⅠを発動させ門番に名乗った。
門番は全員腰を抜かしてしまい、何の役にも立たない。
「仕方ない、自分で行くとするか」
ニヤリと笑い中へと歩き出した。
「待てぃ!」
「ほう、お前はまだ立っていられる様だな。先ほども名乗ったが私はサトル・スズキ。戦争を止める為に来た。皇帝の元まで案内して貰いたい。」
男は額から脂汗を滲ませながらも声を絞り出した。
「わ、私は四騎士が1人ナザミ・エネック。何者か知らんがここを通す訳にはゆかん!」
(あ〜、こいつ死亡フラグ立ったよ?後で絶対に他の3人が言うんだ、ナザミは四騎士の中でも最弱って)
「麻痺。」鈴木は不憫に思い気を失わさせた。
(和平交渉に来て殺人は無しだよな)
鈴木はオーラ全開で周りを気絶させながら奥へ奥へと進む。
「陛下。隠れてくれ。」
バジウッド・ペシュメルは低い声で囁いた。
「ヤバい気配が近づいて来る。相当だ。お前ら、陛下を守れ。ロウネ、フールーダ様を呼んでこい。」
ニンブル・アーク・デイル・アノックとレイナース・ロックブルズは即座に身構える。
あの楽天的なバジウッドが震えている。こんなのは見た事がない。
僅かな静寂の後、扉が開いた。
「初めまして。バハルス帝国の皆さん。私はサトル・スズキ、平和の使者です。」
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秘書官ロウネ・ヴァミリネンは転びそうになりながら廊下を走っていた。只ならぬ異変が起こっている。警備の兵は皆腰を抜かしている。兎に角、急がねば!
「フールーダ様っ!フールーダ様っ!」
「なんじゃ騒がしい!おお、ロウネではないか。普段のお主らしからぬ慌て様、何があった?」
身長の半分はあろうかと言う白髭を生やした老人が答えた。
「陛下が!陛下の身が!今すぐ執務室に!」
フールーダ・パラダインはそこまで聞くと足早に部屋を出て
執務室へ急いだ。
途中の様子で大凡の検討をつける。
何者かの襲撃だ。騒ぎの音が無かった事から大人数ではないだろう、暗殺隊か?いや、ならばロウネが呼びに来る訳がないし、四騎士はどうした?次々と思考を走らせる。
「分からぬ」フールーダは先を急いだ。
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「お前たち、剣を納めよ。」
(成る程、まだ若いが流石噂の皇帝だ。肝が座っている)
「サトル・スズキと申されたか?私がバハルス帝国皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスだ。こちらは剣を納めた。貴君もその"気"を納めてくれるか?」
(何と言う事だ!精神防御のネックレスを付けて尚この圧力か、、、。しかし話は出来る様だから焦らずに会話から情報を引き出していくのが正解か?)
「これは失礼した。では。」
鈴木はオーラを切る。
同時に3騎士は肩でゼイゼイと息をし始めた。
「立ち話では落ち着かん。座って話さないか?」
「では、お言葉に甘えて。」
「それでは・・・サトル・スズキ・・・殿で良かったかな?」
「いや、サトルで結構。」
「それでは私の事もジルクニフと呼んでくれ、サトル殿」
「ジルっ!」
其処へ息を切らせたフールーダが入ってきた。
「ナザミが居ないが、まあ良いか。その内に現れるだろう。紹介しよう。今来たのは主席宮廷魔術師フールーダ・パラダイン。そして四騎士と呼ばれる私の側近、"雷光"バジウッド・ペシュメル、"激風"ニンブル・アーク・デイル・アノック、"重爆"レイナース・ロックブルズ、そしてあと1人
"不動"ナザミ・エネックが居る。」
「ああ。そのナザミとやらにはもう会った。今は"体調が優れない"ので休んでいる(嘘は言ってないぞ)」
「・・・そう・・・か(殺らやれたな)。それではサトル殿、三つ質問をしたいのだが良いかな?」
鈴木は黙って首を縦に振る。
「ありがとう。では一つ目。貴殿は何者なのだ。そして二つ目。何処から来た。最後に目的はなんだ。」
「では、答えよう。先ずは一つ目の質問から」
そう言って鈴木は被っていたローブを取るとその姿は死の支配者(オーバーロード)に変わった。
「エルダーリッチ!」フールーダは唸った。
鈴木は声の方へ顔を向けて言った。
「その上位種だ。オーバーロードは聞いた事が無いか?」
長い時を生きたフールーダも聞いたことが無かった。
だがその衣装と全ての指に嵌められた指輪、なにより手にしている凶々しい杖はとてつもない魔力を発しておりどれ一つをとっても国宝級を断言出来た。只者では無い。
「では二つ目。トブの森近くのカルネ村から来た。」
「あそこは王国領だが辺境の開拓村。それに近頃焼き討ちに会い滅んだと聞いている。」
今度はニンブルが割って入る。法国の不穏な動きを伝えられて配下を送った事があった。
「詳しいですね。その通り。2人の生存者を残し全滅しましたよ。しかし今は私が拠点にしています。」
復興については言わない。余計な興味は持たれたくは無い。
「では、最後の質問に。此度の戦争を止めて貰う交渉に来ました。」
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「ジルクニフ殿。私はカルネ村で静かに暮らして居ります。近くのエ・ランテルにも知り合いが居ますし、なにより争い事を好まないのです。」
「それではサトル殿は王国に所属して居られるのか?」
「いいえ、違います。私は何処の国にも団体にも所属して居りません。今回も聡明な皇帝ならば分かって頂けると思い私だけの意思でやって来ました。」
「ちょっと待って欲しい。コレは国と国との政。王国勅使の言葉なら兎も角、言い難いが貴殿では交渉相手に成らぬのだ。」
「では王国側も抑えると言ったら?」
「フッ。それが出来れば苦労などしていない。」
鈴木は黙って指輪を1つ外した。
部屋に魔力の暴風が吹き荒れる!
フールーダは目の前の事実が信じられなかった。
己は夢でも見ているのではないか?
魔法の深淵を求めたいとの想いが幻覚を見させているのではないか?
「逆らってはなりませぬっ!」無意識に叫んでいた。
鈴木はまた黙って指輪を嵌めた。
「陛下。この者、いや、こちらの御方には可能であると考えます。どうか交渉のテーブルに付いて下され、このフールーダ、この通りお願い致します。」
フールーダは床に額を付けジルクニフへ懇願した。
「爺・・・それ程か・・・?」
「ジル。敵いませぬ。敵に回せば帝国は全滅いたしましょう。」
鈴木は心の中でガッツポーズをした。
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フールーダの活躍?により交渉は始終和やかに?進んだ。
鮮血帝と呼ばれているが信念を持って自国民を守る良い皇帝だった。きっと粛清された貴族が陰口でも叩いたんだろう。
王国への交渉は鈴木が受け持つ、当然帝国も万が一を考慮して軍の配備は継続する。
双方の交渉成立後はカルネ村をトブの森を含め独立自治区と認める。基本は帝国が王国を併呑する形になるが王家は根絶やしにはしない。無論、王国の民へも帝国民同様の権利を与え差別しない。
「これでは我が帝国のメリットばかりではないのか?これを王国が呑むとは考え難いのだが?」
「王国はこれを呑まないでしょう。決裂します。」
「教えてくれないか?」
「始めから私は王国全てを残す気がないからです。一部貴族の横暴は目に余る。またそれを放置している国王にも問題がある。私の絶対的な力で膝を折ります。ですがこの姿では所詮が魔物が人間を支配してるとなり抑えられた貴族が討伐等と最もらしい大義名分で民を扇動するでしょう。私は事が終れば村へ帰ります。ジルクニフ殿が討伐したとでもして下さい。それなら民は納得し新たなトップにも忠誠心が生まれ易くなるでしょう。」
「サトル殿はそれで良いのか?何も望まないのか?」
「望む物は只1つ。平和。この世で最も得易く、最も失い易いものです。」
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フールーダの強い勧めもあり、鈴木は帝国見物を楽しむ事になった。片方が何も仕掛けないのだから心配ないと言う。
闘技場でイベントも行われており公共ギャンブルとして認められていた。それなりの手数料も国に入るし国民の良いガス抜きにもなるのだそうだ。
だが鈴木が興味を持ったのはそのマーケットだった。
王都のそれとは比べ物にならない規模だった。
色々な日用品に食材、武器、アイテム、良い匂いを漂わせる露店。
「どうです?サトル殿。結構賑やかでしょう?」
再び幻影で騎士姿になっている鈴木にレイナース・ロックブルズが尋ねた。
案内は女性の方が良いだろうと一応護衛も兼ねて彼女が選ばれたのだが、何故か自らもアピールしていた。
その姿に他の騎士は首を傾げた。普段の彼女ならこの様な仕事は絶対に受けたがらないからだ。
「そうですね。来た時にも感じたのですが活気が凄いです。陛下の治政が良い証拠でしょう。」
鈴木は物珍しそうにキョロキョロして答えた。
「フールーダの話ではサトル殿は魔法使いなのですか?」
会談後フールーダの話では指輪を外した時に途方も無い魔力を感じた。あれはもう人が到達出来るレベルではない。
「そうですよ。魔法詠唱者です。アンデットですがね。」
悪戯っぽく肩を窄めた。
「実はひとつ頼みを聞いて欲しいのです。」
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「それは難しいです。いや、傷を治す事は容易です。が、今それをここで叶えてしまうと貴女はジルクニフ殿の元を去るでしょう。私の今回の目的は一つ。余計な真似はしたくないのです。」申し訳なさそうに言う。
「そこを是非!陛下には私から言います!絶対にご迷惑はおかけしません!何卒!何卒!」
涙声で地面にひれ伏し懇願するレイナースに困惑する。
ジロジロとした視線も痛い。
「と、兎に角ですね。場所、変えましょう!ね!こんなトコじゃ落ち着いて話も出来ない!ね!そうでしょう?!」
無理矢理立たせてその場を後にする。
ふと、横の路地を見ると。
「ゲェええええええ、ウギャゲェエエエエ」
1人の少女?が盛大に吐いていた。
どこか見覚えのあるような・・・
しかし今は白昼泥酔娘に構っている暇はない、この場を離れなければ!
「じゃ、行きましょう!」
鈴木はレイナースを抱える様にして去って行った。
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「なんとかならんかのぉ〜」
とりあえず鈴木の足留めには成功したが次の一手が思いつかないフールーダであった。
弟子入り願いは即答で断られた。
落ち着いたらカルネ村へ移住する願いもジルクニフに即答で却下された。
正に手詰まりだった。
「なんとかならんかのぉ〜」
2世紀を超える時を生きてきた三重魔法詠唱者は
人生最大の悩みを抱えていた。
お疲れ様でした。
フールーダさんって250歳でしたっけ?
多分それぐらいだったろうなぁとしました。
探求者でも研究者でもない作者にはわかりませんが
250年も生きてたら飽きますよね?
知り合い皆んな死んじゃいますし。
オーバーロードにはそんな人多いですけどね。
じゃあまた。よろしくお願いします。
ありがとうございました。