いきなり「勧告」あり得ない、医療界の強い反発…[政治の現場]緊急事態再発令<7>

読売新聞 / 2021年2月27日 6時44分

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 昨年12月下旬、首相官邸の一室。首相補佐官の和泉洋人は、厚生労働省医政局長の迫井正深から新型コロナウイルス患者向けの病床について説明を受けると、思わず声を上げた。「どうして病床が増えないんだ」

 和泉は政府の病床確保タスクフォースを束ねる。この時期、東京都では新型コロナ向けの病床使用率が「危険水域」の50%を超え、入院待ちの人数も膨れあがっていた。都の動きは鈍く、病床確保を急ぐ和泉は毎週、厚労省幹部を官邸に呼んでは、資料を手に「ここの病院にも電話しろ」と細かく指示を飛ばした。

 指示を踏まえて厚労省や都などが説得に当たっても、病院からはゼロ回答が相次いだ。重症患者受け入れには「1人につき約10床分の労力と場所が必要」(医療関係者)とされ、二の足を踏むところが多かった。

 昨春の「第1波」では、PCR検査体制の不備で「検査を受けたくても受けられない」との不満が渦巻いた。今冬の「第3波」は「入院したくても入院できない」ことが問題となっている。入院先が見つからない患者が、自宅や高齢者施設で亡くなるケースも頻発した。

 専門家は第1波の収束後から、冬場の感染拡大に備えて病床確保を急ぐよう警鐘を鳴らしていた。昨年11月20日、政府のコロナ対策分科会も「早晩、公衆衛生体制及び医療提供体制が 逼迫 ひっぱく する可能性が高い」と提言した。

 これに対し、政府の動きは鈍かった。厚労省が病床確保へ向け、コロナ患者の受け入れ病院に1床当たり最大1500万円を補助する緊急支援策を打ち出したのは、12月25日のことだ。

 病床確保のテコとなる法制度にも甘さがあった。それまでの感染症法は、厚労相や知事が医療関係者に必要な措置を取るよう「協力を求めることができる」としていただけだ。政府は2月3日、改正感染症法を成立させ、「協力要請」に加えて「勧告」を導入した。コロナ患者の受け入れ勧告に応じない病院名などを公表できるようにもした。

 だが、これで万全というにはほど遠い。

 「いきなり『勧告』なんて、あり得ない」。1月中旬、政府の改正方針が報道されると、日本医師会長の中川俊男は厚労省健康局長の正林督章に電話で強く抗議した。厚労相の田村憲久は記者会見で「無理やりではなく、互いの信頼のもとに対応いただく」と釈明に追われた。今月13日に施行された改正感染症法で、勧告は「例外中の例外」と位置づけられた。

 

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