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私が妹だ! 作者:結城 慎

体育祭編

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ざくろと騎馬戦

 この学校の体育祭はクラス対抗ではなく、チーム対抗戦である。

 一組と二組が赤チーム、三組と四組が青チームといった加減で、二クラス×三学年、合計六クラスが一チームとなり、各競技の獲得点数の合計で優勝を競う。

 そしてこれから始まる競技は、優勝を占う上では非常に重要な戦いであるチーム対抗戦、一年女子の騎馬戦である。






 水藤ざくろの周囲には、既に九騎の騎馬が準備を終えていた。

 周囲を眺める。

 昂ぶる者、落ち着き談笑する者、騎馬を気遣う者。様々だ。

 しかし、先ほどの作戦会議のおかげだろうか、皆、勝ちを確信しているかのような余裕の表情をしている。

 まあ、戦いとはいえ、別に命を取られるわけでもないからの。


 私の側に、一騎の騎馬が寄って来た。

 私とは正反対の鍛え抜かれた長身の少女。

 短い髪に黒く日焼けた肌はまさしくスポーツ少女そのもので、その顔に光る双眸は、やはり勝利を確信したものだった。


「アタシは瀬尾亜梨沙(せお ありさ)だ。よろしく」


 スっと、右手を差し出してくるが、お互い騎馬の上なので普通に届かない。

 私の騎馬の先頭であるサツキにごめん、と声をかけ、ぐっと体を乗り出して握手を受ける。


「水藤ざくろなのだ」


 大きな手に力強い握手。

 やはり戦士はこうでないと。と少し羨ましくなる。

 まぁ、私は戦士ではなく首領。皆を掌握し、導く手があればそれでいいのだ。


「さーて、いよいよだな」


 心底楽しそうに、笑いながら放つその言葉に私は答える。


「うむ。最初のお前の一撃が勝負の分かれ目、頼むのだ」


 そう、この一戦の勝敗は私の作戦の成否に掛かっており、その作戦の鍵はこの瀬尾亜梨沙なのだ。


「ああ、任せとけって」


 ニカッと笑う瀬尾の笑顔が眩しい。

 うむ、この精神状態なら大丈夫だ。

 この作戦、きっと上手くいく。


「では、いくぞ皆の者!」


 私の号令で、皆はそれぞれ定められた位置へと散っていった。

 いよいよ騎馬戦が始まる。





 ドン、ドン、ドンドンドンドン……


 響き渡る太鼓の音と共に緊張が高まっていく。

 この太鼓の最後の一打が鳴った時、その時が開戦だ。


 ドンドンドンドン、ドドン、ドォン!


「オオオォォォォ!」


 一際大きな音ともにそれぞれが雄叫びをあげ、騎馬戦が開戦する。


「いくぞー!」

「かかれぇ!」


 相手の大将、そして私の号令で各騎が一斉に相手に向かって駆ける。

 しかし、私の騎馬は動かない。じっとその場で他の騎馬が会敵するのを待つ。


 前線が敵と相対する。


 私が動かないことで人数に差が出ている前線には、不用意に交戦せずに、適度に間合いを取りながら時間を稼ぐように言いつけている。

 左翼から中央にかけてが間合いを取り、相手を牽制している。

 そして右翼。

 同数の右翼は、自らの勇猛を信じ、相手と戦闘に入ろうとしている。


「よし、では行くか。

 サツキ、頼むぞ」

「任せて、ざくろちゃん」


 私が騎馬の先頭のサツキに声をかけると、彼女はその可愛い声で応じると、私の指す方向へ全速力で騎馬を走らせる。

 狙うは一点! 右翼で局地的に数的有利状況を作り、速攻で戦局を傾ける。

 決めてはスピードと一撃目の威力!


「側面を衝くのだ、突撃ぃー!」

「おおおぉぉぉ!」


 右翼側面に到着した私の騎馬は、休むことなく突撃を敢行する。

 モタモタしていては、牽制をしている右翼で逆に数的有利状況を生かされてしまう。

(描写入れる)


「何っ!

 くっ、だがなんとか――」


 ほう、いきなりの側面からの突撃にも、なんとか態勢を保つ相手騎馬。

 二対一なのによく頑張るのだ。

 いや、決して私が小さいから手が届かなくて驚異になっていないわけではないぞ。


「なかなかやるな、だが甘いのだ」


 そう、作戦とは成功しないと意味がない。

 確実に相手を倒すために私が作り出した状況は、二対一の状況からのトドメの一撃。

 そう、すなわち――――


「あっはっはっはっ!

 見事だ水藤! 背後からいただくぜ!」


 瀬尾亜梨沙によるバックアタックだ!


「ばかな! いつの間に」


 二人を相手にしていたうえで、更に突然の背後からの強襲。流石に対応できる訳もなく、相手騎はあっさりハチマキを奪われ戦闘不能になる。

 だが、まだ余裕などない。

 依然として中央、左翼は、私と瀬尾がこちらに回っている分、戦力的には確実に相手より劣っているのだ。

 この右翼の戦線を一瞬で数で押しつぶし、その勢いで中央まで到達できれば我々の勝ちだ!

 そのためには、今は一気に駆けるのみ。


「続けて数で押すぞ!」

「おお! いくぜぇ」


 私を含めた三騎は余勢を駆り、隣で戦う相手に襲いかかった。







「損失四騎で相手は残り一騎。余裕だな」


 私は頷く。

 戦局は決した。

 あの後、我々は濁流のように敵を打ち崩しながら侵攻し、中央部の戦場を征した現在、我々は六騎、相手は一騎と、もはや勝利は疑いようのない状況になっていた。

 ただ、左翼の戦場でたった一騎残った相手の大将は、一人で三騎もの味方を倒している。油断はできないのだ。

 このようなゲームでなければ、降伏勧告で終わりなのだが。


「集団で寄って集って一騎を倒すなんて、卑怯な!」


 相手大将が私の作戦を非難する。

 愚かなのだ。

 基本的に、騎馬戦は乱戦の中、個で優るチームが勝つのが常。

 そんなやってみないと分からない戦いで、確実に勝利を収めるために戦術を練り、実行する事のどこが卑怯なのだ。


「ふっ、これが戦い。

 戦いは数と戦術が全てなのだ」


 そう、戦いに超能力も神通力も魔法も陰陽道も要らない。

 九重百合香や山村咲のような特別でなくとも、勝利を得ることはできるのだ。


「くっ、だけど、このまま皆で攻め寄せてきても盛り上がらないだろう。

 どうだ、私とお前の一騎打ちでケリをつけないか?」


 負けないための苦し紛れなのだろう。

 相手の大将は、体育祭の盛り上がりを引き合いに出し一騎打ちの提案をしてくる。


「へえ、一騎打ちか。確かに胸躍るアツい展開なのだ」

「だろう、ではいくぞ!」


 私の答えを是と受け取ったのだろう。

 相手の大将は勇んで騎馬を走らせ突っ込んでくる。


「ふっ、愚かな。あっさり討ち取ってくれようなのだ」


 応じる私は視線僅かに外に走らせる。うん、問題ないのだ。

 相手はこちらの騎馬を一人で三騎も倒した相手、単純な勝負では相手にもならない。

 ならば!


 私は、相手対象と組み合う瞬間、スっと体を沈ませて相手の脇をすり抜ける。

 おそらく一騎打ちで脇をすり抜けられるとは思わなかっただろう。

 視線で私を追い、背後に完全なる隙を作った敵大将の背中に、豪快な笑い声が響く!


「あーっはっはっはっ!

 隙ありぃー!」


 そう、この戦いで必殺の鉾になっていた瀬尾亜梨沙だ。

 ガラ空きの背後からあっさりと敵大将のハチマキを奪い取り、この騎馬戦に終止符を打った。 


「なっ!

 一騎打ちに横槍を入れるなんて卑怯だぞ!」

「はっ、誰が一騎打ちを受けるといった。

 こんな優勢な状況で一騎打ちを受けるバカがどこにいる?」


 非難の声を上げる敵大将を私は鼻で笑う。

 そう、一騎打ちは確かにロマンがあるが、猪武者のやること。

 皆を預かる者のやることではない。

 勝つべくして勝つ戦をする。それが大将の務めだ。


「それにしても、騙し討なんて……」

「ふん、卑怯大いに結構。

 悪の道には卑怯は寧ろ褒め言葉」


 尚もブツブツ言う声を一蹴し、私は胸を反らして勝鬨をあげる。


「我々の

 勝利だぁ!」

「オオオォォォ!」


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