エピローグ
夏も盛りを迎える終業式の朝、(自称)百合香と並んで歩く通学路の途中で、俺はふと昨日一日中雨を降らせていた空を見上げる。
昨日の雨が嘘のように、突き抜けるような青空が広がっていた。
……あぁ、空が高い。
まるで、怯えていた雨の夜が別世界の様な空。目に突き刺さるほど眩しい。
結局、
アレが何で、なんで俺の後を付いてきて、何がしたかったのか。結局分からずじまい。何かモヤモヤする気持ちだけ残ったが、取り敢えず何もなくなったことで良しとしている。
それに、(自称)百合香と一緒にいると変な事件に事欠かない。そのうち今回のことも忘れるんだろうし。
そういえば、千景さんもあれ以降戻ってきていない。ちょくちょく電話はかかってきてるけれども、相変わらず家にも戻っていないらしいけど……
「お兄ちゃんどうしたの?」
ふと、横を歩いていた(自称)百合香が声をかけてくる。
俺は、なんでもないよと、頭を振って(自称)百合香に答えた。
「そういえば……」
暫く無言でふたり並んで歩いていたが、(自称)百合香がふと思いついたという風に装い
「お兄ちゃん、終業式の後でどこか遊びに行かない?」
そう提案してくる。
この前助けてもらった礼を兼ねて、付き合ってやりたいのもやまやまなんだけど……
と、チラリと俺が後ろを振り向くと、そこには悪戯そうな笑みを浮かべた快活な美少女が一名。……やっぱりいた。
「ごめんねぇ、百合香ちゃん。千太郎君は終業式の後、私とデートする予定なのよ」
いつも狙ったようなタイミングで現れる咲ちゃんは、その台詞と裏腹の、むしろ勝ち誇ったような声で(自称)百合香に俺の予定を告げる。
余裕の笑みの咲ちゃん。
対する(自称)百合香は……
「なら私も行っていいよね、お兄ちゃん」
効いていないようだった。
「もう、なんでよ! たまには千太郎くんと二人でデートさせてよ百合香ちゃん」
「ムラサキさんに、お兄ちゃんは渡しません」
「百合香ちゃんになんとか言ってあげてよ、千太郎くん」
「お兄ちゃん。いいよね、いいよね?」
あぁ、もう。
朝から俺を挟みギャーギャーと騒ぐ二人。
一般的には美味しい状況なんだろうけど、非常に姦しい。
「千太郎くん」
「お兄ちゃん」
「はーっはっはっはっ!
小娘どもが! せんたろうは夏休みはわたしとハワイに行くのだ。貴様たちの出る幕はない」
ざくろ……また適当なこと言いながら登場して。
あぁ、メンドくさ。
先行こっと。
「ウルサイ!
千太郎くんがそんな約束するわけないでしょ!
関係ない外野は引っ込んでなさい、このちびっ子怪人が!」
「そうだそうだ、どっか行けー!
ロリータ怪人が!」
「ちびっ子……!
ろ、ろりーた!!
おのれ言わせておけば……
ってせんたろうがいない!!」
「えっ?
お、お兄ちゃん、待ってよー」
「千太郎くん、置いてかないでって」
あぁ、いい天気だ。
夏休み、楽しみだなあ。
雨の怪異編これにて終了。
次話からは夏休みです。
世間は冬なのに……