千太郎とざくろ
「千太郎、相変わらずモテモテだなあ!」
側を通る級友が野次を飛ばす。
「お前なんて、嫉妬した山村さんに刺されちまえ」
いや、それは酷いだろ。
彼はそう言って笑ながら去っていったが、こちとら笑い事じゃない。
膨れ上がる横からの
取り敢えず、この状況を打開するためにも、まずはこの子の爆弾発言を処理しないと。
「あの、水藤さんだったっけ?
なんか色々間違えてないかな?」
「いえ、九重先輩で間違いありません。
私は先輩と、今後の二人の事について相談がありますので、一緒に二人でホテルに行って欲しいと言ったのです」
ちょっと待てい! なんだ今後の二人の事についてって。
身に覚えがない! 冤罪だ冤罪!
だけど、隣の方はもちろんそうは思ってはくれないみたいで、錆び付いた人形の首が動くように、ギギギっと音がしそうなほどゆっくりこちらに首を向ける。
殺気!
そう、殺気だよ。
突き抜ける爽快感! ではなく、突き抜ける寒気!
もう怖くて山村さんの方に顔を向けれません。
「せんたろうくん」
一文字一文字噛み締めるように、僕の名前を呼ぶ山村さん。
「は、はい」
思わず背筋を伸ばして返事をしてしまう俺。
「どういう事かな?
今後の二人の事についてって」
どうもこうも、そもそも勝手に公認カップルにされているが、そもそも俺は付き合ってるつもりはないんだが……
「山村さん、誤解だよ。
そもそも、この水藤さんとは初対面だし」
「いえ、九重先輩とは中等部の時に何度かお会いしてますよ」
こ、こいつ……
少しは空気読め!
「水籐さん?
千太郎君は忙しいから、また今度にしてくれるかな?
と言うか、もう二度と来なくていいから」
「そうですか?
私は別に少々待ってもいいですが……」
山村さんの殺気もどこ吹く風。いやむしろ話を聞いてるのかどうかも疑わしい少女・水籐は、何やら自分のもっていたドクロ柄の手さげ袋を漁り出す。
取り出したのは、水晶?
よく占いなどで使いそうな球体よりも二回り小さい透明な球体。
それを両手で持ち、何やらブツブツ言ったと思うと、「うーん」と唸った後やおら顔を上げて諦めたような顔で言った。
「こういう結果が出た以上仕方がありません。
後日日を改めてまた来ます」
何の結果だよ!
とツッコミたいのもやまやまだが、とりあえず帰れ。そして二度と来るな。
「それでは九重先輩、また」
俺の心を知ってか知らずか、いや、間違いなく知らないだろう。水籐は軽やかに挨拶すると、チョコチョコとせせこましく走り去っていった。あ、転けた。ざまぁみろ。
さて、と。
「これでゆっくり話せるね、千太郎君」
あとはこの冤罪を晴らすことだけだな。
「そうだよ、お兄ちゃん!
私は説明を要求する!」
いつの間にか合流していた(自称)百合香も含め、諸々の事を誤解だと理解してもらった頃には、辺りはすっかり真っ暗になっていた。
……全く!