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私が妹だ! 作者:結城 慎

洋館編

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百合香と事件

 ツアー二日目朝。

 食堂には既に皆が集まっていた。一名を除いて。

 やっぱりか……

 その思いが顔に出ていたのだろう、僕の顔を見て頷き返してきたのは遊佐さんだった。


「おはようございます。

 轟さん以外、皆さんお揃いですね」


 俺と(自称)百合香と山村さんが席に着くのを確認すると、ガイドのくせに一番眠そうな顔をしている高橋さんが、皆に声をかける。


「そろそろ食事の時間ですので私は轟さんに声をかけできます。

 申し訳有りませんが、皆さん少々お待ちいただけますか?」

「いや――――」


 否定の言葉を発したのは、今日はいやに存在感を出している遊佐さんだった。

 その言葉を皮切りに皆が座っていた椅子から立ち上がる。

 そう、俺たちの中で既に轟さんの事は既に結論が出ているのだ。ならば全員で確認に行った方が話は早いだろう。

 皆が皆、誰ともなしで轟さんの部屋に向かう。

 そう、既に――――



 部屋の前、万が一の可能性を考慮してガイドの高橋さんにまずは声をかけてもらう。


「轟さん、朝ですよ。ごはんですよ。先に食べちゃいますよ」


 ……高橋さん。それがツアーガイドの台詞かい。


「轟さーん、轟さーん」

「ガイドさん、もういいでしょう」


 なおも部屋に向かって声をかけ続けるガイドの高橋さんを止めたのは、またもや遊佐さん。なに? お前も死亡フラグ立てるクチ?


「マスターキーは?」

「はい、ここに」


 遊佐さんの問いかけに、ガイドの高橋さんは腰にぶら下げてあった二十本はあろう鍵の束から、一本の鍵を取り出す。

 いやいや、マスターあるならそんな鍵の束必要ないでしょ?

 遊佐さんに促されるままに部屋の鍵を開けるガイドの高橋さんに心の中でツッコミを入れておく。


 そして、部屋の中で皆が目にした光景は

 スヤスヤとベッドで寝息を立てる轟さん――――

 ではなく、大方の予想通り、血塗れで床に伏した彼の遺体だった。

 そして洋館に響き渡る悲鳴。


「きゃああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 声の主は、たまたま横に立っていた俺に抱きついたガイドの高橋さんだった。

 しかし、その他のメンバーを見ると、その顔にはありありと「やっぱりか」と書いてあった。

 そうだよな、あれだけフラグを立てれば……


「しかし、あなた、ベタですね」


 ボソリと聞こえてきたのは背景その一、鈴木夫妻の奥さんの声。


「ああ、ミステリーツアーで実際に殺人事件など、ベタにも程があるな」


 と、背景その二、鈴木旦那。


「確かに、そうだな。あまりにもベタ過ぎてインパクトが足りん」


 今日は頑張ってる遊佐さん。


「そうっすね、先輩」


 ん?まだいたの、大木さん。


「千太郎君、これは私にも分かるわ。

 確かに呆れるくらいベタよね」


 と、あんまりこのツアー自体に興味のない山村さんにまで言われる始末。

 実際死んでる山村さんは余りにも不憫。

 だけど、確かにベタだな……

 だがしかし

 状況がベタかどうかはともかく、ここはテンプレートに従って――――


「現場の保存だな」


 その言葉に頷く一同に、満足そうな発言者の遊佐さん。

 ホント今日はノリノリだな。

 バッチリ死亡フラグが立ってるんじゃないか?

 あ、それとたぶん……


「遊佐さんって、もしかして警察の方ですか?」

「お、九重君だったかな。よく分かったね。

 俺も大木も休暇中だが警察官だよ」


 うん、これもテンプレート通りだ。鈴木夫妻はどう見ても探偵とか警察には見えないからな。


「っと、まぁそれはともかく、現場の保存をするから皆部屋から出ていってくれ。

 俺が不自然な事をしないように、部屋の入口から見ていてくれても良いがね」


 その後、遊佐さんと大木さんは手馴れた手つきで状況を確認した後、轟さんの部屋を封鎖した。

 凶器は出てこなかったものの、死因は刃物によると思われる胸の刺し傷からの失血ではないかと言っていた。

 色々なんか不自然だが、ミステリーツアーでのミステリーの始まりだ。


 犯人はいったい誰なのか?


 急にリーダーシップを取り出して死亡フラグ立ち気味の『遊佐さん』

 すっかりめっきり影の薄い遊佐さんの後輩の『大木さん』

 背景扱いしていたが、意外と大木さんより台詞の多い『鈴木夫妻』

 死体を見て怯えているのか、未だに俺の腕にしがみついている『ガイドの高橋さん』


 そして、さっきから俺の方を睨んでるウチの迷探偵はどう出るのか?


 後半へ続く!


 そんなテレビ的展開を期待していたら、翌朝食堂にガイドの高橋さんが現れなかった。

予定よりちょっと話が進みませんでした。

しかし、話の雰囲気が重い。

内容は重くないけど。

軽い内容は次章までお預けなのです。

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