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私が妹だ! 作者:結城 慎

電波編

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百合香と咲

「うふふふふふふ、千太郎君」


 いつもと同じ顔で笑っている彼女が、まるで同じ人物に見えない。

 俺は地面にチラリと目を向けた。

 そこには、さっきまで古賀由亜だったものが横たわっている。


「うっ――――」


 その今にも叫び出しそうな苦悶の表示に、思わず吐き気を催す。


「あら、千太郎君こんなところで吐いちゃダメだよ。

 吐くなら――――」


 ゆっくり近付いてきた山村さんは、両手で俺の顔を挟み込むと、自分の方に引き寄せ……。


「!!」


 俺の唇に、人生初の感触を与えた。


 や、柔らかい。


 想像してたよりは甘くはないけど心地イイ。


 それに、こう、密着してるカンジがなんかイイ。


 もうちょっとだけ……



 ついつい山村さんへ伸ばそうとした俺の手を掴み、思いっきり引っ張る(自称)百合香。


「アンタ、私のお兄ちゃんに何してるの!!

 って言うか、お兄ちゃんも今何しようとしたの!?」

「あ、ごめん」


 ……なんか反射的に謝ってしまった。

 対して、山村さんはその唇を指でなぞりながら「ざんねん」と残念そうにない顔付きで呟く。

 つられて唇に手を伸ばした俺の腰に(自称)百合香の正拳突きが突き刺さる。


 うぐぅ。っとそうだ、色ボケてる場合じゃない。


 ちょっと落ち着いて状況を整理しよう。



 教室に戻った俺を、古賀が殺そうとする。理由は『お姉さま』の心が俺に取られるのを嫉妬して。

 そこに現れた『お姉さま』山村さんが、古賀をなんかよく分からない方法で殺害。理由は古賀が俺を殺そうとしたから。


 ……あれ?山村さんって味方?

 いや、でもこの町の状況を作り出していると思われる古賀の黒幕なんだよな。

 だけど、今まで長いこと一緒でも特に何も無かったし、悪いのは古賀か?

 藪蛇かもしれないけど、聞いてみないと分からないか。


 よし。


 ちょっとだけ期待と願いを込めて気合を入れる。

 山村さんは相変わらず何時もの笑顔でこちらを向いている。

 そして何故か(自称)百合香は、正拳突きを食らわせてから俺の腰に抱きついていた。


「山村さん」

「何?千太郎君。うふふふふふ」

「山村さんは、俺たちの敵なの?

 それとも味方?」


 俺が質問した瞬間、腰に回された(自称)百合香の腕に力がこもった。


「お兄ちゃん、こいつは私の敵だよ!」

「あら、百合香ちゃん。私に嫉妬?」

「ウルサイ!『私が妹にゃ』」


 俺の腰に手を回したまま、ビシッと山村さんを指差した(自称)百合香が決め台詞を噛んだ。

 珍しい。というか、初めて噛んだんじゃないか?


「邪魔された!?」

「ふふふ、百合香ちゃん、焦っちゃダメよ」


 しかし、(自称)百合香が噛んだだけと思ってた俺を他所に、山村さんと(自称)百合香は、何かアツイ展開のような台詞のやり取りをしてる。

 なんのこっちゃ?


「ムラサキさん、テレパス系の超能力者なの!?」

「あんまり簡単にネタバレするのも何だけど、その通りよ」


 超能力者?山村さんが!?もしかして(自称)百合香も?

 いや、そもそも超能力者なんて存在してたのか!?


「でも、私は別にこの力で何かをどうこうするつもりはないのよ」

「嘘だ!なら最近の町の状況は何なの。

 ムラサキさん、あなたが黒幕なんでしょ!!」


 いや、ちょっとマテ。二人で勝手に納得して話を進めるな。

 そもそも超能力者なんて――――


「今回の町の事については私は無関係よ。コレが勝手にやったこと。

 私はただ千太郎君の隣にいれればイイの」

「そんな話信じられるか!

 それに、お兄ちゃんの横は私の指定席よ」


 超能力者なんて――――


「別に信じて貰えなくてもいいの。

 それに、千太郎君の事については私は百合香ちゃんを敵とは思ってないから」

「な、なんでよ?」


 ……完全に置いてかれてるし。

 俺、この場にいらなくね?


「百合香ちゃんと千太郎君の関係を考えたら、そもそも心配するなんてバカみたいじゃない?だって、百合香ちゃんと千太郎君は……」

「ムラサキさんは『私が妹だ!』って言いたいの?」


 そう言って(自称)百合香は、今度こそビシッと決め台詞に決めポーズをとった。

 しかし(自称)妹よ。台詞の間に挟み込んでるソレは、決め台詞と言えるのか?


















「って(自称)百合香、やり過ぎだ!!」


 叫ぶ俺の目の前で山村さんが真っ黒に焦げて燻っていた。


「明らかにこれ死んでるじゃないか」

「いいのよお兄ちゃん。ムラサキさんは私の敵!だから排除しただけ」


 いやいやいやいや。絶対良くないって。

 いつから(自称)妹はこんなに冷徹非常になったんだ!?


「良くない!今すぐ自首しよう。

 お兄ちゃん毎日会いに行ってやるから」

「毎日私のために来てくれるのは魅力的な提案だけど、大丈夫。私に任せて。

 何たって、

 『私が妹だ!』」


















 深夜。

 巡回の教師は、教室の前で有り得ないものを発見する。


「し、し、死体っ!?」


 一つはこの学校の制服を着ている少女。その顔は苦悶の表情で固まり、目鼻から流れていた血は、既に固まり皮膚に張り付いていた。

 そしてもう一つが真っ黒焦げなたぶん人だったであろう塊。おかしな事に、その焦げた塊以外、床も天井も全く焦げた様子がない。いったいどの様な方法でこうなったんだろうか?

 化学を教える彼の脳裏に一瞬そんな疑問が湧いたが、今はそんな事を考えている場合じゃない。

 急いで警察に!

 しかし、電話に伸ばした彼の手が止まる。目の前の焦げた塊が動いたような気がしたのだ。


 いやいや、そんなはずはない。


 気を取り直してもう一度電話に手を伸ばしたその瞬間、目の前の焦げた塊は、大きく脈打つように動くと、その表面に無数の亀裂を走らせた。

 そして、次の瞬間。

 音もなく表面が剥がれ落ちた塊の中から、一人の少女が現れた。


「いやいや、流石に百合香ちゃん、強かったわね。

 ってあれ?先生、こんばんは」


 少女は何事かを呟いた後、側にいる教師に気付いた様で『一糸纏わぬ姿』に物怖じすることもなく、平然と挨拶をした。


「まったく、こんな可愛い裸の女の子と夜中に学校で会ってるなんて、フ・ケ・ツ」

「な、キミは何を言って――」

「そんな悪い子は、今夜一晩記憶をなくして寝ちゃえー!」


 少女がそう高らかに声を上げ手を振るうと、教師は夢遊病に浮かされたように虚ろな表情でフラフラと元来た廊下を戻っていった。


「さて、面倒だけどコレを処分してからお家に帰りますか」


 そういって少女は目の前の制服姿の死体を足蹴にすると、右手を(かざ)してまるで握りつぶすかのような仕種をする。すると、死体は何かに押し潰されるように一瞬でサイコロ大まで圧縮されてしまう。


「まったく、百合香ちゃんも後始末くらいはちゃんとして欲しいわね」


 少女はそう呟くと、床に転がったサイコロ大のソレを摘み、その小さな口に放り込んでしまった。


「さてと、じゃあ今日はイイコトもあったしお家に帰りますか」


 そう言って少女は廊下の奥に広がる暗闇の方へ消えていった。




「千太郎君、また、明日会えることを楽しみにしてるわ」

すいません、一日遅れました。

とりあえず尻切れトンボに思えますが、第二章本編はココまでです。

番外編一話を挟んで第三章へ……

というつもりです。

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