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私が妹だ! 作者:結城 慎

黎明編

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番外編 百合香と冬休み

「私が妹だ!」



 我が家のリビングに(自称)百合香のいつもの決め台詞が響き渡る。

 ただし、ナマ声ではないが。


 声の方には確かに(自称)百合香の姿があった。

 ただし『鋭い』社名のプラズマテレビの画面の中にだが。



「へへーん、お兄ちゃん。

 昨日も私は大活躍。

 テレビ映りも素敵で、何よりカッコイイでしょ」



 そして隣にはホンモノ。

 画面とは違うジャージ姿で自慢げに胸を反らしていた。

 うん、ぺったんこだ。



「お兄ちゃん、何か今失礼なこと思わなかった?」

「ん?いや(自称)百合香は(胸が)華奢で可憐で可愛い自慢の妹だな、って思っただけだよ」

「え、そうなの?

 でも、えへへっ、お兄ちゃんったら上手なんだから」



 うん、いつもながらチョロいな。



「それより(自称)百合香、さすがにいい加減寒いから、物置からコタツ出すの手伝ってくれ」

「アイアイサー!」

 (自称)百合香はビシッと敬礼して応えた。




 (自称)百合香を連れて庭に出る。

 十二月の空は見事な程澄み渡り、吐く息は小さな雲のように、白く空へ消えていった。

 俺たちは、庭の片隅にある『百人乗っても大丈夫そうな』社名の物置倉庫から、それぞれ手分けしてリビングにコタツの部品を運び込む。

 俺はそれを手早く組み立てると、両親が昨夜のうちに出していてくれたコタツ布団をかけ、あっという間にほら完成。


 何ということでしょう。

 殺風景だったリビングは、スカートのように布団を広げ部屋の中央に鎮座したコタツのお陰で、あっという間に家族みんなが団欒できるくつろぎ空間に早変わり。



「お兄ちゃん好きだねぇ、その番組……」


 あれ、口に出てたか?

 まあ別に(自称)百合香の前だし気にしない気にしない。


 俺は早速コタツの電源を点けると、いそいそと潜り込む。


 はあぁぁ、やっぱり冬はコタツだよ。足元から上ってくる暖かさが、全身に染み渡る。

 コタツこそ、まさに人類の宝だろう。

 ふと見ると、対面で(自称)百合香も蕩けそうな顔でコタツに浸っていた。

 暫くお互い無言でコタツに浸る。

 あぁ、極楽極楽。


 そんな俺の耳に届くのは付けっ放しのテレビの声。あれから結構時間が経っているのに相変わらず内容はウチの(自称)妹の特集みたいだ。

 視線を向けると、ドーンという効果音と共にデカデカと画面に踊るテロップが目に飛び込む。

 ……さすが地方ローカル、演出がチープだ。



『ゴスロリ美少女

 今度は犯罪組織を壊滅!!』



 ……ああ、そういえばこの前そんな事もあったなぁ。



「(自称)百合香」


 画面から視線は外さず、視界の端で幸せそうにコタツに突っ伏している(自称)妹に声をかける。


「なぁに、お兄ちゃぁん」


 既に半分溶けてるだろ、コイツ。


「お前、最初に危険なことはあんまりしないって言ってたのに、最近結構過激じゃないか?」

「えぇぇっ、それはお兄ちゃんがぁ、すぐに危ない奴らに狙われるからだよぉ」


 いやいや、そんなはずは無い。

 俺は巻き込まれているだけの、ただの被害者だ。

 身に覚えもなければ描写もない俺は無実だ。


「あれぇ、自覚無いのぉ?

 ほらぁ、今テレビでしてるこの時だってぇ」

「オイ(自称)百合香、いい加減普通に喋れよ。

 ってか、この犯罪組織の時か……

 この時はホントにやばかったな。

 しかし、まさかお前にあんな事が出来るとは……」

「確かにヤバかったね。

 ちょっぴりピンチで私も久しぶりに本気出しちゃったよ」


 突っ伏した顔を上げ、えっへんと胸を張る(自称)百合香の額にチョップをかますと「暴力反対!」という声を無視し、コタツを抜け出しダイニングから蜜柑を盛った籠をとって来る。

 うん、テンプレだがコタツにはやっぱり蜜柑だろ。

 俺も(自称)百合香も、それぞれ一つずつ蜜柑を取ると、窪みの部分に指を突っ込みソコを起点に皮をめくる。

 皮をめくり終え実がでてくると、俺はソレを二つに分けて、その片方を口に放り込む。


「そんな一気に半分なんて勿体無いよ。

 もっとちゃんと味わって食べようよ」


 非難の声を上げる(自称)百合香を見ると、実の周りに付いている白いの(あれなんて言うんだっけ?)を神経質そうに取っていた。

 まだ食べてないのか。


「そう言えば(自称)百合香。

 ピンチと言えば、あの怪しげな宗教団体の時もヤバかったなあ」

「そうだね、あの時は私が風邪ひいてたしね」

「他にもウラの爺さんの時とか」

「そうだね、空き地の猫も」


………………


…………


……


 俺たちの遭遇した事件談議に夢中になっていると、いつの間にか(自称)百合香の特集番組は終わり、俺たちの腹の虫も泣く様な時間になっていた。


「昼飯にするか」

「うん。

 お兄ちゃん」

「ん、なんだ?」


 しかし(自称)妹は、俺の顔を見てえへへへっと微笑んでいるだけ。

 くそう(自称)百合香のくせに、ジャージ姿でもなかなか可愛いじゃないか。


「何か食べたいもんあるか?」

「お兄ちゃんのチャーハンがいい」

「りょーかい」


 たまには作ってやるのもいいだろ。


「お兄ちゃん」

「なんだ?」

「ご飯食べたら一緒に何処か出かけよ」

「お前なあ、友達と遊べよ」

「お兄ちゃんと一緒がいいの!」


 ったくしょうがないなー。


「分かった分かった」

「ありがとう」


 渋々了承する俺に、満面の笑みの(自称)百合香。


「お兄ちゃんお兄ちゃん」

「何だよ、さっきから」

「えへへへ。

 いつも一緒にいてくれてありがと」


 まったく、ホントに可愛いじゃないかこのヤロー。

 俺は立ち上がり(自称)百合香の頭をガシガシ撫でると、腕まくりをしてキッチンに向かう。


「ちょっと待ってな(自称)百合香。

 すぐに作ってやるよ、渾身の一皿ってヤツをな」

「うん、待ってるね」




 キッチンでチャーハンを炒める俺の耳には(自称)百合香の呟きは届かない。


「お兄ちゃん、私、今とっても幸せだよ。

 私が妹だって事が。

 大好きだよ、お兄ちゃん」



 こうして、俺たちの何気ない冬休みの一日は過ぎていった。


        〜 Fin 〜

大変な間違いをしてしまったお詫びと、元アイデアのダラダラとした日常というネタをいただいたので、お詫びに番外編を作りました。

いやはや先生、ホント失礼しました。



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