プロローグ 〜 空から降ってきた妹 〜
事実は小説より奇なりとはよく言ったもので、世の中には説明できない不思議な事象もままあったりすることで。
例えば、こんな風に空から女の子が日傘をパラシュート代わりに降下してきたりする事もあったりするのだ。
軽やかに地上に降り立ち、いそいそと日傘を畳む鮮やかなピンク色のゴスロリドレスに身を包んだ小柄な少女。
まだ陽も高いのに、畳んだら日傘の意味が無いだろうに……。
「やっほー」
彼女は畳んだ日傘を右手に杖がわりに持ち、左手をヒラヒラと振りながら、語尾に音符が付きそうな程親しげに声を掛けてきた。
が、身に覚えもない、誰だ?
「あの、どちら様ですか?」
正直に聞いてみると、まさにピシッと音がするぐらい見事に固まる少女。
「わ、私だよお兄ちゃん、妹の百合香――」
「ウチの妹はもっと根暗だ!」
確かに身長はウチ妹と同じくらいだが、バッチリ決まったメイク、盛りに盛られた栗色の髪の毛、鮮やかなゴシックロリータの服装、どれをとってもウチ妹とは似ても似つかない。
ウチ妹は化粧もしない、ボサボサの黒髪でいつも無地のTシャツを着ている、そんな妹だ。
「ウチ妹の名前を騙って、お前は一体誰だ!」
「――――ッ!!
わーたーしーが、妹だ!!」
(自称)妹を連れ帰宅した。
何故か頬が非常に痛いが、それは気にしないことにしよう。
私鉄の終点にあるベットタウンに居を構える我が家、と言っても、勿論親の家だが……。
小さいながらも庭と、車一台が入る車庫のある一戸建て住宅。
白いサイディングの壁に青い瓦屋根、特に何か特徴のある家でもない。
住人は、両親に俺、そして妹の百合香の四人、ペットはいない。
妹は根暗だったが特に引き篭っているわけでもなく普通に平穏な家庭だった。
昨日までは。
何かがおかしい。
妹がこんな【vivid】で【passion】なゴスロリファッションに身を包んでいても、両親は顔色一つ変えずに何も言わない。
いや、人間としてその反応のなさはおかしいだろ!
あの、単色原色ツートンカラーの妹が、いきなりどピンクになってるんだぞ!
「父さん、母さん、百合香がいきなりこんな格好になって、何かおかしいと思わないのかよ!」
「あはは、お兄ちゃん気にしないでよ。
何もおかしい事はないよ。
これこそ私、これこそ百合香。
私が妹だっ!」
リビングで両親に訴え掛ける俺の言葉を遮り、妹がビシッと決める!
百合香では考えられないような見事なドヤ顔。
でも……
「いやいや、絶対おかしいから」
「あれ、なんで決まらないの?
ここはビシッと決まって場面転換するところじゃ……」
ツッコミを入れる俺に、ビシッと決めポーズのままの妹は怪訝な顔でぶつくさ言っていた。
ってか、何だよ場面転換って。漫画じゃあるまいし。