行方と考察1
キシュタリアは内心ずっとブチギレつつも色々と考えていました。
ミカエリスに会いに行ったのは情報交換と頭を冷やすため。
自分に何かあった時のための保険でもあります。
話を聞き終えたミカエリスは、深く息を吐いて憤怒を飲み下した。少しでも油断すると、荒れ狂う感情が溢れでそうだった。
恩師であり第二の父親のようなグレイル。
その安らかな眠りは汚され、棺は暴かれていた。
あんまりではなかろうか。
向かい合って座っているキシュタリアは微笑んでいる。嗜虐的で冷酷な表情だ。
唇はいたって優美と言っていい微笑だが、アクアブルーの瞳が獰猛に輝いている。
「……確定だな」
「そうだね」
「アルベルが従うはずだ」
「これ以上に無い脅しだと思うよ――あいつらの脅しの材料は父様自身だ」
オーエンが接触した時期から考えるに、受け入れがたい死を乗り越えようとした矢先だっただろう。
アルベルティーナの変化と激しい怒り。
憎悪と恐れを抱きながらも、それでもオーエンやヴァンの理不尽に従う不自然な姿。
どれもこれも、グレイルの為ということならば納得がいく。
「大方、首だけ持ち運んだんだよ。綺麗に切り落とされていたからね。
マジックバッグの類を使えば難しいサイズではない。保存容器にでも入れていれば持ち運びできる」
ジュリアスがマクシミリアン侯爵家に、食客として魔法使いがいると言っていた。
あの家は商才もなく金遣い。余裕があるような財政ではないはずだ。
もしかしたら、魔道具ではなく空間魔法の類かもしれない。
「正気の沙汰ではない。四大公爵家の当主だぞ」
「欲に目が眩んだ馬鹿なんだよ。そして、きっと誰かが唆しているはずだ。
父様は国葬だった。それに干渉できるような権限を持った奴が関わっている。
単独では貧乏侯爵風情では逆さになっても無理。
マクシミリアン侯爵家は愚かだから、加担して利用されて切り捨てられる可能性が高い。黒幕はあとで特に美味しい部分だけ上前を撥ねる気なんだろう」
都合の悪い罪はマクシミリアン侯爵家に被せる気だろう。
ラティチェ公爵家分家の侯爵家という、肩書だけはそれなりの箔のある家柄だ。内情がボロボロでも派手に槍玉にあげるにはうってつけである。
そういったことをやりそうな悪い噂も多くある。
「その黒幕は上がっているのか?」
「そこまでは。国葬はラウゼス陛下の名前で取り仕切られていた……だが、ラウゼス陛下にはアルベルを脅す旨味なんてない。
それに、陛下は随分とアルベルが可愛いみたいだ。
実子が色ボケ王子二人とオーク王女っていう不良債権ばっかりならわかる気がするけどね」
「それなら少し伺ったことがある。ラウゼス陛下はシスティーナ様やクリスティーナ様と交友があったそうだ。
ラウゼス陛下の代の兄弟姉妹は数多くいたが、数少ない仲の良いご姉弟だったそうだ」
「またかーって感じだよ。アルベルってこの二人絡みで色々因縁多すぎだよ」
「瓜二つだからな」
「肖像画、見たことあるから知っている。あ、そうだ。肖像画といえば、いいもの見せてあげる」
ひょいとミカエリスに近づいたキシュタリアが、胸元から懐中時計を取り出す。
そしてカチリと開くとロケットのように中に肖像画が入っていた。
そこにはよくできたアルベルティーナの姿絵があり、親しい者だけに向ける笑みを浮かべていた。
「父様の遺品の一つ。羨ましいでしょ?」
にっこりとそれは良い笑顔のキシュタリアに、苦々しいながらも頷くミカエリス。
「頼んでみれば? ミカエリスならアルベルも嫌がらないよ」
「二つ作らないとならないな。私だけ持っていたらジブリールに強奪される」
「あー……する。するね、ジブリールなら絶対にする」
薔薇の華やかさを持つ美少女が、赤い悪魔のような笑顔と共に脳裏に浮かぶ。
すこぶるパワフルでやんちゃなあの伯爵令嬢は、実兄にも幼馴染にもあたりが強い。
とにかくエネルギーに溢れていて、キシュタリアやミカエリスが圧倒されて尻尾を巻いて逃げたのは一度や二度ではない。
アルベルティーナに対しては全力で可愛いをゴリ押しているが、時々パワーがはみ出ている。
「我が妹ながら……ジブリールは、ラティッチェ公爵とは違う方向で勝てる気がしない……」
「わかる」
認めたくないが、あのお転婆令嬢は結構天敵である。
味方なら頼もしいが、敵であったら正面からやり合いたくない。
いつだったかグレイルも言っていたが、ジブリールが男じゃなくて本当に良かった。
あの端正で可憐な顔立ちも小柄で華奢な姿も、年下や可愛いものが大好きなアルベルティーナの好みストライクゾーンだろう。
異性としての好みはともかく、猫可愛がりをする。
そして、ジブリールはガワを使える超肉食系だ。狩る側という意味で。
「しかし、聖水晶の棺桶ごとか……」
「あれは特殊なものだからマジックバッグでもお父様の遺体ごと入れるのは難しいだろうね。光や聖属性の強烈な魔力を帯びているから。
かといって他の棺に入れ変えても意味がないだろうね」
キシュタリアはピッと三本の指を立てる。
「恐らく、アイツらが父様ごと棺桶を持っていった理由は大きく分けてこの三つ。
一つ目、聖水晶の棺を用意できなかった。あれは特注品だし、その分施されている封印や保管能力は一級品。とても美しい高純度の魔水晶から作った、すごく稀少な品だ。
ラティッチェが人脈を駆使して、権力で圧力をかけて何とか一つ作れた特注品をもう一つ用意するのは難しいだろう。
二つ目、金銭的に余裕がなかった。棺のめどが立っても、支払いができる程の余裕がなかったってことだね。ぎりぎり支払いできても、入手した形跡をもみ消す余力がなかった可能性もある。すぐに始末しては事件になり易い。そこから足が付くし、当座の口止めにも費用は掛かるからね。
ラティッチェだからポンと買えたけれど、他のところでは精々蓋だけじゃないかな。
三つ目、聖水晶の棺が用意できても中に入れる死体が用意できなかった。聖水晶は透明だし、暗い中で見られるならともかく少し照らせばバレる。
聖水晶の保存効果もあってそう遺体が白骨化や腐食といった変化なんてそうそうしないはずだ。
替え玉の姿が墓守にでも見られてしまえば終わりだろうね。父様の顏はすごく印象的だから非常にバレやすいし、世の中に同じ顔が三つあるとは聞くけどこんな急に用意できるはずもない。
それなら人形の方がバレないだろうけれど」
読んでいただきありがとうございました。
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