世界の各都市で活躍するビート・メイカーのプライベート・スタジオを訪れ、トラック制作にまつわる話を聞いていく本コーナー。今回紹介するナッシング・ニューは、ニューヨークを拠点に活動するビート・メイカー。プログラミングだけでなく、自身のバンド経験を生かし、ドラムやアナログ・シンセを演奏して楽曲に取り込むスタイルが得意だ。有機的なビートにスペーシーなシンセ・サウンドが広がる、彼のサウンドの裏側をのぞいてみよう。
Interview:Keiko Tsukada Photo:Omi Tanaka
キャリアのスタート
僕は長年ヘビー・メタル・バンドをやっていて、ビート・メイキングを始めたのは2012年から。興味を持ったきっかけは、バンド時代、レコーディング・スタジオに居るときに、“作曲のプロセスが面白い”と思ったからなんだ。それから自分のアイディアを音楽にしたいと思い、真剣にビート・メイキングに取り組むようになったんだよ。音楽自体は8歳からやっていて、バンドはティーンエイジャーのころに始めた。父はベーシスト兼ボーカリスト、母はギタリスト兼ボーカリストでアフリカン・ドラムも演奏する。弟はピアニストで、僕と弟は一緒にバンドを組んでいるんだ。基本的に僕はヒップホップを中心に作るんだけど、ジャズやR&B、ハウスなども実験的に取り入れたりしているよ。
初めてのビート・メイキング・ツール
ビート・メイキング関連で最初に使ったツールは、iOSアプリBLIP INTERACTIVE NanoStudio。音楽制作がAPPLE iPhone上で行え、シンセやリズム・マシンなどのソフト音源や数種類のエフェクトなどが付いている。どこに居てもビート・メイキングできるのがとてもクールだね。
使用機材やプラグイン
最近手に入れたのは、サンプラーのAKAI PROFESSIONAL MPC2000。コロナ禍でスタジオに居ることが多いから、使い方をじっくり研究している。DAWはABLETON Live。ほかと比べて、アイディアを形にすることが断然速くできるんだ。Live専用コントローラーのABLETON Push 2はとてもシンプルに操作できて、制作におけるメイン機材の一つだね。大抵のビートはサンプルを使って組み立て、シンセは実際にハードウェアを弾いて録音している。プラグインに関してはWAVESの大ファンさ。アナログ・アウトボードのエミュレーション・プラグインが好きなんだ。マスターには、コンプレッサーのWAVES SSL G-Master Buss Compressorを使っている。SOUNDTOYSのプラグインもお気に入りだね。ちなみにライブ・パフォーマンスでは、サンプラーのROLAND SP-404をよく使うよ。
ビート・メイキングのこだわり
こだわりは間違いなくドラムとベースにある。僕はドクター・ドレー『The Chronic』のような、1990年代ウェスト・コースト・サウンドの大ファンなんだ。生っぽくて、クリーンかつ切れ味のあるサウンドさ。だからアナログ・シンセやリズム・マシンを使用している。シンセ・ベースはMOOG Minitaurで、そこにディストーションのELEKTRON Analog Heatを通したりするんだ。ドラムは、生ドラムを録るかサンプルを用いるか、求めている音次第で使い分けているよ。
ビート・メイクの醍醐味
音楽を演奏している限り、怒りや悲しみなどのストレスから逃れられる。ビート・メイキングやレコーディング、ミキシングでも同じことが言え、これらをやり続ける限り、僕はその中に生きることができるんだ。音楽制作は僕にとって、精神的/肉体的に大きな癒しの効果があるんだよ。その上、完成した作品をリリースすれば、今度はそれで世の中の人たちを癒すことができたり、彼らの心に影響を与えることができる。僕がビート・メイキングをやり続ける理由は、この“ポジティブな循環”が大好きだからだ。
読者へのメッセージ
大事なのは、周囲ではなく自分自身にとっての音楽をやることだ。皆、SNSの“再生回数”や“フォロワー”を増やすことに必死になり過ぎている。まずは、“自分はどんな音楽を作りたいのか”を考えることに時間を費やそう。
SELECTED WORK
2020年6月に発表したアルバムで、人生のつらい時期に作った作品。ミキシングについても勉強したね。Bandcampの“ザ・ベスト・ビート・テープ”にも選出されたんだ。
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