第十二話:王鍵と王律
大戦士ヘラクレス――。
二メートルを超える
威風堂々としたその立ち姿は、まさに大英雄
(……よかった。なんとか間に合った……っ)
今回ばかりは、本当に危なかった。
後コンマ数秒でも遅れていたら、レグルスの幻想神域が完成してしまい、この召喚は成立しなかっただろう。
「はぁはぁ……っ。よくも、私の
奴は荒々しい息を吐きながら、キッとこちらを睨み付ける。
(……かなり消耗しているな)
レグルスの顔色は、非常に悪い。
(幻想神域は、
この消耗具合から判断して、二度目の幻想神域は警戒しなくてもいいだろう。
「――ヘラクレス、やってくれ」
「ル゛ォオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛……!」
俺の魔力供給を得た大英雄は、凄まじい勢いでレグルスのもとへ突き進む。
「……真正面から向かって来るとは、私も舐められたものですね。――
レグルスの右手がヘラクレスの脇腹に触れた瞬間――ヘラクレスの体はボコボコと膨れ上がり、黒い肉片となって飛び散った。
「ふっ、
「――何をもう勝った気でいるんだ? 今のは
「……え?」
四散した漆黒の肉片が
「ゴ゛ア゛ア゛ア゛゛ア゛ア゛ア゛ア゛……!」
大英雄の
「が……っ!? ぐぉ……ぎ……ッ」
レグルスはまるでボールのようにバウンドしながら、遥か後方へ吹き飛んでいく。
遥か神代の頃――ヘラクレスは神々に課せられた『十二の
彼を殺し切るには、性質の異なる十二の攻撃でその命を奪った後、真のヘラクレスを――『十三番目の大英雄』を倒さなければならない。
第一形態こそ、特筆した力を持たないが……。
第二形態はネメアーの鎧、第三形態はヒュドラの毒矢、第四形態はケリュネイアの
早い話が、倒せば倒すほど耐性と魔具を獲得していく、ほとんど不死の召喚獣だ。
彼と契約を結ぶのは……本当に死ぬほど大変だった。
「なるほど、『条件付きの不死性』ですか……。ヘラクレスの
その後、レグルスは
「~~ッ」
「グ゛ォオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛……!」
幻想神域を破壊された反動が――膨大な魔力を失った影響が大きいのか、終始ヘラクレスに圧倒された。
「……困りました。今の私では、この召喚獣を殺し切れなさそうだ」
「……諦めたのか?」
「まさか。ただ、少しだけ『基本』に立ち戻ろうと思いましてね。召喚獣が強力な場合は、
奴は肩を軽く回した後、小さく息を吐き出した。
「……正直に告白しましょう。私はアルトくんのことを正しく評価し、
レグルスの
「――アルト・レイス。私はもうあなたを格下と思いません。『神代の大召喚士』と
これは……気を引き締める必要がありそうだ。
「――
レグルスは右手を天高く掲げ、静かに術式の名を告げる。
奴の頭上に魔力で作られた巨大な球体が発生し、それはどんどん小さくなっていた。
「球体内を満たす『空気』に命を
レグルスの人差し指に、小さな球体が浮遊する。
そこには恐るべき量の魔力と暴力的な生命力が、これでもかというほどに詰め込まれていた。
(あれをまともに食らえば、ただじゃ済まないな……)
俺は静かに呼吸を整え、魔力の
両者の視線が交錯し――レグルスが先に動いた。
「――
小さな球体にヒビが入った次の瞬間、赤黒い閃光が凄まじい勢いで射出される。
(神螺転生・崩真は、『真空崩壊』という極大のエネルギー爆発に、ありったけの魔力と生命力を注いだ最強の一撃! これならば、ヘラクレス
眼前に迫る大魔術に対し、迎撃を開始する。
「ヘラクレス――第十三形態」
大量の魔力を投じ、ヘラクレスを『十三番目の大英雄』へ進化させる。
「――宝剣マルミアドワーズ、解放。残存魔力を解き放ち、目の前の敵を殲滅しろ!」
ヘラクレスが天高く掲げた宝剣に、空間が
「ウ゛ォオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛……!」
振り下ろされた斬撃は、まさに『神話の一ページ』。
全てを断ち斬る究極の一撃は、
「この、化物、め……ッ」
レグルスの胸部に、巨大な風穴をぶち開けたのだった。
■
「……ぜひゅ、ぜひゅ……ッ。
「……驚いた。まだそんな余力があるんですね」
全身の約七割を消失したレグルスは、息も絶え絶えと言った様子で再生を始めるが……その速度は非常に遅い。
これはおそらく、先ほど放った大魔術――神螺転生・
「レグルス、お前には聞きたいことが山ほどある。悪いが、拘束させてもらうぞ」
『
「……私はこの先、冒険者ギルドで尋問を受け、いずれは処分されることでしょう……。もはや大魔王様の力になることができない、そんな自分がどうしようもなく情けない……っ」
仰向けに拘束されたレグルスは、ポツリポツリと言葉を紡ぐ。
「そこで、一度よく考えてみました。どうすればこの命を、吹けば飛ぶような風前の
奴は凶悪な笑みを浮かべ、おぞましい悪意を撒き散らしながら、けたたましい大声を張り上げる。
「――さぁさぁ、みなさんお立合い! レグルス・ロッドがお送りする、生涯最後の大悲劇が幕を開けますよォ!」
レグルスが左手で『
「ほらほら冒険者のみなさん、しっかりと目を開けてください! 醜い
奴は満面の笑みを浮かべながら、高らかに術式を
「――
次の瞬間――静寂があたりを包み込む。
「「「……?」」」
そこには、あるべきはずものがなかった。
弾け飛んだ無残な遺体・冒険者たちの悲鳴・二度と癒えぬ悲しみ――悲劇を構成するものが、何一つとして存在しない。
「何、故……? どうして、誰も
目の前の光景が到底理解できないのだろう。
レグルスは声を震わせ、小さく首を横に振っている。
「残念ですが、レグルスの思い通りにはなりませんよ」
万が一、『最悪の事態』を想定したときの保険が――今ここで生きた。
「――
第七地区に突き立てておいた王鍵シグルドに接続。
世界を走る不可視の『王律』に指を掛け――命令を下す。
「アルト・レイスの名において、当該対象の事象を――
「そん、な……馬鹿な……っ」
『命のカタチ』をいじられ、モンスターと化した冒険者たちは、みるみるうちに元の体へ――人間の体へ戻っていった。
「マシュ、マシュぅ……! よかった。本当によかったぁ……っ」
「い、痛いよ、ティルト……」
ティルトさんは涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、
その他にも、あちらこちらで歓喜と感動の声が湧き上がった。
「あ、あり得ない……。こんなことは、絶対にあり得ない……!
「えぇ、アレは間違いなく、『不可逆の破壊』でした。回復魔術では、絶対に治せませんね」
「ならば、いったいどうやって!?」
食い気味に聞いてくるレグルスへ、とても簡単な答えを告げる。
「
「……は?」
奴は理解できないといった風に、ポカンと大口を開けた。
「『レグルス・ロッドが
レグルスに改造されたという『過程』が消えたのだから、冒険者たちがモンスター化したという『結果』も消滅する。
至極、当然のことだ。
「それは……過去を改変したということですか!?」
「はい、その通りです」
「ふ、ふざけないでください! 過去改変など、できるわけが――」
「――王鍵には、それができるんですよ。といってもまぁ、『王律の干渉』にはたくさんの
王律で干渉できる範囲は、現在の時間から前後三日のみ。
『座標』である俺から離れた事象ほど改変が難しくなる。
『死』という『絶対的な収束』の破却は不可能。
他にも数多くの制約が存在するため、そう易々と使うことはできないのだが……。
オンリーワンの性能を持つため、しっくりとはまったときの性能はピカイチだ。
(変幻自在の召喚術・
手足を拘束されたレグルスは、何故か今頃になって抵抗を始めた。
すると次の瞬間、
「――よかった。ギリギリ間に合ったみたいだね」
黒いローブを
(新手か……っ)
俺はすぐさまバックステップを踏み、謎の乱入者から間合いを取る。
突然の乱入者は、黒いローブを纏った背の高い男。
フードを目深にかぶっているため、その顔を
右手に古びた剣を握っているところからして、前衛職の可能性が高いだろう。
「もしかして、
「僕が復魔十使かどうか、ね……。難しい質問だけど、今のところはイエス、かな?」
何やら、随分と含みのある回答だ。
「つまり、仲間を助けに来たということですね?」
「一応、そうなるかな。レグルスの固有術式――神螺転生は『
「器?」
「うん、器」
男は同じ言葉を繰り返し、多くを語ろうとしなかった。
どうやらこの『器』という言葉については、あまり詳しく話したくないようだ。
「よし……それじゃ、僕はこの辺りで失礼しようかな。今はまだ、あんまり目立ちたくないしね」
「このまま逃がすとお思いですか?」
レグルス・ロッドは、とても貴重な情報源。
それをみすみす持っていかれるわけにはいかない。
「うーん、困ったな……。今はあまり戦いたくないし、見逃してくれると嬉しいんだけど……?」
「それは難しいご相談ですね。偶像召喚――」
俺が『獣』の手印を結ぼうとすると、
「――見逃がしてくれないかな?」
男はまるで別人のような冷たい声を発し――ほとんど全ての魔力を使い果たしたステラたちの方へ、スッと右手を伸ばした。
(な、なんだ……あのおぞましい魔力は……!?)
絶望・
(……もしも俺がこのまま手印を結び、召喚魔術を展開したら……)
あの男は
「…………わかった。その代わり、ステラたちには手を出すな」
「ありがとう。君が優しい子で助かったよ」
黒いローブの男は柔らかい声色で感謝を述べ、転移術式を展開、その中へレグルスを放り込んだ。
「――おっと、忘れるところだった。
男が指さしたのは、大魔王の右腕。
あれだけ激しい戦闘があったというのに、いまだ玉座の上に鎮座している。
おそらくは特殊な魔術か何かで、座標が固定されているのだろう。
「大魔王の遺物……。
「うん。だから、大切に保管しておいてほしいんだ。それに……
「……?」
「いいや、こっちの話だよ。……多分、君とはいずれまたどこかで会うことになるだろう。そのときは、もっと深く話せるといいね。――それじゃ」
謎の男は軽く手を振り、別の座標へ転移した。
「――アルトくん、どうする? 追うか?」
ことの成り行きを静かに見守っていたラインハルトさんが、すぐに意見を求めてくる。
「いえ、やめておいた方がいいと思います。あの男は、相当強い……。下手に追ってしまうと、手痛い反撃を食らうかもしれません」
「そうか、わかった。それでは、大教練場へ戻るとしようか」
「はい」
大魔王の遺物である『右腕』を回収した後、ティルトさんが転移魔術を発動。
前回は不発に終わったが、今回はきちんと術式が機能してくれた。
レグルスを倒したため、転移阻害の結界が消滅したのだ。
(ふぅー……。いろいろ大変だったけど、なんとか無事に終わったな……)
復魔十使レグルス・ロッドとの死闘、黒いフードを
今回突然参加することになったこの大規模遠征は……正直、トラブルだらけだった
だけど、モンスター化した冒険者たちはみんな元に戻せたし、戦術目標であった大魔王の遺物もちゃんと回収できた。
結果を見れば、俺たちの『完全勝利』と言えるだろう。
※とても大事なおはなし
『面白いかも!』
『続きを読みたい!』
『陰ながら応援してるよ!』
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今後も『毎日更新』を続けていく『大きな励み』になりますので、どうか何卒よろしくお願いいたします……っ。
明日も頑張って更新します……!(今も死ぬ気で書いてます……っ!)
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