1 呪いの旗振りおじさん
1話は、小学生視点で。
「おはよう。今日も元気に逝ってらっしゃい」
いってらっしゃい、じゃなくて逝ってらっしゃいなんだ。よくわからないけれど。
小学生の登校時間に横断歩道で、旗振りをするおじさん、悪野太郎さんはいつもぼく達の登校を見守ってくれる。
「太郎おじさん、逝ってきます」
ぼくたちは、太郎さんに挨拶を返す。
太郎さんは、夏でも冬でも黒ずくめ、よくみると頭に小さく角が生えている。人間じゃなくて、異世界の悪の組織から来た転生者なんだって。太郎さんがそういっていた。そんなのは本の中だけの話かと思っていたけれど、本当にあるんだね。
太郎さんは信号のない横断歩道で旗を振る。ここは信号がないのに、人も車も多い。横断歩道で止まらない車が多いから、なかなか渡れない事もある。
「その赤い車、止まれ、止まらないと貴様の息の根を止めるぞ!」
太郎さんがスピードを上げて近づいてくる赤い車の前に出た。赤い車は急ブレーキを踏み、ギリギリのところで止まった。
「飛び出すな、バカヤロー」
赤い車の運転手が怒鳴った。
「貴様、ここは信号のない横断歩道だ。歩行者優先だ。ひし形のマークが道路に書いてあったらスピードを落とせ、そうしないと貴様の首が落ちるぞ」
太郎さんのおかげで今日も安全に登校できる。
「すいません」
赤い車の運転手は、すっかりビビってしまったようだ。
悪の組織の太郎さんが、何故町内会に入って旗振りをしているか、そんな話は町内会長をしているぼくのおじいちゃんに代わります。では学校行ってきます。