いつかは小鳥のさえずりで目を覚まし、夜は虫の音を聞きながら星空を眺めて…。
アメリカに駐在していた頃のように、日本でもそんな生活をと夢見ていた元商社マンのAさん(64歳)は、子会社役員の任期も終え、長野県は佐久平に1500万円ほど遣って居を構えた。
「佐久を選んだ理由は、何かあれば東京まで新幹線ですぐに行けること。病院も近く、移住者らも多く住んでいるので、自治体も都会目線での移住者対応にも慣れていることも大きかった」
米国駐在時代は、ニュージャージーの自宅にも鹿が現れるなど、「自然に囲まれながら都会の生活」に仕事の疲れも癒やされた。
そんな思い出を忘れられず、コロナ禍が始まる前に、長野県・佐久に居を構えた。
「軽井沢にも近いので、アウトレットや買い物など、都会の雰囲気が恋しくなればすぐに足を延ばせるのも魅力でした」
なぜ、軽井沢ではなかったのか。問うと、Aさんはこう答えた。
「軽井沢は、仕事時代の同僚や取引先の知人もたくさんいるのがちょっとね……。仕事時代のことを忘れたいのに、逆に老後も仕事時代の人間関係が延長するようでちょっと気が重くなりまして」
そこで、洗練された軽井沢の空気を楽しむことができながら、しかも適度な距離感が保てる佐久に移住先を決めたのだった。