▼行間 ▼メニューバー
ブックマーク登録する場合はログインしてください。

厨ニ病インフェルノにバカTS主人公が紛れ込んだ結果。

作者:甘夢果実

「我が名は漆黒の翼4人兄弟が長男、アレクサンダー佐藤!」


「我こそは漆黒の翼4人兄弟の次男、アレクサンダー工藤!」


「僕こそが漆黒の翼4人兄弟の三男、アレクサンダー圭一!」


「君の名は! ……じゃなくて俺は漆黒の翼4人兄弟の末っ子、アレクサンダー山田!」



「そしてェ! 俺こそが真なる漆黒の翼、石井!」


『5人揃って! 漆黒の翼戦隊、ウイングジャー!』


 なんだウイングジャーって! 語呂悪すぎだろ!! ていうか三男だけなんで下の名前なの!? それに末っ子!! お前それBANされる奴! やめろおい!

 石井に関してはもうお前誰だよ!? 真なるってさっきの4人兄弟はどうなるんだよ!? 色々と突っ込みどころ多すぎんだろお前らァ!!!!


 僕は、自分の怒号で目が覚めた。


◇◆◇◆◇


「ふっ……朝から煩いぞ、蛆虫め」


「僕が蛆虫ならお前ハエじゃねェかバカ親父!」


「言うようになったじゃないか……と、威圧感高めに言いつつも娘の成長を喜ばしく思うバカ親父なのであった」


「うるせェどっか消えろ!」


 僕はバカ親父を部屋から叩き出して、服を脱ぐ。

 鏡に映るのは街を歩けばそばを通りかかった10人中12人くらいは振り返るであろう美少女。うん、可愛い☆


 生憎とその中身は可愛さとはかけ離れているが。

 そして、こうなってしまったことに僕はため息をつく。死んだらあのモザイク画みたいなバカ神のこと、ぶん殴ってやる。


 胸を触り、自分が女になっていくことを実感する。うん、辛い。ちょっとなみだを引っ込めてこうなった原因を追憶する。

 いや、確かに、色々とモザイク神様に頼んだゼ? 身体能力抜群、頭脳明晰、容姿端麗の完全無欠な人間にしてくれって言ったよ。


 じゃあ聞くけどさ、完全無欠な人間って性同一性障害か? 違うよな? それに孤立するような人間を完全無欠とは言わないんだぜ? 完全無欠な人間って何か知ってんのかモザイク変態クズ神が。



 僕は自分の思いの丈を込めて、とりあえず脱いだ服を壁に思いっきり叩きつけておいた。もちのろんだが怒りが九割九分、後悔一分だ。


 あの時大人しく天国を選んでおけばこんなことには……そう思わずにはいられない。あぁ、まったく、腹立たしい。

 僕は自分を落ち着かせるために深呼吸……をして何かの花粉で咳き込んだ。


 誰だ部屋に所狭しと朝鮮朝顔を飾ってるのは! どうせ和名が曼陀羅華とかすげェ格好いいと思って飾ってんだろ!? だが聞けよ、これを飾った奴。根っこゴボウみたいで美味そうとか思って食ったら死ぬからな! 猛毒だぞコンニャロー!!←実践済み


 いや、まあ、僕の死因がソレだから知ってるんだけどね! あの時は余りに金がなかったんだ……っ!

 僕は前世を後悔しながらも、気怠げに着替えを終える。

 厨ニ病っぽい、黒の配色が多く所々にアクセントとして赤いラインが入った制服だ。すごいお洒落だし可愛い。コレだけはこっちの世界に生まれてきて良かったなって思える。厨ニ病のセンスを侮るなかれだな。


 そう思いながら、自室からリビングへと出る。あぁ、焼いたベーコンの香ばしい匂いはソーセージかな?

 そんな意味不明なことを呟きながら自分の椅子に座ると、給仕さんが朝食を出してくれた──何これ?


「今日の朝食は海底王マグナより取れた肉を使ったルミエルです」


 ルミエルって何だよ!? それに肉じゃなくて見るからにオムレツなんですけど!! しかも何で海底王!? 海要素1つもないよ!?


「本当のことを教えて」

「はい。鹿児島県の桜鷄より今朝採れた卵で作ったオムレツです」

「それはそれですごいな!?」


 朝一でプライベートジェットを飛ばしたのか!? 近所迷惑にも限度ってもんがあるでしょ!? 業者さん、及びご迷惑をおかけした皆さま、本当に申し訳ございません。ウチのアホメイドに代わってお詫び申し上げます。


「……んで、なんでオムレツ?」

「いえ、旦那様がオムレツをご所望でしたので」


 あぁ、ごめん給仕アホメイドちゃん。悪いのはウチのバカ親父だったんだね。……っといけない。こんな風に遊んでたら、時間が無くなっちゃう。

 僕は朝食のプレートを平らげ、バッグを持って玄関に向かう。準備を手伝うようにアホメイドちゃんが僕の身の回りの世話を焼いてくれる。


 可愛い女の子に奉仕(意味深)されるって幸せだよね! 可愛い女の子でも厨ニ病なんだけどね……。

 僕はため息をつきながら、玄関の扉を開けて青空の下に立った。


「んんっ……きーもちいー!!」


 あぁ、この開放感最高。やたら空気が綺麗で都内でも満点の星が見ることができるのは世界中の人々がみんな厨ニ病だからかな。やっぱ、この世界って最高っ! 今日は何だかうまくいく気がする。

具体的に? そうだなぁ……忘れ物がないとか、みんなの厨ニ病に自覚症状が現れて回復へと向かって行くとか。


「フッ……お嬢! お鞄を忘れているぞ!」


 訂正。いつも通りの最悪な1日が、このいつも通り最悪な世界で始まりそうです。


◇◆◇◆◇


 僕が黒い車を出ると、いつも5人の男が出迎えてくれる。黒い車、なんて言うんだっけ……えっと、長い車なんだけど……そう、リフジン! え? なんか違う? いやいや、運転手さんのこと理不尽なドライバーで覚えてるもん、うん。

 厨ニ病で理不尽な思いしてるのこっちだけどね!


 まあ、ソレはともかく僕は5人の男に出迎えられる。ここまで読んだ方々なら分かるだろうけど、まあ一応言っとくと、厨ニ病だよネ。

 うん、あのモザイク神許さないわー。


『我ら、5人揃って漆黒の翼戦隊、ウイングジャー・ブラック!!』


「はいはいワロスワロス」


 僕は5人組を適当にあしらいながら、校舎へと向かって行く。


「我が名は漆黒の翼4人兄弟が長男、アレクサンダー佐藤!」


「我こそは漆黒の翼4人兄弟の次男、アレクサンダー工藤!」


「僕こそが漆黒の翼4人兄弟の三男、アレクサンダー圭一!」


「君の名は! ……じゃなくて俺は漆黒の翼4人兄弟の末っ子、アレクサンダー山田!」



「そしてェ! 俺こそが真なる漆黒の翼、石井!」


 うん。なんかデジャブ? ていうか、毎日こんな風に出迎えなんてされたら夢にも出てくるよね! 私の機嫌とか、意思とか、そんなの一切合切が関係なしに出迎えされるんだもん。


 5人中5人全員が前世の僕以上のイケメンで、僕のことを恋愛対象として見ている……つまりはホモなので僕は基本的に敬遠している。

 アレ? でもよくよく考えて見ると、僕が恋愛対象として見られるのって普通じゃね? でも、中身がアレだからなぁ……うん、いいや。とりあえず離れとこっ!!


 僕はアホ五人衆から離れるように、スタスタと歩き去っていく。

 やがて下駄箱に着くと、男がいた。背負ってる空のギターケースが邪魔、非常に邪魔。どいてくんね?


「あの……」


 僕が自分の靴を取るためにその男に声をかけると、男は左手で右目を隠しながら「フッ……俺に構うな」と言う。……は?

 なんで!? 迷惑被ってんのこっちなんデスけど!

 まあ、そんな風に言えるはずもないコミュ障の性同一性障害児は控えめに話しかける。


「あの……」


「フッ……俺に構うな」


「あの」


「フッ……俺に構うなと言っているだろう?」


「あ」


「フッ……ごめんなさい」


 僕が殺気を放ちながら睨み付けると、男はスゴスゴとその場を退いた。偉い偉い。


「もう、これからは迷惑をかけないよーに」


「知るか」


「これからは人に迷惑をかけません。はい、復唱!」


「これからは人に迷惑をかけません」


「よく言えました」


 僕はそう言って、靴を履き替えて二階へと上がる。

お、先生だ。珍しく、今日は早いんだな。いつもは2時間遅れてくる担任が、今日は早く学校に来ていた。2時間の遅刻が許されるのかって? まあ、厨ニ病だからね……。


「おはようございます、先生」


「おう、おはよう。なあ魔界剣、勇者の盾を見なかったか?」


「その名前で呼ばないでくださいって言ってますよね。ていうか魔界剣に勇者の盾を聞くってどういうゲームですか!?」


「かっこいい名前だと思うんだけどなー。俺も勇祇(ゆうぎ)なんて名前じゃなくて、剣とかかっこいい名前がよかったな」


 あんた初めて自分の名前を知ったときの私の気持ちになってみろよ! 恥ずかしくて数時間ベッドから出られなかったんだぞ!? まあ、寝ちゃっただけなんだけどね。


 流石厨ニ病、と戦慄せざるを得ない。


「さ、ホームルームが始まるぞ。早く教室に入れ」


 僕は先生にそう言われ、自分の教室に先生と共に入った。僕が自分の席に座ると、先生が話し始める。


「よーし、それじゃホームルームを始める。えー……いつも通りっ。よし、カンペキだな。俺の右腕に封印されし魔神も俺を肯定しているっ! あ、そうだ。あと、ここら辺で勇者の盾が出現したという情報が入った。みんな、見つけたら俺に持ってきてくれ」


 先生の言葉で、静かだった教室は一気にざわつき始めた。もちろん「フッ……俺に構うな」をしているクラスの四分の一は黙っているけれど。


 結局先生が収集をつけるわけもなく、チャイムが鳴ってホームルームは終わりを告げた。


 やがて、授業が始まるとみんなの厨ニ病は悪化することを僕は知っている。

 先生がチョークを持ってると突然持ってる方の左腕が震え始め

「先生、どうしたんですか!? まさか!」


 と先頭の机の奴が叫ぶ。それに応えるように


「あぁ……俺の右腕に封印されし魔神が復活する……! 何かあった時は……俺を殺して逃げろ」


「……はい、先生」


 と、先頭の机の奴は沈痛な表情で覚悟を決めたように答えた。先生の震えている腕は左腕だし、そもそも魔神は封印されてなんていないから安心して、先頭の子。


「クソ! こんな時に!!」


 と叫びながら教室から出て行く奴がいたり


「えー……ここのところ分かる人ー」


「この世で最も愚かな質問の1つだな」


 って先生の質問に対してキ○アで返す人がいたり


「じゃぁ……葛城、これに答えてみろ」


「俺に構うな!」


 「俺に構うな」はもはや当たり前になりつつある。


 その他、授業中にリストカットをする奴

 突然猫語や語尾にニャンをつける奴

 飛行機が通ると


「米軍の哨戒機……どういうことだ」


 と呟く奴

 「血が足りないの!」と叫びながら倒れた吸血鬼女

 社外で毒殺の話題が出ると「毒殺なんて簡単に出来ますよw」とか言う奴

 ヒ○ラーが授業に出てきて盛り上がる教室

 授業中ずっと窓から空を見てため息を吐く不思議ちゃんもどき

 両目に眼帯でまともに授業を受けない奴etc……


 うん、見ていて結構面白いんだけど、ウザい。まともに授業を受けさせてくれ!

 僕の悲痛な叫びを嘲笑うかのように、突然放送が流れ始めた。


「えー……教室で授業を受けている生徒は、工事が始まりましたので速やかに体育館まで移動してください」


 あぁ、また変質者か。そう思っていると「ついにこの時が来たか!!」と叫んで教室から2人ほど出ていく。直後、銃声が響き渡る。


「フッ……この程度じゃ……俺は死なんぞ……!」


 そう言いながら、撃たれた生徒は地面にぶっ倒れた。……は? 実銃!? モノホン!?


「ヒャッハー!! これだから腐った現実を蹂躙する日々は最高だぜェ!」

「くっ……! 俺がなんとかしてみせる! その間にみんなは逃げろ!」


 とか言いながら先生が変質者に向かいながら言うも、あえなく撃沈。


『先生ーーーー!!!』


 うん。帰っていいですか?

 撃たれて死んだ人に心臓マッサージをして


「動け!!動け!!動け!!動け!!……動いてよぉぉぉぉ!!」


 とエ○ァの真似をする奴。現状は大混乱だ、本当帰りたい。


「真・流星剣!!」


 竹刀を持って技名を叫びながら変質者に向かっていくも普通に撃たれて倒れる奴も現れ始めた。

 やがて死体が100ほど積み重なった頃合いだろうか。


「この『蒼きケルベロスのクロウ』の前で犯罪行為をするとは、やれやれ、命は惜しくないらしいぜ。ふふふ、どうする『聖剣リリエンシュタール』よ」


 拳銃を撫でながら、警官らしき人物が入ってきた。


「クソ! こんな時に!」


 変質者はそう言うけど、それさっき聞きました。

 警官は変質者に拳銃で撃たれる……が、防弾チョッキでも着ているのだろう。倒れることはなかった。


「ル○ーーン!! 逮捕するーー!!」


 警官は変質者に向かってそう言うと、手錠を変質者の手首につけた。

 が、次の瞬間警官が手錠で殴られる。


「ガハッ!」


 警官も倒れた。うーん……どうしよう。そろそろ来ると思うんだよね。

 僕がそう思った途端、天井裏から黒いスーツのSPもどきがたくさんやってきた。僕の護衛らしいけど。

 SPもどきによって、手錠に繋がれた変質者はどこかへと運ばれていった。


◇◆◇◆◇


「はぁ……疲れた。私の右眼も疼き始めてるし、寝るとしよう……え?」


 忙しい1日が終わり、ベッドに入った時にふと零した言葉。今、僕、なんつった?

  • ブックマークに追加
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
ポイントを入れて作者を応援しましょう!
評価をするにはログインしてください。

感想を書く場合はログインしてください。
イチオシレビューを書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。