県内を地盤とする学習塾、「湘南ゼミナール」(湘ゼミ、横浜市中区)と「ステップ」(藤沢市)が、合格実績の広告手法をめぐって法廷闘争を繰り広げている。湘ゼミの広告に記載された難関校の合格者数について、ステップが「二重計上に当たる」と指摘。湘ゼミ側も問題はないと反論し、相互に訴え合う構図だ。少子化で事業環境が厳しさを増す中、合格実績は消費者へのアピール力に直結するだけに、両社とも譲る気配はない。
湘ゼミは約170、ステップは約130の教室をそれぞれ県内に展開している。
訴訟のきっかけとなったのは、横浜市都筑区内にある湘ゼミの教室が出したチラシなどの広告。昨春の公立高校入試でこの教室から難関校に合格した生徒数の表記について、ステップは「複数の教室の合格者数を教室単体の実績であるかのように印象づけている」と指摘。自社ホームページに湘ゼミの広告手法を問題視した記事を掲載した。
これに対し湘ゼミは昨年4月、ステップの行為は業務妨害や名誉毀損(きそん)に当たるとして、約7千万円の損害賠償を求めて横浜地裁に提訴した。「消費者庁などへの手続きを取らず誹謗(ひぼう)中傷の記事を掲載した」としている。
ステップは訴訟で、湘ゼミの社会的評価は低下させておらず、「記事は公益目的で違法性はない」と反論。今年5月には、誤認を生じさせる広告で営業上の損害を被ったとして、湘ゼミに約4700万円の賠償を求める訴えを起こした。
取材に対し、湘ゼミは「訴訟に至ったことは遺憾で、公正な手続きを通じて早い解決を望んでいる」、ステップも「同じルールで仕事をしている立場として、訴訟は残念」とコメントしている。
表示法、解釈に差
両社の論争の背景には、自塾の合格実績に含められる「生徒の範囲」を定めた業界の自主ルールをめぐる解釈の差がある。両社も加盟する全国学習塾協会は「集中講義などの受講時間数が50時間を超える場合は、塾生徒とすることができる」と規定している。
今回ステップが問題視した湘ゼミの教室広告には、教室からの県内難関校への合格者数について「お互いを高め合い、競い合う『特訓講座』の生徒も含みます」などと、その内訳が記載されていた。湘ゼミ側は「特訓講座は80時間を超え、表示に違反はない」としている。
一方のステップ側は、協会の規定は自塾に所属しない生徒が集中講義などを受講した場合を想定したもので、自塾の生徒を複数の教室で合格者と数えるのは認めていないと主張。湘ゼミの表示では説明が不十分で、実際より多くの合格者を出したように誤解させると指摘している。
両社の主張について、全国学習塾協会は取材に「個別の事案にはコメントできない」と回答。今春の入試前には、こうした表示法のあり方を含めて和解も協議されたが、結局打ち切られており、決着には時間がかかりそうだ。