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ってなに?

「環境としてのIT」から「経営としてのIT」へ 情報システム部門から見た新しい働き方

プロジェクト② ”ちょうどいい”働き方・働く場

2021.02.17
「環境としてのIT」から「経営としてのIT」へ
情報システム部門から見た新しい働き方

新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに大きく変わり始めた企業の働き方。その基盤を支える情シス(情報システム部門)の重要性が見直されています。そんな彼らが情報交換をする人気のプラットフォーム「情シスSlack」。情シス界では、社内に担当者が一人しかいない「ひとり情シス」も多く、情報交換の場を社外に求める人が多いためです。メンバーは、2019年4月の開始から増え続け、現在3000人超。今回は情シスSlackを運営するyokoyamaさんとokash1nさん、メンバーのyurineeさんとitsukiさんの4 名を招いて、情シス目線で新しい働き方を模索します。

オンライン取材にはオプテージと南海電気鉄道、ウエダ本社のみなさんが参加。普段はあまり知ることのない、情シス担当者の本音にさまざまな角度から触れる機会となりました。

社内で孤立しがちな情シスを支える「情シスSlack」

――まずは情シスSlackについて教えていただけますか。

yokoyama誰でも無料で参加できる、情シス関連の情報に特化したSlack(※1)上のプラットフォームです。僕はIT企業の情シス担当ですが、社外の同業の方と気軽に情報交換できる場を探していました。そこで同じ思いをもつ情シスの方数名に声をかけ、2019年に始めたのが情シスSlackです。とにかく気軽に参加してもらいたかったのでルールは最小限に留めました。誰でも参加でき発言できるような場にしているのでトラブルなどの懸念もありましたが、比較的ネットリテラシーの高い方が集まっているからなのか、大きなトラブルもなく運用できています。okash1nさんは開始後すぐに参加してくれましたね。

※1 チャンネルベースのメッセージプラットフォーム。ビジネス向けのチャットツールとして導入する企業が年々増えている。

okash1n:そうですね。僕はIT企業の「ひとり情シス」なので、以前からいくつかの社外コミュニティに属してはいました。なかでも情シスSlackには、各分野で知見をもっている人が開始時から多く集まっていたので、ニッチな質問でも詳しい人が質量共に充実した回答をくれました。そこに張り付くことのメリットを多くの人が感じたんじゃないかな。特に最初の頃はベンチャーや中小企業の人が多くて、みんなが同じようなツールを使っていたので、話が盛り上がりやすかったのだと思います。

itsuki:私は教育系のNPO法人で情シスをやっています。okash1nさんと同じ頃に情シスSlackのことを知り、当時は「ひとり情シス」だったので飛びつきました。入ってみると、社内では話せないことも同じ視座で話せる人がたくさんいる。博識な方も、質問者のレベルに合わせて丁寧に回答してくれる。その感覚がすごく心地よかったです。

yurinee:私は地方の製造業で情シスをやっています。私もかつては「ひとり情シス」で、仕事の量も難易度も上がっていくのに対して社内には相談相手がおらず、コミュニティにすごく飢えていました。情シスSlackは一言でいうと、たくさんの同僚や上司ができた感覚でした。メンバーのみなさんはものすごい知識量なのに勉強熱心で、勉強し直すモチベーションも与えてもらいました。

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今回は、IT企業、製造業、教育系NPOという業種の異なる4名に、働き方と情報システムの関係について語っていただいた

メンバーの自主的な情報交換がよい循環に

――同様のコミュニティがほかにもあるなかで、情シスSlackの最大の魅力は何でしょうか。

yokoyama社内のネットワークやセキュリティの知見というのは、今でこそ広報活動としてテックブログで社外に公開することも増えましたが、当時はまだ公開するのはネガティブに捉えられていて、同様のコミュニティでも招待制などクローズドなものが多かった。対して情シスSlackは、誰でも無料で参加でき閲覧のみもOKという、どこまでもオープンな場を目指しました。

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おすすめのツールなどのハード面から、ツールの運用方法などのソフト面まで、さまざまな質問が飛び交い、一つの質問に対して何十件もの回答が付くこともある

yurinee一般的にコミュニティって、同じ属性同士で集まって内輪の話が始まると、ついていけない人は退屈で離脱しちゃうもの。情シスSlackでは、メンバーが業種も規模も経験も立場もバラバラで。多様な人が集まっているのでいつも刺激的です。

itsuki運営側がやっているわけじゃないのに、キャッチアップできないぐらいの情報が日々自然発生的に流れている点がうまくいっている秘訣に思います。社内に導入するツールを選ぶときなどには、一次選定の参考にしたりもしています。

yokoyamaありがとうございます! 開始12カ月は些細な情報でも運営側でどんどん発信するようにしていました。質問した人にとってはノーリアクションが一番寂しいので、運営側が積極的に回答していました。ですが、いつの間にかそれをメンバー同士がしてくれる流れが自然とできていきました。参加してくださったみなさんのおかげでここまで大きくなったという感覚です。

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困りごとの相談から始まり、ツール選びの場にもなっている情シスSlack。まるでコミュニティ運営のお手本のように、日々さまざまな機能をメンバー自身が生み出している

働き方が変わり、社内のITリテラシーが高まった

――コロナ禍で、みなさんの職場にはそれぞれどんな変化がありましたか。

yurinee社員の半数が工場勤務のため働き方は大きく変わらず、在宅した人は春の緊急事態宣言下でも全社で1割ほど。夏以降は出社する人がさらに増えました。おそらく、業務管理や社内体制をうまく切り替えられなかったことと、リモートワークに慣れる前に緊急事態宣言が解除されたことから、慣れ親しんだ出社での業務に戻ってしまったのだと思います。ただ、社長通達はライブ配信になり、工場勤務者もタブレット端末からリアルタイムで参加するなど、デジタル化へのハードルが下がったのは確かです。ウェブ会議ツールを使えない人も減りました。ITを避けていた人たちも「苦手だから」と逃げていられなくなった感じですね。

okash1n監査法人などもオンライン対応するようになりましたし、オンラインリテラシーは日本全体で高まっていると言えそうですね。うちの会社に関しては、もともと気軽にリモートできる会社なので、たいした問題もなくリモート主体になりました。大きかったのは、対面営業が完全になくなり、出張費がとんでもないコストダウンになったことでしょうか。オンライン営業でも受注できることが分かったので、労務管理などをきちんと整備した上で、コロナ終息後もリモートを活用していけたら、という流れになっています。

itsukiうちは教育系サービスなので現場ありきでしたが、今回のことでオンライン事業の立ち上げなど事業形態が一気に変化し、システム導入がスピードアップしました。現場のITリテラシーが急速に高まり、新しいシステムに関する現場からの相談も増えましたし、これまで1種類だったオンライン学習ツールを3種類試し始めるなど、現場レベルで積極的に検証を進めていて、それらをサポートすることが多くなりました。さらには、okash1nさんの言うように出張費がかなり浮いているので、予算的にも導入はスムーズになりました。

yokoyamaうちでもツールの導入が増えました。今後の働き方にはどのツールを活用できるか?をみんなで考えていて、さまざまなツールをトライアルなどで検証してはフィードバックする、というのを各部署でどんどんやっています

南海電気鉄道:現場主導で変化が進んだとのことですが、前提として、社内の環境整備においては、現場の意見を汲み上げるボトムアップの方がよいのでしょうか。

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自社の情シス部門を長年子会社に委託しているため、現場主導の重要性が気になったという南海電気鉄道

yokoyamaそうですね。うちでは現場の声が先にあって、そこから情シス、そして経営側に進むといった流れが多いと思います。現場の要望通りにならないこともあるかもしれませんが、よりよい方法を一緒に考えていきたいですね。

itsuki情シス主導で提案することもありますが、経営者や現場に変化を嫌う風潮はどうしてもあって、理解されないことも多いです。なので、こういった状況下で現場主導を情シスがサポートするケースが増えているのにはよい部分も感じます。


okash1n僕の場合は逆ですね。現場の声は増えていますが、こんなときこそ、システムに関してはトップダウンをしなければダメです、と経営側に強く提言しているんです。というのも、末端でシステム化がどんどん進むと組織全体では余計なプロセスやコストが増えたり、データの連携がしにくくなったり、逆にデメリットになる側面も大きいのです。その意味でも、今一番気になるのはシャドーIT(※2)問題です。社員にツールを禁止するのは簡単ですが、さまざまなツールを使ってもらうことはITリテラシーの底上げにもなるので、制御し過ぎたくはありません。どこまで禁止するかが悩みどころです。

※2 社員が会社で承認されていないPCやスマートフォン、さらには外部のクラウドサービスを使うこと。特にセキュリティ上の問題が発生しやすいと言われている。

itsuki同じくシャドーITは課題ですね。やっぱり担当者同士なら、みなさん使い慣れた気軽なツールを使いますよね。そこからある程度の情報が漏れてしまうのは仕方ないので、リスクを完全にゼロにするのは難しい。とはいえ、危機感は常にもっています。

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社内のIT環境はボトムアップでつくるかトップダウンでつくるか、メンバーの中でも置かれた環境によって意見は分かれた

情シスは事業全体を見る立場になっている

オプテージ:社員のITリテラシーが高まり、ツールの導入や体制が充実するなか、情シスの重要性が高まっているように感じます。ご自身の立場はどう変化したと思いますか。

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「情シスSlackのみなさんは、会社運営を自分ごととして捉えて、攻めの姿勢ながらも楽しそうに仕事をしている姿が印象的だった」というオプテージ

itsuki情シスの役割は変わってきたように感じます。今までは現場からの相談に対して最適解を見つけて提案していたのが、ストッパー的な役割が求められるようになりました。現場からツールの導入を提案された際に、既存システムとの互換性や安全性、コストなどを、過去の経験や事業計画といったさまざまな要素を踏まえてチェックすることが増えました。特に新しいツールの導入が増えて、情報の少ない状態で判断しなければならなくなり、悩みのレイヤーも変わってきましたね。

okash1n今、情シスは事業の継続に不可欠な存在になりつつあります。コミュニケーションはリモート対応できなければ機会損失に直結しますし、一方で、思いつきのIT導入ではなく事業計画に踏み込んだIT戦略も必要です。僕としては、そもそも情シスの業務は単にハード・ソフト面の環境整備ではなく事業や業務プロセスに入り込んで改革を行うものだと思っているので、その意味では情シスの本分に近づいてきているように感じます。

yurinee私もokash1nさんと同じ感覚ですね。事業継続のためには、どこでも働けるようにしておく必要があります。当社でネットワーク整備を始めたのはちょうど東日本大震災の頃で、そのあとも大型台風やインフルエンザの流行があるたびに必要性を実感し、コツコツと準備を続けてきました。そうした取り組みがコロナ禍でも役に立ちました。もうひとつ、製造業の情シスの役割として重要なのは企業の生産性を向上させることです。社会全体で働き手が減っていくなか、ITと経営を結びつけて生産性を上げることは、ますます大切な役割になっていくと思います。

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情シス担当は、バックオフィスチームの一員として環境を整備するという役割から、経営に携わるメンバーとして事業改革を推し進めるという役割にまで拡大し始めている

ウエダ本社:みなさんがもし情シスのいない会社に転職したら、まず何から優先的に取り組みますか。

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情シス不在の企業と仕事をすることも多いウエダ本社は、「ITを広い視座で捉える必要性に気付かされた」と言う

yurinee情シスの役割には、マイナスをゼロにする活動とゼロからプラスにする活動があると思っていて。情シス不在となると何かしらのリスクがあるはずです。まずはそこを潰したいので、前者を優先的に解決したいところですね。

yokoyama同じ意見です。まずはリスクを減らしてから、ゼロからプラスにする活動へ。顧客情報や社員情報、機密情報、契約しているツールといった情報資産の特定などから始めるかと思います。

DX化に流されて、大事なことを見失わないように

――変化の多い時代において、今後みなさんが実現していきたい働き方・働く場について教えてください。

yokoyamaこれまで目指してきたことの延長ではありますが、どちらか一方の意見に偏らず、一人ひとりに合ったものを選べる環境を実現していきたいです。例えば、出社したい方も在宅希望の方も、また自分の地元で働きたい人にとっても、それぞれの環境を充実させていきたい。それが変化の多い現代における、働きやすい環境の一つだと思います。

itsuki私もコロナ前後で目指すところは変わらず、システムの恩恵を受ける人たちに対して、その恩恵を広げていきたいと思います。NPOは横のつながりも大きいので、これまで培った自分の知識を横展開して、有益な情報を広めていきたいです。

okash1n情報システムの重要性がより経営レベルで問われるようになる世の中をつくる、そのための啓蒙活動をしていきたいです。というのもITを入れることで逆に不便になっている側面をずっと感じてきました。今や安くて便利なツールは多数ありますが、それらを気軽に導入した場合、同じデータを横串で見られなくなるといった、企業全体から見たデメリットもあります。よい働き方というのは無駄のない働き方だと思うので、そのためにITツールを正しく使いこなせるようになってほしい。

yurineeITによる働き方改革というのが、最近行き過ぎに感じるときがあります。製造企業を支えているのは、優れた技術力でよいものづくりをしている人たちです。そんな彼らが肩身狭そうにオンライン会議に参加している姿を見て、どんな人でも発言しやすいフェアな仕組みづくりの必要性を感じています。現場もデスクワークも全員が会社に貢献できる、そんな環境をITで実現するのが使命だと思います。

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情シスSlackでは情報交換だけでなく、仮想の企業における最強の情報システムをつくるイベント「リーグオブ情シス」 も開催していて、誰でもYouTubeで見られる


情シスSlack 招待コード
https://join.slack.com/t/corp-engr/shared_invite/zt-ibw4g2qp-KpA5UWZ_kYc4wAMwng73Jg

(文/池尾優 グラフィックレコーディング/大塚小容子)

聞き手/オプテージ 霜野佑介、下田平卓也、辻善太郎、布本泰朗、津田幸亮、山本壮一郎、今川雅貴、南海電気鉄道 粉川純一、ウエダ本社 王智英、浅井葉月、渕上紫乃

編集後記

情シスSlack人気の秘密から、知られざる情シスの素顔が見えた今取材。普段から情シスに関わりのある人もない人も「事業に対する情シスの熱い思いを感じた。これからは情シスとともに働く場をよくしていきたいという思いが強まった」と、参加者全員が同じ感想を抱きました。

「DXがあらゆる企業の重要ミッションになった今、それを主導する情シスはIT整備だけでなく、さまざまな事業の本質に関わってくる立場だと思った」とウエダ本社は言います。情シスの価値を捉え直す、大きな契機になったようです。

南海電気鉄道は「現場からのボトムアップだけがよいわけではなく、状況によってはトップダウンが必要なこともある、というのが腑に落ちました」とコメント。現在進行中の社内のDX改革の参考にしたい、と続けました。

オプテージは、昨今の情シスの立ち位置の変化から「これからは手段としてのITではなく、経営としてのITになっていく。それを踏まえて、私たちSIerもそうなっていかなければと思った」と自らの姿勢にも気付きを得ました。また、情シスSlackというコミュニティについては、「新規事業開発などの専門性が高く孤立しがちな部署のコミュニケーションツールとしても有効では?」という案も出ました。

  • yokoyamaさんIT企業の情シス担当者/情シスSlackの設立者
    2019年4月に、6名のメンバーとともに情シスSlackを立ち上げ、現在も運営を行う。東京都内にある従業員数150名ほどのIT企業に勤務し、社内のIT管理全般や内部統制を担う。情シス歴4年。
  • okash1nさんIT企業の情シス担当者
    2019年5月に情シスSlackに参加し、現在は運営メンバーの一人。従業員数110名ほどのSaaS企業に勤務する「ひとり情シス」。社内では業務プロセス改善なども担当する。情シス歴4年。
  • yurineeさん製造業の情シス担当者
    2019年12月から情シスSlackに参加。従業員数400名、創業100年を超える製造業の地方本社に一般事務として入社し、現在は経営企画の中に情シス部門を構え、IT戦略も担う。情シス歴10年。
  • itsukiさん教育系NPOの情シス担当者
    2019年4月から情シスSlackに参加。全国に拠点のある、従業員数150名ほどの教育系NPO法人に勤務。情シスのほか、経理や業務改善、リスクアセスメントなどを担当する。情シス歴6年。

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