
◆突如持ち上がった、緊急事態宣言の再発令
2021年1月4日、菅義偉総理は年頭記者会見を実施。昨年末までは一貫して緊急事態宣言の発令に慎重な姿勢を見せていたが、年明け後は一転して再発令の可能性が広く報道されたことから、質問の緊急事態宣言に集中した。しかし、司会を務めた山田真貴子 内閣広報官は質問を1人1問に制限した上、「再質問は控えるように」という方針を徹底したため、菅総理の回答がどれだけ質問と食い違っていても再質問は許されず、緊急事態宣言についての詳細は曖昧なままであった。
実際、質問が許された6名の記者の全質疑の要約を下表に整理したところ、緊急事態宣言について僅かながら方向性が見えてきた面があるものの、詳細(スケジュール感、一定の周知期間を設けるのか、経済への打撃を和らげる対策、等)はこの会見における菅総理の回答からは分からなかった。

そこで本記事では、この6名の記者の質問の内、緊急事態宣言の詳細を問うた3名の記者(1人目 テレビ東京記者、3人目 読売新聞記者、4人目 フリーランス江川紹子記者)の質疑をピックアップして、一字一句漏らさずにノーカットで信号機で直感的に視覚化していく。具体的には、信号機のように3色(青はOK、黄は注意、赤はダメ)で直感的に視覚化する。(※なお、色表示は配信先では表示されないため、発言段落の後に( )で表記している。色で確認する場合は本体サイトでご確認ください)

◆「まともに回答していない」赤信号黄信号が6割
3名の記者の質問に対する菅総理の回答を集計した結果、下記の円グラフのようになった。

<色別集計・結果>
●菅総理:赤信号24% 黄信号37% 青信号34% 灰色5%
*小数点以下を四捨五入しているため、合計は必ずしも100%にはならない
青信号が3割強とそれなりに答えているように見える一方、赤信号と黄信号が6割以上を占めている。いったいどのような質疑だったのか詳しく見ていきたい。
また、実際の映像は筆者のYoutubeチャンネル「赤黄青で国会ウォッチ」で公開している動画「【緊急事態宣言発令の検討】2021年1月4日 菅総理 年頭記者会見」で視聴できる。
◆場当たり的な緊急事態宣言。あやふやな菅総理の回答
記者会見の質疑は、司会による注意事項の説明の後、幹事社を務めた2社(テレビ東京、時事通信)の質問が始まった。その質疑は以下の通り。

司会者(山田真貴子 内閣広報官):
「それでは、これから皆様から質問を頂きます。指名を受けられました方は私が指名させて頂きます(中略)なお、自席からの追加質問はお控え頂きたいと存じます。最初は慣例に従いまして、幹事社2社から1問ずつ質問を頂きます。それでは、幹事社の方どうぞ。」
テレビ東京 シノハラ記者:
「緊急事態宣言について1都3県について発令を検討されるというお話がございました。えー、報道ではですね、週内にも発令を検討されているという報道が相次いでおりますが、具体的なスケジュール感について教えていただければと思います。また発令する場合、一定の周知期間は設ける考えでしょうか。えー、また昨年末の会見では、えー、緊急事態宣言には慎重な姿勢を表明されていましたが、ここに来てですね一転してこの発令の検討に至った、その一番のポイントというのはどこだったのでしょうか。えー、また、GoToトラベルがですね11日に全国停止の期限を迎えます。えー、今回の緊急事態宣言の対象になるであろう1都3県を除いて解除を行うのか、それとも引き続き全国の一斉停止を続けるのか、現状の考えを聞かせていただければと思います。」
菅総理:
「まず冒頭のあいさつの中で申し上げました通り、国として緊急事態宣言の検討に入りたいと思います。特に飲食の感染リスク、この軽減を実効的なものにするために内容を詰めていきたい。そのように思います。(赤信号)
この考え方でありますけども、北海道・大阪など時間短縮を行った県は結果が出てます。東京といわゆる首都3県にお……、おいては三が日も感染者数は減少せずに、極めて高い水準であります。1都3県で全国の半分という結果、ここ、出ております。こうした状況を深刻に捉えて、より強いメッセージが必要である。このように考えました。(青信号)
そして、こうした、あー、考え方のもとに政府として諮問委員会にかけさせて頂いて、そこで、えー、考え方を伺うわけであります。ですから、具体的にいつということよりも、まずはその飲食の軽減リスクをですね、軽減する実行的なもの。そのことをこれから詰めて、えー、そこの中で、えー、表明したいと、こういう風に思ってます。(赤信号)
それと緊急事態宣言となれば、いわゆるGoToトラベル、これについての再開はなかなか難しいのではないか。このように考えてます。(青信号)」
*質問に答えていないため記者が再質問したことに対して、司会者(山田真貴子 内閣広報官)が 「すいません。追加質問お控えください」と記者に注意し、質疑は終了する。
◆方針転換の理由も具体的なスケジュールも何も語らなかった菅総理
まず、質問は大きく分けて4点あった。
①緊急事態宣言発令の具体的なスケジュール感
②緊急事態宣言発令までに一定の周知期間を設けるか
③緊急事態宣言に慎重だった昨年末から一転して発令の検討に至ったポイント
④1月11日に停止期限を迎えるGoToトラベルは解除するのか停止するのか
これら4点の質問に対して菅総理は1段落目、3段落目では論点をすり替えており、赤信号とした。
【質問】緊急事態宣言発令までの具体的スケジュール
↓ すり替え
【回答】緊急事態宣言発令までの進め方
また、3段落目で「飲食の軽減リスクを軽減する」という意味不明な言い間違いをしている点も指摘しておく。菅総理は会見全体を通して、こうした言い間違いが多く、何を言っているのか日本語として分からない場面が度々見受けられた。
2段落目は質問③に関係するので青信号としたが、大した対策もとらずに年末年始休みに入った首都圏の感染者数が減少しないのは予想できたことであり、年明け後に方針を一転させた理由の説明としては不十分だろう。
4段落目は質問④に対して、「GoToトラベルの再開は難しい」という見解を示しており、青信号とした。
結局、質問①(緊急事態宣言発令の具体的なスケジュール感)と②(緊急事態宣言発令までに一定の周知期間を設けるか)に対する回答は一言も無かったため、記者が再質問しようとしたが、司会の山田真貴子 内閣広報官がすかさず妨害したため、1人目の質疑はこれで終了となってしまった。新しく得られた情報としては、質問④に関する「緊急事態宣言再発令となった場合、GoToトラベルは停止する」ということのみであった。
この後、幹事社である時事通信の記者が2人目として質問するが、「1月からの通常国会で目指す成果」や「9月の自民党総裁選、10月の衆議院任期満了への対応」という、非常に緊急性の低い質問であったため、本記事では割愛する。
◆発生源は「6割不明」なのに飲食店を狙い撃ち。その理由も説明なし
幹事社2社の質問が終わり、ここからは挙手した記者を司会者が指名していく形式となり、3人目の質問者として読売新聞の記者が選ばれる。その質疑は以下の通り。

司会者(山田真貴子 内閣広報官):
「それでは幹事社以外の皆様からご質問頂きます。質問を希望される方は挙手をしてください。私が指名を致します(中略)なるべく多くの方にご質問頂けるよう、質問、1人1問として頂くようお願いします。」
読売新聞 クロミ記者:
「緊急事態宣言についてお伺い致します。総理はかねて緊急事態宣言についてはですね、経済への打撃が大きいということで慎重な立場でいらしたと思うんですけど、今回検討するに当たって、経済への打撃を和らげるための対策としてはどういったものを考えているんでしょうか。」
菅総理:
「まず、この1年間、コロナ対策、コロナ問題に対応してくる中で学んできたことが、ここが明解になってるんです。この専門家の委員の方も申し上げ……、言ってますけど、やはり例えば東京ですけど、6割、このー、発生源を特定できない方がおります。まあ、その中で大部分は飲食の関係することだろう。専門委員の方はこう言っております。まあ、そうした中で飲食の感染リスクの軽減。ここをやはり実効的にするためにここは早急に検討したいというのが今の考え方です。そしてこのことについては北海道、大阪など、これは時間短縮、こうしたことを行った県では効果が出て、まあ、陽性者が下降になってきております。ただ東京とその近県3県が、あー、感染者が減少せずに高い水準になっているということもこれ、えー、事実であります。こうしたことをやはり深刻に考えてですね、より強いメッセージ、ここが必要だというふうに思いました。まあ、そうしたことを考える中で、えー、まずは最優先として行うべきというのは、そうしたそのウイルスの発生源がかなり多いと言われるそうした飲食、うー、そうしたことを中心にしっかり対応すべきかなというふうに思ってます。(黄信号)」
◆経済への打撃対策への無策っぷりを露呈
「緊急事態宣言による経済への打撃を和らげる対策」を問うたシンプルな質問だったのだが、菅総理は全くかすりもしない内容を延々と述べている。具体的には、「飲食店の対策を優先した理由」という周知の事実を述べているだけであり、黄信号とした。また、「感染の発生源を特定できていない方が6割いる」と言いながら、感染原因を飲食店と断定するのは矛盾しているのではないか。
ここまでの回答内容から、今回の緊急事態宣言は飲食店を狙い撃ちしたものになることが伺えるが、菅総理はなぜ飲食店の時短要請にこだわるのか論理的な説明を全くしないため、違和感ばかりが大きくなる。
◆なぜ「飲食店」か。何も示さずにただ狙い撃ちするだけ
ここまで大手メディアの記者の質問が続いてきたが、4人目にはフリーランスの記者が指名され、ここまでの質疑で疑問が生じた緊急事態宣言の範囲を確認する。その質疑は以下の通り。

フリーランス 江川紹子記者:
「あの、質問は、今のちょっと確認なんですけれども、あのー、つまり飲食に、あの、集中するということは、あの、前回4月、昨年4月の緊急事態宣言とは・・、のように教育、文化、スポーツいろんな経済活動全てを止めてしまったような、あー、緊急事態宣言とは違うものをイメージされてるということでいいのかという確認を一つしたいと思います。その上で質問ですが、あー、ちょっと外交関係になるんですけれども中国の問題です。えー、リンゴ日報の創業者の方がまた拘留されたり、あるいは周庭さんが、えー、重大犯罪を収容する刑務所に移送されたというような、あー、報道がありました。えー、天安門事件の時の、おー、日本政府の融和的な方針が明らかになって議論も招いてるところであります。菅首相はですね、えー、この一連の、おー、まあ、問題についてどのように考えるのか、お聞かせください。」
菅総理:
「まず、全体としてのこの緊急事態宣言ですけど、おー、この約1年の中で学んできた、どこが問題かっていうこと、これはかなり明確になっていますので、そうしたことを踏まえて、諮問委員会の先生方に諮った上で、これ決定をさせて頂きたいと、えー、このようになります。(赤信号)
まあ、そういう考え方からすれば、やはり限定的に行うことが、まあ、効果的。限定的に集中的に行うことが効果的だという風に思ってます。(青信号)
それで、あのー、中国問題については、これは多くの日本国民が、あのー、同じ思いだと思ってます。民主国家であってほしい。そうしたことについて日本政府としてもですね、折あるところに、そこはしっかり発信をしていきたいと、このように思ってます。(青信号)」
まず、質問は大きく分けて2つあった。
①今回は飲食店の時短要請に集中するということは、全ての経済活動を止めた前回の緊急事態宣言とは異なるのか
②周庭氏など香港を巡る中国の問題をどう考えるか
これら2点の質問に対して菅総理は1段落目で論点をすり替えており、赤信号とした。
【質問】緊急事態宣言の範囲
↓ すり替え
【回答】緊急事態宣言検討の進め方
2段落目は遠回しな言い方ではあるものの質問①に関係するので青信号とした。今回の緊急事態宣言は飲食店に限定した形で行うらしいことがこの質疑で確認できた。だが、「限定的、集中的に行うのが効果的」と言いつつ、なぜ飲食店に限定・集中するのかの説明はやはり無いため、飲食店が狙い撃ちされていることへの違和感は依然として残る。
質問②は「中国の問題をどう考えるか」という曖昧な聞き方であったため、何かしらの考えを述べている3段落目は青信号としたが、その内容はあまりに薄くて意味不明だった。そもそも「総理の考え」を聞かれているのに、「多くの日本国民が同じ思い」という回答は的が外れ過ぎている。
◆的外れな回答、再質問は完全シャットアウト
この後、5人目の産経新聞記者、6人目のフリーランス記者が質問した後、この記者会見は終了となった。司会者(山田真貴子 内閣広報官)は「なるべく多くの方に質問頂けるように」という理由で1人1問に制限しながら、結局、質問を許されたのは僅か6名(幹事社2名+指名4名)であり、合計質疑時間はたった15分間だったのだ。さらに、菅総理が要領を得ない回答を繰り返しても、自席からの再質問を禁じるという方針を司会者は貫き、1人目の記者の質疑で紹介したようにもし再質問されれば即座に注意して妨害する姿勢を見せ続けた。
政府方針が二転三転している中、質問に対して頓珍漢な回答を返すことが多い菅総理に対して、1人1問で再質問は許されないという条件では、国民が知るべき情報を引き出すことは困難だ。この異常な状況が続いていることの方が日本にとっての緊急事態ではないか。
<文・図版作成/犬飼淳>
【犬飼淳】
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いぬかいじゅん●サラリーマンとして勤務する傍ら、自身のnoteで政治に関するさまざまな論考を発表。党首討論での安倍首相の答弁を色付きでわかりやすく分析した「信号無視話法」などがSNSで話題に。noteのサークルでは読者からのフィードバックや分析のリクエストを受け付け、読者との交流を図っている。また、日英仏3ヶ国語のYouTubeチャンネル(日本語版/ 英語版/ 仏語版)で国会答弁の視覚化を全世界に発信している。

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