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辺境ぐらしの魔王、転生して最強の魔術師になる 〜愛されながら成り上がる元魔王は、人間を知りたい〜 作者:千月さかき

第2章

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第38話「深夜の情報共有と、ふたりの護衛騎士」

「お茶をお持ちしました」


 メイド服のマーサが、オデットの前にティーカップを置いた。

 後ろには、人の姿になったレミーが(ひか)えている。


「先に寝ててよかったのに」と言ったんだけど、マーサは「ユウキさまのお友だちに失礼はできません」って言って聞かなかった。


 レミーがいるのは「はやくおしごとおぼえたいからですー」だそうだ。真面目だ。


 ここは、宿舎の応接間。

 俺とオデットはテーブルを挟んで向かい合ってる。


「ありがとう。夜分遅くに申し訳ありませんわね……ん?」


 オデットはティーカップを手に首をかしげた。


「ずいぶん、いい茶葉を使っていますのね。それに、なんだか落ち着く香りがしますわ」

「普通に市場で買ってきたやつだよ」

「うちのお茶より美味しいですわ。どこのお店で買いましたの?」

「そのへんはマーサに任せてある」

「お店を教えてくださいますか?」


 オデットはマーサの方を見た。

 マーサは、困ったような顔で、


「市場の一番近くにある露店(ろてん)です。安い茶葉に、ユウキさまのおすすめでハーブの『ルドリアの葉』を8対2で入れてあります。夜ですので、鎮静(ちんせい)作用のあるものをと」

「ありがとう。うちでも試してみますわ」


 納得したようにうなずくオデット。

 ちなみにこれは、寝付きの悪い子供用に開発したものだ。


 マーサは俺が夜に家を抜け出したのに気づくと、毎回これを()れてくれる。

 仕事が済んだら落ち着いて眠ってくださいね、というメッセージみたいなものだ。

 今もマーサは、妙に優しい目でこっちを見てるし。


「それでは失礼いたします。ユウキさまもオデットさまも、ごゆっくり」

「ご、ごゆくり、です」


 一礼して、マーサとレミーが別室に移動する。

 ここから先は『魔術ギルド』関係の話だから、席を外すことにしたようだ。

 ……どのみち、必要だと思ったらあとでふたりにも話すんだけど。


「書状は読みましたの? ユウキ」

「ああ。さっき、着替えてる間に」


『魔術ギルド』からの書状は、俺のところにも届いていた。

 マーサに着替えを手伝ってもらってる間に、ざっと目は通した。


「結論から言うと、ガイエル=ウォルフガングには死霊司教を呼び出すつもりはなかった、ってことか」

「ええ。彼は『護衛騎士選定試験』の妨害をするつもりだった。それは本人も、一緒にいたジルヴァン=キールスも認めております。ただ、彼らがしようとしたのはアンデッドを操ること。そうしてユウキとわたくしを通せんぼすることだったそうですわ」


「だけど、そうはならなかった」

「ええ。ガイエル=ウォルフガングをだまして、死霊司教を召喚するための『古代魔術』を使わせた者がいたのです。彼が教わったのは、アンデッドと自分の精神を繋ぐ魔術だったのですわ」


「その術なら、弱いアンデッドを自由に操れるな」

「だから本人も、隠れた(わな)に気づかなかったのでしょう」

「『古代魔術』の詠唱(えいしょう)と動作には、死霊司教を呼び出すものが含まれていた。だからガイエル=ウォルフガングはあいつを呼びだしてしまって、精神を乗っ取られた、ってことか」


 面倒なことをする奴がいたもんだ。


「罠を仕込んだ奴は、死霊司教にガイエルの身体を与えることで、『聖域教会』を復活させるつもりだったのかな」

「わかりませんわ」


 オデットは肩をすくめた。


「ガイエルに『古代魔術』を教えた者の所在は不明。衛兵が家に乗り込んだものの、本人は消えてしまい、わかったのは名前くらいでしたもの」

「で、そいつの名前は?」

「ドロテア=ザミュエルス。『魔術ギルド』に所属しない、流れ者の魔術師だったそうですわ。その者の家には、男爵家の家庭教師だったカッヘル=ミーゲンからの手紙もあったとか」

「教師カッヘルの事件にも、そいつが関わってたってことか……」

「ただいま王家が手配書を準備しているそうです。二度と魔術には関われませんわ。そのうち捕まりますわよ」

「……だといいけどな」


 せっかく転生したのに、この時代でも『聖域教会』に関わるのなんか嫌すぎる。

 俺はこの人生では、人間のふりして静かに過ごすと決めたんだから。


「ジルヴァンもガイエルも『魔術ギルド』への加入はできなくなったんだっけ?」

「そうですわね。ウォルフガング伯爵家(はくしゃくけ)は家の門を閉じて、謹慎(きんしん)を申し出ております。キールス侯爵家(こうしゃくけ)は……『魔術ギルド』への寄付金を増やすことで、罪をごまかすつもりのようですけど」

「そっちはそれでいいとして……問題はもうひとつの書状の方だ」


 俺は2通目の書状を取り出した。


「俺がアイリスの姉妹の護衛騎士と、魔術で競うことになるって書いてある」

「ありますわね」

「さっきオデットが言ってたよな。サルビア王女は、アイリスを見下して……ぶっちゃければ、目の敵にしてるって。もしかして、ケンカを売ってきてるのか?」

「ケンカを売ってるとまでは……いえ、同じですわね」


 オデットは長いため息をついた。

 それから、気分を落ち着かせるためか、ゆっくりとお茶を飲んで、


「サルビア殿下は……嫡子(ちゃくし)の女性で、アイリス殿下と同い年です。赤い髪で、少し大人びた感じの方ですわ。魔術にも長けていて、男性からの人気もあります。社交界にもよく顔を出されます」

「立派なお姫さまじゃないか」

「敵視してるのは……得意分野がアイリスとかぶっているからですわね」

「……もしかして、アイリスの方が優秀だから、とか?」


 俺の言葉に、オデットはうなずいた。


 アリスの両親は『フィーラ村』始まって以来の天才だ。

 その2人の子どものアリスは、小さいころから魔術も、勉強も大得意だった。

 アイリス王女は、そのアリスの転生体だからな……。


「勉強でも敵わない。魔術の技術でもアイリスが上。しかもアイリスは『魔術ギルド』の仕事を任されているほどですわ。そんな妹がいたら嫉妬(しっと)くらいしますわよ」

「でも王族としての立場があるから、表立ってケンカはできない。だから見下して嫌がらせをしてきた、とか?」

「……公爵家の娘としては、ノーコメントですわ」

「アイリスの親友としては?」

「……口にしたくもないですわ」

「まさか能力でアイリスに勝てないから、護衛騎士同士を戦わせようって話じゃないよな……」

「……王家には、色々あるのですわよ」

「アイリスはそんな場所にいるのか……今のうちに、俺がどこかに逃がした方がいいのかもしれないな……」

「いきなりそんなことしたら、グロッサリア男爵家(だんしゃくけ)が大変なことになりますからね」

「冗談だよ」

「……ほんとに冗談ですわよね?」

「……もちろん」


 当たり前だ。いきなりアイリスをさらったりしない。

 そういうことをする時は、ちゃんと男爵家に迷惑がかからないような作戦を立ててからに決まってる。




『ごしゅじんー』


 そんなことを話していたら、窓辺にディックが飛んできた。


『さっき王女さまのところからコウモリのニールが来ました』

「ニールが?」

『急ぎのようで、伝言を預かりました。お伝えしますー』


 部屋の中に入ってきたディックは、アイリスからの伝言を話しはじめた。



────────────────────



『……ごめんなさい。マイロード。


 知らないうちに、マイロードとサルビア姉さまの護衛騎士が魔術戦(まじゅつせん)をやるという話が進んでいました。

 すでに父上……国王陛下の耳にも入っていて、私では止められそうにありません。


 ですから、マイロードは『おなかいたい』と言って欠席してください。

 あとは私がなんとかします。こういうの、慣れてますから』



────────────────────



『──以上ですー』


 そう言ってディックは、話を終えた。


「よしわかった。魔術戦、やってみよう」

「早っ。コウモリさんは一体なにを言いましたの!?」


 オデットは目を丸くしてる。

 俺はディックの言葉を、そのままオデットに伝えた。


「……ひとつ確認していいですの?」


 話を聞いたオデットは言った。


「アイリスは、あなたが勝つと思っていますの? それとも負けると思ってますの?」

「勝ち負けについては心配してないと思う」

「じゃあ、どうして欠席しろ、なんて言いますの?」

「……たぶん、俺が無茶しないようにってことだろうな」


 前世で俺が村のために無茶しちゃったからなぁ。

 アイリスになった今も、彼女にはそのトラウマが残ってるのかもしれない。


「心配しすぎなんだよなぁ。アイリスは」

「あなた方って、前世では守り神と村人でしたわよね。村人に心配かける守り神って、一体どんなものなんですの……?」

「聞きたい?」

「いえ、先の楽しみにしておきますわ。あなたたちの『前世』を、わたくしが実感できてからのお楽しみに」

「あんまり面白い話でもないけどね」

「それより、魔術戦はどうしますの? わたくしは、なにをすればいいのですか?」

「……貴族がみんなオデットみたいだったらよかったのに」

「いきなりなにを言い出しますの!?」


 オデットが真っ赤な顔になる。


 でも、これは本心だ。

 この世の中の貴族がみんなオデットみたいだったら、『聖域教会』が暗躍(あんやく)することも、泥沼の『八王戦争』もなかったはずだ。

 ほんとに、この時代のアイリスはいい友だちを見つけたと思う。


「これからもアイリスのことをよろしく頼むよ。オデット」

「それはこっちのセリフですわ」

「じゃあ悪いけど、後でオデットからアイリスに『オデットに協力してもらうから、魔術戦のことは心配しなくていい』って伝えておいてほしい。俺が言うより、説得力はあるだろ」

「あなた方はどれだけわたくしを信頼していますの……?」

「信頼ついでに、オデットには『古代魔術』の練習に付き合って欲しい。代わりに俺はオデットに、効率的な魔力運用を教えるから」

「……え?」

「試験のとき、オデットは『地神乱舞(フォース・ジ・アース)』を使ってただろ? でも、連発はしてなかった。あれは魔力の残量が足りなかったからじゃないのか?」

「え、ええ。確かに。死霊司教に対して、自分が使える最強の魔術を使ってしまったのです。そのせいで、魔力が」

「だから、もうちょっと効率的な使い方を教える。魔力の使い方の指導は慣れてるからな。うまくいけば、オデットはあの魔術を3回くらい撃てるようになるかもしれない」

「3回も!? それはうれしいですけれども……」


 オデットは少し、ためらってから、


「わかりましたわ。楽しそうなのでお付き合いいたします」

「ありがとう。代わりに、オデットが必要な時には俺も力を貸すから」

「……いいんですの?」

「いいよ」

「わかりました。その言葉、信じましょう」


 そう言ってオデットは、照れたような顔で、お茶を飲み干した。

 それから俺は彼女を隣の宿舎まで送って、手を振って別れたのだった。






 それから数日は、何事もなく過ぎた。


 俺とオデットは王都近くの森で『古代魔術』の練習を続けた。


 アイリスはコウモリのニールを通して、しばらく外出禁止になったことを伝えてきた。

 護衛騎士の任命式までの間、アイリスが俺に余計な情報を伝えないように、という処置らしい。

 もっとも、門を閉ざされたのは西の宮だけで、サルビア王女のいる東の宮は、普通に外出できるようになってるそうだけど。


 結局、サルビア王女の護衛騎士に任命される相手の名前は、わからなかった。


『グレイル商会』のローデリアにも連絡してみたが、彼女の方でも情報はつかめなかったそうだ。


 お役に立てずに申し訳ありません、と、コウモリ越しに伝えてきた翌日、彼女は任命式用の装備一式を送ってくれた。

 いつも使ってる(よろい)とマントがあるから大丈夫──って言ったんだけど、せっかくだからということで新品を仕立ててくれたそうだ。お母さんか。


 コウモリのディックは夜の王都を飛び回り、『コウモリネットワーク』を構築(こうちく)

 宿舎とアイリスのいる西の宮のセキュリティを強化していった。


 そんなことをしているうちに時間は過ぎて──




 あっという間に、俺がアイリスの護衛騎士に任命される日になったのだった。






 ──中央王宮 謁見(えっけん)の間──




「男爵家次男、ユウキ=グロッサリア。これへ!」


 (りん)とした声が響くと同時に、目の前の扉が開いた。

 その向こうには、玉座の前まで伸びた赤い絨毯(じゅうたん)がある。


 ふかふかで高価(たか)そうだ。


 前世で住んでた古城に敷いてたのとはえらい違いだ。

 まぁ、あれはすぐに子どもが裸足で駆け回って汚すから、高価なのを使うわけにはいかなかったんだけど。


「……おお」

「男爵家の者が、なんと立派な姿を……」

「グロッサリア家は、田舎貴族ではなかったのか? あれほどの装備をどうやって……?」

「それにしてもなんと凜々(りり)しい騎士だろうか……」


 まわりの貴族たちがざわついてる。


 俺は黒い金属製の(よろい)を着ている。

『グレイル商会』のローデリアが用意してくれたものだ。


 彼女は調子に乗って、完全オーダーメイドの鎧を送りつけてきた。

 魔法の鎧ではないけれど、軽くて動きやすい。


 胸元にはコウモリの翼をあしらったレリーフが彫り込まれ、さらに背中のマントには金糸で模様があしらわれてる。

 おまけに裏地が赤いせいで、マントが揺れるたびにめちゃくちゃ目立つ。


 ローデリアは「伝承(でんしょう)にある『マイロード』にふさわしいデザインにしてみました」、って言ってたけど、どう考えてもやりすぎだ。


「グロッサリア男爵家次男、ユウキ=グロッサリア、参りました。このたびはアイリス=リースティア殿下の護衛騎士にとの(めい)をいただいたこと、この上ない光栄と思い、心より感謝しております」

「……うむ」


 玉座に座る国王──アイリスの父がうなずいた。

 アイリスは玉座の道、一段低いところに立っている。

 髪を結い上げた銀色の髪にティアラを着けてる。白いドレスがよく似合う。


 玉座の右側にいる赤毛の少女が、サルビア王女か。

 気が強そうな顔つきだった。アイリスと同じく髪を結い上げてるけど、ティアラも髪飾りも盛りすぎだ。頭、重くないのか。


「ユウキ=グロッサリアはそこに控えておれ」

「はっ」


 侍従の声に応えて、俺は床に(ひざ)をついた。

 サルビア王女がここにいるということは、次に入って来るのが彼女の護衛騎士だ。


 さっき見たサルビア王女は、勝ち誇ったような顔をしていた。

 一体誰を、護衛騎士にしたんだろう……。


侯爵家(こうしゃくけ)長子アレク=キールス! これへ!」

「……え」


 謁見(えっけん)の間がざわめきはじめる。

 アレク=キールス……キールス侯爵家。

 俺と一緒に『護衛騎士選定試験』を受けた、ジルヴァンの家族だ。


 足音が近づいてくる。

 ひざをついたままの俺には、その姿は見えない。


 玉座の前でアイリスが青ざめてる。

 どんな相手だ。アレク=キールスって。


「キールス侯爵家長子、アレク=キールス、参上いたしました。このたびはサルビア=リースティア殿下の護衛騎士にとの命をいただいたこと、感謝いたします」


 俺の隣で立ち止まり、アレク=キールスは一呼吸おいて、


「偉大なる『魔術ギルド』のC級魔術師として、その名に恥じない働きをすることを、ここにお約束いたします!」

「……C級魔術師?」


 ──って、俺たちの試験官だった魔術師デメテルと同レベルの?


 国王の合図で、アレク=キールスが(ひざ)をつく。


「…………弟が迷惑をかけたようだね」


 ささやく声が、かすかに聞こえた。


「お詫びの(しるし)に、真の魔術師がどういうものか君に見せてあげよう。弟のせいで刻まれた、キールス侯爵家の失点を消すためにも……」


 C級魔術師アレク=キールスは、静かに笑ったのだった。



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