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地球を見つめる星を造って 第4回 看板を背負う男達の自負

腕章の重さを胸に

  • 小笠原:製造、組み立て、検査には木下さん、飯吉さん西根さんという「現代の名工」と呼ばれる先輩たちがおられますね。そういった方たちと一緒に仕事するというのはどんな気持ちですか?
  • 唐土:当然、三人の先輩には敬意を表すると共に重圧すら感じますが、私にはこの三人だけではなく、OB含め諸先輩たちは皆、「名工」に思えます。自分がその人たちを引き継いでいかなければならないという自負もあります。なんといっても先輩のすごいところは品質へのこだわりですね。正直、そこまでやるか!という感じを受けるときもありますよ。
  • 津元:私も同感。検査の先輩たちは何しろ経験からくるものがいっぱいあります。そこをどう受け継ぐかが課題です。
  • 小笠原:最近は随分若い人も採用していますね、現代の若者、お二人からはどう見えますか?
  • 津元:製造、検査に入ってくる若者たちは必ずしも宇宙がやりたくて入ってくるわけではありません。そういった若者たちにまずどうやって自分達の仕事に興味を持ってもらうかが最初の課題です。いろんな現場を見学したり、自分達のやったことが最終的にどういう形にできあがっていくかを実体験してもらっています。
    それぞれ得意分野を持っているので、そこをどう延ばし、他の分野にも仕事を広げる足がかりにするか、いつも考えながら指導してます。
  • 唐土:でも衛星システムの組み立て担当は一機目じゃ難しいですね、先輩についていくのがやっと、二機目、まだまだ。三機目でようやく独り立ちかな。まだまだ先長いですよ。TL(タスクリーダー)の腕章(リーダーを認識するため現場では腕章をつけることになっている)は重いですね。単なる役割分担とは思えない重さがある。

写真:技術者と、試験方式について論議する津元(奥)技術者と、試験方式について論議する津元(奥)

写真:台車の上で作業中の若手を指導する唐土(後ろ向き)、腕にはTLの腕章が台車の上で作業中の若手を指導する唐土(左、後ろ向き)、腕にはTLの腕章が

  • 小笠原:ものづくりの象徴のような衛星造りですが、自分の仕事に対しての誇りを最後に聞かせてください。

写真:腕に巻いたTLの腕章腕に巻いたTLの腕章

  • 津元:腕章の話がでましたね、私は自分の担当の検査が一段落してTLの腕章外すと、一気に開放されたような気分がします。本当に軽い薄っぺらな腕章ですが、実に重いものですね。

  • 唐土:部品や機器、サブシステム等の製造工程を引き継ぎ、私たちが衛星造りの最終フェーズを預かっているわけですから、「NECの看板」を背負った感じがします。ここが最後で、後は宇宙空間に打ち上がるわけですから。これが我々の誇りでしょうか。

  • 津元:そうですね、この誇りを若いメンバーに引き継いでいかないと、だってまだまだ宇宙開発は過渡期、我々はまだその過渡期にいるのですから。
  • 唐土:私たちは気候変動観測衛星GCOM-C1の作業を始めます、もういくつもの調整事項が動いています。精密な光学系が入っているだけになかなか難しい衛星です。
  • 津元:毎年かなりな数の若い人が入社してくるので、がんがん育てる、これが大仕事だと思っています。
  • 小笠原:震災の対応からはじまって、先輩への思いやら、若い人たちへの期待まで、多岐にわたったお話聞かせていただいてありがとうございました。

淡々とした語り口の中に、自分達の仕事への信念と誇りを語り続けた、唐土と津元。名工といわれる先輩の技を受け継ぎ、そして今、新しい戦力になろうとする多くの若手を育てる立場に立つ。

将来の「ものづくり」への不安がささやかれる日本で、その看板を背負う男たちが語る姿はゆるぎないものだった。あの震災を乗り越え、無事「しずく」を誕生させたその匠の技で、彼らの手から次はどんな衛星が作り出されるのだろうか。

取材・執筆 小笠原雅弘 2012年7月30日

唐土 宏行(からど ひろゆき)

写真:唐土 宏行(からど ひろゆき)

NEC東芝スペースシステム
1985年NEC入社
2007年NEC東芝スペースシステム出向
2008年よりGCOM-W1組立担当

津元 憲聡(つもと のりあき)

写真:津元 憲聡(つもと のりあき)

NEC東芝スペースシステム
1986年NEC入社
2007年NEC東芝スペースシステム出向
2008年よりGCOM-W1検査担当

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