第18話「元魔王、召喚獣をほろぼす」
今日は2回更新しています。
今日はじめてお越しの方は、第17話からごらん下さい。
──ユウキ視点──
「おい。カッヘル=ミーゲン」
「ひぃっ」
俺が声をかけると、青い顔のカッヘルが、びくりと、震えた。
「返事をしろ。カッヘル=ミーゲン。家庭教師」
「……あ、あああ」
「さっきの話、よく聞こえなかったんだ。もう一度言ってみろ。俺の家族がどうした?」
「ひぐっ! ぐぁ。ぐああああああっ!!」
教師カッヘルは必死に腕を押さえている。
「言えよ。貴様は教師だろう。子どもの質問には答えろよ」
「きさま。ぎざま。ぎざまぁあああああっ!!」
「そんな話はしていない」
俺は再び『身体強化』2倍で地面を蹴る。
教師カッヘルが腕を上げる。防壁を展開して、短剣を止めようとしている。
でも、遅い。
「ぎぃああああああっ!!」
俺の短剣は障壁を避け、カッヘルの左腕に食い込んだ。
奴はその状態で詠唱を続けている。魔術が発動する前に、俺は飛んで離れる。
「貴様はさっき、俺の家族をなんだと言った? もう一度聞かせろ。俺はそういう話をしている。言う気がないなら時間の無駄だからそう言え。家庭教師」
俺は再び短剣を構えた。
「待ってください!」
アイリス王女の声がした。
「その者を殺してはなりません! ユウキ=グロッサリアさま!!」
「……どうして?」
「教師カッヘルは
「こいつは俺の家族を
前世では、俺が消えることでしかライルたちを──家族を守れなかった。
今世では、俺にも『古代魔術』が使える。
だからうちの子を利用し、侮辱し、傷つけた奴は、問答無用でぶちのめす。
「あんたのことも傷つけようとした。だから消す」
「き、貴様! 貴様の兄を利用したから、なんだというのだ!!」
腕から血を流しながら、カッヘルは叫んだ。
「貴様の兄はお前を! 庶子を! 見下して!!」
「それはあんたが仕向けたことだろ」
「貴様の兄は、貴様を、
「兄弟ゲンカくらいするだろ。人間だもの」
むしろ『
ゼロス兄さま、意外と
「だが、あんたは駄目だ。俺の身内を利用しようとした時点で、俺にはあんたを斬り殺す以外のやりかたが思いつかない」
「ぐ、ぐぉおおおおおおっ!!」
がぎん。
俺の短剣を、教師カッヘルの魔力障壁が受け止めた。
「すでに……
教師カッヘルが地面に、灰色のものを放り出した。
それを中心に、魔法陣が展開された。
俺は灰色の欠片に視線を向けた。あれは、魔物の翼だ。
俺は記憶を呼びさます。あれはなんの翼だった?
前世で何度か見た記憶がある。翼を持つ魔物。コカトリス? いや、もっと大きい。
「グリフォンか!?」
「正解だよ。小僧!!」
教師カッヘルの正面に、巨大な魔力の障壁が生まれる。
面倒な!
「ここで切り札を使うことになるとは思わなかったがな! これは『聖域教会』の司祭が使役していたグリフォンの翼だ。ここで貴様らを殺して、王女殿下には我が
「全員! 抜剣!! 王女殿下をお守りせよ!!」
兵士たちが列をなし、剣を抜く。
王女殿下が『古代魔術』の『炎神連弾』を放つ。
それでもカッヘルの障壁は破れない。
……教師カッヘルにこれほどの魔力があったか?
こんなに強いなら、『魔術ギルド』の高位の魔術師として
「さぁ、我が使い魔よ! 兵士たちを
『キイイイイェエエエエエエ!!』
魔法陣からグリフォンが出現した。
すげぇな。『古代魔術』。こんな魔物を召喚できるのか。
グリフォンは
そのサイズは小さな家くらいある。翼を広げればさらにその倍。
おそるべきはその
「行け! 兵士たちを皆殺しにせよ!!」
『ギッィイイエエエエエ!!』
カッヘルはいつの間にか、グリフォンの背中にまたがってる。
グリフォンの背に乗り、そのまま上昇していく。
「聞け! グリフォンの武器は
「な、なんでそんなことまでご存じなのですか!? ユウキ=グロッサリア!!」
「知り合いに聞いた!」
「す、すごい。そこまでの知識を……わかりました! 兵たち、方陣を組みなさい!! 盾を外に。その隙間から剣を! 私は魔術で攻撃します!!」
「ユウキ=グロッサリアァアアアアアア! お前はあああああっ!!」
ガイインッ!
グリフォンの爪が、兵士たちの盾を叩く。
が、兵士たちの陣は破れない。全員が固まり、お互いをカバーしている。
「お前は! 庶子が! 生まれも知らない者たちが、いつも邪魔を!!」
「知るか」
グリフォンの羽根は魔術の素材。
だから、俺も昔研究に使ったことがある。当然、狩ったことも。
『
「いきます! 『炎神連弾』!!」
「アイリス王女を守れ──っ!!」
グリフォンが降下するタイミングで王女が魔法を放ち、兵士たちが剣を振り上げる。
だが、グリフォンには当たらない。
高速で飛び回る敵に攻撃を当てるのは至難の業だ。
「見たか。これが『聖域教会』の遺産だ!! それを禁忌とするなど愚の骨頂! 違うというならこの私を倒してみるがいい!!」
「わかった。来い! ディック!!」
『ごしゅじん────っ!!』『キキィ』『ギギギィ!!』『ギギィ!』
4体のコウモリたちが集まってくる。
翼に描いた『火炎連弾』の紋章は消えてる。あっちは魔力を食い過ぎる。
だが『
「ユウキ=グロッサリアさま!? なにをなさるおつもりですか!?」
「何度も言わせるな」
俺は王女殿下に告げた。
アリス……いや、アイリス王女殿下は、銀色の髪を揺らして、俺を見てる。
アリスとアイリス……名前まで似てる。
こんなところまで前世がついてくる。
本当に、人間ってのは面倒な生き物だ。
「カッヘルは殺す。あんたは守る。家族への義理と、過去への義理だ。あと、兵士さんの背中を借りる」
「……え?」
答えは待たない。
俺は『身体強化』2倍の状態で、兵士の背中を駆け上がり、跳んだ。
「馬鹿が! 『古代魔術』が使えるからといって思い上がったか!!」
グリフォンがはばたく。真横にコースを変える。
俺の届かない位置まで逃げるつもりか。
だが、そんなことは予想済みだ。
「集え! 我が従者よ!!」
『『『『ごしゅじん────っ!!』』』』
俺の合図で4匹のコウモリが寄り集まり、足場になった。
『身体強化』してるから強度は充分だ。
「耐えろ。ディック!」
『了解なのですーっ!』
だんっ。
俺はディックたちの身体を足場にして、真横に跳んだ。
「な、な、なんだそれは!? 貴様、貴様は一体なにものなのだ!?」
「あんたが言ったんだろ。生まれも知らない者だと。正解だよ家庭教師!」
俺は短剣を、グリフォンの首に突き立てた。
同時に、左手を魔物の腹に押し当てる。
俺の『
左手が空いてる。
だからさっき、紋章を描いた。
「魔術ってのはな、絶対確実に当たるように使うべきなんだよ。発動『
『ギィエエエエエエエエエ!!』
──ぼんっ、と音を立てて、グリフォンが破裂した。
「ぎぃああああああああああっ!!」
グリフォンを貫通した炎は、教師カッヘルも
火だるまになったグリフォンは絶叫を上げて、背中から落ちていく。
教師カッヘルを乗せたまま。
「────ぐがぁぅぁっ」
グリフォンが地上に落ちた。
カッヘルの身体がバウンドして、地面に転がった。
俺は『飛翔スキル』で落下速度を落として、地面に降りた。
……ふぅ。
この身体で空中戦は初めてだけど、なんとかなったな。
「ユウキ=グロッサリアさま……すごい」
「密着した状態で『古代魔術』を!? どうしてあんなことができるんだ……?」
「末恐ろしい子どもだ。あれほどの才能を持つ者は、『魔術ギルド』にも数名しか……」
「そもそもあの齢で使い魔を従えているとは……どこで魔術を覚えたのだ」
兵士たちが騒いでる。
ほっとこう。今はその前にすることがある。
「……カッヘルだけは消しておかないとな」
「その必要はありません。彼はもう終わりです」
俺の言葉を遮り、王女殿下は言った。
「まだ生きてはいますが……あなたの魔法は彼に重傷を負わせました。それに、彼にはあれほどの使い魔を召喚する魔力はありません。無理矢理召喚したのであれば、魔力切れを起こしているはず。それこそ、命に関わるほどの」
「殺すなと?」
「あの者は『魔術ギルド』に召還され、
アイリス王女はまっすぐに俺を見つめていた。
……200年前に俺が面倒を見た、アリスそっくりの顔で。
…………ほんっと、人間ってずるいよな。
「……王女殿下のお心のままに」
「舌打ちしながら言うことではありませんよ。ユウキ=グロッサリア」
聞こえなかったことにしておこう。
「……『古代魔術』──『心霊召喚』──わが敬愛する『聖域教会』の第9司祭をここに」
「カッヘル!?」
奴は、まだ生きていた。
グリフォンから投げ出され、地面に転がり、腕が変な方向に曲がっている。
それでも指を動かし、『古代魔術』を発動しようとしている。
「……魔力がないから、なんだという。家庭教師の職しかなかったから、どうだというのだ。対策は……立ててある。なんのために私がゼロス=グロッサリア……の教師をやっていたと……思う。奴は……魔力の容量だけはある……」
「う、ああああああああっ!!」
不意に、俺の後ろで叫び声が聞こえた。
振り返るとそこには、
真っ青な顔のゼロス兄さまを背負った、バーンズさんがいたのだった。
次回、第19話は明日の夕方に更新する予定です。