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俺の奴隷ハーレムがインフレ過ぎて酷い 作者:唯乃なない
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主人公の酷さがインフレしてる気がする


 目覚ましが鳴った。


 ムクリと起き上がる。


「…………」


 無言で目覚ましを止める。


 窓の外ですずめが鳴いている。

 気持ちいい朝だ。


 でも、おかしい。

 こんなにぐっすりと寝れるなんて。


「またか……またか!? どうして、あの夢の続きが見れない!!」


 少女は「これで最後ね」なんて言っていたが、これまでの流れ的にどうせ次の日も同じように夢を見るのだと思った。

 しかしどうしたことか、本当にあの夢を見ることが無くなってしまった。

 もちろん、例のインフレ本も何度も読んだ。

 これまでに読んだ本も全部読んでみた。

 「夢」と名がついた本を片っ端から買って読んでみた。

 それでも、一切あの夢の続きを見ることはなかった。


 もうあの日から二週間が経っている。


「なぜだ……」


 見ているときは面白がりながらも「ただの変な夢」と思っていたが、全く見れなくなってしまうと物足りないことこの上ない。


 俺は気落ちしながら講義を受けるために大学へ行く準備を始めた。



 今日は朝から夕方まで講義が詰まっていた。

 そのためか、いつもは居眠りなどしない方なのだが、いつの間にか帰りの電車で寝ていたらしい。

 というか、そう考えないと辻褄が合わない。


 帰りの電車に乗ったはずだが、いつの間にか俺は夢の屋敷の自分の部屋にいた。


「うわ、久しぶりだな……な、懐かしいっ」


 思わず一瞬涙が出そうになったが、こんなところをあの少女に見られては気まずい。

 ということで頑張って我慢して心を冷静に保つ。


「……っと」


 落ち着いたところで部屋の中を見回してみるが、少女の姿はない。

 しかし、どういうわけだか、妙に散らかっている。

 例のお菓子たちが部屋の隅に積み上げられているし、開封済みと思われるお菓子の包装紙がゴミ箱から溢れかけている。

 部屋の中もこころなしか埃っぽい。


 というか、ここ夢だろう。

 夢のくせにいちいちリアル過ぎる。

 あの少女の意思一つで部屋の様子がまるごと変わったりするくせに、いらないゴミが勝手に消えたりしないようだ。

 本当に変な夢だ。


「はぁ……まぁ、いいや、俺の机は……ってなんだよ、おい!」


 あろうことか俺の机の上にもお菓子類が積み上げられているし、ノートや筆記用具類が散乱している。


「おいぃ……」


 普通に椅子に座ろうと思ったが、その気を無くして机の上をなんとなく眺めていると『見るな!』と書かれたノートが目に入った。

 実際は、よくわからない文字なのだがなぜか『見るな!』と書いてあるのが分かる。


「見るな……?」


 あぁ、向こうの世界は文字体系が違う設定なのか。

 いろいろ設定が多いな。

 こんな設定が多い夢をほとんど破綻なく見ている俺って実はものすごいんじゃないだろうか。


「まぁ、そう言われたら普通見るよな」


 と、そのノートを手にとって開いてみる。

 並んでいるのはよくわからない文字列だが、しかしなぜか意味はわかる。


「『45年 ノルヴェールの月 4日 3日連続雨だった。ジメジメして気分最悪。空に向かって文句を言いたいけど、無駄なんだよね。隣のソンデさんが自分で焼いたパンを持ってきたけど、パン屋にパンを持ってくるってどういう神経なのかと思う。そしてやっぱり生焼けだった。タルコティが食べたい』……なんだこれ、日記かよ」


 タルコティという翻訳されなかった謎の単語が出てきたが、読んだ瞬間ふっとスパゲティのようなもののイメージが浮かんだので、どうやら麺料理らしい。


 なるほど、あの少女の日記らしい。


「んーっと……」


 座って読みたいが、目の前の俺の机は散らかっていて座る気がしない。

 部屋の中を見回すと、来客用に使うための椅子が何脚か壁際に置いてあるのが目に入った。

 なので、そこに移動して腰を下ろした。


「パンづくし生活か……」


 ふと自分の右手を見ると、いつの間にか万年筆が握られていた。

 持った覚えがないが、こういうところは夢なだけに適当だ。


「え、書けってこと?」


 他人の日記に書き込むなんて言語道断だ。

 しかし夢の登場人物の日記にどう書こうと俺の勝手である。


「よし」


 『好き嫌い禁止』と日本語で書き込む。

 どうせ向こうも違う字でも読めてしまうのだろう。


「『45年 ノルヴェールの月 5日 キルアと会ったら、最初から最後までずっと付き合っているオーエンの話をされた。気持ちはわかるけど、正直苦痛だった。はいはい、楽しそうでいいですね!!』 ほほお……」


 意外と一日の分量は短いようだ。


「まぁ、こういう時はこれだよな」


 『嫉妬乙』と書き込む。

 なんだか楽しくなってきた。


 あ、これも書いておこう。


 『リア充爆発しろ』と追記する。

 そして棒人間が爆発する絵を空いた場所に描いたところ、我ながら小学生並みの画力に残念な気分になる。


「……ま、いいや。次は……『45年 ノルヴェールの月 6日 お姉ちゃんが久しぶりに帰ってきた。いつも通りあまり話さなかったけど、変わらないようだった。どうしてあんなに揺るがないのか不思議。きっとどこか頭のネジが外れているに違いないと思う。いつものことだけど血が繋がっているのが信じられない。あと、前にもまして偉そうで気に食わない。嫌いの上の嫌いの嫌い!』……なんじゃこりゃ」


 姉に対して良い感情を持っていないらしい。


「まぁ、いいや。なんか気の利いたコメントを……」


 そういえば、昔相談者の相談を根本から覆す回答があったような……あれを真似してみよう。


「ええっと、『その姉はあなたの想像上の存在ではないでしょうか』……と。我ながら酷いコメントだ」


 だが、これだけではまだなにかひと押し足りない。

 もっとこの日記に対して鋭いツッコミを入れたくてたまらない。


「『ネジが外れているのはあなたの頭ではないでしょうか』『実は血が繋がっていないのです。そう、あなたは来るべき決戦の日のために伝説の地で生まれたなんとなく偉い血筋の人間なのです。いまこそ檜の棒と100ゴールドを持って旅に出るときなのです!』……ビックリマークをもっと入れて勢い良くするか。いや、まだ別の方向から攻める事もできそうだな。うーん、もっと切れのあるコメントを……」


 と、唸っていると足音が聞こえてきた。


「お……」


 その足音は扉の前で止まると、扉が勢い良く開いてあの少女がいらだった足取りで入ってきた。

 そして、そのまま俺の机に直進し、俺の椅子に躊躇なく腰掛けた。

 そのまま、背もたれに背中をあずけて深く寄りかかる。


「…………」


 どうやら、部屋の隅に俺が居るのを気づいていない様子だ。

 うん、ちょっと見ていてみるか。


 少女は小さくため息をつくと、そのまま椅子を左右に回転させる。

 あれ、あの椅子は回転しないはずだけど……今書き換えたのかな。


 そのまましばらく所在なさげに椅子を回転させていたが、


「どうするのよ……」


 とつぶやいた。

 とりあえず、黙って観察し続ける。


「どうするのよ……どうするのよ……わっかんないわよ! 知らないわよ! 嫌なのよ! もう!」


 顔を手で覆ったままそんなことを言った。


 何か言いたい。

 しかし、我慢してもうちょっと見てみることにする。


「……で、さぁ、どうしたらいいと思う? 言っておくけど、フライパンでお父さんを殴るとか無しだからね。あなたならどうする?」


 少女が顔を上げて、何もない空間に向かってそんなことを言った。


 え、俺に気づいている!?

 い、いや、そういう感じでもないなぁ。


 どうやら例の集団お見合いの件らしい。


「えー? 鍋で殴るとかそういうんじゃなくて! もっと真面目に答えてよ!」


 何もない空間に向かって怒ってみる少女。


 もしかして、一人芝居している?


「うん、本当は風邪のフリして休もうと思ったんだけど、お父さんがすごい乗り気で誤魔化せそうな様子じゃないよのね。あきらめて出ろ、って言われても私はとにかく嫌なんだってば! わかった?」


 相談する人が居なくなったから、一人で相談しているのか。

 隠れてそういうことをする人は皆無ではないだろうが、こうして傍から見ているとなかなか滑稽だ。

 そして、その滑稽な姿を見られていると知った時の本人の恥ずかしさはいかばかりか。


「どう説得に来ても無理なものは無理! 絶対に嫌だから、なんとかしてよね」


 少女は仮想の俺と喧嘩をしている。

 よし、ここでなんか返しを……ありきたりなコメントではつまらないので、さっきの日記みたいに気の利いたコメントをしたいところだ。


 んー……


 部屋の中をそっと見回すと、お菓子の袋が目に入った。

 そこには犬をデフォルメしたマスコットキャラクターが描かれていた。


 これだ!


「ならば、『実は私は犬にしか発情できない特異体質なんです!』と告白するんだ!」


 そう言いながら、日記は背中に隠したまま勢い良く立ち上がる。

 少女はこちらに向くと、口を開けたまま固まった。


「更に言うならば、『ただの犬ではダメ! 白くてもふもふして生後6ヶ月から1年ぐらいの犬でないとダメ!』とか100%キチガイな発言をすると完璧だ! イベントをすっぽかせる代わりに病院に搬送されるかもしれないがな! HAHA!」


 親指を立ててウインク。


 パーフェクトだ。


 しかし、冷静に考えて俺はなにをやっているのだろう。


「な……な……」


 少し遅れて少女が動き出した。

 顔には戸惑いが浮かんでいる。


「な、なんであんたがここにいるのよ。お、おかしいでしょ。なんで、なんで、そんなところで……き、聞いてたの!? なんで言わないの!? っていうか、なんで居るのよ、あ、もう……意味がわからないわよ! へ、変態!」


 見るからにあたふたした様子で非難の声を浴びせてきた。


「ちょっとまて、変態は批判として適切ではないと思うが……ってか、こっちが聞きたいよ。いきなりこの夢に入ってたんだから俺の方こそ意味がわからない」


 そのセリフを聞いて少女はあたふたするのをやめると、少し考えこむような仕草をした。


「そ、そうね……多分今私がうたた寝してるのね。さっき暖炉の前で椅子に座ったのを覚えてるから……」


「うたた寝?」


「だから、私が暖炉の前でついうっかり寝ちゃったみたい。夜寝るときは夢見の力を抑える宝具を腕に巻いてるんだけど、今は身につけてないからあなたが呼ばれたみたいね。き、きっと、あなたも居眠りでもしてるのね。も、もう、タイミング悪すぎ! それになんなのよ、犬がどうこうとか!」


 と言って、少女が顔を背ける。


「たしかに俺も電車の中で居眠りしてるっぽいけど……」


「電車?」


 少女が顔を背けたまま聞き返してきた。


「ああ、そうだな……」


 ここで向こうがファンタジー設定だということを思い出した。


「うん、そうだな。雷の力で動いて数百人の人間を運ぶことができる魔法の鉄の箱の乗り物だ。地下にも潜るんだぞ」


 人差し指を立てながらそう説明すると、少女は思った通り顔をしかめた。


「な、なにそれ。そんなの突拍子もない作り話、今どき子供だって信じないわよ。さっきから変なこと言い過ぎ! 犬って……犬ってさぁ……」


 さすがファンタジー。

 現代科学とは親和性が悪いな。

 こういう反応も面白い。

 ってか、犬がそんなにインパクトあったんだ。


「ええっと……そうだな、多分俺ももうすぐ起きると思うから今のうちに言っておくが……」


「起きないと思うけど?」


 少女がこちらに向き直ってちょっと暗い顔で答える。


「は?」


「あなた、私の夢に巻き込まれているの。この前のセラミーさんを見たでしょ? ちょっとやそっとじゃ目が覚めないわよ」


「なにそれ……」


 と一瞬焦ったが、しかし窓から飛び降りて起きたことを思い出す。


「だ、大丈夫だ。そのときはまた窓から飛び降りる。それより大切なのはだな! 俺の夢を返せ! 俺にはまだこの夢の続きが見たいんだ!」


 すると、少女が思い切り不機嫌な顔をした。


「な、なに言ってるのよ。これは私の夢なんだからね。私だって自由に夢見の力で好きな夢をみたいのに我慢して抑えているのに、そんな勝手なことを言わないでよ」


 知らん。

 夢の中の登場人物の言い分など、知らん!

 断じて知らん!


「それはそれ! これはこれ!」


「い、意味分かんないんだけど。それに神父さんにも絶対に宝具を外して寝るなって厳しく言われているんだから絶対にそんなことできないわよ」


「ふっ……これだから素人は」


 ニヒルな笑みを浮かべて、少女を見下す。

 あのインフレ本を擦り切れるほど読んだ俺はそんな常識的な発想には屈しない。


「は、はぁ!?」


 少女が困った顔をする。


「『インフレ思考による状況打開術』、あの著者の恐ろしさはどんな事態もインフレで解決しようとして逆に全てを台無しにしてしまうところ!」


 ダメじゃないか!と自分の中の常識的な部分が反論してきたが、久しぶりのこの夢で盛り上がっている俺は止まらない。


「そう、インフレ! ビバ、インフレ! 溢れ出る力を抑える、それこそ常識的なダメな発想! 今こそインフレ的思考により、むしろ溢れ出る力を極限まであふれさせて枯渇させることによりこの事態の打開をせんといまこの俺の頭脳はフル回転でまわってまわって回りすぎてどうにもならないほど目が回りそうだ! くはははは!!」


「ね、ねぇ……大丈夫?」


 少女が不安そうな表情をする。

 さっき日記にコメントをつけはじめたところから、我ながら変なテンションになっている。

 そこにあのインフレ本が決定的な影響を及ぼしているようだ。

 俺の意識がどんどんインフレしていく。


「で、でも、そうね……それもそうかも。ずっと宝具を借りているわけにもいかないし、いっそ力を一晩だけ使うだけ使ってみるのもいいかもしれない。怒られるとは思うけど……でも……」


 少女が指先をいじりながら誘導されていく。

 極限まで圧縮されたインフレ思考があちらにも影響している様子だ。


「よし、じゃあ今晩頼むぜ!」


「っていうか、さっきのこと絶対に人に言ったりしないでよ!?」


「大丈夫だ! 問題ない! とにかく頼むぜ! いえぇぇい!」


 その瞬間、目が覚めたのか誰かに起こされたのかわからないが、少女の姿がすっと消えた。

 続いて、俺の意識も急に現実に戻っていく。

 しかし、テンションはそのままだ。


「いえぇぇぇぇぇぇぇぇい! いえぇぇぇ……」


 眼を開くと、俺は電車の中で立ち上がって両手を上げて叫んでいた。


 そして鼻先10cmのところに駅員さんの顔があった。


 次の瞬間、駅員さんが完全にビビった様子で素早く後退りした。


「しゅ、終点です」


「……はい、すいません」


 やだ、なにこの羞恥プレイ。


 俺はあわてて電車から飛び出した。









前回はたくさんのコメントありがとうございました!

自分で思っているより私は素直な性格らしく、コメントを頂いた直後は気分が高揚して当社比5割ほど執筆速度が上がったような気がします。

しかし、その後疲労やらなんやらで書けない日が来たりしたので、トータルすると変わりませんでした(汗;

でもコメント頂いて速度が落ちることはないので、先を読みたい方はコメントすると少しだけ早く仕上がる可能性も……。


それから、「これで終わりでいいのでは」というコメントも頂きましたが、まだ続いてしまいます。

というのは、私の小説の書き方が変わっているのかもしれませんが、

「突然思いついたシーンを書く」「気がのらない時に無理やり会話シーンを書く」→「それぞれのシーンをつなげるように途中を書く」→「つなげて調整」

のように書きますので、すでに書いたけど未消化のシーンがたくさんたまっているんです。

もったいないから全部消化しないと! と思うのですが、間を補完する流れを書いているととぉっても長い小説になりそうで……そんなつもりはないんだけどなぁ。

できるだけ早く消化して行こうとは思います。


それにしても、今回の展開はまたずいぶんと酷いですね(汗;

ありゃりゃりゃ




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