初期想定よりずいぶん長いよ、この小説
「なんだ、モブを作ったのか?」
部屋の隅に突然現れた二十代前後と50前後の神官二人を見て、少女に問いかける。
しかし、返答がない。
神官二人を見たまま固まっている。
「おい」
もう一度声をかけると、少女がワタワタと動き出した。
「う、嘘、なんで? どうして神父様とセラミーさんが私の夢に」
「神父様?」
年をとった方の男が困ったような表情を浮かべながら、口を開いた。
「夜分、勝手に邪魔をして済まないな、アリエル。だが、こうも派手に夢見の力を使ってもらっては困るのだよ」
気取っているわけでもないようだが、なんとなく漂ってくる威厳に一瞬怯む。
「だ、誰だ、あれ?」
少女に聞くと、少女は硬い表情のまま答えた。
「ティエラ・アンバチュールの東ブロックの教会の神父様! ほら、頭下げて」
頭を掴まれて、無理やりお辞儀させられる。
夢の中で夢の登場人物にお辞儀するのも変な気分だが、面倒くさいので抵抗せずにそのまま頭を下げておく。
「そう堅苦しくならなくてもいい。だが、まずは話を聞いてもらいたい」
少女が顔を上げた様子だったので、俺も顔を上げる。
「ど、どうしてこんなところへ」
少女が聞く。
神父とされている男は一瞬間を置いてから話しだした。
「なにから説明すればよいかわからないが、どうもスニュートラ様の加護がお前に集中しているらしい。しばらく前から夢見の巫女たちがスニュートラ様の加護が弱いと騒ぎ出してな。巫女たちの力で私達が原因を調べていたのだ」
「そんな大事になっていたなんて知りませんでした。あの……」
「それはわかっている。しかし、訓練された巫女でもないものが勝手に夢見の力を使うのは危険なことだ。とくにお前は姉に似て夢見の力が強いのだから、なおさら気をつけなければならない」
「言葉になりません。に、二度とこのようなことがないように致します」
少女がしおらしく頭を下げる。
起きているときはそんなに極端な性格ではないようだ。
たしかにあのパン屋後継者問題の様子を見るに、普通に小心者な気がする。
だというのに俺に対しての過去の態度はなんなんだ。
思い出してちょっとだけムカッとする。
「分かってもらえれば良い」
神父さんが鷹揚に頷く。
「し、しかし、セラミーさんはまだしも、神父様直々に来られるなんて」
「最初はセラミーだけに越させるつもりだったのだがな。セラミーは……困ったことに夢見の感覚がまったく無いのでな。一人で越させても夢の中とも気付かず、用事を忘れて帰って来かねない」
神父さんが「困ったやつだ」という表情で隣に立つセラミーというイケメンな男を見る。
イケメン男は曖昧な表情を浮かべている。
「そ、そうですか」
どう反応していいか困っている様子で、少女が相槌を打つ。
「これで用は済んだ。無用に夢に立ち入られるのはあまり心地よいものではないだろうから、すぐに去るようにしよう。起きたならば必ず教会に来るように。これだけは忘れてはならないぞ」
「はい!」
「では、帰るとしよう。ん……そういえば、その青年は?」
神父さんの視線が俺に向かってきた。
「これですか?」
少女も俺の頭を指さしてくる。
これって、おい。
「なんというか……説明が難しいのですが、私の潜在意識みたいなものだと思います」
少女がためらいがちに答える。
すると、神父さんが眉をひそめた。
「いいや、私が見るところ、夢見に巻き込まれた人間のように見える」
「え……」
少女が目を開いて俺を見る。
あかん。
「いや、そのだなぁ……」
ダメだ。
ごまかしが効かない。
もういい。
ネタばらしをしてしまおう。
「あ、あのな、なんか色々言っているが、そもそもがこれは俺の夢なんだって。あんたもあんたもあんたも、全員俺の夢の登場人物だから。だから俺を非難するのはお門違いだからな!」
全員を指さしながら大声を出す。
しかし、神父さんは特に動揺もせず渋い顔をしただけだった。
「い、意外と堪えないんだな……」
その場に居る全員が何故か押し黙る。
しばらくの間があって、神父さんが眉間にしわを寄せながら小さく首を振った。
「君、どうもまだ信じられていないようだが、これは夢見の力による特別な夢であって君の個人的な夢とは違う。にわかに信じがたいのは理解するが、きちんと理解してもらいたい。ここは君の夢ではない。彼女の夢の中だ。君は彼女の夢に巻き込まれて夢を共有しているのだ」
またその設定か、と呆れていると、頭を脇から叩かれた。
振り向くと、少女が喧嘩腰で睨んでいた。
「同じことを私が説明したでしょ!?」
神父さんに遠慮しているのか小声で怒鳴る。
「だってそんな突拍子もない事、どう考えても都合がいい夢かと思うだろう!」
「今まで本当にただの夢だと思ってたの!? あっきれた……もう、これでわかったでしょ!?」
相当にご立腹だ。
仕方がない。ここはもう一度騙されたふりをしておくか。
「あ、あぁ、わかったよ。今度こそ信じたよ」
そして、神父さんに向き直って作り笑いを浮かべる。
「実は一度そう聞いたんですが、どうにも信じられなかったんですよ。でも、どうやら本当にそうだったようですね。ようやくわかりました」
物分かりがいいフリをして、何度も頷く。
「わかってもらえたのならばいいが、彼女も我々も現実の人間だ。夢見の力で見ている夢は普通の夢とは違って意識は覚醒しているが、それでも起きている時よりも意識のガードは低い。軽率な行動が他人の心理に大きく影響してしまう。だから、くれぐれも夢と甘く見ずに慎重な行動と発言を心がけてほしい」
「そうですか、わかりました」
面倒な設定の夢だ。
意識のガードが低いから俺が読んだ本が影響したということなのだろうか。
うーん、面妖な。
「では今度こそ帰るとしよう」
そう言うやいなや、神父さんの姿がすっと消える。
しかし、隣に立っていたイケメン男はまだ残っている。
続いて消えるのかな、と思っていたが一向に消える様子がない。
「おい、あの人は? なんか全然帰らないけど」
少女の肩を突っつくと、凄い敵対的な視線を向けられた。
「な、なんだよ……」
「あなたねぇ……現実の人間ならそうと言いなさいよ!」
「ちょっとまてよ、それを蒸し返すのか? それは何度も言っただろ! 言っても信じなかったのは誰だよ!」
「そ、それはそうだけど、あなたが別の世界とか変なコト言うから」
「事実だから仕方ないだろ!」
「だからといって勝手に潜在意識のフリをしたのは、なんのつもりなのよ! もう少しでお父さんを大怪我させるところだったじゃないの!」
「夢だと思ってたんだから、仕方ないだろ!」
「だからって……」
少女が憤懣やるかたないといった様子で、恐ろしい目つきで睨みつけてくる。
「お、おいってば……というか本当にあの人はどうすればいいんだよ」
もう一度セラミーとか言うイケメン男を指さす。
「あっ……」
少女は瞬時に我に返ったようで、俺を置いてイケメン男の元へとてとて歩いて行く。
「セラミーさん、どうしました?」
するとイケメン男が口を開いた。
「あぁ……あは……あはは、いやはや、あっはっはっ。困っちゃいましたねぇ……あはは……は~あ……ふぅ」
なんだこのたどたどしさ感。
さっきまでのイケメンの雰囲気が全て台無しになった。
「あの、セラミーさん、どうしたんです?」
少女が重ねて聞く。
「参っちゃうんですよねぇ……はぁ……なんなんだかなぁ、もう……いやぁ、なんだろうねぇ……」
しかしセラミーさんは天井の一点を見たまま固まってしまう。
なんだこの残念なイケメンは。
「その、説明してくれないと私にもわからないんですけれども」
心なしか強めの口調で少女が三度目の質問を投げる。
「ははは……まぁ、帰れないんですよねぇ。弱っちゃったな、はは……はぁ……」
ため息の頻度がすごく多いですね、セラミーさん。
「だから、どうして帰れないんですか?」
少女が四度目の質問を投げる。
「え? なんでと言われてもですねぇ、困ってしまうんですけどねぇ……はぁ……」
そしてそのまま黙ってしまうセラミーさん。
本当にダメだ、このイケメン。
「セラミーさん、将来教会の神父になるんですよね? ということは、夢見の基本術は習っていると思うんですけど、帰れないんですか?」
セラミーさんがなんにも説明しないので、逆に少女が説明している始末。
あの人が将来の神父?
……無理じゃないでしょうか。
「はぁ……まぁ……ねぇ……? それはまぁ、そういうことに……なるんですか、ねぇ? うう~ん……そうですねぇ……そうなんだけど……」
傍から聞いているだけでものすごくまどろっこしい。
「セラミーさん、失礼ですけど、基本術は使えないんですか?」
「いやぁ……まぁ……平たく言うとそういうことなんですかねぇ。素質ですかねぇ……いやぁ……っはぁ……」
また天井の一点を見つめたまま固まるセラミーさん。
「なぁ、その人、そのままそこの窓から下に落とせば? 夢の中で死んだら目が覚めると思うけど」
「そんな事できるわけないでしょ!?」
少女が振り返って睨みつけてくる。
しかし、当のセラミーさんは
「お、それはなかなかいいですねぇ」
なんて言ってノソノソと窓際に向かって歩き出す。
が、歩き出した途端に
「アイタッ!」
と突然悲鳴を上げた。
「ど、どうしました?」
「イタ、イタタタ! ヤメッ……」
騒ぎながら頬を抑えるセラミーさん。
すると今度は、
「痛い! 痛いってば! や、止めてくださいってば!」
と騒いで、脇を必死にかばう。
もちろんここでは誰もセラミーさんの体に触れていない。
「ん……なんだ?」
セラミーさんの不思議な一人芝居を見ていると、今度は鼻をおさえて
「も、もおやめっ……!」
と騒ぐ。
ああ、ようやくわかった。
現実の体をあちこち突っつかれているんだ。
さっきの神父さんかそれとも別人かわからないが、かなり酷いことされていそうだ。
「へぶしっ! 痛い! 痛いから痛いから! 痛いってば!」
セラミーさんが顔や脇や足などいろいろなところを手で抑えながら叫ぶ。
そのジェスチャーから読み取ってみると、頬を叩かれ、髪を引っ張られ、脇をかなり強く突っつかれ、時々腹にパンチが入ったり鼻を掴まれたりしているようだ。
……もしかしたら首も締められているかも。
むしろ、そこまでされてもまだ寝ているのが異常だと思うんですが。
「お、起きる! 起きますから、やめ、止めて!!」
などと叫びながらセラミーさんの姿が消えていった。
「な、なんだったんだよ、おい……」
呆れた声を上げてから気がついた。
また少女と俺のふたりきりだ。
そしてその少女は思い切り俺を睨みつけている。
「な、なんだよ……」
「悪ふざけがひどくない? 私がお父さんを怪我させてたらどうするのよ!?」
「だからそれは夢だと思ったからだってば! しかたないだろ!」
「せめて謝りなさいよ。この前私に謝らせたくせに自分は謝らないわけ!?」
「う……」
そういうことを言われると弱い。
「う、うん、それは……その、悪かったよ」
すると少女は少しだけ表情を和らげた。
「……言いたいことはいろいろあるけど、夢だと思いこんでた人間に言っても仕方ないしね。もう、いいわよ」
「ん……ああ」
「ちょっと嫌だけど、起きたら教会に行って夢の共有を直してもらうわ」
「へえ、そんなことできるんだ」
「夢見の力の働きが収まるまで、スニュートラ様の加護をしばらく遮って置くのよ。私もよくしらないけど」
「ふーん……」
あまり興味はないが一応相槌を打つ。
「なにかあなたは機嫌悪そうだけど、あなたも災難だったかもしれないけど、私も本当に災難だったの。お互い痛み分けってことで、恨みっこなしでいいわよね」
「勝手に決めるなよ……と言いたいが、まぁいいけどな」
どうせ夢だし。
「……でも折角だから最後に奴隷ハーレムを実現してもらってだな」
途端に少女の顔がげんなりした。
「……懲りないわね。それは自分の夢で勝手に見なさいよ」
「はいはい」
さすがに無理そうなのでさらりと流す。
「じゃあ、これで最後ね。さようなら、シンチーさん」
「はいはい。えーと……」
少女の名前を呼ぼうとして言葉が詰まった。
なにか神父さんが一度呼んでいたような気がするが、名前自体を覚えていない。
「え~っと、一応名前はなんだっけ?」
と聞きかけたところで、俺は現実の部屋で壁にかかった時計を凝視していた。
「あれ……」
時計は目覚ましが鳴る5分前を指している。
「…………」
もっそりと起き上がる。
すでに朝日がかなり差し込んでいて、自然に目が覚めていく。
「名前……聞きそびれたなぁ」
精神が現実に戻ってくるのを感じながらそんなことをつぶやいたのだった。
もっとサクサク書いてサクサク投稿しないと、一向に終りが見えない。
やばい!
あ、ここまで読んでくれいる物好きな方、本当にありがとうございます。