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俺の奴隷ハーレムがインフレ過ぎて酷い 作者:唯乃なない
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サブタイトルなんてもはや意味もなく

 友達から借りてきた漫画を読みだしたところ案外おもしろく、気がついた時には12時を回っていた。

 大学生としては別に遅い時間ではないと思うが、ここのところ小学生にも負けないレベルの早寝をしていたことを考えると、かなり遅い。


「寝るか……」


 体が小学生の就寝時間に適応してしまったらしく、全身で早く寝ろと訴えてくる。

 ちょうどキリの良い所なので、漫画を机の上においてベッドにもそもそと潜り込んだ。



「遅いじゃないのよ!」


 気が付くと、例の少女が俺の顔を覗きこんでいた。

 顔が至近距離にある。


「うおぉ!?」


 反射的にはねのけて身を起こして、周辺を見回してみる。

 屋敷の俺の部屋だ。

 自分の部屋のベッドで仰向けに寝ているところへ、ベッドの脇に立っている少女が顔を突っ込んできたようだ。


「お、驚いた……」


「私こそ驚いたわよ。なんで今日は出てくるのが遅いの? てっきり消えたのかと思って焦っちゃったじゃない……」


「え、なんだって?」


「ここのところ、私が寝るとすぐにいたくせに、なんで今日は遅かったのよ」


 ああ、そういえば早寝をした時はなぜかこの少女が来るまで長々と待たされたものだ。

 今日は寝るのが遅かったから、少女のほうが待ったという設定か。

 寝る時間まできっちり話に組み込まれるとは、本当に設定が良く出来た夢だ。


「借りた漫画がおもしろくて……」


 と言いかけて、潜在意識扱いだということを思い出す。


「さ、さぁて、それはわからないな。とりあえず善は急げだ。さっさと前回の話の続きを……」


 そして俺はほとんど何も覚えていないことに気がつく。

 いかん、なんか普通に記憶に残っていない。

 漫画のストーリーで記憶が上書きされている。


「それで、私はどうすればいいの?」


 少女が首を傾げる。

 友好的になったせいか、態度にトゲがなくて、普通にかわいく見える。

 そうだよ、メイドの時から外見はよかったのに、態度が悪すぎて全部台無しだったんだ。

 普通に話が通じれば普通にかわいいじゃないか。


「……とりあえず、笑顔を浮かべてそこでくるっと一回転してみようか」


「え、何言ってるの……?」


 少女が眉をひそめる。

 いかん、つい本音が!


「その……」


 いやしかし、ここは夢だ。

 ちょっとぐらい無理が通るかもしれない。

 そうに違いない!


 とりあえずベッドに入ったままだったので、スリッパを履いて立ち上がる。


「う、うむ。いいかっ! 今から大事な事を言う!」


 できるだけ背筋をピンとさせながら指をビシィっと突きつけると、少女が一瞬ビクッとする。

 なんて挙動再現が細かいんだろうか。

 あの奴隷たちもこれくらい……いや、それは置いておこう。


「まずはあのメイド服を着るんだっ!」


「え、な、なんで?」


 少女がうろたえる。

 今の少女は寝巻き姿ではないものの、地味な配色の上着と長めのスカートだ。

 これでは興ざめだ。


「なんでもいい。理由を聞くよりまず行動しろ!」


 できるだけ真剣かつ険しい表情をする。

 納得したのか気圧されているだけなのかわからないが、少女はぎこちなく頷く。

 次の瞬間、少女はメイド姿になっていた。

 さすがに夢だ。着替える必要すらない。


「よし、それでは次に『ご主人様、今までの悪行誠に申し訳ありませんでした。これからはなんでもいうことを聞きます』と言うんだ!」


「え、それは……ちょっとさぁ……」


 メイド服の少女が困ったような表情を浮かべる。


「おい、違うだろ! メイドの時のお前はもっとこう……冷淡で感情を表面に表さない感じの振る舞いだろう? あれをちゃんと再現しつつ言うんだ!」


 少女がますます妙な表情をする。


「それが……大事なの?」


 な、なにか理屈をつけよう。

 え、えーと……


「ゆ、夢の中とはいえ、ケリは必要なことだ」


「それは……そうかもしれないわね」


 少女はぎこちなく頷く。


「ご、ご主人様、今までの悪行誠に申し訳ありませんでした。これからはなんでもいうことを……このセリフはおかしいと……」


「いいから、言うんだ!」


「わ、わかったわよ。……これからはなんでもいうことを聞きます」


 メイド姿の少女が深々とお辞儀をする。


 うをぉぉ……まさかこんな時が来るとは。

 あのメイドが俺に屈服したぞ。

 やった、やったぞ!


 奴隷ハーレムをまたつくり上げるのもいいが、その前にこいつも俺のハーレムの一員にしてやるっ!

 素だと案外かわいいしなっ!


「よぉし、では早速夜伽と行こうかぁ!!」


 メイドの腕をガッチリと掴む。

 メイドは付いてこれていないようで、ただ呆然と立っている。


 あの俺を全く相手にしなかったメイドをこれから蹂躙するなんて、なんて胸が高鳴るのだろうか。

 これが原始の暴力的な快感という……いやでも、エロゲとかでもそれなりにあるシチュエーションだから、割りと普遍的な衝動なのだろうか。


「と、とにかく、ワクワクしてくるぜぇ!! ヒャッハー!!」


 夢の中とはいえ、こんな世紀末的なセリフを口に出すことがあるとは思わなかった。


「ちょ、ちょっと、なに考えてるの!?」


 いまさら気がついたらしく、メイドが腕を引き抜こうと暴れだす。


「ようやく俺の夢の始まりだぜぇ!!」


 なんだかハイになって、メイドに向かって親指を立ててみせる。


「せ、潜在意識、暴走しているの!?」


「俺は至って普通だぜ! さぁ、いくぞ桃源郷に!」


目の前に普段の睡眠用のベッドはあるが、さらに隣の部屋がそれようの専用ベッドルームになっている。

 そちらに向かって足を踏み出す。


「こ、こらぁ、潜在意識、なにしてるの!!」


 メイドが反対方向に進もうとするが、そのまま腕を持って引っ張る。


「はっはっはっ、覚悟を決め……」


 その瞬間、大事なところにメイドのケリが直撃した。




「イ、イダイ……」


「目が覚めたかい。私の潜在意識さん」


 床で悶えて転がる俺を、少女は俺の椅子に座ってジト目で見下ろしていた。

 現実なら本当にシャレにならない大怪我だっただろう。

 破裂とか大惨事になっていてもおかしくない勢いだった。

 夢でよかった。


「う、うぅ……」


 ようやく痛みが治まってきたので、ゆっくりと立ち上がる。

 少女はもうメイドの姿をしていない。


「く、くそぉ……あ、あともうちょっとで……桃源郷に……」


「目が覚めてないようだね、潜在意識くん」


 少女がジト目なまま平坦な声で言う。

 こういう言い方は個人的にはちょっと好きだ。

 俺の潜在意識が俺好みの萌え要素を夢の中で実現してくれているに違いない。


「や、やはり、お前をべ、ベッドの上で……ぐぅ……」


 少女が椅子から立ち上がる。

 その足の挙動に思わず股間を押さえる。


 しかし、次のケリは飛んで来なかった。

 少女はそのまま妙に軽快な足取りで数歩歩いて、方向転換してまた数歩歩く。

 その妙な足取りのまま部屋の中をフラフラと歩きまわる。


「ん……ん?」


「ほら、私の潜在意識。そうだな、名前がないと呼びにくいかな」


 天井を眺めながら歩く少女が言う。


「な、名前? 言って通じるかどうかわからないけど、シンイチという名前があるが……」


「変わった名前ね、私の潜在意識。なら、呼びやすくシンチーでどう?」


 執務机の上のランプの傘を指先で突きながら少女が言う。

 シンチー……向こうの世界ではその発音のほうがわかりやすいのだろうか。


「ま、まぁ……いいけどね」


「じゃあシンチーさん、あなたがやりたいことはなんでしょうか?」


 執務机の上の書類をペラペラとめくりながら少女が言う。


「それはもちろん……奴隷ハーレムの再興! しかしまずはその前にお前をベッドの上で存分に弄んでくれよう!」


 痛みを主張する股間を抑えながら宣言する。


「そりゃもちろん、私だってそういうことに興味が無いわけではないけれど」


 執務机の上の書類に花丸マークのようなものを落書きしながら少女が言う。

 普通に興味あるんかい。


 さきほどから足取りが妙だと思ったが、指先などのちょっとした動きもなんかおかしい。

 なにかのミュージカルの真似でもしているようだ。

 リズミカルに動きながら、その動きに合わせたリズムとイントネーションで声を出しているんだ。


「だからといって、私は今はそういう気分じゃないのよ、ね。残念でした、シンチーさん」


 歌うようにそんなことを言って、執務机の上の書類を床にばらまく。

 一瞬ビクッとするが、夢だから気にしなくてもいいと言えばいい。

 軽快な足取りのまま、少女は執務机から離れてまだ部屋の中をふらふら移動する。


「え、えーと、じゃあ、どういう気分?」


 そう聞くと、少女は歩きまわるのをピタリとやめ、部屋の隅にあるソファに勢い良く倒れこんだ。

 と、唐突だな。


「……嫌な気分よ。それに、あなたのその行動もたぶん、私の逃げなのよね」


 イントネーションも全く普通になった。

 さっきの似非ミュージカルは本当に一瞬だったようだ。


「逃げ?」


 今までの変な一連の行動につっこみたかったが、キリが無くなりそうなのでとりあえず話を続けよう。


「自分と向き合いたくないから、こんなドタバタをしているのよね、きっと」


 少女が小さなため息をつく。

 あ、あぁ、俺のアタックをそう解釈してくれるの。

 普通に俺の本音だったんだけど。


「ああーー! もおおおおおお!!」


 少女がソファーに顔をうずめて奇声を上げる。


「お、おい、どうしたどうした……」


「私はどうすればいいのよぉぉ!! 本当にアレどうすればいいと思う!?」


 アレ?

 全く検討がつかない。


「う、うぅむ、難しい問題だなぁ……」


 とりあえず誤魔化してみるが、ちょっと苦しい。


「お父さん、いくらなんでも気が早すぎだと思うよね?」


 少女がソファから顔を上げてこちらを見る。


 え、お父さん?

 君の父親がどうしたというのか。

 やはり検討がつかない。


「ま、まぁ……気が早いかもしれないなぁ」


「本当に何考えてるのよ! いきなりお見合いさせようとか……まだ私はパン屋を継ぐとは言ってないのに」


 ん? ん?

 そ、そうだ。


「か、考えを整理するために、他人にも分かるように状況を言葉でまとめてみた方がいい」


「え? それもそうね。ん~っとね……うちのお父さんがこのところパン屋継げってうるさいのよ。お母さんが言うには、お姉ちゃんが家を出ちゃったから私には家に残って欲しくてそんなこと言っているらしいの。でも、私だって他のことをしてみたいの。たしかに全然どうしていいかわからなくて宙ぶらりんだけど」


 夢のくせになんてリアルな設定だ。

 しかしそれはなかなか大変そうだ。


「ほ、ほ~……」


「そしたら、今日お見合いに参加しろとか言い出すんだからさぁ……。よっぽど私にパン屋を継がせたいんだろうけど、困るよ……」


 少女がグテ~っと脱力してソファに埋まる。


「お、お見合い? 誰と?」


「誰っていうか、ティエラ・アンバチュールの東ブロックと北ブロックの合同の集団お見合い。知ってるでしょ?」


「お、おお、もちろん」


「あれはさ、何度か見たことあるけど、あの雰囲気が絶対に無理なの。本人だけじゃなくて親戚がついてきたりするし、そもそも街中のカフェのオープンテラスだから他人に見え放題。みんなすごく居心地悪そうなのよね。私はあんな見せ物になって恥ずかしい思いしたくないもん」


「ああ、それはなぁ……」


 俺もさすがにそれはちょっと恥ずかしい。

 街中の人々の衆人環視に晒されながらお見合いはさすがに難易度高い。

 しかし集団お見合いとは。

 ファンタジー世界なら、親が勝手に相手を決めてくるとかそういうのじゃないか。

 それともあれは貴族とか良家だけなのだろうか。

 実際は色々あるのだろうが、向こうの世界ではそういう設定なのか。


「でも断るとうるさそうだから、一応行くということにしておいて、その日に風邪引いたふりして寝ていようかなって」


「へぇ、ならいいじゃないか」


「よくないよぉ……」


 少女がソファの上で寝返りをうって、そのまま床にドスンと落ちる。

 しかし、特に痛くなかったようで、そのままノソノソとソファにもう一度這い上がる。

 その様子はものすごく物臭な猫みたいだ。

 言ったら怒りそうだけど。


「よし、そんなあなたに潜在意識からのナイスなアドバイスだ」


 ソファにしがみついている少女が視線を向けてくる。

 よし、折角の夢なんだから無茶なことを言って大惨事を引き起こしてやろう。


「いいか、起きたら真っ先に近所の暗黒武術の道場に入門するんだ! そこで暗黒武術を一週間で極めて……」


「そんな変な道場無いわよ」


「なにっ……?」


 なんて用意が悪いファンタジー世界だ。

 だいたいファンタジー世界というのは中二病にとって都合のいい要素が都合よく取り揃えられているのが普通だろうに。

 なんて融通が効かないファンタジー世界だ。


「……大丈夫かな、私の頭」


 と言って、少女が自分の頭を撫でる。


「な、ならば、”黒の薬師”がやっている薬屋を訪れて毒薬を買い込んでおいてだな、お見合いの当日に全員が飲むことになる水差しの中にドサクサに紛れて投入して……」


「そんな薬屋ないってば。……潜在意識まで混乱してるのかな」


 少女がソファの上で仰向けになって大きなため息を吐き出した。


「くっ……ではこれこそが潜在意識の最終回答だ。起きたらまずフライパンを持て! なければ鍋でもいい! それぐらいはあるだろう!?」


 フライパンも鍋もないとか言うなよ、ファンタジー世界。


「それぐらいならあるけど」


 よしっ!


「いいか、しっかりと握るんだ。そしたら、朝は父親がパンの仕込みをしているだろう」


「してるわね」


「そうしたら、フライパンを握ったまま音を立てずにそうっと後ろに忍び寄れ」


「え……」


 少女が不安そうな顔をする。


「十分に近寄ったら、そのまま後頭部にフライパンを打ち付けろ!」


「そんな馬鹿なことするわけないでしょ!?」


 少女がソファから身を起こして大声を出した。


「馬鹿者! 自分の壁を超えなければ貴様の道は見えてこないのだ!」


「で、でも、それはいくらなんでも危険……」


「貴様ごときの力であの屈強な父親が致命傷を負うことはないのだから、変な心配は捨てて……」


「え、お父さん、痩せてるじゃない」


「に、肉体的にはそうかもしれないが、精神的に屈強な父親がそうそう簡単に……」


「あんまり強そうには見えないけど……未だにお姉ちゃんのこと愚痴るし」


「そ、そうかもしれないが、そんな理屈はどうでもいい! いいか、力の限り、相手の命を奪うつもりで思い切り後頭部を叩け!」


「そんなことをしたら……」


「いや、今俺はとても大切なことを言っている。理屈は抜きだ! とにかく起きたら親父の後頭部を全力でフライパンでぶん殴るんだ!」


「そ、そんなの下手したら死んじゃ……」


「大丈夫だ! 心配するな、スニュートラ様のご加護がある。自らの潜在意識が100%の確信を持って断言しているのだ。それを信じないでどうする!? 理屈は後からついてくる」


 我ながら滅茶苦茶だが、勢い勝負だ。


「わ、わかったわよ……」


 少女がしぶしぶと頷く。

 お、来た!?


「本当に叩くかどうかは別として……叩かないと思うけど、フライパン持って行ってみる……」


「違う! 問答無用で叩け!」


「だ、だってそんなの危なすぎる」


「危ないか危ないかなどという理屈は脇にどけろ! 必要なのはフライパンを持って全力でスイングするという勇気だ!」


「でも、そんな……あれ?」


 必死の説得の最中だというのに、少女が明後日の方向に視線をそらす。


「ん?」


 釣られて同じ方向を見ると、二人の男が立っていた。

 一人は60前後の厳しそうな雰囲気の男で、もう一人は二十代半ばをみられる長身のイケメンだ。

 どちらも白を基調とした神官服のようなものを着ているが、50前後の男が来ている服のほうが装飾が重々しい。

 階級の差だろうか。

 とにかく、神官二名様が突然登場したようだ。


「なんだ、モブを作ったのか?」


 少女に聞くが、返答はない。

 もう一度二人に視線を向けると、年をとった方の男が眉間にしわを寄せたのだった。








この物語は本当に自由ですね。

特に主人公が自由過ぎる。

投稿前に見なおしていて「なんだこれは……」と作者自身が困惑する始末。

でもどうにもなりません。

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