他人事ではない!?医療崩壊に陥った国で起きた衝撃のノンフィクション映画「ミッドナイト・ファミリー」

2021.02.20

コロナ禍で「医療崩壊」という言葉が日常化してきた今、社会のあり方を考えさせられるドキュメンタリーが全国で公開されている。インディペンデント映画祭の登竜門として知られるサンダンス映画祭2019で、米国ドキュメンタリー・コンペティション部門撮影賞を受賞した『ミッドナイト・ファミリー』である。メキシコシティで「民間救急隊」を営むオチョア一家を、追った作品だ。

あらすじ

真夜中、無線で情報を拾った救急車が出動する。ところが待機していたその救急隊はずいぶんとラフであり、車内では子供が遊んでいる(!)有様だ。しかし事故現場に到着すれば、救急隊たちはさすがのプロ。テキパキ処置を終え、負傷者を病院へ運び込む。そして待つこと数時間……? 「ダメだ、文無しで払えない」。これは人口900万人に対し、行政が運営する救急車が45台にも満たないというメキシコ・シティで「救急車の闇営業」を営む一家の、リアルな日常なのである。ケガをしても、市営の救急車はまず来ない。そこで民間の救急隊が乗り出すのだが、報酬は患者の家族と直に交渉するしかない(しかも拒否されること多数)。仕事は早いもの勝ちなので、事故の情報をつかむやいなや同業者とカーチェイス状態。挙句の果てに、無許可営業を見逃してもらうための警察へのワイロetc. こんな有様なので家族が暮らすにはギリギリの日銭しか稼げず、食費も節約せざるをえない。スリリングかつパワフルな現実が、観客に突きつけられる。

見どころ

犯罪組織による麻薬戦争が繰り広げられるメキシコでの、非合法営利活動。それが、市民の命綱になっているという現実。気軽に旅が楽しめていた時代でも、日本に暮らす私たちには知りようのないディーブな世界が、生々しく迫ってくる点はシンプルに「すごい」のひとことだ。しかも誰しも無関係ではいられない「救急医療」という現場の話しであるから、どの国に暮らしていても他人事ではない。

映像を見ていると民間救急車の利用料金はかなりの高額で、HPによると「海賊」「寄生虫」呼ばわりされているという。しかしそれは彼らの営利体制に責任があるのではなく、社会制度の問題だろう。私たちの社会にもある問題点もいろいろ連想させられ、憂いとともに、いろいろ考えなくてはいけないという気持にさせられる。

そしてそれ以上に心に残るのは、オチョア一家の人間味。映画では救急隊のスピード感溢れるシーンばかりではなく、リラックスした家族の日常も追っている。グッドルッキングな若い男だという自覚アリアリの長男ホアンは、パッと見はチャラ男君。いつも電話している年上彼女との会話からは、少々上俺様風なニオイを感じるし、息を吐くように悪態をつく。ところが現場では誠心誠意仕事に取り組んでいて、そのギャップが魅力的。拡声器でガナりたてるなどパワフルに立ち振る舞うものの、どこか諦めの色を浮かべた中年オヤジの父親の佇まいは、人生の深みが漂ってくる。そしてザ・末っ子!といった、小学生のぽっちゃり次男ホセの、いじらしさったら。皆さん本当に役者じゃないんですか⁉ と思うほどに深イイ表情が撮れているのは、ファミリーと4年間かけて信頼関係を築いたという監督の手腕なのだろう。

この一家が繰り広げるファミリー・ビジネスは事実だけを見れば社会の闇なのだが、現場の映像から感じられる暖かいパワーに倫理観を軽くゆさぶられてしまう。うんざりするような毎日でも、闇救急車のように力強く夜を走り抜けたい。そう思わせてくれる、作品だ。

公式サイト『ミッドナイト・ファミリー』
https://www.madegood.com/ja/midnight-family/

文/山田ノジル

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