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俺の奴隷ハーレムがインフレ過ぎて酷い 作者:唯乃なない
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奴隷の平均年齢がインフレ過ぎて酷い

「はっ!?」


 鳴り響く目覚ましの音。

 反射的にガバっと起き上がる。

 カーテンの隙間から差し込む爽やかな朝日。

 そしてここは……


「ここは……俺の部屋!? 嘘!? 戻れたの……か?」


 どうみても自分のアパートのベッドの上だ。

 願いがかなって日本に戻れたというのか。

 自分の頬をつねってみる。


「痛い! やった、夢じゃない! 本当に戻れ……あれ?」


 我に返った。

 未だに鳴り響いている目覚ましを止める。


「いや……夢かよ、あれ」


 自分で自分にツッコミを入れる。

 異世界から戻ったのかと思ったら、なんのことはない。

 そもそも異世界行き自体がただの夢だったようだ。


「なんだよ……通りでめちゃくちゃな展開……でも変なところだけ妙にリアル……はぁ……」


 大勢の性奴隷に囲まれてウハウハな夢でよかったのに。

 なぜ、ああなった。


「なんだよ……にしても、なんであんな夢を……」


 視線を机に向けると、机の上には昨日買ったビジネス書が派手な原色の表紙で「私はここですよ!」とアピールしている。


「…………」


 無言でベッドを出る。

 汗で体中ベトベトだ、気持ち悪い。

 机の上のビジネス書を手にとって見る。


『インフレ思考による状況打開術』


「うーん……」


 こんな本、読まなきゃ良かった。

 絶対にこの本のせいだ。


 就職前に人気のビジネス本なんか読んでみようと思ったのだ。

 そしたらいつも行く書店で「なんとかかんとかのランキングNo.1」とPOPがついたこの本があったのでうっかり買ってしまった。

 いくつか問題解決した事例が載っているのだが、著者が誇らしげに自慢するのとは裏腹に、どうみても問題を逆に複雑にしたり被害を拡大させているという完全なるトンデモ本だ。

 あの書店、信用してたのに。


「こいつのせいで……こいつのせいで俺のハーレムが……そんな都合のいい夢、二度と見られないかもしれないのに……」


 世の中には自由に望んだ夢を見れる人がいるらしいが、自分にはそんなことは出来やしない。

 折角のおいしいはずの夢が変な本のせいで台無しだ。


「おっと……」


 こんなところでのんびりしている場合ではない。

 目覚ましをかけたということは今日は朝から講義が……


「……無いな」


 単純に目覚ましを切り忘れただけだ。

 となれば、やることはひとつ。


「もう一度寝てやる……続きだ……続きよ、来いっ!」


 カーテンを締め切り、アイマスクをつけ、もう一度ベッドに潜り込んだ。




 目を開いて、俺は叫んだ。


「おっしゃぁ! 来たああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 周囲を見れば、あの館の自室。

 手元を見れば執務机が視界に入る。


「なにが来ましたか」


 そして、目の前を見ればあの憎きメイドが当然のように帳簿を開いて立っている。


「帰ってきた……と、言うことさ。今度こそ、男の野望を実現するためにな。ふはははっ」


 自分でもわかるほどドヤ顔をしながらメイドの目を射抜く。


「そうですか」


 しかし、メイドは全く意に介する事無く帳簿を開く。

 こ、こいつ……やはり手強い。


「本日のご報告です。ご主人様、お喜びください。ご主人様の奴隷ハーレムはついに8,000人を突破いたしました」


「あ、れ……増えている?」


 壁にかかっているカレンダーを見る。

 前回の夢から2ヶ月経っている。


「って、ちょっと待て、この前聞いた時は3ヶ月後に6,000人の予定じゃなかったか!?」


「優秀な奴隷商が見つかりまして、ペースが上がりました」


 メイドが淡々と答える。


「見つけるなよっ!」


「それから、隣国での大量買い付けもほぼ成功しております。年末までにはご主人様の奴隷は23,000人に達する予定です」


「ほへ……?」


 再開早々とんでもないペースでインフレが始まっていく。

 絶対にあの本のせいだ。


 目の前が真っ暗になる。

 お先真っ暗な展開に絶望すら覚え……たところで思い出した。


 そうだ、こいつは夢である。


「くははは……」


「どうされましたか?」


 メイドが首を傾げる。


「くはは……くはははは!! 怖くない、怖くないぞ! 貴様は所詮俺の夢の産物! 俺こそが絶対なる王者! この世に君臨する神とはまさに俺のこと!」


「…………」


 メイドは訝しげな表情になると、そのままじーっと俺を見つめてきた。


「……さて、今後の計画ですが」


「い、いや、お前、無視するなよ」


「なんでしょうか」


 なぜかメイドのセリフには謎の威圧感がある。

 しかし、夢とわかれば怖くない。


 椅子から立ち上がり、メイドの前に移動する。

 俺の移動に従って、メイドの視線も追従してくる。

 やはり怖い。


「お、おい、いいか、ここは夢だ! いい加減にその傍若無人な振る舞いはやめてもらおう!」


「……大丈夫ですか?」


 メイドがなんとも言えない表情で見上げてくる。


「い、いや、わかってもらえないかもしれないけど、ここは俺の夢でな」


「はぁ……」


 絶対に納得してない表情でメイドが頷く。


「とにかく今度こそちゃんといた奴隷ハーレムを作り上げる」


「作り上げておりますが」


 メイドが淡々と言い切る。


「どこが!? 俺がどれだけ肩身の狭い思いをしていると思っている!?」


「肩身が狭いのはご主人様の性格次第だと思います」


「いや、お前な……」


 男1匹 vs 女8000人。

 男はそんなに強くない。


「誰が勝てるか、馬鹿野郎っ!」


「それでは私はこれで」


「だから待てよっ!」


 踵を返すメイドの肩を掴んで引き戻す。


「今日は随分と威勢がいいですね」


 メイドがすこし首を傾げる。


「ははは、夢とわかればこっちのものさ! これまでの狼藉・やりたい放題を精々後悔することだな!」


「私も忙しいのですが」


「今日こそお前を血祭りに……」


 と、言いかけたところで、ふと気がついた。

 さきほどの夢では、ダイジェストのように超高速で展開していったせいもあるだろうが全然メイドが取り合ってくれなかった。

 しかし、今回の夢ではかろうじてコミュニケーションが取れている。


「うん、前回よりはいいよ。前回よりはいいけど、後もうちょっとコミュニケーションを取ってくれないかな……」


「私も忙しいので。お楽しみのお相手でしたら8,000人の奴隷がおります。では」


 またもやメイドが踵を返す。


「ちょ、ちょ、待った待った! 今後の方針についてきちんと語り合いたいんだ!」


「ご希望があるのであれば手短にどうぞ」


 メイドは扉に歩きかけた体勢のまま、首だけこちらに向けて答える。

 そんなに帰りたいのかこのメイドは。


「あのな、俺は最高の奴隷ハーレムを望んだのであってこんな現状を望んだわけではないんだが!?」


 そう怒鳴ると、メイドはしぶしぶとコチラに向き直って、不機嫌そうな表情を浮かべた。


「奴隷の取り揃えは最高だと自負しておりますが」


「違うだろ!? もっとこう、質とか雰囲気とか……数よりそういう方が大事だろう!?」


「私は初日にご主人様から『見渡す限り女で埋め尽くされているようなハーレムに憧れる』というお話を聞いた覚えがありますが」


「え……そんなことを言ったことになっているのか」


 覚えがないが、言っていてもおかしくない。


「い、言ったかもしれないが、方針変更だ! 数は減らして質を重視だ! とりあえず十代と二十代だけ残して後は出て行ってもらって……」


「年齢だけで判断ですか?」


「よ、容姿ももちろん含むけど」


「厳密に決めていただかないと判断できません」


「厳密と言われても……」


「なんならご主人様自身でご判断下さい」


 あれ、初めてメイドが取り合ってくれてる。

 なんと、あのメイドと実のあるコミュニケーションができている!?


「わ、わかった、そうする!」


 喜んで返事をした。



 夢時間で30分後、俺は面接一人目の奴隷である78歳のおばあちゃんの長話に付き合わされていた。


「あたしの娘時代はそれはそれはきれいな娘でねぇ……」


「それは何度も聞いたんですが……」


 それに、自分で言わないで下さい。

 そして、いくら奴隷相手でも年上には律儀に敬語で対応してしまう俺。


「……で、ティカローの町で前の亭主と世帯を持ったんだけど、最初は働き者のいい男だったんだけど途中で酒浸りのクズ男になっちまってね」


「はぁ……そうですかぁ。それもさっき聞いたんですけど」


 その後離婚して娘を連れて別の地域に行き縫い物や近所の工場の手伝いなどで食いつないだが娘は行きずりの男と反対を押し切って駆け落ち同然にいなくなってしまい打ちひしがれたところを何かと気にかけてくれた男と書類上夫婦というわけではないが実質的には夫婦として生活したが男が亡くなった後は頼るべき所がなく借金が積み重なり債務奴隷となったが当然買い手がなく奴隷商の元でその日暮らしをしていたところを我が家のメイドの理不尽買い付けにより我が家に来た。

 ……という話を、何度も部分的にループしながらに長々と語り続けられた。


「……そんなわけだから、追い出されても行き先が無いのよ」


「そ、そうですか……ま、まぁ、ならしばらく居てもらっても……はい、次」


 おばあさんが部屋を出て行く。

 ようやく終わった。


「これで1人終わり……」


 残り、8,053人。

 めまいがした。


「はい、次……」


 しかし、二人目も79歳のお年寄りで長話の上行き先なし、三人目も病気のため買い手の目処なし。

 このままでは一人も奴隷の人数が減らないのでは、と不安になってくる。


「つ、次……」


 次に入ってきたのは17,8と思われるかなり美人の女の子だった。


「親族とか知り合いで引き取り手いる? ……どうせ居ないんだろうけどさ、はぁ」


「い、いえ、兄がおります」


「なに!? よし、じゃあ、さっさと出て行け!」


 その女の子は債務奴隷から開放するという形で追い払った。

 その後も続々と親族が居たり、奴隷商で引き取り手がありそうな上物ばかり続いて、順調に人数が減っていく。


「よし、いいぞ! いいぞ! いい感じだっ!」


 ノリノリでどんどん人数をさばいていく。



 一晩で見た夢とは思えないほどの時間が経過し、夢の中では二週間の時が経っていた。


 いつもの俺の部屋でメイドが不満そうな表情で帳簿を開いている。


「ふはは……ふははは! どうだ! 奴隷の数はどこまで減った!?」


「8,054人から385人へ減少しております」


「やった……やったぞ! 俺はついにやったぞ!」


 思わず声も大きくなる。

 メイドが小さな声で、


「せっかく集めたのに……」


 とか小さくつぶやいている。

 このメイドが独り言を言うところなんて初めて聞いた。

 それからやおらメイドは帳簿を脇に挟むと手を組んで、


「神よ、私は決して誓いを破ったわけでありません。ご主人様にとっても最高の奴隷ハーレムが私達の常識からかけ離れていただけです。私は決してあなたの意志に背くことは……」


 とかなんとか小声で言い訳のようなお祈りを始めた。


「おい、ちょっと待て! 俺がおかしいみたいなことをいうな! あんな最悪な雰囲気の人口過密ハーレム、誰が喜ぶか!?」


 突っ込むと、メイドはお祈りを中断して不機嫌そうな表情のまま視線を向けてきた。


「なんだよ」


「少なくとも私達の常識では、老人奴隷と病人奴隷を集めたハーレムは最高ではありません」


「は? 何言ってるんだよ。最高のハーレムにするために人数を減らしはしたが……あれ?」


 頭のなかの情報を引き出して整理し直す。

 そう、俺はあの雰囲気最悪でふざけた人数の奴隷ハーレムを改善するために量を減らして質を高めようとしたはずだ。


「たしかに人数は減っておりますが、若い女達や健康なものを全て追い出してしまいましたね」


「……ん?」


 そういえば、いつの間にか人数を減らすことにやっきになり、誰もが欲しがるような奴隷たちはどんどん追い出してしまったような記憶がある。


「え、まさか……今の奴隷ハーレムの状況は……」


「ご老人と病人ばかりです」


「嘘……」


「ちなみに昨日の時点でハーレムの平均年齢は60歳を超えました」


「うそん」


「本当です」


 メイドがきっぱりと言い切る。

 途方に暮れた俺は、窓の外に広がる青空に視線を向けた。


「綺麗だなぁ」


「そうですね」


 というメイドの声を聞いたか聞かないかの間に、いつの間にかカーテンの隙間から現実の空を見ている自分に気がついた。

 アイマスクがずれたらしい。

 時計は午後2時を指している。


「俺の……俺のハーレム……ハーレムが……」


 さすがにもう二度寝はできなかった。


ちょっと作品の方針を転換したため、作者自身も作品全体の見通しを失いました。後は野となれ山となれ作戦。きっと物語が物語自身で終着点を見つけてくれるでしょう。

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