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俺の奴隷ハーレムがインフレ過ぎて酷い 作者:唯乃なない
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奴隷の数がインフレ過ぎて酷い

ギャグとインフレ展開の組み合わせを試してみたくて書いてみた一品ですよ。

 ある日目が覚めたら俺は唐突に異世界に転生していた。

 そして状況把握もままならないままに、目の前にふわふわ浮いているご老人ならぬ神様に世間話のように転生特典を聞かれ、なんにも考えずに転生モノにありがちな「最高の奴隷ハーレムと使い切れないほどの大金とかおもしろいかなぁ。まぁそんなの無理だよね」と答えたのだった。

 ところが案外あっさりと神様は頷き、ぼうっとしている間に手近の神殿から少女がやって来くるわ、どでかい館は用意されるわ、大量の金貨がいきなり出現するわと、夢の中にいるように時間が流れていき、気がつくときには大金持ちの立派な館の主となっていた。

 神殿からやってきた少女は巫女らしいが、神様の言葉を受けてメイドとなり俺の身の回りの世話をするようになった。

 そこまではよかった。

 しかし、メイドが奴隷を買い付けしだした所からおかしなことになった。

 いや、正確に言えば、『最初』はまだよかった。


 屋敷に住み始めて三日後、早速メイドが奴隷を買い付けてきた時、あのメイドはこう言った。


「ようやく優秀な奴隷の仲買人を見つけまして、本日早速3人の奴隷が参ります」


 俺は愚かにも素直に喜んだのだった。


 そしてその数日後、メイドはこう言った。


「本日新しく11人の奴隷が参りました」


 あまりのハイペースぶりに俺は戸惑ったが、この時の俺はまだこのメイドの恐ろしさを全くわかっていなかった。


 さらにその数日後。


「ご主人様、お喜びください。優秀な仲買人のお陰で本日新しく36人の奴隷が参ります」


 この時、俺はようやくメイドの恐ろしさをわかりはじめていた。



 そして、3ヶ月後の今日この日。

 いつでも冷静な我が屋敷のメイドは俺の前で帳簿を広げて誇らしげにこう言った。


「ご主人様、町中の奴隷商人と仲買人に掛け合った結果、今週は234名の奴隷が入る予定です」


「もう許して」


 俺は執務室の机の上に突っ伏した。


「なにをおっしゃっているのかわかりませんが」


 いつものように冷静な声で答えるメイド。


「いや、分かっているでしょ?」


 もう奴隷なんていらない。

 この三ヶ月で俺はこのメイドの恐ろしさを存分に味わった。

 有り余る資産を活かして金に糸目も付けずに奴隷をかき集めてくる。

 俺がなんと言おうと、泣こうと喚こうと「神に誓いました」と言うばかりで毎週毎週とんでも無い数の奴隷を連れてくる。


「もう……もうやめて下さい! これ以上増やしてどうするっていうんだよ! 頼む……頼むから……」


 主としての威厳はこの三ヶ月で完全に木っ端微塵になった。

 神に祈るかのように泣き顔で懇願するが、メイドは眉一つ動かさない。


「これが私の使命ですから」


「もう……もういいんだよ……頼む……本当にお願いするから……!!」


 しかし、メイドは俺の態度なんて完全に無視して、「この様子なら来週も予定通り……」などと呟きながら帳簿をめくっている。

 そこで、ふと思いついたようにメイドが帳簿から顔を上げる。

 ようやく俺の言い分を聞いてくれるのか!


「そういえば、ご主人様はきちんと毎日奴隷を枕元に呼びつけて居られますか?」


「え……?」


 現状の改善を訴えようとしたところで飛んできた思いがけないパンチに一瞬思考が止まった。


「あ、あぁ……うん、だ、大丈夫。ちゃんとしてるよ」


「そうですか。安心しました」


 真っ赤な嘘だ。

 最初にやってきた3人のうち2人と寝ただけだ。

 一人目には性欲と勢いで高圧的に迫ったものの賢者タイムで激しい罪悪感に悩まされ、二人目は最初から最後まで気まずい雰囲気が流れ続け、それ以降全くご無沙汰である。

 が、ここで迂闊なことを言うと、安息の睡眠時間に奴隷たちをけしかけられてしまう。


「で、その、物は相談なんだけど……俺最近ちょっと静かなところで一人になりたいなぁって」


「そうですか」


「だからその、もうさすがにこれ以上増やすのは辞めてほしいなぁって思うわけなんです。というか、あの、できれば減らしていただけないかと……」


 どうしてこんなにメイドに対してへりくだらないといけないのか自分でも疑問に思いながらも、お伺いを立てる。


「なにを仰っているのですか。意味がわかりません」


 だめだ。全然聞いてもらえない。


「私は神へ誓いました。ご主人様のために史上最高のハーレムを作り上げると。その誓いに背く行為をするわけには行きません」


 お願いですから、許してください。


「男性はとにかくたくさんの女性を抱きたいと聞きました。力及ばずながら、あらゆる年齢・人種・容姿を取り揃えた最高のハーレムを実現してみせます」


 メイドが誇らしげに胸を張ってみせる。

 なんて頼もしい。

 俺がハーレムの主人でさえなければ。


「い、いやだからそんな人数いらないし……」


「なにをおっしゃいますか、ふがいない」


 酷い。


「一体どれだけ増やせば気が済むんだ……」


 そう聞くと、メイドは少し表情を曇らせた。


「申し訳ありません。最近、女奴隷の出物が少ないものですから、来週は120人の予定です。今週よりも減ってしまい申し訳ありません」


 待って、120人で少ないって基準がおかしい。


「ぜ、全然申し訳無くないから。十分多いから! もう本当にやめてください! っていうか、そもそもどうやってそんなにたくさん買ってくるわけ!?」


「優秀な仲買人達に『女奴隷を全部言い値で買う』と言えばこんなものです」


「全部買うなよっ!」


 たしかにうちの資産は無限と言っていいほど膨大だ。

 千人、二千人の奴隷を買ってもビクともしないだろう。

 我ながらバカみたいな資金量だ。

 しかし、いくら大量に買えるからといってこの人数を俺一人でどうしろっていうんだ。

 本当にいまさらだが、女の子が3人もいれば十分だったのではないかという気がしてくる。


「だから、もうこれ以上……」


「それではこれで失礼致します」


 俺が言おうとしていることを無視して、メイドは一礼すると颯爽と部屋を出て行った。


「頼むから、人の話を聞いてくれ……」



 メイドが部屋を出て行ってしまってから、俺は力なくうなだれた。


 男のあこがれ、奴隷ハーレム。

 この世界に転生してくるとき、俺は何も考えないでそんなものを口に出してしまった。

 馬鹿だ。

 ものすごく馬鹿だ。

 なんで俺はこんなものを望んでしまったんだろう。


「…………」


 無言で中空を見つめていると、耳を通じて現実が襲いかかってきた。

 どこかで上がった大きな笑い声が鼓膜を乱暴に震わせている。

 そう、この屋敷は恐ろしくうるさい。

 夜もうるさくて寝不足気味になるほどだ。

 そして、今も笑い声に混じって、


『ぎゃっはっはっはっ!!』

『ないって! それないって!』

『おらおら、かまととぶってんじゃねーよ』


 という、乱暴な言葉遣いの女達の怒鳴り声が響いてきている。


「静かにしてくれ……」


 なんだか嫌になってまた机に突っ伏す。

 我が屋敷のメイドは女奴隷を片っ端からかき集めてくるため、身を落とした元貴族から元犯罪者まで多様な女奴隷が居る。

 冷静に考えて、若くて綺麗で品が良い女奴隷なんて極一部に決まっている。

 市場に出ている女奴隷の殆どは元犯罪者や債務奴隷の類で、ガラが悪いのもかなり居る。

 そして、うちのメイドは女奴隷と見ればこだわりなく全部買い集めるため、我が屋敷にもガラが悪い連中がある程度いる。


 というか、8割方がガラが悪い。


 そのため、我が屋敷はもはや無法地帯と化している。


 使ったものを戻さない。

 屋敷の備品を勝手に自分のものにする。

 汚したものを片付けない。

 廊下でたむろす。

 グループ同士の対立が激しく、毎日のように屋敷のあちらこちらで怒鳴り合いが発生する。

 この前は、つかみ合いの喧嘩に発展してけが人が出たらしい。


 いつの間に俺の屋敷はこんな危険な場所になってしまったのだろうか。


「なんでわざわざ金を払って自分の家をスラム街にしているんだろう……」


 そして、廊下で時々見かける幼稚園児程度の小さな女の子から、トイレと部屋を往復するところをよく見かける歯が抜けている老婆まで全部俺の性奴隷だと言われても、正直困る。

 最近あらためて認識したのだが、俺の守備範囲は極めて常識的だ。

 あれが全部性奴隷と言われても頭痛が痛い。


「なんでこんなことに……」


 あのメイドが言うことを聞かないからだ。

 あのメイドは神へ忠誠を誓っているが、俺にはあんまり忠誠を誓っていない。


「も、もうだめだ。や、やっぱりなんとしてもあいつを止めなければ! もうこうなったら殴り倒してでも!」


 俺はあのメイドの部屋に向かうことに決めた。


「へ、部屋をでなければ……!!」


 俺は扉の前に立って深呼吸をした。

 トイレだろうが食事だろうが当然部屋の外なわけで、一日に何度も部屋の外にでる。

 しかし、毎回毎回緊張の連続だ。

 できれば出たくない。


 そっと扉に耳を当てる。

 お……廊下の物音が聞こえない。チャンスだ!

 今なら誰もいない!


 喜び勇んで、大胆かつ慎重に扉を開ける。


「あ……」


 この屋敷の廊下はとても広い。

 そして、その広い廊下を活かして、俺の部屋の前でおばさんが廊下いっぱいに荷物を広げていた。

 そして、よく見るとそれぞれの物品に値札が付いている。

 なんか俺の屋敷の廊下で勝手に商売を始められている。


「アー、ゴシュジンサマアルネー、コダールノ奇跡ノ石デ作ッタ指輪安イヨー」


 そして、荷物を広げているおばさんはすごく片言な発音で怪しげな指輪を進めてきた。

 どこ出身なんだろう。

 というか、廊下で商売していることについて後ろめたさとかないらしく、ナチュラルに商売している。


「あ、い、いえ、結構です……」


 曖昧な笑みを返して、そのまま離れる。

 もちろん、このおばさんも名目上俺の性奴隷だが、実際問題そう言われても困る。


 そのまま、あのメイドの部屋に向かって歩き出すと、広い廊下のあちらこちらにたむろす奴隷達の姿が目に入ってくる。

 それぞれのグループの周辺には、薄い布団が引いてあったり鍋のようなものが廊下に直に置いてあったり家財道具のようなものが積み上げてあったりする。

 生活感がすごい。というか、難民キャンプにしか見えない。

 いつ我が屋敷は難民の受け入れを始めたのだろうか。


 さきほどのおばさんのようにあちらこちらに露天も散見される。

 奴隷として売られてきてその屋敷で商売してるってどういうことなんだ。

 っていうか、この難民キャンプ具合、カオス感、生活感、騒がしさ、もう全てにおいてわけが分からない。


 そして、それぞれのグループの間にある不自然な空白の空間が怖い。

 まるでそれぞれのグループが威嚇しあっているようにも見える。というか、結構真実だ。

 奴隷を買いすぎて屋敷の収容人数を遥かに超過しているのだ。

 すべての部屋は人でいっぱいになり、廊下まで居住空間と化し、さらに場所を求めてグループ同士で対立が起きている。

 狭くてストレスフルな上、いろんな階層の人間が居るのでもめて当たり前だ。

 俺が思っていた奴隷ハーレムとぜんぜん違う。


「いい加減にしてくれよ……」


 俯いて足早に廊下を歩いて行く。

 すると、進行方向右のグループから


「ほら、行ってきなよ」

「え、で、でも……」

「行けって言ってんだよ!」


 というような会話が聞こえてくる。

 そして、そのグループから中学生ぐらいの女の子が小走りに走り出てくる。


 うわ、これは嫌なパターンだ。


 上手いことやり過ごそうと歩く速度を上げたが、床に広げられた鍋と食器に進行を遮られている間にその女の子が目の前に来てしまった。


「あ、あの……」


 女の子が下を向いてモジモジする。

 その仕草自体は可愛い。


「な、なんだよ……」


 嫌な気配を感じつつ聞き返すと、


「ば、ばーか! 死ね! ごめんなさい!」


 と言い放って、あっという間に元のグループの中に逃げ込んでしまう。

 貶した後に謝るなら元から貶さないで頂きたい。

 もちろん、さっきの娘も他の女達にけしかけられたのだろうから、ある意味被害者だ。

 しかし、この胸糞の悪さは変わらない。


「くっ……」


 あちこちから小さな笑い声があがる。

 動揺を見せないように歯を食いしばって出来る限り無表情を保ちつつ、鍋や食器を避けて逃げるように歩いて行く。


 俺は全く尊敬されていない。

 奴隷が数人の頃は俺にもそこそこ威厳があった。

 しかし、奴隷が十人・百人と増えていくに従い、いつの間にか主従が逆転した。

 千人以上の女達の中でたった一人の俺は、もはやハーレムの主人ではなく被差別民族である。

 女達がからかってくるのは尊敬や愛ではなく、それを種に笑うためだけだ。

 恐ろしく居心地が悪い。

 なんで金を払ってこんな屈辱的な空間を作ってしまったんだろうか。


「俺の……俺の馬鹿野郎!」


 歩きながら小さく呟く。

 女子校に男一人で転校したと考えてみれば、それがどれだけ恐ろしい状況か容易に想像がついたはず。

 だというのに、俺はあの時なぜ奴隷ハーレムなんてものを頼んでしまったのか……!!

 さらに無限ともいえる資産のせいで、奴隷が無限に増えていく。

 いっそ資産が枯渇して欲しいくらいだ。


「うう……」


 もはや俺の安息の地はトイレだけだ。

 いやだこんな毎日。

 日本のせせこましくも平和なアパートに帰りたい。


 が、がんばれ、俺。

 もう少しであいつの部屋だ。



 女達の無遠慮な視線に耐えながらなんとかメイドの部屋にたどり着いた。

 ノックをして扉を開けると、メイドはまた帳簿と向き合っていた。


「ご主人様、なにか御用ですか?」


 いつもの無表情でメイドが聞いてくる。


「そうだよ、用があるよ! っていうか、毎日言ってるだろ! 冷静に考えてくれよ、もうこれ以上この屋敷に人が住めるわけがないだろう!? だからもう奴隷の買い付けは……」


「ご心配なく。となり町にいい物件があったので屋敷を買い足しました。これから購入する奴隷たちはそちらに住まわせます」


 ば、馬鹿な!?


「い、いや、だから、住む場所の問題だけじゃなくて、そもそも人数がおかしいという話を……」


 それに、となり町の屋敷って、一応奴隷ハーレムという名目なのに、お前的にそれはいいのか。

 毎晩俺がとなり町まで行くと思ってるの?


「しかし、一つ困ったことがありまして、残念なことにこの辺りの女奴隷は買い尽くしてしまったようです」


 そ、そりゃあの勢いで買えば居なくなるだろう。

 少し安心する。


「そ、そうだよな。居ないものは買えないから、もう買うのは止めて……」


「やむを得ないので、現在遠方の町でも買い付けができないか調査中です」


「え? ま、待って、その調査いらな……」


「敷地の件はご心配なく。さらに近隣の町の屋敷を買い足してそちらに収容する予定です。あぁ、そうそう、隣国で不作のため農民が大量に奴隷に身を落としているという報告がありました。この際、そちらにも屋敷を買い足して大規模な買い付けを行いたいと考えており……」


「は……? は……? 何言ってんの?」


 隣町だけじゃなくて外国にまで奴隷ハーレム作る気?

 やめろ。やめてくれ。これ以上スケールを大きくするな。


「というか、も、もう女だらけはやめないか? ほ、ほら、屋敷には力仕事もあるわけだし、男の奴隷も何人か……」


 このメイドが奴隷を買いまくるのは止められないが、せめて女だけの世界は崩したい。

 せめて数人でも男の同士がほしい。

 しかし、メイドは眉をひそめた。


「駄目に決まっています。私はハーレムの実現に全力を尽くしております。男性の奴隷ではハーレムの奴隷に手を出す恐れがあります」


 いや、むしろ手を出してください。

 どんどん持って行ってください。

 俺はせいぜい2~3人、正直なところ1人で十分かもしれません。


「と、ところで……今うちには奴隷は何人いるわけ?」


 メイドが帳簿をめくりながら、しばし沈黙する。


「えー……、2,824人ですね」


 2,824人……


「なお、三ヶ月後には約6,000人になる予定です」


 それを聞いた俺は必死でメイドにやめてくれと頼んだ。

 これ以上侮蔑の視線を浴びたくない、静かな場所で一人になりたい、せめて廊下を堂々と歩きたい、とプライドも何もかなぐり捨てて子供のように泣き喚いた。

 土下座までした。

 靴でも何でも舐めるとまで言った。

 しかし、メイドの堅い意志は変わらなかった。


 神様、どうか私に慈悲をくださいまし。

最近ちょっとスランプ気味で新しい展開があんまり書けないので、昔の書きかけを修正調整してなんとか一話組み上げました。もっともりもり書けるといいな。

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