米国のワクチン接種、なぜ出足でつまずいたか? 政府規制案に対抗【WSJ厳選記事】
連邦・地方の意思疎通に不備、ワクチン配分で見誤り
By Sarah Krouse, Brianna Abbott and Jared S. Hopkins
2021 年 2 月 19 日 08:44 JST 更新
新型コロナウイルスワクチンが記録的なスピードで開発されたことは偉業だった。ではなぜ、米国でワクチン接種にこれほど長い時間を要しているのか?
その答えはまず、配布が始まった当初数週間に全米の医療用冷凍庫に眠ったままとなっていた数千万回分のワクチンから始まる。
連邦政府は配布開始にあたり、高齢者施設向けに必要量をはるかに上回るワクチンを割り当てた。ワクチンを出荷する連邦政府から、最終的に接種が行われる地方の会場に至るまでに、意思の疎通がうまくいかず、どの程度の予約を受け付けるべきか接種担当者は皆目見当もつかない状況に置かれた。供給不足の心配から、一部の病院や保健当局はスタッフや予約者向けの2回目のワクチンを確保しようとペースを抑制し、円滑な接種が妨げられる結果となった。
足元では、接種状況は改善に向かっている。だが、当初の不備がパンデミックを長引かせる恐れがある。保健当局者は感染力がより強いとみられる変異ウイルスの出現により、ワクチン接種の必要性がこれまで以上に高まっていると指摘する。
トランプ政権は急ピッチでのワクチン開発に巨額投資を行ったが、実際に国民の腕にワクチンを投与するまでの「最後の1マイル」については、州や自治体に任せた。これにより、複数のシステムが乱立し、時に矛盾するケースも発生。各地の接種会場は、迅速なワクチン投与に欠かせない供給状況に関する情報を得ることができなかった。
米疾病対策センター(CDC)によると、2月17日時点で、連邦政府が配布した7240万回のワクチンのうち、1600万回余りが未使用のままだ。
ワクチン接種の取り組みは異例の大事業であり、他にも供給不足や物流面の問題で苦戦している国・地域はある。米国のペースはここにきて改善しており、17日時点で配布されたワクチンの約78%が実際に接種された。1月11日の週は35%にとどまっていた。ただ、基準となる80~85%にはまだ達していない。トランプ政権で厚生省幹部だったポール・マンゴ氏はこう指摘する。
しかし、現在でも予約が取りづらい状況は続いており、いつ、どこでワクチンが接種できるのか分からず、多くの人が困惑している。ワクチンの納入遅延で予約がキャンセルされる、または異例の寒波などで予想外に会場が閉鎖されることもある。ロサンゼルスは先頃、供給が枯渇したことで、大型会場であるドジャースタジアムの一時閉鎖を余儀なくされた。一方、買い物に来ていたある男性が店舗内の薬局から残ったワクチンを提供され、幸運にもたまたま接種にこぎ着けた例もある。
各州は競技場などを大型会場に指定するなどして、ワクチン配布を加速させている。また連邦や州、薬局の冷凍庫で未使用のままとなっているワクチンを再配分し、すぐに投与しなければ供給は打ち切られるか、他に回されると受け手の会場に指示している。ジョー・バイデン大統領は16日、7月末までにはほぼ全国民がワクチンを接種できると述べた。
一部の州はハイテク企業を起用して、無秩序なオンラインの予約システムを整備しているほか、施設の設計などで民間部門に協力を仰いでいるところもある。
接種が当初なかなか進まなかった理由として、連邦政府のシステム「ティベリウス」に保健当局や病院の多くがアクセスできなかった点が指摘されている。ティベリウスはワクチン供給状況を当局者に通知するためのシステムで、データ解析のパランティアが開発を担当した。
ワクチンがいつ、どのくらい届くのが分からないため、接種会場の担当者はワクチンを確実に入手するまで予約の受け付けを制限。結果的に実際に接種に至るまで何日もワクチンが使われないままとなった。
これまで米国民の約12%が少なくとも1回目のワクチンを接種している。研究によると、コロナ封じ込めには、少なくとも国民の7割が免疫反応を示す必要がある。
バイデン政権は、州・地方当局者になお裁量を残しながら、接種ペースを加速させるとする措置を講じている。
連邦政府は先月、全米へのワクチン配布を拡大すると明らかにし、どの程度のワクチンが届くのか3週間前に各州に通知すると伝えた。また、長期介護施設以外での接種についても、薬局チェーンやスーパーマーケット大手に支援を求めた。
1日当たり数千人の接種が可能になるよう、多くの州が大型会場を設置している。ニューヨークのヤンキー・スタジアム、ボストンのフェンウェイ・パーク、ノースカロライナのバンク・オブ・アメリカ・スタジアムはいずれも、ここ数週間に巨大ワクチン接種会場となった。
州の保健当局者は、未使用のワクチンが残っていた主因として、連邦当局が高齢者施設やそのスタッフ向けのワクチンを過剰に見積もっていたことがあると指摘する。そのため多くの州が過剰分を再配分したり、薬局チェーンに店内での接種を許可したりするなど、対応を迫られている。
CDCは昨年、各州から高齢者施設の病床数について情報収集した。連邦の保健当局者はスタッフと患者の数はほぼ同数だと推定し、病床の2倍のワクチンを振り向けた。
だが、実際には病床数の過剰報告、もしくはコロナ禍ですでに死亡した、家族の元に戻ったなどの理由で施設内に暮らす実際の入所者数は報告されたよりも少なかった。CDCのワクチン作業部会幹部、ルース・リンクゼレス氏はこう説明する。また、施設内の入所者やスタッフの間で接種を拒否した人がかなりいたことも、過剰配布の要因になったという。
例えばオクラホマ州の保健当局者は、高齢者施設向けのワクチンをウォルグリーン・ブーツ・アライアンスやCVSヘルスなど薬局チェーン大手に送付するのを一時停止した。割り当てられたワクチン約9万7500回分のうち、3分の1程度しか実際には使用されていなかったためだ。
CVSは1月初旬、介護施設内で実際にワクチン接種を予定している入所者数は想定を2~3割下回ると明らかにしていた。ワクチン接種を敬遠する人がいることが一因だとしていた。
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