「都構想」では、広域行政を府が一元的に管理し、市を廃止して代わりに4つの特別区が設置される。だが、これも地方自治の観点からは問題があると小西氏は指摘する。
「司令塔を府に一元化すれば対立もなく、効果的な投資で大阪が成長すると維新は言いますが、それは特別区の意見を無視するということです。現在は、住民に近い基礎自治体である市と、大阪全体を広域的に見る府の二層制だから仕事を効率的に分担できている。立場が違うので調整や話し合いは当然必要です。それを悪いことのように維新は言いますが、違います。調整を通じて、よりよい答えが出ることもあるし、仮にどちらかの首長が誤った判断をしても、歯止めがきくんです」
賛成理由の2位に上がる「大阪の経済成長」についても、府市職員の見方は厳しい。
「維新の成長戦略は結局、IRと万博、それにインバウンドだけです。しかしコロナ禍でカジノ業者は大打撃を受け、撤退の可能性も囁かれる。大阪の中小企業や商店への影響も計り知れない。倒産が増えれば税収に大きく影響し、来年度は500億円の収入減と言われます。基金もかなり取り崩す必要があるでしょう。そうした環境変化が財政シミュレーションにも、成長戦略にもまったく反映されていない。反映すれば見通しが立たないからでしょうが、市民に対して不誠実です」(市の総務系職員、50代)
「大阪府戦略本部会議が9月、『ウィズコロナからポストコロナへ』と題して新しい成長戦略をまとめましたが、中身を見ると、コロナ前から何も変わっていない。結局はカジノ頼み、アジアの富裕層頼み。人手不足は外国人労働者で埋めるという発想です。大阪を支えてきた中小企業や製造業を支援する政策を、もっと考えるべきです」(府の福祉系職員、40代)
「都構想」の制度案が大阪市議会で可決され、住民投票実施が正式に決まった9月3日の記者会見で、私も松井市長に、コロナ以降もカジノとインバウンド一辺倒でよいのかと尋ねた。だが、「コロナは100年に一度。終息すれば観光客は戻り、また成長できる。大阪にはその力がある」と根拠なき楽観を語るばかりだった。
維新の府議に「自治体の再編で経済成長するという根拠は」と聞いてみると、「松井・吉村体制になった5年間で大阪市内への投資が進み、街が活気づいた。その実感が市民にあり、二度目の住民投票ができることになった」と、よくわからない答えではぐらかされた。大阪府の経済成長率(2010~17年度)は平均年1.1%で、全国の年1.3%を下回り、域内総生産も愛知県に抜き去られている。
つまり、「二重行政の解消」も、「大阪の成長」も、根拠なきイメージばかりなのだ。実際は「大阪市廃止・特別区設置」であるものが、長らく「大阪都構想」と呼ばれ、「都」になるようなイメージが広まったように。