日産自動車 NISSAN スカイライン SKYLINE 4WS HICAS ハイキャス ホンダ HONDA プレリュード レクサス LEXUS LS 後輪操舵

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なぜ4WSは復活したのか?

日産スカイラインが1985年に世界で初めて採用した4WS(後輪操舵機構)のテクノロジーが、今、世界的に復活している。その理由とは? 自動車メカニズムに詳しい世良耕太が解説する。

日産が実用化した4WSの歴史

前輪だけでなく後輪にも舵角を与える4輪操舵(4WS=4 Wheel Steering)は1980年代に登場して一気に採用例が増えたものの、1990年代終盤から下火になった。ところが近年になって再び採用例が増えている。

世界初の後輪操舵システムは1985年に日産「スカイライン」(R31型)が採用したHICAS(High Capacity Actively Controlled Suspension:ハイキャス)だ。セミトレーリングアーム式リアサスペンションは減速時などでタイヤを後ろに押す力がくわわると、ブッシュがたわんでアーム全体がトーアウト側に変位し、オーバーステア傾向(スピンを誘発する方向)に陥りがちだった。つまり、不安定になる。

世界初の後輪操舵システムは、7代目の日産「スカイライン」(R31型)に搭載された。

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後輪操舵システム「HICAS(High Capacity Actively Controlled Suspension)」の通称は“ハイキャス”。

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HICASはリア・クロスメンバーの左右付け根にそれぞれ油圧シリンダーを配し、ステアリングの舵角に応じてクロスメンバー自体の向きを変え、同相(前輪と同じ方向)に最大0.5度、後輪を操舵した。走行安定性を高める狙いである。

1988年に発売した「シルビア」(S13型)はリアにマルチリンク式サスペンションを採用、後輪操舵はHICAS-IIに進化し、前輪の操舵と同様にタイロッドで後輪を操舵する仕組みとした。1989年に登場したR32型「スカイライン」ではSUPER HICASに進化。後輪を一瞬逆相(前輪の向きと逆)に転舵して同相に切り替える位相反転制御を取り入れた。回頭性を高める狙いだ。

HICAS-IIを搭載した5代目シルビアは1988年に登場。

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1989年に登場したR32型「スカイライン」ではSUPER HICASを搭載した。

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いっぽう、1987年にはホンダが「プレリュード」で前輪と後輪がシャフトなどの機構でつながったメカニカル式の4WSを商品化した。「舵角応動型4輪操舵システム」と、名づけられたもので、高速では同相、低速では逆相に切れるようにした。低速で逆相に切るのは、小まわり性を高めるためである。同年にはマツダ「カペラ」が電子制御車速感応型4WSを、三菱はギャランのトップグレードであるVR-4にHICASと似た方式の4WSを、それぞれ採用した。

4WSの衰退

ひとくちに4WSといっても各社で狙いは異なったが、低速で逆相に切れる場合は小まわり性の向上を、高速で同相に切れる場合はスタビリティの向上を狙った。高速域で転舵した際に一瞬逆相に切れて同相に制御する場合は回頭性とスタビリティ向上の両立を狙ったものだ。採用が一気に増えたものの下火になったのは、違和感と技術の進歩が理由である。

低速で逆相に切ると、クルマが自分を中心に回る(自転する)のではなく、自分より前が中心になって回る感覚を覚える。いわゆる“コーヒーカップ・フィーリング”だ。遊園地の乗り物にたとえた感覚で、身に覚えのある人もいると思うが、何度もあれを味わうと気分が悪くなる(進化した現在の4WSでも、後席に乗ると感じやすい)。また、ホンダの機械式4WSの例でいえば、後退時にも大舵角では逆相に切れてしまうため、車庫入れなどで不自由した。

高速域での回頭性やスタビリティの確保に関しては、リアサスペンションの進化により、4WSを採用しなくてもある程度カバーできるようになった。後輪を操舵するシステムに費やす重量やスペース、コストなどと得られるメリットを天秤に掛けた場合、メリットが薄れていったのである。現在ほど制御応答性が高くなく、狙いどおりの動きを実現できていなかったのも、フェードアウトしていった理由だ。

メカニカル式の4WSを搭載した3代目ホンダ「プレリュード」。

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高速では同相、低速では逆相に切れるようにした。

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当時の報道資料には「高速走行時にはレーンチェンジなど小さなハンドル角の使用頻度が多いため、後輪を同方向に操舵、また、狭い道や車庫入れなど低速で小回りが必要な時は大きなハンドル角が使用されるため、後輪を前輪と逆方行に操舵することにより、俊敏で安定した操縦特性と高い小回り性能を両立させている。 しかも、ハンドルと前後輪をメカニカルに直結した、信頼性の高い機械式の連結作動メカニズムを採用しているため、ハンドル操作に忠実な運転感覚と素直なクルマの動きを生み出している」と、書かれている。

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4WS復活の理由

近年になって4WSが復活しているのは、それでもやっぱり、小まわり性が欲しいというニーズが出てきたこと。例えば、全長が5235mmあり、ホイールベースが3125mmもあるレクサス「LS」は2WD仕様にのみ4WS(レクサスの呼称ではDRS=ダイナミック・リア・ステアリング)が搭載されており、低速時は逆相に切るおかげで最小回転半径は4WSを搭載しないAWD仕様に比べて0.4m小さい5.6mを実現する。4WSはホイールベースを短くするのと同等の効果があるのだ。

LSが搭載する4WSシステムは「DRS(ダイナミック・リア・ステアリング)」と呼ばれる。

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低速時は逆相に切るおかげで最小回転半径は4WSを搭載しないAWD仕様に比べて0.4m小さい5.6m。

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BMW「7シリーズの」4WS(BMWは前輪操舵の可変制御と合わせて「インテグレイテッド・アクティブ・ステアリング」と呼んでいる)もレクサスLSと同様で、低速時は後輪の逆相制御によって実質的にホイールベースを短くしたのと同様の効果があり、3シリーズ並みの小まわり性を実現している。初期の4WSのように車庫入れ時にイメージと違う動きをして戸惑うことのないよう、極低速時は後輪操舵を機能させない仕組み。また、手動で後輪操舵をオフにもできる。

さらに、駆動系やブレーキなどと合わせて車両姿勢を統合的に制御するデバイスのひとつとしても、4WSはふたたび脚光を浴びている。クルマの俊敏性を上げるためだ。動きが俊敏になるということは、見方を変えれば、危険回避にも有効だ。現代の4WSは車両運動性能と危険回避性能を同時に引き上げるデバイスというわけである。

ポルシェは先代の991型「911」で4WSを採用(「リア・アクスル・ステアリング」と呼ぶ)した。最新の992型でも受け継いでおり、パナメーラにも設定している。車速や前後/横方向の加速度などのデータをもとに、1000分の1秒単位で演算して後輪の舵角を電動アクチュエーターの作動により最適に制御する。ドライバーが意図的にドリフトに持ち込んでいると判断した場合に後輪操舵の介入を控えるのは、ポルシェらしい判断だ。

「リア・アクスル・ステアリング」という後輪操舵システムを搭載する現行ポルシェ「911」。

© Right Light Media

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ルノー「メガーヌGT」も電動アクチュエーターによる4WS機構を備えている(「4コントロール」と呼ぶ)。最新の4WSに共通しているのは、4WSが搭載されているのをドライバーに感じさせないほど、制御が洗練されている点だ。知らないで乗っている人も多いと思う。

「このクルマ、思いどおりに向きを変えて気持ちいいなぁ」と、感じているのは、陰で4WSが機能しているからということも充分にあり得る。ハードウェアとソフトウェアが進化すると同時に、どうしたらドライバーに違和感を感じさせず、運動性能を高めることができるか? そのロジックに対する理解が進んだのも、4WSが復活した背景にある。

文・世良耕太