創造賢者の楽しいレベル上げ 〜無能スキル【アイテム作成】が【魔法創造】に進化し、レベルと引き換えに魔法を取得出来るようになったので、効率よく最強を目指そうと思う〜
ザシュッ!
ザシュッ!
青色のスライムを2体を倒した。
そしてスライムから魔石を回収して、一息つく。
「ふぅ……」
地べたに座りながら俺は自身のステータス画面を開いた。
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ロア・フォイル 19歳 男
レベル:49
HP:200/200 MP:250/250
攻撃力:60
防御力:45
スキル:【アイテム作成】
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「HPは減ってないな。よし、それじゃあ次の階層へ進もう」
前方の階段を降りていき、ダンジョン攻略を再開する。
俺が今攻略しているダンジョンは『フォイルのダンジョン』というFランクダンジョンだ。
フォイル村にあるダンジョンだから、フォイルのダンジョン。
そして俺はフォイル村出身のロアだから、ロア・フォイル。
お察しの通り、フォイル村は小さな村で、そこに住む俺の身分もかなり低い。
職が無いからこうやって誰でも出来る冒険者をしている訳だが、1年続けても実力は底辺だ。
所持スキルが戦闘に少しでも役立ってくれれば下の中ぐらいにはなれたんじゃないだろうか。
スキル【アイテム作成】は一見、冒険者に向いてそうなスキル名だ。
だが、このスキルは明らかな欠陥を抱えている。
何故ならアイテムを作成するには、レベルと引き換えにする必要があるからだ。
例えば、
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[紙] 消費レベル:1
[蝋燭] 消費レベル:2
[ロープ] 消費レベル:3
[HP回復薬] 消費レベル:10
[銅の剣] 消費レベル:15
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そう、こんな感じで俺はアイテムを作成することが出来る。
これでアイテム屋を開けるのなら、俺は商人として成功を収めれたかもしれない。
しかし、アイテム屋を開く資金も無ければ、お店に並べるだけのアイテムを作成する時間もかなりかかるため、その夢は儚く散った。
参考までに、俺がレベル1からレベル10に上げるまでに一週間ぐらいかかる。
何故なら雑魚モンスターしか倒せないため、貰える経験値が少なすぎるのだ。
俺はその短所を解決すれば、金を稼げるようになるのでは? と考えたこともあった。
『パーティ』を組むことが出来れば、経験値は分配され、一人よりも効率よくレベルを上げることが出来るのだ。
「(利点や計画を説明)……このように【アイテム作成】を上手く利用することが出来れば、価値の高いアイテムを量産することが可能だ! どうだ、パーティを組まないか?」
「組まない。確かにお前をパーティに入れれば金は稼げるかもしれないが、そんなことをしなくても戦える奴を加えれば、倒せるモンスターの質が上がり、経験値と金、両方稼げる」
その通りなのだ。
俺はそれを敢えて説明しなかったというのに、俺に騙されるパーティはいなかった。
「ロアは無能だ」という前提があるため、もともと聞くが耳持たれていないのだと思う。
そして俺は【アイテム作成】を使うことなく、レベル上げに励むようになった。
俺とパーティを組む者はいなく、個人の実力も低いため、倒せるモンスターは低ランクだけだ。
モンスターを倒して、少ない小銭を稼いで、なんとか生きていく。
その生活を1年続けて、やっと49レベル。
あまり高いレベルではないが、というよりもかなり低い部類だが、それでもモンスターは楽に倒せるようになってきている。
その分、必要な経験値を低ランクモンスターでは全く稼げず、レベルが全然上がらなくなっている。
「次で最下層、か」
1年間を振り返っている内に俺は『フォイルのダンジョン』の最下層の直前まで辿り着いた。
いつもならここで引き返す。
何故ならダンジョンの最下層には、ボスモンスターが出現しているため俺一人では危険だ。
「死んだら死んだで後悔する事はないな」
俺は夢も希望もないこの生活とおさらばしたかった。
もし今日俺が『フォイルのダンジョン』のボスを倒すことが出来れば、ほんの少しだけ希望が見えて来る。
そうなれば俺はまた、これからの生活に耐えることが出来る。
俺が死ねば──そこで終わり。
この生活をやめる、という望みが果たされる。
最善の解決策とは言えないがな。
ただ、これから危険の伴う命懸けの戦いをしようと言うのに、心は自分でも驚くほど落ち着いていた。
階段を降りていく。
降りた先には、結界がある。
結果を超えると、もう後戻りは出来ない。
ダンジョンボスを倒して転移結晶に触れる。
もしくは[転移石]を使う。
この2つの方法以外で最下層のボスの間から出ることは出来ない。
そして俺は躊躇うことなく、結界の中に入って行く。
その先にいるのは骸骨剣士だ。
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【骸骨剣士】
推奨討伐レベル:50
ランク:E
《フォイルのダンジョンボス》
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推奨討伐レベルは俺とほとんど変わらない。
……もしかすると勝てるかもしれない。
俺は駆け出し、骸骨剣士に斬りかかった。
奴の持つ武器は粗悪な剣だ。
刃こぼれもしている。
しかし魔法効果が掛かっているのか、見かけよりも切れ味が高い。
対する俺の武器は15レベル消費して作成した『銅の剣』だ。
苦労して稼いだ15レベル。
お前なんかに負けられねぇ!
骸骨剣士の攻撃が頬や腕をかすめる。
HPが段々と減っていく。
俺の攻撃も骸骨剣士に直撃する。
……くっ、骸骨剣と実力が拮抗している。
ギリギリの戦いだ。
だがな、俺は地道に1年間頑張ってきた重みがある。
身についた技術なんてもんは素人に毛が生えた程度。
でも俺は絶対に負けない!
お前に勝って、希望を手に入れる!
「うおおおおおおオオオォォォォ!」
ズバッ!
俺の剣が骨を切り裂き、骸骨剣士の首を刎ねた。
骸骨剣士は操り人形の糸が切れたように、地面に崩れ落ちた。
骨を切り裂いた衝撃で手がじんじんと痛い。
「1年間頑張ってやっとFランクダンジョン踏破か……。はは、こうして報われるなら案外悪くねーな」
俺はそう呟くと、一気に緊張感が無くなって、どさっと地面に座り込んだ。
『レベルが上がりました』
頭の中で神の声が響き渡る。
お、レベルが上がったようだ。
Eランクのモンスターだからな。
今まで狩ってきたFランクのモンスターとは経験値量が違うか。
しかし、これで50レベルか。
区切りが良いな。
『【アイテム作成】が【魔法創造】に進化します』
聞きなれないワードが頭の中に響き渡った。
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ロア・フォイル 19歳 男
レベル:50
HP:210/210、MP:260/260
攻撃力:60
防御力:45
スキル:【アイテム作成】【魔法創造】
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【アイテム作成】が【魔法創造】に進化……?
ステータスを見ると、スキルの欄に【魔法創造】が追加されている。
【アイテム作成】を所持したまま、どうやら新しく【魔法創造】を手に入れようだ。
だったら進化じゃなくて入手じゃないの?
まぁどうでもいいが。
「……いや、ちょっと待て……進化……?」
俺は進化というワードを聞き、【魔法創造】の効果を想像した。
進化なら、もしかすると──。
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《火粉》 消費レベル1
《飲水》 消費レベル1
《発光》 消費レベル1
《記述》 消費レベル1
《清潔》 消費レベル1
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予想通りだった。
【アイテム作成】の進化ならば、レベルを消費して対価を得るスキルなのは明白。
つまり、だ。
「レベルと引き換えに魔法を取得出来るスキル……」
言葉にして、その有用性が凄まじいことに気付いた。
今まで俺は【アイテム作成】を利用したくてもレベルを稼ぐのが難しくて、使う機会が滅多に無かった。
しかし、魔法があれば──。
「経験値の多い強力なモンスターを倒すことが出来る……」
【魔法創造】がいかにヤバいスキルなのか、俺は瞬時に理解した。
これはレベルを消費してもリセットにならない。
レベルを消費すればするほど、強力な魔法を手に入れることが出来るため、経験値を稼ぐ効率は上がる。
「……は、ははっ、ハハハハハハ!」
腹から笑いが込み上げる。
骸骨剣士を倒して僅かな希望を掴めれば良い……そう思っていたが、俺は思わぬ物を手に入れてしまったようだ。
「──このスキルがあれば俺でも最強を目指せる」
そう思った。
◇
最下層の転移結晶に触れて《フォイルのダンジョン》から出てきた俺は、冒険者ギルドで戦利品の換金と食事を済ませ、いつも寝泊まりしている宿屋に帰って来た。
俺は物心ついた頃から両親が居らず、孤児院で育った。
15歳になると俺は孤児院から出て、宿屋で寝泊まりをしながら冒険者ギルドの清掃員として働いた。
今みたいな最底辺の冒険者をするよりは賃金は多かったが、そこまで変わらない。
18歳のときに突然、《アイテム作成》のスキルに目覚めてからは清掃員を辞めて冒険者として活動している。
あまりに稼げないので清掃員に戻ろうとしたら、既に枠が埋まっていた俺は仕方なく冒険者を続けていたわけだ。
ちくしょう。
「ま、今日の報酬は骸骨剣士を倒した分、今までで一番多いんだけどな」
なので今日はいつもより豪勢な食事をした。
パンと野菜スープに加えて干し肉を食べた。
俺は美味しい肉を食べたことが無いので、干し肉を食べるたびに肉厚なステーキを食べているところを想像する。
きっと、かぶりついた瞬間に肉汁が飛び出てくるのだろう。
そして肉も豆腐のように柔らかいのだ。
想像上のステーキなので、実物は違うかもしれない。
今日食べた肉は干し肉だったが、久しぶりの肉はやっぱりコレでも美味いもんだ。
「よし、それじゃあお楽しみの時間といこうか」
骸骨剣士を倒して取得した【魔法創造】のスキルについて色々と調べていく。
正直ずっとワクワクしていた。
さて、どんな魔法があるだろうな。
【魔法創造】を開き、魔法を確認していく。
現在、俺のレベルは50。
だから、どうせなら消費レベルの多い魔法を選びたい。
強力な魔法を手に入れることが出来れば、それだけでレベル上げの効率は格段に上がるだろう。
というわけで消費レベルが50の魔法に注目した。
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《豪火球》 消費レベル50
《水塊砲》 消費レベル50
《風刃》 消費レベル50
《投雷》 消費レベル50
《土砂流》 消費レベル50
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「おお!」
結構カッコいい魔法がいっぱいあるじゃないか。
これを今すぐ取得できる?
テンション上がるな。
……待て待て、落ち着けよ、俺。
今勢いで《豪火球》を取得しそうになったけど、ちょっと待つんだ。
気持ちは痛いほど分かる。
火ってなんか見るからにカッコ良さそうだし、魔物に対しても有効打が多くて優秀だろうさ。
そう、でもここで焦ったらダメだ。
まずは一旦落ち着くんだ。
「すー、はー、すー、はー」
深呼吸をして心を落ち着ける。
「……ふぅ、落ち着いた」
ん、落ち着いた拍子に良いことを思い出したぞ。
これが【アイテム作成】の進化スキルなら魔法の詳細を知ることが出来るんじゃないか?
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《豪火球》
消費MP:200
基本ダメージ:4000
属性:火
詠唱時間:3秒
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ほうほう、消費MPは200か。
俺のステータスってどれだけだったかな。
MPとか全然気にしないから覚えてないんだよな。
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ロア・フォイル 19歳 男
レベル:50
HP:210/210、MP:260/260
攻撃力:60
防御力:45
スキル:【アイテム作成】【魔法創造】
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俺の最大MPは260か……。
200は消費MP高いな。
これだと1発打ったら終わりだ。
流石に使い勝手が悪すぎる。
「あ、あぶねぇ……。一回冷静になって本当に良かったな」
ホッと胸を撫で下ろす。
《豪火球》がダメならワンランク下の魔法を覚えれば良いんじゃないか?
それなら丁度良い気がする。
ワンランク下は……消費レベル25の《火槍》か。
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《火槍》
消費MP:40
基本ダメージ:1200
属性:火
詠唱時間:4秒
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お、これなら6回ぐらい打てるな。
ダメージもそこそこ高い。
いや十分高いな。
1200って俺を6人分ぐらい倒せるダメージだな。
そんなの今までの俺には不可能である。
消費レベルも25だし、まだレベルも余る。
今のところ《火槍》を取るのが一番無難かもな。
「よし決めた。俺が初めに取得する魔法は《火槍》だ」
『【魔法創造】の効果により《火槍》を創造しました』
どうやら《火槍》を無事に取得できたようだ。
メッセージは創造しました、って言ってるから取得っていうより創造か?
まぁそんなこと拘らなくてもいいか。
取得の方が分かりやすい。
25レベル消費されて、現在25レベルな訳だが、ここまで来たら全部使ってしまおう。
レベルは低いときの方が上げやすい。
使えるときにレベルを使う方が効率は良いだろう。
何を取ろうか。
《火槍》以外の25レベルで取得できる他属性の魔法に使うのも有りだ。
しかし、消費レベルが1とか2の魔法が割とあるんだよな。
結構便利そうだし、こいつら取得してしまっても損はしないと思う。
んー、取得してしまおう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『【魔法創造】の効果により《発光》を創造しました』
『【魔法創造】の効果により《着火》を創造しました』
『【魔法創造】の効果により《飲水》を創造しました』
『【魔法創造】の効果により《記述》を創造しました』
『【魔法創造】の効果により《清潔》を創造しました』
……略
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
低レベルの魔法を取得していったら丁度レベルが1になった。
多分、これが《魔法創造》の効率の良い使い方なはずだ。
『全ての生活魔法を創造したため、それらの魔法を統合し《生活魔法》となりました』
ん? 一体どういうことだ?
ステータスを開いてみる。
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ロア・フォイル 19歳 男
レベル:1
HP:60/60 MP:80/80
攻撃力:15
防御力:10
スキル:【アイテム作成】【魔法創造】
魔法:《生活魔法》《火槍》
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
なるほど、こういうことか。
そのカテゴリーに属する魔法を全て入手すると、このように《生活魔法》として一括りにされるのだろう。
便利だ。
……あっ、MPの値結構下がってしまったな。
ステータスが下がることすっかり忘れていた。
これは《豪火球》取らなくて本当によかったな。
取っていたら宝の持ち腐れだった。
《火槍》をギリギリ2回打てるのが不幸中の幸いといったところか。
「まぁレベルが上がればMPの最大値も増えていくし、なんとかなるだろう」
俺はそう前向きに考えて、眠ることにした。
◇
「朝か……」
目を覚めると、陽はすっかりと昇っていた。
久しぶりに幸せな気分で寝たから、どうやら寝過ぎてしまったようだ。
「とりあえず、ギルドに行くか」
俺は宿から出て、ふわぁ、とあくびをしながらギルドへの道を歩く。
村の人達はせっせと仕事に明け暮れている。
ご苦労なことだ。
すると、不意に大きな風が吹いた。
俺はすぐさま右斜め後ろを向いた。
茶色の長髪の女性がスカートを押さえていた。
だが、俺の方が反応が早かったようだ。
しっかりと白色のパンツを見させてもらった。
ふん、朝から縁起がいいな。
まぁもう昼だけど。
「……」
前を向くと、軽蔑するかのような目でこちらを見ている女性が立っていた。
群青色の少し短めな髪に茶色の瞳。
見た目は俺よりも幼く見える。
通行人か?
この突き刺さる視線から考えるに、どうやら俺の行動が見られていたようだ。
「……何か言いたいことでもあるのか?」
「無いですけど……じゃあ一つだけ。何見てたんですか?」
「な、何も見てないぞ。断じて白色のものなんて見ていない」
「……」
「き、君、なにか誤解していないか?」
「通りすがりの人が何を見ていたって別に私は興味無いですよ」
「そ、そうか。それならいいんだ。うん、じゃあ俺はこれで失礼する」
「……」
俺は逃げるように早足でその場から去って行った。
そして、ちょっと落ち込みながらも俺はギルドに到着し、食事を済ませた。
「さて、行くか。本当の『フォイルのダンジョン』へ」
ここフォイル村にはダンジョンが2つある。
FランクのダンジョンとEランクのダンジョン。
どちらも同じ名称なのだが、冒険者の間では、Fランクの『フォイルのダンジョン』に行くのは駆け出しの冒険者ぐらいなので、基本的に『フォイルのダンジョン』と言えばEランクの方なのだ。
だから1年間もFランクの『フォイルのダンジョン』に通っている俺は、誰が見ても間抜けにしか見えないのだ。
これが俺が『無能』と呼ばれる一番の理由だ。
まぁパーティを組めれば俺もEランクの方に行けたはずなんだけどな……!
ぼっちは辛いね、まったく。
『火槍』のダメージは結構高かったので、Eランクの魔物相手も大丈夫だと思う。
まぁ、一撃で倒せなかったときは引き返してくればいいさ。
Eランクの魔物と普通に対峙するのは1レベルの俺には無理だからな。
そう心に決めて、俺はEランクの『フォイルのダンジョン』に向かうのだった。
◇
『フォイルのダンジョン』にやってきた。
ここで出現する魔物は最低でもEランクのモンスターだ。
以前の俺なら一体を相手にしても倒す時間が長引くので、その間に他の魔物も襲ってきて、まともに戦うことが出来なかった。
さて《火槍》はどれぐらい通用するかな。
ダンジョン内を探索していると、早速コボルトファイターを発見した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【コボルトファイター】
討伐推奨レベル:32
ランク:E
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
物陰に隠れながら探索したおかげでコボルトファイターは、こちらに気付いていない。
これはチャンスだ。
「《火槍》」
詠唱すると、足元に魔法陣が展開された。
なんかカッコいい。
それにコボルトファイターは気付くが、襲いかかってきたときにはもう遅い。
詠唱時間の4秒が過ぎて、炎で出来た槍がコボルトファイターに向けて発射された。
「キャウン!」
《火槍》はコボルトファイターを貫き、一撃で倒した。
「おおおおお! 魔法すげえ!」
俺は興奮のあまり、大きな声を出した。
『自身よりも強い敵を倒ししたため、経験値が加算されました』
『レベルが10上がりました』
聞き慣れないメッセージが頭の中で響いた。
自身よりも強い敵を倒すと経験値が増えるのか……。
てか、そんなことよりも10レベル上がったって言ってなかったか!?
マジ?
聞き間違えとかじゃないよな!?
俺は半信半疑でステータスを開いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ロア・フォイル 19歳 男
レベル:11
HP:90/90 MP:116/116
攻撃力:24
防御力:17
スキル:【アイテム作成】【魔法創造】
魔法:《生活魔法》《火槍》
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
うわ、本当に10レベルも上がってるよ……。
今までこれだけ上げるのにだいぶ時間がかかってたけど、魔法使えば一発じゃん……。
俺は地味にガッカリした。
だけど、これは凄いぞ。
自分より強い敵と戦えば、経験値は加算されるなら俺はとても有利だ。
何故なら、消費レベルが多い魔法を取得すればするほど、強い敵を倒せるようになる。
「ふっふっふ、俺の人生もやっと楽しくなってきたな」
よし、この調子で魔物を倒していって50レベルの《豪火球》を取得するぞ!
……いや、ちょっと待てよ。
レベルが上がればMPは回復するが、高くなっていけばレベルを上げるのに必要な敵の数も増えて来る。
MPを使い切る前にレベルを上げられない状況も当たり前のように起きるだろう。
だったら、MPを回復する手段が無いと困るな。
「……あ、そうだ」
良いことを思いついた。
俺は【アイテム作成】を発動して、あるアイテムを探す。
よし、これだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
[MP回復薬]
消費レベル:10
効果:使用すると、MPを300回復する。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
消費レベル10でMPを回復する手段を作ることが出来るのだ。
つまり、Eランクの魔物を倒しただけ[MP回復薬]を作成することが出来る。
ふふふ、これは良いぞ。
バックパックが一杯になるまで[MP回復薬]を作るのは良い作戦かもしれない。
売ればそれなりの額にもなる。
「よし、これは迷わず[MP回復薬]を作成だ!」
『【アイテム作成】の効果により[MP回復薬]を1つ作成しました』
手元に青色の液体が入った小さな瓶が現れた。
これが[MP回復薬]だ。
俺は作成した[MP回復薬]をバックパックにしまう。
よし、この調子でドンドン[MP回復薬]を作成していこう。
使う機会が無いと思っていた【アイテム作成】だが、【魔法創造】を手にした今、かなり使い勝手のいいスキルかもしれないな。
「おっと、コボルトファイターの魔石と素材も回収しないとな」
でもこれでバックパックの容量が埋まっていくなら、[MP回復薬]の確保を優先した方がいいな。
まぁ入り切らなくなってきたら素材は捨てていこう。
そして俺は時間の許す限り、Eランクの魔物達を狩るのだった。
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【今日の戦果】
[MP回復薬]×10
[魔石(Eランク)]×10
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魔物の素材を剥ぎ取る時間よりをレベル上げにあてたかったので、最低限、他よりも価値の高い魔石だけ取って次の魔物を探した。
Eランクの魔石はFランクの魔石の5倍の値段で売ることが出来る。
Fランクの魔石は1個につき、400ムル。
Eランクの魔石は1個につき、2000ムルだ。
ちなみにMP回復薬は1個につき、10000ムルだ。
高いね。
そして今日の反省点は、魔物に見つかって逃げる場面がいくつかあったことだ。
欲を出さずにしっかりと隠れた方が良いな。
バックパックはまだ空きがあるので、明日も[MP回復薬]の作成に励みたいと思う。
この日、冒険者ギルドで素材の換金は魔石だけにした。
魔石だけでも今までの何倍もの収入だ。
しかし、換金をした際に俺は驚かれると同時に窃盗の疑いがかけられてしまった。
魔法を覚えたと言って切り抜けることが出来たが、明日、ギルドで魔法が使えることを証明しなければいけなくなった。
どうやら俺の信用は何も無いようだ。
この無能のレッテルが剥がれるのはいつのことやら。
◇
翌日、魔法が使えることを証明するために俺はギルドにやってきた。
このギルドには訓練スペースというものが用意されていて、初心者冒険者に戦い方を指南するための設備がある程度揃えられている。
藁を巻いたものに試し切りをしたり、木剣で模擬戦を行ったりも出来る。
俺も冒険者になりたての頃は利用した。
そして俺は今、訓練スペースに立たされている。
前には巻藁が置かれており、これに魔法を撃たなければならない。
「おいおい、ロアがついに盗みを働いたんだって?」
「いやー、いつかはやるだろうと思っていたが、とうとうやったか」
「生活する金も尽きちまったんだろうな」
「「「ハッハッハ」」」
ギャラリーに俺のことを知る冒険者が何人かいた。
俺が無様に魔法を使えずに捕まえられるところを見にきたのだろう。
まぁ魔法は使えるんだけど。
「てめえか! ウチの魔導具屋から魔石を盗んでいった奴は!」
顎髭を生やした強面のおっさんが現れて、俺に怒鳴り散らしてきた。
魔導具屋?
一体何のことだろう。
「とぼけるんじゃねえ! 昨日、ウチの店からEランクの魔石が10個消えてたんだよ! てめえが取ったんやろがい!」
「はい、間違いありません。この男は冒険者の中でも無能と有名な奴です。無能すぎてパーティも組めないのにEランクの魔石を10個も持ってくるはずがありませんからなぁ。犯人はコイツに違いありません!」
強面のおっさんの横に並んで、俺に文句を言ってくるのは昔からギルドで働いている眼鏡を掛けた痩せ方の男だ。
この人、よく嫌味を言ってくるんだよなー。
「だから言ってるだろう? 魔法を使えるようになったんだって」
「魔法? スキルポイントを貰えないお前がどうやって魔法を覚えるって言うんだ? 面白い冗談だなぁ! ハッハッハッハ!」
眼鏡をかけたギルド職員は高らかに笑った。
「「「ヒーッ! ハッハッハ!」」」
職員の嫌味に見学中の冒険者達も腹を抱えて笑った。
まぁ慣れてるので何とも思わんが……。
ちなみにスキルポイントというのは、レベルが上がったときに貰えるポイントのことだ。
スキルポイントを使って、スキルの取得やスキルのレベルを上げることが出来る。
このスキルポイントを俺は【アイテム作成】を所持しているせいか、得ることが出来ない。
だからレベルが上がっても他の人に比べて、全くと言っていいほど強くならなかったのだ。
魔法を覚える際も普通はスキルポイントを使うようだ。
しかし、魔法系統のユニークスキルを持っていないと強力な魔法を覚えることは出来ないらしい。
なので、戦闘に縁がない人はレベルが上がったとき、生活魔法をメインに取得するみたいだ。
「ーー」
冒険者達が腹をかかえて笑うなか、眼鏡をかけたギルド職員は俺に近付いてきて、
「どうせあの魔石は【アイテム作成】で作成したんだろう? 残念だったな。見栄を張ったのかもしれないが、逆に利用させてもらったぞ。お前を捕まえて得た金は俺と魔導具屋の店主と山分けにさせてもらうぜ〜」
と、耳打ちをしてきた。
……あー、なるほど。
コイツらグルだったわけか。
本当は魔道具屋も魔石なんて盗まれていないんだろうな。
で、盗まれたことにして、俺から金を騙し取ろうって訳か。
うわぁ、性格悪いな〜。
しかし、コイツは俺が魔石を【アイテム作成】で作成したと思って、こんなことをしたのか。
バカだなぁー。
今更、魔法を覚えたとか言って見栄を張るかよ。
しかもすぐにバレる嘘だしな。
「俺がちゃんと魔法を覚えてる時のこととか考えてないのか?」
眼鏡のギルド職員に俺は問う。
「なーに言ってんだよ。お前が魔法を使える訳ねーだろがよぉ!」
「なるほど、分かったよ」
そしてしばらくして、ギルドマスターと一人の衛兵がやってきた。
「ロアの窃盗容疑を晴らすためにこれから魔法の詠唱を行ってもらう。フォイルの冒険者ギルドのギルドマスターである俺が責任を持って証人となろう。ロア、これから詠唱する魔法はなんだ?」
「《火槍》だ」
「ほう《火槍》はDランク冒険者相当の魔法だな。Fランクのお前が本当に使えるのか? 撤回するなら今のうちだ。自白すれば罪は軽くなるぞ」
「なに、今から見せるさ」
「じゃあ見せてもらおう」
俺の堂々とした態度に眼鏡のギルド職員は動揺しているようだ。
「なぁ、アンタ。謝るなら今のうちだぜ。自白すれば罪は軽くなるらしいからな」
「ハッハッハ! そういう手には乗らんさ……。早く見せてごらんなさいよォ!」
「分かった」
今、ここで謝ってくれれば俺は許したのにな。
「《火槍》」
詠唱し、魔法陣が展開されると、冒険者たちは「おお……」と声をもらした。
詠唱時間の4秒が過ぎ、《火槍》が巻藁に向かって発射された。
巻藁は《火槍》に貫かれ、炎上し、黒焦げになった。
「な、な……っ! そんな馬鹿な……! お前……本当に魔法を使えるのか!」
眼鏡にギルド職員は急にガクガクと震え出した。
その額からは冷や汗が垂れていた。
「ああ、何度も言っただろうに」
「……本当に使えるようだな。ではこの窃盗も証拠不十分になるな」
ギルドマスターは言った。
「いや、窃盗じゃないと完璧に証明できる。なぜならこれは、そのギルド職員と魔道具屋の店主によって仕組まれてたからだ」
「な、なにを言い出す! でたらめだ!」
冒険者たちの間でも、ざわざわ、と波紋が広がっていく。
「俺は忠告したんだぜ。自白すれば罪は軽くなるってな──《再生》」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
《再生》
消費MP:1×秒数
効果:《録音》の音声を流すことが出来る。
属性:無
詠唱時間:0秒
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
生活魔法の《再生》を使うと、
『どうせあの魔石は【アイテム作成】で作成したんだろう? 残念だったな。見栄を張ったのかもしれないが、逆に利用させてもらったぞ。お前を捕まえて得た金は俺と魔導具屋の店主と山分けにさせてもらうぜ〜』
眼鏡のギルド職員が耳打ちした声が聞こえてきた。
そう、俺は眼鏡のギルド職員が近づいてきたときに小声で生活魔法の《録音》を詠唱していたのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
《録音》
消費MP:1×秒数
効果:聞いた音を記録することが出来る
属性:無
詠唱時間:0秒
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
《生活魔法》を取得しておいて良かったな、本当に。
おかげで痒い所に手が届いてくれた。
「ば、ばかな! こ、これは何かの間違いだ!」
「おいおい、さっきお前が俺に耳打ちしてきた言葉だぜ。その様子をお前らも見てたよな?」
見学していた冒険者たちに振ると、みんなウンウンと、首を縦に振った。
「おいテメェふざけんじゃねえ! どうしてくれんだ! そんなこと言わなかったらバレなかったじゃねーかよ!」
「わ、私に文句を言うな!」
眼鏡のギルド職員と強面の魔導具屋の店主は、意味のない言い合いを始めていた。
「なるほど、確かにこれは完璧な証明だな。つまりロアは潔白だった訳だ。……そして、問題があったのはウチの職員だったみたいだな」
ギルドマスターが眼鏡のギルド職員を睨みつけた。
「ひ、ひぃっ! ギ、ギルドマスター! ゆ、許してくださいぃ!」
「黙れ。こっちに来い」
ギルドマスターは眼鏡のギルド職員の肩を掴んで、どこかへ連れて行く。
「お前もだ」
「お、俺は何もしてねえ!」
「窃盗の罪を被せようとしただろうが!」
「ち、ちきしょ~!」
衛兵もギルドマスターを追うように強面のおっさんを連れて行った。
「ま、これで疑いはすっかり晴れたみたいだな」
……ん?
見学していた冒険者達が驚いた表情でこちらを見ている。
……めんどくさいから放っておこう。
そんなことよりもレベル上げて、早く[MP回復薬]をバックパック一杯にしないとな。
──これは底辺冒険者だったロアが、のちに『創造の賢者』として世界最強になるまでの物語。
ただ……このときのロアは、そんな輝かしい未来を思い描いてすらいなかった。
『創造賢者の楽しいレベル上げ』 後日、連載予定。
【作者からのお願い】
この短編は、連載予定の作品の最初の見せ場までを書いています。
読者の皆様の反応次第では、内容を見直すことも考えています。
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評価が高ければ高いほど、すぐに連載する決断が出来ると思うので、何卒よろしくお願いいたします。