曦瑶

「陳情令」金光瑶と藍曦臣についての彼是

「金光瑶の人生を考える」その二

何が彼をそうさせたか

「金光瑶の人生を考える」その二

金光瑶は、器用そうに見えて
実はそうではなかったと私は、思う。
器用なら、己が受けた「娼妓の子」という蔑称も差別も
屈辱も躱す事が出来ただろう。
強ければ、そして自分に自信があれば、
周りの雑言など撥ねつける事が出来たろう。
幼くして両親を喪い、江家に引き取られ、
家族のように扱われた魏無羨にも、きっと心無い周囲の声があった筈だ。
魏無羨は、強かった。自信があった。そう育つことが出来た。

けれど金光瑶は、「一度覚えた事は、決して忘れない。」という
特性により、己の痛みを決して忘れられなかった。
蓄積させていった。弱さを克服出来なかった。
人間の持つ三毒、「貪毒」貪欲・「瞋毒」瞋恚・「痴毒」愚痴。
このうちの「瞋毒」瞋恚(怒ること、腹を立てること)
これが金光瑶の場合、あまりにも大きかったのだろう。
ドラマ上で金光瑶が初めて人を殺めるのは、
自分を「娼妓の子」と罵りいじめた聶家の総領(兵長)だったし、
この殺人を目撃した聂明玦には、
罵倒され、追放された。この時懸命に弁明するも
許して貰えなかったことが失望と不信感に繋がって
後々まで尾を引いた。
「所詮、娼妓の子だ。」と罵倒され金麟台の大階段から
蹴り落とされ、殺害に至ってしまうのだ。


「貪毒」貪欲、これは、己の出生が卑しいため、
人に馬鹿にされまい、認められたい、地位と名誉が欲しいと、
権力に執着する心だろう。

「痴毒」愚痴、これは、「真理を知らず、
物事の理非の区別がつかないこと」だそうだ。
金光瑶は、全く善悪の区別がつかなかったとは、私は思えないが、
少なくとも己の野望の為には、平気で人を殺し、悪を行った。

三毒を中心に煩悩にまみれた金光瑶の生は、
どれほどの苦痛の連続だったろう。

「四苦」「八苦」
生・病・老・死
愛別離苦あいべつりく(愛するものと別れる苦しみ)
怨憎会苦おんぞうえく(憎むものと出会う苦しみ)
求不得苦ぐふとくく(求めても得られない苦しみ)
五陰盛苦ごおんじょうく(心身の苦痛)


曦瑶腐が思う金光瑶の最期は、まさに、
愛別離苦
怨憎会苦
求不得苦
五陰盛苦   そのもの。

死してその苦しみから逃れられたのかと考えれば、
少しは、救いがあるのかもと思えた。

藍曦臣は、金光瑶を

金光瑶と藍曦臣について考えているうちに、ふと「銀英伝
キルヒアイスとラインハルトを思い出してしまった。
片や原作、ドラマ共に最大の反派、片や最後まで主人公を
支え続けた義の人。
悪と善の両極端のような二人だけれど、どちらもその死によって、
それぞれの一番大切な人に大ダメージを与えたという所は、
共通していると思う。
キルヒアイスの場合は、ナンバー2が力を持ち過ぎることを
危惧したオーべルシュタインの働きかけにより会議場で武器を取り上げられ、
結果その身を挺してラインハルトの命を救い死してしまう。
ラインハルトが受けた衝撃は、凄まじい。
キルヒアイスの墓銘碑は、
ただ「Mein Freund(マイン・フロイント、「我が友」)」。
ラインハルトが肌身離さず身に着けたロケットには、巻き毛の赤い髪。
ラインハルトは、生涯この半身ともいうべき存在の喪失に
苦しんだのだろう。

藍曦臣は、金光瑶との別れのあと、彼をどう位置付けるのだろう。
「友」、「義弟」、それとも?
藍曦臣が阿瑶を偲ぶよすがは、
観音寺事件の後に聶懐桑が拾い上げていた、
金光瑶の帽子だろうか。
琴は、残っていないだろうか。
何か一つでも藍曦臣の手元にあって欲しいと思う。

金光瑶の怖ろしさ

すっかり金光瑶に取り憑かれてしまったようだ。
考察しているつもりが次第に現実と妄想との境が、
曖昧になって来た。

妓楼育ちの金光瑶は、どう考えても早熟だったろうし、
妻秦愫 との婚前交渉を考えても、
性的には、男だったと思う。
けれど、それだからこそ、妻が異母妹だと知った時の
衝撃が大きかったのだろう。
己に金光善の血が流れていることを激しく呪ったのだと思う。

原作では、結婚後、妻以外の女性を作らなかった。
周りは皆、金夫人の幸福を羨んだというような記述がある。
隠れて愛人を作っていた?
私は、光瑶は、己のSEXすら憎んでいたのではないかと疑う。
結婚時二十歳を少し過ぎた位?
その時点から死ぬ三十四歳まで禁欲?
普通なら無理だろうが、金光瑶ならありえなくないかも、と
思った。
少なくとも、金光瑶は生前、藍曦臣とは、
そういう関係になることを望まなかったと思う。
清らかだったからこそ、金光瑶は、その死で
藍曦臣の心を愛を手に入れたのだと思うから。
愛する人の手で死ぬ」
死んでいく方は、本望だろうが、
残された方は、堪ったものじゃない。
一緒に死ぬことを受け入れた男を土壇場で突き放して、
男の愛を奪って逝くのだもの。
愛した男の胸に己を永遠に刻み込むのだもの。

何故、阿瑶は、自分を残して逝ったのか。
夜ごと、藍曦臣は、問霊の琴を鳴らすのだろう。

金光瑶と藍曦臣の関係とは

非常に親密ではあるけれど、友情の範囲に留まっていたと考えています。
娼館育ちで早熟だったに違いない金光瑶は、実際、妻とも婚前交渉という
間違いを起こし、挙句、異母兄妹という事実を結婚前夜に告げられた時には、
近親相姦での罪の子を身ごもらせてしまっていました。
真実を知った時の恐怖と絶望は、はかり知れません。
思うにこの時から金光瑶は、己の性を呪うようになったのではないでしょうか。
深く敬愛する藍曦臣だからこそ、聖なる彼を決して汚しては、ならない。
淫らな気持ちは、徹底的に排除したのだと思っています。
妻とはもちろんですが、私は自分自身の男性という性、サガさえ憎んだのでは、
と感じています。それは、非常に不自然で更なる歪みを生じるでしょう。

原作では、金光瑶が金家を継いだ後の十数年間、ある月などは一緒に夜狩りしたり、
話したり、ほとんど一緒に過ごしたという記述があります。
藍曦臣は、金光瑶へ雲深不知処へ自由に出入りできる通行証を渡していました。
藍曦臣が魏無羨と藍忘機の調査報告により、ようやく金光瑶へ疑惑を深め、
結界を張ることになったのは、随分後のことでした。
それでも、心の底でまだ金光瑶を信じたいと思っていた。
だからこその、あの観音寺での藍曦臣が怒鳴って金光瑶の頬を打つという場面に
繋がったのだと思います。

十数年親しく付き合って何故、藍曦臣は、何も気づかなかったのか。
勿論、金光瑶は、藍曦臣に己の闇を気づかせまいとしたでしょう。
決して本当の自分を曝け出さず、理想の自分を演じ続けた。
そして藍曦臣は、あくまでも清らかに穏やかな紳士であり続けた。
私は、藍曦臣というひとは、藍家の家訓を遵守しようとするばかりに、
己の感情を封じていた面があるのでは、と思っています。
光瑶への表情、態度には、明らかに好意以上のものが見えているようですが、
本人には、その自覚が無かったように感じます。
それが、最後の観音寺での事件によって、
いまだかつて考えもしなかった程の感情の奔流に襲われた。
弟忘機に左腕を切り落とされ既に気を失わんばかりの状態の光瑶を
聶懐桑に諮られたとはいえ、実際に剣で胸を刺してしまう。
滴る血と肉の感触。
この世の悪の全てを為そうとも、貴方を殺そうと思ったことなど一度もなかった。
今まで貴方の為に貢献してきたけれど、見返りを求めたことなど一度もなかった。
それが光瑶の真実だった。
最期を悟った時、一度は藍曦臣を道連れにと望んだけれど、
藍曦臣が瞼を閉じ一緒に死ぬことを了承したその瞬間、
哀しい笑みを魅せて藍曦臣の胸を突き放した。
救われたのだと思います。
愛する人に生きていて欲しい」
それが光瑶にとって唯一の光だったから。
聂明玦と封じられることを納得して受け入れたのだと思います。

ですが、藍曦臣の方は、どうだったのでしょう。
ドラマでは、放心状態で石段に座る藍曦臣が、
「阿瑶、あなたは何がしたいの?」と呟いています。
喪って初めて藍曦臣は、阿瑶への愛を知るのではないでしょうか。
何も気づかなかった、気づこうとしなかった罪、
己が手を下したという現実、恐怖、絶望、
想像を絶する痛みが彼を襲うのでしょう。
金光瑶にとっては、この世で一番大事な藍曦臣の手にかかって、
生まれた場所で死ぬことを静かに受け入れていたように思うのです。
だからこそ、残された藍曦臣に安らぎの時が早く訪れるよう、
願います。


小説の中のお話だと重々判っておりますが
『欠落を喪失を受容せよ』と『赦し』が私のテーマでもありますので、
こういうことを延々と綴っていきたいと思います。

金光瑶「何が彼をそうさせたか」

「金光瑶の人生を考える」その一
金光瑶は、何故あそこまでの悪を為したか。
一言で言ってしまえば、やはり生まれと育ちなのかなあと思う。
いくら父親が大仙家の当主であろうとも、品性は最悪だし、
母親は、妓女にしては教養があるとはいえ、所詮一般人。
生まれ育ったのが娼館で、環境はすこぶる悪い。
幼い頃から周りの蔑みに耐え、母親には過剰な期待を寄せられる。
いつの日か大仙家の父親が迎えに来てくれる、その夢を繰り返し、
貧しい暮らしの中、孟瑶に教育を受けさせようと金をだまし取られ、
蔑まされ、大人達への恨み、憎しみを募らせていく。
負の境遇から抜け出そうという思いばかりが強くなる。
なまじ親孝行なものだから、母親の最後の願いを叶えようと
父親に逢いに行き、手酷い仕打ちを受ける。
聂家に仕えることになって、有能さ・勤勉さを認められて
副官にまで抜擢される。
TOPに目を掛けられれば掛けられるほど、周囲は、
孟瑶の一番触れて欲しくない「娼婦の子」という言葉で
蔑み、反感を募らせる。
原作では、この時点で藍曦臣に出逢っているのだ。
孟瑶が同僚たちに飲み物を手渡していくが、彼らはわざとらしく、
まるで汚れているかのように手を拭ってみせる。
藍曦臣だけは、礼を言って微笑む。
孟瑶にとっては、初めて認められた思いがして嬉しかったのだろうなあ。
藍曦臣と一緒にいられた時間は、本当に短いものだったけれど。

聂明玦も最初は、孟瑶に期待して、
剣法も修練すれば良いと言っていたけれど、
残念ながら上達しなかった。
修行は、広く深く極めることが出来なかった。
だからこそ、彼は百の家族の長を欲しがり、
訓練によって培われた能力を磨こうとした。
一方で阿瑶は、記憶力に秀でていた。
一度会った人の外見、名前、年齢、称号を記憶し、
2回以上会った場合、彼は相手のすべての好みや不幸を覚えて、
最適な対応をすることが出来る。
一度目にしたものは全て覚えている、一度目にした技を自分のものに出来る
「過目不忘」という能力だそうだ。
サヴァン症候群に近いものがあるらしいと聞いた。
突出した能力の代わりにどこか欠落したものがあるのかもしれない。

聂明玦は、孟瑶を信頼し期待し、彼なりに可愛がっていた分、
孟瑶が自分を苛め抜いていた総領を殺害してしまった時、
許せなかったのだろうなあ。
聂明玦の一本気さ、少しの悪も見逃せない正義感の強さ、
『「娼婦の子」などというくだらない中傷に負けるな。』という
厳しい叱責は、傷つきやすい孟瑶の心には、届かなかった。
怖れと反感を植え付けてしまった。
ここから歯車が狂っていったのだろうかと思う。

折角貰った金家への紹介状を用いることなく、
(実際は、聂家に来る前に、金家で大階段を蹴落とされているから)
温家へ潜入することになる。
ここでも短い期間に温若寒の信頼を得て、
軍事プランを奏上するほどの副官にのし上がる。

温家の内情を詳しく探り、最初は匿名で藍曦臣に情報を送り、
信頼を得ていく訳だが、全くの好意だけとも思えない。
一介の使用人である自分が大きな手柄を建てようとする野心。
見事に策が嵌り、温若寒を刺し殺すという大手柄を建てる。
功が認められ、金光善から名を貰い名を「金光瑶」と改める。
だが「子」としてではなく、あくまでも使用人の扱い。
金光善の子や甥などの次世代には「子」その次の世代には、
「如」という名が与えられる習わしが、阿瑶には、
父光善と同じ「光」、あくまでも「子」として認められたわけではない。
阿瑶はそれでも金家の一員に為れたことを良しと
自分を納得させたのだろう。
金凌が生まれた時、金光善から抱かせて貰えなかったあのシーン、
見てて悔しかった。
全ての元凶は、この屑親父!

ドラマ「陳情令」には、
魏無羨と藍思追という幼くして親と死に別れた子供達の境遇が出てくるけれど、
いずれも立派な保護者に引き取られ、暖かな愛情と十分な教育を受けて、
健やかに育った。
片や、劣悪な環境で十代半ばまで成長せざるを得なかった阿瑶。
その差は、あまりにも大きい。
人生やり直すには、5歳ほどで若紫計画を実行せねば、無理です♪

薛洋の場合は、あの子は全く善悪を知らない。愛を知らない。
才能が非常に優れた凶暴な幼子。唯一彼を気にかけてくれた
暁星塵に執着してしまった。彼の生涯も哀しい。
この子も赤ちゃんからやり直すしかない。

続きます。

 

 

「金光瑶」『斂芳尊』について

金光瑶の中の人が藍曦臣のことを、『金光瑶を照らす白月光』と例えていましたが、
中国で「白月光」とは、強く憧れても決して手の届かない存在という
意味もあるそうですね。
言葉の持つ意味、深いなあ。

で、またまた金光瑶テーマ曲「多恨生」を考えるのですが、
「皎月滲透出猩紅
 喧囂之中暗藏洶湧
 竟如芬芳的美夢」

白く清い月に緋色が滲んでくる
喧騒の中に暗流が隠れている
まるで香ばしい夢


金光瑶が白く清い月(藍曦臣)を思って見上げていると、
白い月はみるみる己が流した血の色に染まっていく
己が引き起こした喧騒の暗流
まるで芳しい美しい夢

「斂芳尊(れんほうそん)」

斂とは、収める、潜める、隠すという意味だそうです。
悪の限りを尽くした金光瑶が「敛芳尊」。
一体どんな薫りだったのでしょう。
危険な甘い香りに違いないわ♪

 

 

金光瑶「恨生」剣とテーマ曲「多恨生」

動画を見つけました。やはり腰に巻き付けていたのですね。
あまりに素早く引き抜くものだから、画像が非常に悪いですが、何とか判別出来ました。

「陳情令」解説をして下さっている方から「恨生」について教えて頂きました。
温宗主を刺し殺したあの剣だったそうです。
地面に落ちた時、ビヨンビヨンしてましたものね。
そうかそうだったか、魏無羨に尋ねられた時「その辺にあった剣」だなんて
答えてたから、信じてしまうとこでした。
金家の狩り大会の後の宴会でも、蘇抄のこと知ってた癖に、藍家の方々には、
「知りませんでした」なんて、すっとぼけるし、段々本性の黒さが垣間見れるように
成ってきました。

藍曦臣の前でだけは、清純そうに見えるのが、流石です。大変美味です♪

補足
「恨生」について考え続けているのですが、
『「恨生」は、金光瑶の精神力の影響を受け捩れる「軟剣」』なのだそうです。
人を憎む自分自身をも憎むその心が「恨生」にパワーを与えているのですね。
地獄を見てきた金光瑶が自分の精神を保つため、
人を憎むこの剣を身に着けることで、心に鎧をつけているのだろうかとも思えます。
壊れそうな、本当は脆い自分を覆い隠すために。
金光瑶テーマ曲が何故「多恨生」なのか、ようやく理解出来ました。
多くの人を憎しみ恨み、自分自身を憎み、生を憎む、そうすることで
金光瑶は、生きていたのでしょう。
私が「多恨生」に惹かれた訳が判りました。

画像では、文様が描かれていますが、
金と銀が細く捩れた優美な剣という解説を見ました。
登場人物達の武器が詳しく載った写真集をどうか日本語版で出して頂きたいです。