コロナワクチン、国内接種開始 医師ら4万人先行
新型コロナウイルスワクチンの国内での接種が17日始まった。1例目は国立病院機構東京医療センター(東京・目黒)で接種され、米製薬大手ファイザー製のワクチンが医師に打たれた。今後は同機構など100病院の医療従事者約4万人に接種し、国はこのうち2万人について副作用の有無など接種後の健康状況を観察して定期的に公表する。
世界では少なくとも70カ国が日本に先行して接種を始めており、欧米に比べて2カ月遅れのスタートになった。菅義偉首相は17日の衆院予算委員会で、欧米に比べて接種開始が遅れた理由を「日本人を対象にした治験に時間を要した」と説明した。立憲民主党の長妻昭氏への答弁。
東京医療センターでは17日午前9時前から新木一弘院長(61)ら医師や看護師ら職員12人が接種を受けた。
職員は接種会場の会議室の入り口で予診票を受け取ると記帳台で当日の健康状況などを記入。接種する医師に予診票を渡して問診を受け、シャツの袖をまくって二の腕を差し出した。
注射器は1瓶で6回の接種が可能な特殊なタイプが使われた。問診から接種までの所要時間は1人1分程だった。接種後は会場内の待機スペースで約15分間経過を観察した。
国内初の接種者となった新木院長は接種後に記者会見し「今回の先行接種が職員や患者らの感染防止に役立つとともに、この調査研究の結果がワクチンを安心して受けてもらえるデータとして有効活用されることを期待している」と述べた。
接種を受けた職員からも「これで安心して仕事に従事できる」「痛くなかった」などの感想が聞かれた。同センターでは3月末までに対象者800人の2回接種を終える予定。先行接種を実施するほかの病院にも17日以降、順次ワクチンが届く見通し。
新型コロナワクチンについては主な副作用として接種部位の痛みや体のだるさ、頭痛、筋肉痛などが報告されている。米疾病対策センター(CDC)の報告によると、ファイザー製ワクチンではアレルギー症状であるアナフィラキシーは20万回に1回の割合で起こっている。
先行接種は本格的な接種を始める前に副作用などの情報を収集することを目的とする。田村憲久厚生労働相は17日の衆院予算委員会で、ワクチンについて「副反応(副作用)の情報を国民に公表することが重要だ」と話した。ワクチンが短期間で開発されたのは、重症急性呼吸器症候群(SARS)などの経験を基にしたためだとの見解を示した。
3月中旬には医療従事者ら約370万人が対象の優先接種が始まる予定だ。一般向け接種が始まるのは4月からで、▽65歳以上の高齢者(約3600万人)▽基礎疾患のある人(約820万人)▽高齢者施設などの従事者(約200万人)――の順で対象を広げていく。ワクチンの供給状況によっては60~64歳の人の実施時期を早めることも検討する。
接種対象は16歳以上だ。国は病気のまん延を防ぐため緊急の必要性があるとして、予防接種法に基づく臨時接種と位置づけ、妊婦を除いて努力義務を課す。費用は国が全額負担する。
接種は原則として住民票のある市町村で受ける。単身赴任者や出産で帰省中の妊婦ら別の自治体に住民票がある人は事前申請すれば居住地で接種できる。職場で接種する案も浮上しており、厚生労働省が検討中だ。
日本はファイザー製ワクチンについて年内に1億4400万回分(7200万人分)の供給を受ける契約を結んでいる。海外ではワクチン獲得競争が激しくなっており、高齢者約3600万人への優先接種が始まる4月までに必要量が確保できるかも焦点になる。
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- 慎泰俊五常・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役ひとこと解説
科学者・専門家のコンセンサスはCovid-19の根絶は難しいということ、ただし現在のように世界中で猛威を振るうのではなく、インフルエンザや麻疹のような風土病 (endemic)になるというものです。 ワクチンが十分に生産されても根絶できない理由の一つは、ワクチンを摂取したくない人々が多いことです。ワクチン接種を望む人を国別に見ると (source: Airfinity)、フランス、アメリカ、ドイツは40〜50%、日本、イタリア、インドで60〜70%、韓国、ブラジル、中国で70〜80%となっています。 とはいえ、1年でここまでやって来れたこと、科学技術の進歩に感謝しかありません。
(更新) - 矢野寿彦日本経済新聞社 編集委員・論説委員別の視点
身体に針を刺すというのは手術でメスを入れるのと同じく立派な侵襲行為です。痛みに対する感じ方は人によってまちまちで、注射の瞬間を映し出す映像が流れると、それがワクチン忌避につながる要因にもなるでしょう。接種の現状を正しく、しかも「どこまで、どう」伝えるかを考えねばならないと思います。
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