「逮捕された●●容疑者を懲戒解雇した」と報道されることがあります。しかし、逮捕された時点ではあくまで疑いがかけられているだけ。有罪かどうかはまだ確定していません。懲戒解雇にするタイミングとして違和感を抱く人もいるでしょう。
弁護士ドットコムに対しても、逮捕された時点で懲戒解雇されてしまったという人から、「不当解雇にあたるのでは」との相談が寄せられました。一方、従業員がストーカーの疑いで逮捕されたとして、「解雇をしても問題はないでしょうか」という使用者側の声も寄せられています。
逮捕を理由に懲戒解雇することは法的に許されるのでしょうか。労働問題に詳しい柿田徳宏弁護士に聞きました。
●逮捕を理由に解雇することは「避けるべき」ーー逮捕を理由に懲戒解雇することは、法的に許されるのでしょうか
「まず、懲戒解雇をおこなうためには、就業規則にそのような行為を懲戒解雇とする旨の定めがある必要があります。以下は、そのような定めがあることを前提としてお話します。
どのような罪を理由に逮捕されているのか、従業員が罪を認めているのか、いないのかなどの状況にもよりますが、結論から申し上げますと、一般的に逮捕を理由に懲戒解雇をすることは拙速であり、会社としては避けるべきだと考えます」
ーーそれは、なぜでしょうか
「従業員が逮捕されたとしても無罪になる場合や、嫌疑なしや嫌疑不十分で不起訴となる可能性があります。その場合にはそもそも懲戒事由が認められず、懲戒が無効だと判断されるおそれがあるからです。
また、有罪の判決がでたとしても、かならずしもその従業員を懲戒解雇できるわけではありません。
逮捕が私生活上の非行にもとづくものであれば、その行為の性質、情状のほか、会社の事業の種類・態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針その従業員の会社における地位・職種等を考慮することになります。
そして、その行為によって会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合にかぎり、懲戒解雇も有効だとされています(日本鋼管事件:最二判昭49.3.15など)」
●「不当解雇」の主張が認められる可能性もーーもし無罪となった場合、「不当解雇」として会社を訴えることはできますか
「無罪となった場合は不当解雇としての主張が認められると思います。不起訴処分になった場合でも、嫌疑なしや嫌疑不十分での不起訴処分の場合には不当解雇としての主張が認められると思います。
ただし、いわゆる起訴猶予の場合に不当解雇となるかどうかについては、上記で述べたような事情を考慮して懲戒解雇が有効かどうかが争われることになります。
一般的に私生活上の行為にもとづく逮捕などの場合で、報道もされなかったような場合には、不当解雇であるとの主張が認められやすいのではないかと考えます」
【取材協力弁護士】
柿田 徳宏(かきた・のりひろ)弁護士
千葉県弁護士会労働問題対策委員会副委員長。使用者側の事件を多く取り扱う一方、労働者側の事件も取り扱う。労働事件に関する講演も多数(弁護士会主催研修、千葉県経営者協会労務法制委員会、千葉南法人会等)
事務所名:けやき総合法律事務所
事務所URL:http://www.keyaki-law.com/
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