☆を無くしてみよう!(または安易なセリフ語尾設定がキャラクターの多様性を損ねてしまうことについて)
えみる「突然ですが、語尾の☆を無くしてみることにしました」
はじめ「え、なになに、なんだって?」
「私はこれまで『~だよ☆』という語尾にこだわるあまりに大切なことを忘れていた。いや、なかば気づいていたというのにそれでもその語尾で押し通していた。それがどんなに間違っていたことか、さきほどなにかのきっかけで気がついたのだ。ということで、語尾はやめることにしたのさ。ふふふ、わかったかね?」
「全然意味がわからないんだけど。たしかに語尾の星は若干うざかったけど、それがどうかした?」
「どうかしたもなにもないものだよ。考えて見給え、はじめくん」
「は、はぁ? な、なにが?」
「語尾で特徴付けをするという浅はかな行為がどれだけキャラクターの多面性を描くにあたって大きな障害になっているかということを。そして、創作者自身の想像力を抑制してしまうものかを。その弊害の最たるものをこれまで私は図らずも描いてきたと言えないこともないわけだ」
「……ついていけません」
「人というのは多面性を持つものだよ、はじめくん。作品の登場人物やキャラクターも同じように本来ならそれ相応に多面性を持つものだ。私という半作者・半キャラクターの特殊な設定のものであってもそれは同じ。そこまではOKかね?」
「ま、まぁ、言わんとしていることはなんとなくわかるけど」
「それはよかった。人には気分や感情があり、他人に見せる部分もあれば見せない部分もある。つまりは時と場合によって違う表情を見せるのが人の本質であり、それこそが自然な姿といえる。しかぁし、往々にして創作物のなかの人物は非常に柔軟性にかける場合が多いと思われるが、君はどう思うかね?」
「え、な、なにが? えっと、立ち振舞がだいたい同じってこと?」
「その通り。乱暴者はいつでも乱暴者で、優しい者はいつでも優しく、物語のいついかなる場面を取ってみたとしても立ち振舞が一貫性を保ちすぎる。そんな人間がいるものか!?」
「ええっと、なにがいいたいのか……」
「つまりは、人はかくの如く幅広い振る舞いをしながら生きているということ。私という特殊なキャラクターであっても……いや特殊であるがゆえに本来なら時と場合によって立ち振舞は変化していくもの。実例で示すと……」
「ん? ん? なに、その力を溜めているみたいなポーズは?」
「は~い、私が天才文学美少女のえみるで~す☆ ……と、こういうふうに言いたい時もあれば」
「なんで、微妙に赤くなっているわけ? まさか、そんな恥ずかしがるという人間的な感情があったの!?」
「そんな気分にならないので、どうもえみるです。とあっさり言いたい時もある」
「いやもうあんた誰? レベルで違うような……」
「だからそのレベルで振る舞いが時と場合で異なるのが人間だと言いたいわけで。ということで、そのキャラクターを飾ることなく表現すれば、そのように一貫性がないのが正しいといえる。だが、それでは文字主体の作品では受け入れがたい変化になってしまうのだよ。映像作品と違って文字しか情報がないから、あまりにセリフの調子が変わると同じ人物として受け入れることが難しくなる。だから、最初から最後まで一貫性を持ち続けることが良しとされるのだよ。しかしそれでいいのだろうか。いまこそその風潮を打ち破り次のステージへと進むべき時ではないだろうか」
「あの、いままさに打ち破れない壁にぶつかってる気がするんだけど。前の話までのえみると今日のえみるのセリフを並べてみて同じ人だと思う人はいないでしょ」
「それが一人の人間が持つ超絶な多面性であるということだよ。うんうん。だいたい、なにか特徴的な口調のセリフとか見ると即座に口調が変わっちゃうし。そんなものなのだよ、人というのは」
「それは人によると思うけど……」
「ということで、そんないつでも一本調子なキャラクターとか見てても嘘くさくて飽きてくるという話さ。さきほどいったように、ただでさえ文章表現上の一貫性を保ちたくなって作者はキャラクターをいつでも同じ考え方・同じ振る舞いをするように描きやすい。ただでさえそうなんだぞ!? だというのに、さらにその病理を酷くしているのが、特徴的な言葉遣いというやつだ! 私が前回まで行っていた☆とかは、その極致。あのマークをつけるという縛りを守ろうとした結果ひたすらにナンセンス風に発言せざるを得なくなった。これはいかんだろう!? これでは、まじめに振る舞いたい時でも支障が出てしまうではないか。それから、『~だわ』とか『~にゃ』とかも同じ」
「そ、そうですか……」
「ということで、創作上のキャラクターはただでさえ多面性が失われやすいのに、安易な語尾や口調の設定はその傾向に拍車をかける。それなのに、語尾に☆をつける設定で私というキャラクターを描いてしまった私は間違っていたいう話だ」
「なんか、今回は全然感じが違った……。けど、この調子でまじめに語ってくれるとそれはそれで参考になりそう」
「それよりはじめちゃんは普通に一本書いてみなよ」
「ぐ……か、会心の一撃が……」
「それから、不真面目考察なので、あんまり真面目にやってると息詰まってくるし。そもそも、真面目なコーナーにしちゃってみなさい。途端に世間一般で常識とされているようなことしか言わない超つまらないコーナーになるに決まっているでしょう。そのさきに切り込んでいくには実は不真面目さが必要だということだよ」
「へ~……そんなことまで考えてこのタイトルを決めたんだ。ちょっと見なおしたよ」
「あ、それはない。このタイトルは適当に決めただけだから」
「……違うんだ」
「7年前にノリでポコポコ投稿したんだけど、ご存知のとおりに全く続かずにほったらかしになったわけだ。だけど、私もその間なにもせずにいたわけじゃないから。自分なりに小説指南本を読み漁ったり、友達に読んでもらったり、売れ筋小説を読み漁ったり、大学院で小説表現に関する研究で……とかそんな細かいことはどうでもいいんだけど、とにかくあの時とは格段に腕が上がったわけだよ。だからリベンジをしようと思って、この作品を再開したんだ。でも余りに作ったキャラクターで書こうとした私がダメだったんだ。あんな書き方では私がやろうと思ったことができない。だから、ここからは変えるんだ」
「そ、そうか……。ってか、ここ何のコーナー? エミルの自分語りコーナーになっているけど」
「ふふん、これだから甘いな、はじめちゃんは。『そもそも、たいていの創作は個人的な欲求を作品に昇華させたもの』だといっただろう! 今の自分がどこに立ち、なにをなさんとしているかが見えていなければ創作も始まらないんだよ。ということで、自分語りに見えながら小説について語っている事にもなるんだよ」
「いやもうなんだかよくわからない……」
「この程度の混乱があってこそ予定をこえる面白いものができるんだよ。ふふふ」
「一体このコーナーはどうなってしまうんだろう……」
「なるようになるよ」
作者エミルが7年ぶりの投稿なので恥ずかしくて無理やり変なキャラを作っていたけど、「これではいけない」と思い直したようです。