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辺境ぐらしの魔王、転生して最強の魔術師になる 〜愛されながら成り上がる元魔王は、人間を知りたい〜 作者:千月さかき

第4章

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第88話「『魔術ギルド』主催『巨大ダンジョン エリュシオン』探索 初日(3)」

 俺たちが見つけた隠し部屋には、ゴーレムがいた。

 部屋の隅には、『聖域教会(せいいききょうかい)』のエンブレムがついたローブが転がってる。

 ここが、奴らと関係が深い場所なのは間違いなさそうだ。


「『聖域教会』の遺品を、『魔術ギルド』が放置したりはしないよな?」

「見つけたら、間違いなく回収していると思います」

「ということは……この場所はまだ誰も来ていない『未踏破地域』ということですわね」

「すごいな。よく見つけてくれたな、ディックたち」

『『『知性と感覚をくれたのはごしゅじんですー』』』


 ディックたちは俺の肩の上で声をあげた。

 まったく。うちのコウモリ軍団は優秀だ。



『ヴォ! ヴォオオオーーーーッ!!』



 ずん、と、地面を踏み鳴らしながら、ストーンゴーレムが近づいてくる。

『聖域教会』の遺留品(いりゅうひん)を調べるには、あいつをなんとかしないとだめか。


「どうしますの。ユウキ」

「ゴーレムは俺が処理する。アイリスとオデットは足止めを」

「わかりました」「了解ですわ」


 アイリスとオデットがうなずく。

 俺は『身体強化(ブーステッド)』2.6を発動して、走り出す。


『ヴォ!? ヴうぅオオオオ!!』


 ゴーレムの首がこっちを見る。けれど、遅い。

 というよりも、こっちが速すぎか。


『身体強化』2.6倍にしただけなのに、移動速度が3倍以上になっている。

 さすが『古代魔術』。予想以上の効果だ。


『グゥゥ! ガハアアアアアァ!!』


 ゴーレムは俺を近づけまいと、必死に腕を振ってる。

 そこに──



 ズドドドドドッ!!



 派手な音とともに、無数の火球が着弾した。

 位置は俺がいるのと反対方向。おどろいたゴーレムが振り返る。



 ドガガガガガガガッ!!



 けれど、今度は背中側に着弾。

 ゴーレムがさらに身体をひねれば、次は頭上から炎が降ってくる。


「──これが、マイロードがくれた『身体強化』1.5の力です!!」


 銀色の髪を振り乱し、アイリスが宙を飛んでいた。

『身体強化』1.5状態で地面を蹴り、空中へ。その状態で『炎神乱打(イフリート・ブロゥ)』の詠唱と動作を行い、火炎弾を発射。それが終わると再度『身体強化』を発動。

 その繰り返しで、アイリスは縦横無尽(じゅうおうむじん)に駆け回る。


「マイロードに触れることは許しません。次、お願いします。オデット」

「承知いたしましたわ。『炎属性追加』──『地神乱舞フォース・ジ・アース』」



 どごん。



 地面から飛び出した岩の槍が、膝をついたストーンゴーレムの胸に突き刺さった。



『グガアアアアアアア!!』



 オデットが呼び出した岩の槍は、先端が真っ赤に灼熱している。

 俺が与えた『炎神乱打(イフリート・ブロゥ)』の力だ。

 真っ赤に焼けただれた岩がゴーレムの胸に食い込み、岩の身体を溶かしていく。


「……やりすぎだ。ふたりとも」


 おかしいな。ここまで強くするつもりはなかったんだが。

 この分だと、アイリスとオデットだけでゴーレムを倒せるんじゃないか?


「でも、倒す前に調べておかないと」


 俺はゴーレムの背中に飛び乗った。

 手の平を短剣で切って、あふれだす『魔力血(ミステル・ブラッド)』を、ゴーレムの関節(かんせつ)に注ぎ込む。そして──


「──発動『侵食(ハッキング)』」


 俺は『侵食(ハッキング)』の魔術を発動した。



 ──内部魔術:解析開始。



 ゴーレムの動きが止まる。



 ──魔術の構造分析:ゴーレムの目的「侵入者の排除」

 ──例外:『聖域教会』の者



 ゴーレムが地面に膝をつく。



 ──魔力パターン:解析完了

 ──ゴーレムを停止。



 ズゥゥゥゥゥン!!



 ゴーレムが地面に倒れた。


「ハッキング完了だ。これでこいつは俺たちにはもう攻撃してこない」

「おつかされさまです。マイロード」

「ゴーレムと戦ったのははじめてですが、なんとかなりましたわね」

「俺の方は問題なかったけど……」


 アイリスとオデットが、桁違(けたちが)いに強くなっていたな……。

 アイリスは『身体強化(ブーステッド)』1.5の状態で、床から天井まで跳ね回ってたし、オデットは『古代魔術』に炎の要素を付け加えて、ゴーレムの胴体を貫いてた。


 正直、やりすぎた。

 ふたりに魔術の才能があることは知っていたけど、ここまでとは思わなかったんだ。


 考えてみれば、ふたりは王女と貴族として、正式に『古代魔術』の勉強をしてきてる。

「なんとなく使える」俺と比べれば、その差は歴然だ。

 きっかけさえあれば、才能が伸びるのは当たり前か。


「やっぱり人間ってすごいな」


 不老不死の俺からすれば、その成長速度はうらやましいくらいだ。

 俺も成長期のうちに、しっかり人間社会の勉強をしないと。


「どうかしましたか? マイロード」

「なんでもない。それよりこいつは予想どおり『聖域教会』が作ったゴーレムだったようだ」

「やっぱり、そうだったんですわね」

「あっさり『侵食ハッキング』できたからな。『古代器物』は、もうちょっと時間がかかるんだ」

「すごい判別方法ですわね」

「マイロードの魔術ハッキングは、前世からすごかったですからね」

「人間社会に紛れて生きるには必要な技術だったからな」


 俺が人間のふりをするためには、『侵食(ハッキング)』スキルは必須だった。

 まさか古代の魔術にまで通用するとは思わなかったけど。


「それはともかく、このゴーレムは『聖域教会』のエンブレムを持たない者に対して攻撃するようになってた。とりあえずは、俺たち相手には攻撃しないように変更しといたけど」


 生きてる使い魔相手だと、色々めんどくさいけどな。

 こいつはトラップとか、動く(よろい)とかと同レベルだから、簡単だった。


「でも、ここって、なんのための部屋なのでしょうね」


 アイリスは不思議そうに、隠し部屋を見回している。

 円形の部屋の(すみ)には、ボロボロのローブが積み上げられている。

 すべて『聖域教会』の紋章がついてる。

 俺たちが入って来たのとは反対側には、別の扉がある。どこかへ繋がっているようだ。


「ユウキはわかりますか?」

「直感でいいなら」

「いいですわ。教えてください」

「ここは『聖域教会』の残党が使った脱出路だと思う」

「「……え!?」」

「『聖域教会』は、このダンジョンで滅んだという話になってただろ。でも、奴らの残党はまだこの世界にいる。ここはそいつらがダンジョンから逃げ出すのに使った隠し通路と隠し部屋だよ。たぶんな」

「ありそうな話ですね」


 アイリスは真剣な顔でうなずいた。


「『八王戦争』の末期、『聖域教会』はこのダンジョンにたてこもって抵抗したと聞いています。そのときの争いに紛れて、隠し扉から外に出て逃げ延びた、と考えれば説明がつきます」

「だからやつらの残党が、今も生き残っているというわけですわね」

「確証はないけどな」


 俺は、部屋の隅に積み重なったローブに触れた。

 金属製のエンブレムは、まだ原型をとどめてる。

 でも、布地はボロボロだ。触れると勝手にくずれていく。


「ユウキ。ローブの下に、なにかありますわよ」

「これは……石板か?」

「石板!? ちょっと見せてください。マイロード、オデット!!」


 アイリスが声をあげた。

 俺たちは古いローブの下から、小さな石板を引っ張り出す。

 ホコリをかぶっているせいで灰色になってる。

 でも、それを払うと透明がかった緑色にかわる。翡翠色(ひすいいろ)の石板だ。


 表面には、よくわからない文字が刻まれている。

 細かくて複雑な、文字とも絵ともつかないものだ。

 その横には奇妙な紋章が描かれている。

 クモが逆立ちをしたような。あるいは、指でなにかを引っ張ろうとしているような。


「これはたぶん……『古代魔術』が刻まれた石板です」


 アイリスはぽつり、とつぶやいた。


「ギルドで聞いたことがあります。『古代魔術』は石板や、劣化しないスクロール、石壁など、さまざまなものにきざまれているって。私も、オリジナルを見たことはありませんから……確信はないですけど……」

「すごいですわ。初日でこんなものを見つけてしまうなんて」

「これが『古代魔術』のオリジナルなのか」

「でも、解読にはかなり時間がかかると思います。詠唱(えいしょう)の部分がかなり長いですし、『古代魔術』のオリジナルは、それぞれが特別な文法を持っていますから。まずは文字を解読して、どんな効果があるのかを確認して──使えるようになるまでには、長い時間がかかりますね」

「どんな効果の『古代魔術』なのでしょうね」

「知りたいのか?」

「知りたいです」

「わかった。じゃあ、試してみる」


 俺は指に『魔力血(ミステル・ブラッド)』をつけて、石板に刻まれた紋章(もんしょう)を描いた。


「……そうでした。マイロードには石板の解読は必要ないのでしたね」

「……解読せずに『古代魔術』が使えるって、すごすぎますわね」


 ふたりの声を聞きながら、俺は意識を研ぎ澄ませていく。

 どんな魔術かわからないんだ。慎重に行こう。

 ゆっくりと、探るように、手のひらの紋章に魔力を込めていく。


 ──これは攻撃用の魔術か? 違う。

 ──これは防御用の魔術か? 違う。

 ──これは移動用の魔術か? 違う。

 ──これは空間に──


 ……ん?

 なにかが引っかかった。

 魔力が、目の前の空間をひっかいているような──?


「これは──収納用の『古代魔術』なのか?」


 俺は紋章(もんしょう)を描いた腕を振り上げた。

 空中に扉のようなものが生まれた。


 俺が指で扉を押すと──開いた。

 中は、なにもない空間。大きさは、ちょっとした小屋くらいだ。


「す、すごいです。マイロード。こんな『古代魔術』があったんですね!」

「でも、そんなものがどうして、こんな場所に?」

「たぶん、使いづらいからだろうな」

「使いづらい、ですの?」

「石板を見る限り、詠唱(えいしょう)にはかなりの時間がかかる。おまけに収納空間を開くのに魔力をバカ食いするんだ」


 俺は左の(てのひら)をふたりに見せた。

魔力血(ミステル・ブラッド)』で描いた紋章(もんしょう)は、もう消えかけてる。

 魔力を大量に消費している証拠だ。


「ユウキの魔力でこれでは、普通の人には使えませんわね」

「『荷物持ち(ポーター)』を雇った方が早いだろ。だから捨てていったんだろうな」


 この『古代魔術』は発動すると、専用の収納空間(しゅうのうくうかん)を作り出す。

 その維持には少しの魔力が、開閉には大量の魔力を食う。そんな感じだ。


「ちなみに、空間に物を入れた状態で使用者が死ぬとどうなりますの?」

収納空間(しゅうのうくうかん)が消えて、中の物が転がり出てくると思う」

「使いどころが難しい魔術ですわね」

「そうですね」


 アイリスがうなずいた。


「長期的に保管する必要がないもの。魔力を支払ってでも保存しておきたいもの。人に見られたくないもの。入れておけるのは、そんなものでしょうね」

「……長期的に保存する必要がないもの。魔力を支払ってでも、人に見られたくないもの、か」


 そういえば……ちょうどいいものがあるな。

 ダンジョン探索(たんさく)の間だけ持ち運ぶ必要があって、あまり人に見られたくないもの。

 魔力を支払ってでも入れておく価値のあるもの。

 そういうものを、俺は持ってるはずだ。


「ローデリアをびっくりさせることになるが、実験してみよう」


 俺は両手に『召喚(しょうかん)』の紋章を描いた。


「我が呼びかけに応え、ここに来い。我が眷属(けんぞく)黒王(ロード・オブ)(ノワール)』よ!!」


 足元に、光る魔法陣が出現する。

 両手にあの機体をつかんだ感覚のまま、俺は腕を引き上げる。


 ──来い。


 床の魔法陣から、『黒王騎』が姿を現す。

 召喚が終わると、俺は両腕の紋章を『収納』に書き換えて、収納空間を『黒王騎』の上からかぶせた。



 すぽっ。



『黒王騎』が消えた。

 収納完了だ。


「とまぁ、こういう使い方ならありだな」

「……いえ、あの、マイロード」

「……どうして今『王騎(ロード)』を呼び出しましたの?」

「ダンジョンの下層は危ないから、『黒王(ロード=オブ)(ノワール)』で探索しようかと思って」


 俺は言った。


「収納しておけば、いつでも『黒王騎ロード・オブ・ノワール』を使える。人がいる場所では普通に魔術で探索して、人がいない場所では俺が『黒王(ロード=オブ=)(ノワール)』をまとって先行する。そうすれば、アイリスとオデットも安全だろ?」

「た、確かに」

「その発想はなかったですわ」

「どのみち、この『古代魔術』はギルドに提出することになる。報酬はもらうとして……その前に、この隠し部屋の先を探索してみたいんだ」


 俺は奥の扉を指さした。


「もしかしたら『魔術ギルド』がまだ見つけていないルートがあるのかもしれない。もう少し先まで見てみたいんだ。魔術師として」


 俺の言葉に、アイリスとオデットはうなずいた。

 こうして俺たちは、隠し部屋の先へと向かうことになったのだった。





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