隣の席の山田(ゴリラ男)が「美少女の生まれ変わりだ」と言い張って手に負えない件
放課後。
部活に行く者、殊勝にも教科書を広げて友達と数学の問題を解き合う者、普通に帰ろうとする者、俺のようにボーっとする者、それぞれが分かれて動きだす。
なんとも落ち着かない一時だ。
そんな中、一息ついている俺の席の前に、一つの影が立ちはだかった。
「なぁ、聞いてくれ」
それは山田であった。
奇しくも幼稚園・小学校・中学校・高校と同じ学校へ通い、高確率で同じクラスになったという腐れ縁である。
高校2年の今も同じクラスだ。
だが、彼を語る際にそんなことは全て瑣末なことである。
何を置いてもまず第一に大事なのは、彼は非常にゴリラ顔ということである。
いや、顔だけではない。
その体型、動き、全身から醸し出す雰囲気、全てがゴリラである。
そのゴリラな山田が珍しく困り顔を浮かべて俺の席の前で無駄に存在感を放っている。
本当に無駄に存在感がある。
「ゴ……山田、なんの用だ? 珍しく真面目な顔をしているな」
「実はな、昨日の夜、大変なことを思い出したんだ」
山田の顔は本当に真剣そのものだ。
なにがあったんだろうか。
「それがな……」
山田が口を濁す。
「なんだよ、もったいぶるなよ。どうせ大したことじゃないんだろ、いいからさっさと言うんだ」
山田はなんだかもじもじしている。
もじもじするなんてゴリラらしくない。
「な、ならいうがな。どうやら俺は転生者らしい」
「ん……?」
俺の頭のなかは一瞬で空白になった。
こいつは一体何を言い出したんだ。
空白になった脳内を、ゴリラのイメージだけが自由奔放に駆け巡っていく。
「しかも……男じゃなくて、さる貴族の一人娘でな」
山田が言いにくそうに言う。
「娘?」
化粧をしたゴリラがウインクしているイメージが脳内を駆け巡っていく。
凄いインパクトだ。
「物凄い美少女で、近隣どころか国中の貴族の息子が一目見たさにやってくるというそれはもうとんでもない美少女なんだ。信じられないかもしれないが、本当なんだ」
は?
は?
「お、おい。ちょっとまてゴリラ」
俺は思わず立ち上がった。
「冗談じゃないんだ。これは本当だ」
しかし、山田は真剣だ。
真剣すぎていつも以上にゴリラ感が伝わってくる。
尋常でないほどにゴリラである。
「いや、お前……山田じゃなくてゴリラなんじゃ……」
「はぁ!?」
山田が顔をしかめると物凄い形相になる。
なかなか怖い。
「い、いや、とにかくその冗談はさすがにつまらない。単純に痛いぞ」
「だ・か・ら、本当なんだってばよ!」
ゴリラは不満気に溜息をつくと俺の席をバシンと叩いた。
手のひらで叩いたとは思えない衝撃が走る。
力もゴリラ並みだ。
「あのな、俺がいつも言っているだろう」
「なにが?」
「間違いなく、お前の前世はゴリラだ」
「なんでだよおおぉぉっ!」
予備動作無しでゴリラが咆哮を上げた。
その咆哮が教室中に声が響き渡る。
「ん?」
なにか視線を感じて見回すと、
部屋の隅で井戸端会議をしている女子4人組、
教科書を開いて問題を解いているっぽい男子3人組、
そして教室の隅で毎日ぼっちライフを満喫してるメガネ君、
その全員の視線が俺と山田に向いている。
いや、俺は関係ないのだが。
「山田、見られているぞ」
「あ?」
山田が大げさに身体をよじって教室の中を見回すと、全員が咄嗟に視線を外す。
「別に見てねぇじゃん」
山田が視線を俺に戻してそう言った。
ああ、ゴリラよ。
なぜ君はそれほどまでにゴリラなのだろうか。
「とにかく痛々しいTS妄想はほどほどにしたまえ。なにせお前はゴリラなんだから」
「だから違うって言ってんだろぉぉぉがぁぁぁ!!」
俺が諭すと、山田はまた咆哮を上げた。
全員の視線がまた山田と俺に集まった。
だから、俺は関係ない。
◇
その後も山田は熱く自らの美少女ぶりを語り続ける。
しかし、語れば語るほどその迫力ある動きに「山田=ゴリラ」という確信が深まっていくだけである。
「おいゴリラ」
「なんだよ。本気だぞ」
ゴリラという声掛けに対して山田は返事をした。
やはり彼は間違いなくゴリラである。
「うむ」
確信を得て俺は頷く。
「なんだよ!?」
今にも机を引きちぎらんとするほどの迫力ある形相をする彼を前にして、俺は改めて思い返した。
「思い出すなぁ……」
「なにがだよっ!」
思い出せば、彼はいついかなる時でも確かにゴリラであった。
彼がゴリラであることをあらためて確認し、「今日もいつも通りだ」と平穏な日々に感謝を捧げたことは数知れない。
苦しいときには「こんなことなんでもない。山田なんかゴリラなのに人間社会でがんばっているんだ」と自分を奮起させてきた。
理不尽なことに腹がたったときは「落ち着け。山田なんてゴリラなのに高校に通わないといけないんだ。なんて理不尽なんだ」と自分を納得させてきた。
どの記憶を掘り返しても山田はゴリラであった。
見事なまでに、彼はゴリラであった。
もう惚れ惚れするぐらいに。
そんな男の前世が美少女などと言われても、本当に反応に困るとしか言いようがない。
「っていうか、今時転生とか。もうそういうネタはテンプレ過ぎて俺は飽きてるんだよ。体張るならもうちょっと面白いネタ持ってこい」
追い払うように手を振りながら答える。
「だからな、俺は本気で言ってるんだよ! 俺がどんな思いで言ってると思ってるんだ!?」
しかし、ゴリラのような山田は本気のようだ。
怒って色々言っている山田。
それをぼんやりと見ているうちに、「山田」という姓は蛇足なのではないかと思えてきた。
「ゴリラのような山田」と考えるのではなく単純に「ゴリラ」でいいのではないか。
「待て、ゴリラよ」
「だからゴリラじゃねぇよ、オラァ!」
ゴリラがまたもや恐ろしい形相を浮かべる。
ゴリラのくせに往生際が悪いようだ。
「ゴリラよ、さすがに対応に困るぜ、このネタ」
こんなゴリラに美少女だと言われても。
いやほんと、どう対応していいのか。
「ネタじゃねぇよ、マジだって言ってんだろ!」
ゴリラは顔を真赤にしている。
どうも本当に本気らしい。
これは一体……
あ、なるほど。
閃いた。
「そうか、そういうことか。悪かったな。確かにゴリラにも性別はあるもんな」
俺は頷いた。
「あん?」
ゴリラは不機嫌そうな声を上げた。
「ゴリラの国にも貴族ってあるんだな。ゴリラの美少女ってのはやっぱり毛並みとかで判断されるのか?」
「だから、ちがぁぁうぅ!!」
山田は大げさに手を振るった。
あまりの迫力に教室の隅で数学の問題について話していた4人が完全に沈黙した。
「お、落ち着けゴリラ」
「だからゴリラから離れろよ!」
ゴリラがなおも体を動かし続ける。
「馬鹿を言え。ゴリラを前にしてゴリラから離れろなんて、どうすればそんなことができるんだ」
「っだぁーーーー!!!」
山田が今度は手だけでなく腕全体を振り回す。
ここまでくる本気で身の危険を感じる。
「お、落ち着け。死人が出るから暴れるなよ」
「うるせぇ! いいから聞きやがれ! 俺は本当に前世で絶世の美少女で、魔女の呪いをかけられて死んでこの世界に転生したんだよ!」
ゴリラが大質量の腕をブンブン振り回しながら主張する。
「ほざけゴリラ」
「いい加減切れるぞ佐々木ぃ!」
いい忘れたが俺の名前は佐々木である。
「ってか、こんな微妙なネタ振られて、俺にどうやって反応しろってんだよぉぉ!!」
俺と山田は二人してブチ切れたのだった。
◇
しばらく言い合った所で、ようやく互いにクールダウンしてきた。
「……で、どういうことだって?」
息を整えながらあらためて聞き直す。
「おい聞いてなかったのかよ!」
「聞いてたから突っ込んでんだよ。意味が分からない」
「だから、俺は前世で絶世の美少女で……」
もはや7度目ぐらいになる説明を山田が繰り返そうとする。
「それは聞いた! そうじゃなくて、なんでいきなりそんなネタに走り始めたんだ」
「だからネタじゃないってんだよ!」
「あのな、お前はゴリラというだけでインパクトは十分なんだ」
「だからゴリラじゃねぇよ!」
本当に往生際が悪い。
「いいか、お前は変な小ネタを振る必要はないんだ。ましてやそんな痛いネタに走るなんて、見損なったぞ。悪いことは言わないから、これまでと同様に堅実にゴリラとして生きろ」
俺は正論を主張した。
「この野郎また切れるぞ!」
しかしなぜか山田はまた怒る。
「だから……あのな、そんな変なネタ振ってくるなっての。マジで反応できないだろうが」
マジで困る。
「ネタじゃねぇんだよ! 今日の夜、眠りかけたらいきなり前世の記憶が……」
山田が少し遠い目をする。
ここでさすがに違和感を感じてきた。
「ちょっと待て。お前……それ……本当で言っている?」
「あぁ」
なに……?
俺は思わず山田の目を覗き込んだ。
「な、なんだよその目は」
山田がたじろぐ。
「山田……ついに知能までゴリラに近づき始めたのか……?」
「だから、なんでそうなるんだよっ!」
山田が机を叩く。
「そのうち『ウホ』しか言えなくなるだろうから、その前に人間の言葉で別れを伝えておこうか?」
「てめぇ……本気で命がいらないんだな……」
山田の表情が本気でやばいことになっている。
「と、とにかくだなぁ……いきなりそう言われても対応に困るっての」
これ以上煽るとさすがに危険そうなので、言葉のトーンを変える。
山田の顔もすっと元に戻る。
恐ろしい存在だが冷めやすいので助かる。
「ってか、お前、本当にマジなんだな?」
「あぁ。信じられないのはわかるけど、本当なんだ。本当に記憶が蘇ってきて……俺もどうしていいかわからないんだ」
ゴリラが不安げな顔をする。
「そ、そう言われてもなぁ」
「その上、美少女の時の記憶と子供の時の記憶がごちゃまぜになって、俺このままじゃどうにかなるんじゃないかと思うんだ。佐々木、俺はどうすればいいと思う?」
そんなこといきなり相談された俺はどうすればいいと思う?
俺が聞きたい。
精神科を薦めればいいのだろうか。
それとも、動物園に引き取りを依頼すればいいのだろうか。
「落ち着けよ山田。お前のスマホの待受を見てみろ。無修正全裸エロ画像が燦然と輝いているだろ? 俺が見てもドン引きなそんな行為を平然と出来る。まさにゴリラの中のゴリ……男の中の男! そんなドアホで間抜けでこいつ超馬鹿としか思えないやつが美少女やってたわけ無いだろ!」
このように、山田はとんでもないやつである。
「お、おう。じゃなくて、それを大声で言うなよ!」
「なら堂々とそんなもん設定すんなよ! お前のスマホが付いていると、俺まで意味もなく人の目が気になるんだよ」
山だとは腐れ縁であるが同類とは思われたくない。
俺の待受は潔白だ。
「いやこれは俺のポリシーだ」
「捨てちまえそんなポリシー! とにかくそんな美少女が居てたまるか。さっさとそんな妄想忘れろ!」
「いや本当なんだ!」
適当ににごして終わらせようとしたが、全く引く気がないらしい。
面倒くさい。
「マジか……」
「マジなんだよ」
仕方がない。
腹をくくる事にしよう。
山田が本当に精神を病んでいるのかもしれないが、動物園に収監される前に腐れ縁として話を聞くぐらいの事はすべきだろう。
「よし……わかった話を聞こう。で、ゴリラの国の貴族のゴリラだったって?」
「人間だって言ってんだろうがぁ!!」
話を再開すると、途端に山田が吼える。
「え? だって……あ、すまん。素で間違えた」
「あのなぁ!?」
「んで、異世界ってことは例によって中世ファンタジーなんだろ。エルフがいたりドラゴンがいたりして」
気にせず先を続ける。
「それは……居なかったな」
大声を出していた山田が素に戻る。
「は? でもあれだろ、冒険者とかギルドとかそういうのがあるやつだろ」
「それも知らないなぁ。そういうことを熟知してたわけじゃないが、そういうのは知らないな」
「はぁ!? じゃあ魔法は!?」
「それはあった。魔女に呪われて死んだぐらいだし。もっとも死ぬ直前のことは朦朧としてたから、どうなってたかよく覚えてないけどな」
「ん、んーー?」
一体どんな世界だ。
まぁ、どうせそれっぽい中世ファンタジー系なのだろう。
深く考えても仕方がない。
「まずは俺のモテぶりを聞いてくれよ」
突然、山田が笑顔を浮かべる。
なんだこの唐突な話の展開は。
「は? なんでそんなとこ……」
いや、ここは言いたい放題言わせたほうがいいかもしれない。
さっさと済ませてしまおう。
「ぶっちゃけ最初から聞きたくないが、まぁわかったよ。聞くことにするから、手短に頼む」
「いやいやじっくり聞けよ! まぁ、俺のモテぶりなんだけどな~、いや~恥ずかしいな~、でもこれだけは言わないとな~」
ノリノリの山田が僅かに体をくねらせる。
「…………」
見てはいけない物を見た気がする。
忘れよう。
「病弱ってほどじゃないけど、ちょっと風邪とか引きやすくて、よく屋敷で療養してたんだが……」
「山田が風邪を……?」
おたふく風邪以外の風邪にかかった山田を見たことがない。
「すると下心満載の男どもがわんさかやってくるんだよ。へっへっへっ」
山田が下卑た笑いを浮かべる。
嘆かわしい。
誇り高いゴリラとしてのプライドはないのだろうか。
「まぁ、大半は噂を聞いて顔を見たいだけの奴らなんだけどな。でも中には本気なのも居てよぉ。そうだな、思いつくだけでも5人は本気だったな。ふはっ、マジで楽しかったわ」
「楽しいのか……?」
「いや、俺普通に美少女だったし。いっその事マジモンの王子様とかに縁ないかなぁとか高望みしたことはあったけど、やっぱり複数の相手に言い寄られるって超上がるぜぇっ!!」
山田が声に力を込めるので、教室中に声が響き渡る。
普段から山田には「ゴリラ」+「天然ボケ」+「バカ」+「大バカ」+「厚顔無恥」という属性が付与されている。
今、「ホモ」という属性まで付与された。
これでいいのか、山田よ。
「それでな、ほとんど年上なんだけど、一人だけ2つ下の男がいてな、これが女目線だと可愛くって可愛くって。男の今思い出すと特にそんなことは感じないけど、女のときはめちゃくちゃ可愛く感じたね。無理して背伸びしている感じがまた可愛くて……」
「な……に……?」
さらに「ショタ好き」まで加わるというのか……!?
どこまで酷い属性を追加していく気だろう。
「山田……」
山田の人生の厳しさに思いを馳せ、思わず目頭が熱くなる。
「なんだよ」
「あ、あぁ、お前も大変……だな。強く……生きろよ……」
「なんだよそれは!!」
「き、気にするな。さぁ、続けてくれ」
話の先を促す。
「お、おぉ? ま、まぁ、年下から年上まで揃っててなかなか贅沢な環境だったんだよ。特に二つ年上のダスカ地方の貴族の長男のエドモンが熱心でな。出かけるときよくくっついてきたぜ」
ゴリラがニヤニヤしながら遠くを見つめる。
「年上の貴族相手にくっついてくるって、酷い言いようだな」
ゴリラのくせに。
「いや、そんときは普通に好印象だったんだけど、男の今思い出すとちょっと……気持ち悪く感じるだろ?」
「性別が変わる感覚とか、俺にわかるわけないだろ」
「それから、ハイキングに出掛ける時もよく付いてきてな」
「ハイキング?」
山田から視線を外して天井を見上る。
ゴリラが地響きを立てながら野原を疾走していくイメージが湧いてきた。
「ワイルド……」
「いや、こっちのハイキングと同じだっての。お昼を持って花を見ながら野原を歩くんだ」
すると、ゴリラが脇にフルーツを抱えて野原を疾走していくイメージが湧いてくる。
先ほどとあまり差異がない。
「で、あるとき転んで怪我をしたんだ」
「怪我をした!?」
「なんで驚くんだよ」
「いや、だって……」
山田の頑丈さはこの界隈では有名である。
山田が登山のときに盛大に木や岩に体をぶつけながら転がり落ちたことがあったが、全くの無傷だったというのは有名な話だ。
「そしたらエドモンのやつ大げさに心配して、『足をくじいているといけません』とか言ってよぉ」
山田の表情が溶けていてやばいことになっている。
どうしよう。
俺は今、本気で見てはいけない物を見ている。
「そしたら俺を軽々と抱きかかえて屋敷まで運んでくれたんだ。今思うとキザったらしいやつだけど、でもその時は思わずキュンキュンしちまったぜ」
「キュンキュン……?」
聞かなかったことにしよう。
それにしても、そのエドモンという男はすごい。
ゴリラを抱えて歩くなんて、とても人間業ではない。
「その男はよほどの大男だったんだな」
「いや? 身長はまぁまぁあるほうだったが普通の体型で、別に大男というほど大きくはないぞ」
「なに? そんな体型でお前を?」
どんな男だ!?
「はぁ?」
山田がめちゃくちゃ怖い顔をした。
「お前何考えてんの? 俺がリリアの時はすごく軽かったんだぞ。今の体型で考えるなよ」
前世の名前はリリアというらしい。
「あ、あぁ、分かっている。わかってるって」
俺は頷いた。
「もちろん今の体重じゃなくて、ゴリラの成体の160kgで考えている。大丈夫だ」
「お前いい加減ゴリラから離れろよ!」
山田が拳を俺の机に打ち付ける。
またもやすごい衝撃が響き渡る。
「あ、悪い。ナチュラルにゴリラで考えていた」
「だからゴリラから離れろよ!」
また机に衝撃が走る。
「だって目の前にゴリラが」
「本気で殴んぞぉ、このドグサレ野郎!」
山田が腕を振り上げた。
「やばっ……!」
俺は咄嗟に目をつむった。
◇
ゆっくりと目を開ける。
「は!? い、生きている!?」
自分の体を見るが、特に怪我はない。
どうやら寸前で思いとどまったらしい。
前を見ると山田はすでに腕を下げている。
「ほ、本気で殺られたかと思ったぜ」
「ならもうゴリラネタから離れろよ!」
腕を下げているとはいえ、いつ暴発するかわからないすごい形相だ。
これは危険だ。
これ以上煽ったら危険だ。
「落ち着けよ。しかたないだろ。目の前にゴリラがいるんだから」
正論を吐いたところ、なぜか山田がさらにすごい形相になった。
「糞! 糞糞糞! 糞ムカつくが、もう目を閉じろ! ゲス佐々木!」
山田が足を踏み鳴らすと床に衝撃が走った。
「へいへい……わかったよ」
これ以上煽らないように、おとなしく目を閉じる。
「どうだ、もう変なイメージは消えたか」
「ああ」
俺は目をつむりながら頷いた。
「問題ない。完全に消えた」
そう、山田の顔は完全に消えた。
そして、よりリアルなゴリラが目の前に現れたのだった。
毛の一本一本、皮膚のシワの筋までしっかり見えるほどリアルなゴリラだ。
「俺は美少女なんだ。いいか?」
山田が言い聞かせるように言うと、脳内に美少女のイメージが浮かびあがった。
が、隣りにいるゴリラが無造作に腕を一振りすると、美少女のイメージは完全に雲散霧消した。
まぁ……いいか。
「あぁ」
俺は目をつむったまま頷いた。
「よし、じゃあ続けるぞ。領地の祭でちょっと人前で踊らないといけなくなったことがあってな」
「踊る?」
その単語を聞いた瞬間、イメージの中のゴリラが勝手に動き出した。
ゴリラはステージを前にして入念に準備体操を始める。
なんだこの質量感は。
ただの準備体操だというのに、先程までとは比べ物にならないほどの迫力だ。
やはり目を開けて想像するのと目を瞑って想像するのでは、全くリアル感が違う。
「本当はそういうの嫌いだったんだけど、いろんな人に頼まれてさ、めちゃくちゃ恥ずかしかったんだけど、覚悟を決めてステージにたったんだ。いやぁ、ほんとは出たくなかったんだけどな~。ははは! そしたら、想像以上にみんな盛り上がってよぉ、今思い出しても恥ずかしいな! はははは!」
「なるほど」
イメージの中のゴリラがステージに立つ。
ゴリラは真に堂々たる態度だ。
イメージの中の観客たちが『ゴリラ!ゴリラ!』『なんという質量感!』『なんと美しい毛並み!』『筋肉筋肉!!』と歓声を上げる。
「そこで一曲踊って披露したんだ。けど、ほんと観客の反応すごかったぜ? もう男どもが食いつくような視線で見てくるんだ。ちょい気持ち悪かったが、やっぱりすげぇいい気分だったなぁ」
ゴリラが雄叫びを上げながら胸を叩いてドラミングを披露する。
会場に地響きかと思うような重低音が響き渡り、一気に観客がフィーバーする。
なるほど、これはすごい迫力だ。
ゴリラが動くたびに会場の熱気が白熱していく。
「なるほど、すごい盛り上がりだな……」
目を瞑ったまま俺が答えた。
「そうだろ? 自分で言うのも何だがすごかったぜ」
「なるほど、話を続けてくれ」
イメージの中のゴリラは観客のアンコールを受け、大迫力の演舞を続けている。
「で、次に俺に熱心だったニコラの話でもするか」
「いやちょっと待て」
思わず目を開いた。
ゴリラが目の前にいる。
「なんだよ」
「まさか
俺が不機嫌そうに発言する。
「だ、駄目か?」
山田がうろたえる。
「当たり前だろ!」
俺の中のゴリラは、血湧き肉躍る展開に備えて入念にウォームアップをしてきたんだ。
なぜ、そこで惚気話など展開しようとするのか。
「もっと戦いの場面をよこせ!」
「いや、戦いって……俺、冒険者とかじゃなくてただの貴族の令嬢だったんだぞ」
そんな戯言はどうでもいい。
さっさとゴリラを出せ!
「魔女に呪われたとか言ってただろ。あれはどうなったんだ」
「あぁ、あれか。そうだな、転生の直接の原因だし、それを説明した方がいいよな」
山田が少し考える素振りをする。
「そうだよ。それを話せよ!」
俺が発破をかけると、山田は少し真剣な表情になる。
「分かった。しっかりと聞いてくれ」
「おうよ」
「事の発端は悪い魔女が俺の父親に呪いをかけたことでな」
「は? 呪いとか言われても……」
「仕方ねぇだろ! 本当なんだからよ!」
山田が顔を真赤にして反論する。
「分かったよ。で、なんで呪いかけられたんだ? あれか、重税を取り立てる悪の領主だったんだろ?」
「ちげぇよ! なんか俺に用があったらしいんだ。詳しくはよくわからなかったけど俺がモテすぎて嫉妬したんじゃないか?」
「お前いくつだったんだよ」
「17だったかな」
「魔女いくつよ」
「詳しいことはわからんけど数百歳とかいう噂だったな」
俺はため息を付いた。
「あのなぁ、年寄りなのに17歳に嫉妬するのか? なんか魔法の材料にでもする気だったんじゃないか?」
「さぁ。父親が呪いにかけられて、それどころじゃなかったからな。魔女がなんのつもりだったかなんて、俺にはわからないな」
「ほぉ」
「それから、俺一人で来たら呪いを解いてやるっていう手紙が来たんだ。もう大騒ぎだったぜ」
「だろうな。それで、もしかして本当に一人で突っ込んでいって死んだのか?」
「まぁな」
俺はため息を付いた。
「……バカすぎだろう」
「あのな、冷静に考える余裕なんてなかったんだよ! 状況考えてくれよ、しかたないだろ!」
「そうかもしれないが……しかしゴリラが突っ込んでいって死ぬなんてのは……」
「ゴリラゴリラうるせぇ! 目を閉じろ!」
またもや山田が切れそうになっている。
「分かったよ……」
目を瞑る。
またもや限りなくリアルなゴリラが目の前に現れた。
「手紙を見た俺は、すぐに魔女が住む森に一人で向かおうとしたんだ。そしたら、丁度そこにいたエドモンが俺のことを止めたんだ」
手紙を読み終わったゴリラは厳しい表情で森に向かって歩き出す。
が、その前に立ちはだかったのは、ゴリラをも持ち上げる大男エドモンだ。
「あの時ばかりは感動したぜ。『あなたのような可憐な女性をそんな危険な目に合わせることは出来ません。私が行きます』なんて言うんだもんなぁ。あいつは関係ないのによ」
エドモンは『あなたのような危険なゴリラを可憐な魔女に会わせることは出来ません』といい、ゴリラの前に立ちはだかった。
ん、エドモンは魔女に通じていたのか?
どうするゴリラ!?
「俺はそれを振り切って『お父様の命は私が守ります』と言って一人で森に向かったんだ」
ゴリラは『領主の命はオレが守る。ウホ』と言って、一撃でエドモンを叩き潰した。
エドモンはもはや原型をとどめていない。
うわ、ひどい。
「とんでもないな……」
「たしかにとんでもない無茶だったよ。でも仕方ないだろ」
ああ、無茶だったな。
ゴリラを持ち上げてる力があるとは言え、ただの人間がゴリラに立ち向かうなんて無謀でしかない。
「そして、俺は森の中をつき進んでいった」
ゴリラが手と足を使ったナックルウォーキングで森の中を進んでいく。
移動だけでなんという重量感、なんという迫力。
「ところが、途中で魔女の魔法生物に遭遇しちまってな。木と藁でできたカカシみたいな木偶人形なんだけど、か弱い俺にはすんごい脅威でさ。魔女って反則だろ?」
ゴリラの前に魔力で出来たゴリラが立ちはだかる。
しかし毛並みや重量感は本物に及ぶべくもない。
余裕だろ、こんなの。
「そのカカシみたいなのが驚いたことに口が聞けるんだ。で、俺は『魔女はどこにいるんだ』と聞いたんだ」
ゴリラは『魔女の場所を教えないと、その頭握りつぶす。ウホ』といいながら、魔法ゴリラの頭を無造作に掴んだ
魔法ゴリラの頭蓋骨が軋む。
「そしたらわけわからないことを言って教えないんだ。腹立つだろう」
魔法ゴリラが『オレ シラヌ ウホ』と言った。
その瞬間、ゴリラは怒りを露わにした。
魔法ゴリラの頭蓋骨は派手な音を立てて粉々になる。
そしてゴリラはその残骸を地面に叩きつける。
魔法ゴリラの原型はもはや残っていない。
さすがモノホンのゴリラだ、まがい物とは馬力が違う。
「まぁ、カカシは動きが遅いから、咄嗟に隣をすり抜けて先に進んだんだ。そこから先はもう森のなかに道がなくて、枝をかき分けて進むしかないんだ。すぐに擦り傷だらけになったぜ」
ゴリラは魔法ゴリラの残骸を後にして前に進み続ける。
草を踏みつけ、枝をなぎ倒し、時には黄金の右パンチで大木を粉々にしながら進んでいく。
ゴリラの前に道はない。
ゴリラの後に道はできる。
もちろんゴリラに傷一つない。
「すごいな……」
「ほんと大変だったぜ。整備されてない森の中って人間が行くところじゃないわ」
ゴリラは巨石すらぶち壊しながら前に進んでいく。
とてつもない踏破力である。
「どれだけ進んだかわからないが、気がつくとちょっとした広場みたいなところに出たんだ。そこに居たんだよ、魔女が」
「どんなやつだったんだ?」
目をつむりながら質問した。
「あぁ、古ぼけたフードみたいなのをかぶってて、いかにも怪しい感じだった」
ゴリラの前に現れたのはフードをかぶった怪しい人物だ。
「顔を上げたときにちらっと顔が見えただけだが、相当な婆さんだったな」
その人物がフードを掴み、自らの姿を露わにする。
するとそれは妖艶な美女だった。
「おお、いい感じだな……」
「だろ? いかにも魔女って感じなんだ」
たしかにこの怪しさ、魔女って感じだ。
「短剣は持っていたけどまともに使えないから、俺は咄嗟に魔法を起動したんだ。ほら、異世界っぽいだろ?」
「魔法!?」
ゴリラが手をかざすと、不思議な光が発生した。
「そんなことができたのか!?」
ゴリラなのに!?
「教養で習っていた程度で本気でヘボ魔法だったけどな。それでも必死になって魔力を集めるために念じたよ。だけどなぁ、さすがに実力不足すぎてどうにもならなかったぜ。ほんと破れかぶれだったな、あのときは」
「必死になって念じた……」
ゴリラが集中すると想像を絶する莫大な魔力が集まってくる。
ただでさえ人間など問題にならない筋力があるというのに、その上そんな魔力が扱えるなんて。
もはや完全に人間の手には負えない存在だ。
「どうにもならなくて、本当に『うをぉぉぉぉ!』とか叫んでみたけど、あんまり効果なくてなぁ」
ゴリラが『ウホウホウホウホ』と唱えると、更に魔力が圧縮されていく。
なんだこの空気が歪むほどの力は。
「すげぇな、お前……」
目を瞑ったままつぶやく。
「だから、魔法を使えること自体はたいしたことじゃないんだって。俺みたいにヘボじゃ全然役に立たないしな」
さすがゴリラは謙虚である。
しかしゴリラが操っている魔力はもはやなんと形容していいかわからないほど甚大なものになっている。
こんな魔力を持ってしても魔女を倒すことが出来ないというのか。
くっ、魔女め、なんというバケモノなんだ。
「出来る限り貯めた所で、炸裂魔法を魔女に向かって発動させた。俺の狙い通り魔法は魔女の前で炸裂! そこはよかったけど、威力は……全然だったな。ポン、とかマヌケな音を立てていたし」
ゴリラの炸裂魔法が炸裂した。
その威力は強力無比。
強烈な閃光とともに地面がめくれ、池が蒸発し、半径数キロメートルが焼け野原になる。
続いて嵐が巻き起こり、地上の全てを蹂躙していく。
これは並の原爆を超える破壊力だ。
その中ただ一匹佇むゴリラ。
格好いい。
「すげぇ……」
「だから、凄くないんだっての。しかも、いくら魔女でも少しは怯むと思ったら、全然動じないでやんの。余裕で立ってやがるんだ! あれは腹がたった」
「なにぃ!? 耐えただとぉ!?」
しかしゴリラの前で渦巻いている嵐のなかから一つの影が飛び出す。
それは不敵な笑みを浮かべたあの魔女。
なんと怪我一つない様子だ。
「なんという強さだ!?」
「だから俺が弱かっただけなんだって」
ゴリラは謙虚だ。
「だけど俺はあきらめなかったんだ! 俺は意を決して、短剣を抱えて飛び出した! 身の安全なんて全く考えなかったぜ。見せてやりてぇな、あの勇姿を!」
段々山田のテンションが上ってきている。
「俺は叫んだぜ! うをおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!! 死ねええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
ゴリラが拳を構えて飛び出す。
いくら魔女と言えどもこれが直撃したらひとたまりもない。
ゴリラは走りながら咆哮を上げる。
その咆哮のあまりの激しさに鼓膜が破れそうになる。
咆哮があちこちに反響している。
すごい音圧だ。
「しかし魔女は体をずらして避けやがった。あっさりとなっ!」
山田の声がどんどん大きくなっている。
「なんだとっ!?」
魔女は音速で移動してゴリラをかわした。
耐久力の上に速度まであるなんて反則だろ!?
「俺は咄嗟に足元にあった石を拾った! そして、力の限り投げつけた! 行けえええええええええええぇぇぇぇぇ!!」
そしてゴリラは近くに埋まっていた巨岩を掴んだ。
ゴリラは巨石を抱えて渾身の力を込める。
「ま、まさか!?」
しかし、ゴリラは本当に地面に埋まったその巨岩を地面から引き抜いてしまった。
なんという馬鹿力。
そして咆哮とともにゴリラは巨岩を魔女に投げつける。
その衝撃波で空気が歪む。
「な、なんという戦い……」
「そうだよ、婆さんのくせに動きが素早いんだ、あの野郎! 俺が投げつけた石もあっさりとかわしてよぉ! ああ、思い出しただけでむかつくぜ!! だけど俺はまだ諦めなかったぜ!」
「あっさりかわしただと!?」
魔女の動きがさらに加速する。
音速を超える岩をもかわしながら空中を飛翔する。
「バカな!? 空を飛ぶだと!?」
「あ? あぁ、俺が渾身の力で投げつけた石も簡単に避けて、笑いながら空に舞い上がっていったんだ。なんで飛ぶって分かった?」
「渾身の力で投げつけた!?」
ゴリラはさらに奮起して、手当たり次第に巨岩を地面から引っこ抜いて超音速で投げ飛ばしていく。
しかし、魔女はそれを超える超音速で空中を移動していく。
あまりに速すぎて目で追うことは出来ない。
な、これは!?
「バカな!? 分身の術だと!?」
「いや、それはなかったけどな」
なんという速さだ……。
俺はその動きに息を呑んだ。
「山田、お前絶体絶命じゃないか」
「ああ、やばいぜっ! その上、魔女がなにかしたらしく、さっき言った魔法のカカシが何匹も集まってきて俺の周りを取り囲んだ!! 正々堂々と勝負しやがれってんだ!!」
ゴリラの周りに魔法ゴリラが数千匹と群がる。
見渡す限り魔法ゴリラしか見えない。
ゴリラは次々と魔法ゴリラを屠っていくが、いくら倒しても湧いてくる。
ゴリラ、大ピンチ!!
「なるほど、それで!?」
「それでも俺は戦った!! うをおおおおおおおおおおおおお!!! 神よ、味方してくれ!! 私に勝利をおおおおおおおぉぉぉぉ!!!」
山田の声がすごい迫力だ。
ゴリラが唸る、突き出す、舞う。
「胸を突かれたが、それでも戦うっ!! きょええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇ!!!」
ゴリラがひねり回転しながら敵陣につっこむ。
「ここだあああああぁぁぁぁ!!!」
ゴリラの一撃で数十匹の魔法ゴリラが粉々になる。
「チェーストオオオォォォォ!!」
ゴリラの移動した後にクレーターが出来ていく。
「ギエエエエエエエエエエエェェェェェ!!」
ゴリラが高速回転し、巻き起こる嵐で周囲の魔法ゴリラを巻き上げていく。
数百匹の魔法ゴリラが断末魔も上げる暇もなく消滅していく。
「ショエエエェェェェェェェ!!! 短剣を無茶苦茶に振って、俺はついに一匹倒した!!」
ゴリラの力で瞬く間に一千匹の魔法ゴリラが消滅した。
「おお、楽勝じゃないか山田!」
「俺もそう思ったっ!! でもそれが命取りだったんだ! くそぉっ!!!」
「なんだって!?」
「油断したすきにやつらが俺の周りを取り囲んだ。俺は身動きが取れない!! そこへ気が付かないうちに魔女が近づきやがった!!」
ゴリラの一瞬のすきを突いて魔法ゴリラが腕をつかむ。
ゴリラが反応する間もなく、手足と体中の毛を掴まれてしまう。
ゴリラ、危うし!
その後ろに立つ魔女の姿。
「くっ、いつの間に後ろに!?」
「そうなんだ! いつの間にか立ってやがって、なにか言いながら俺の額に触れた!! そうしたら俺の意識が一瞬で朦朧として…………」
山田の声が小さくなった。
「なんと……」
ゴリラがとっさに反応したが、魔女はそれよりも早かった。
魔女の超超大魔術がゴリラの顔面で炸裂した。
周囲の魔法ゴリラを巻き込んだ大爆発は上空数キロメートルまで立ち上った。
「なんということを……」
「もう手遅れだったな。そのあと誰かが来て屋敷に運ばれたことは覚えているんだが……それ以降はもう記憶がない。たぶんそのまま死んじまったんだな……」
山田の声に力はない。
ゴリラは自らの力が及ばなかったことを悔いながら、ゆっくりと目をつむったのだった。
◇
「そうか、そんなことが……」
俺はゴリラの死に涙を流しながら、ゆっくりと目を開けた。
目の前にはゴリラが立っている。
そうか、ゴリラは一度死んだがこうして山田ゴリラとして復活したのだ。
何とも言えない感動に打ち震えた。
「生まれ変われて……本当によかったな……」
「あぁ、って、お前泣いてんの? そんなに感動したか?」
山田が俺の顔を見て笑った。
「いいだろ、別に……」
気まずくなって山田から目をそらすと、教室の外の廊下に人がたかっているのが目に入った。
『大きな声が』『大丈夫か』『誰か止めて』とか口々にいいながら、皆心配そうな顔をしている。
なにがあったんだろうか。
そんなことには気が付かず、山田はこういった。
「どうだ、分かったか? 俺は本当に美少女だったんだ」
その言葉に、俺はゆっくりと頷いた。
「あぁ、よく分かったよ」
俺は山田の目をしっかりと見た。
山田は微笑んだ。
ゴリラの勇姿と散り際が頭の中を駆け巡っていく。
「やっぱり、ゴリラだったんだな」
山田の動きが一瞬止まった。
「なんで……なんでそうなるうううぅぅぅぅぅ!!!」
山田の絶叫が響き渡り、全員が四方八方へと逃げ出した。
むしろ主人公のほうが手に負えない。
感想・評価ポイントを貰えると、作者がほっこりとゴリラな気分になります。
NEXTゴリラ:「山田はゴリラになりたい」
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