私は、自民党憲法改正草案に強い危機感と問題意識を持っています。改憲を阻止するには、とにかく憲法に関心を持つ人を増やすことが大事ということで、関心を拡げるために色々考え実践してみた(中間)報告を、この場をお借りして致します。
●「高まり、深まる」だけでは足りない、「拡がる」も必要
私は今まで、たとえば「平和を守る○○市民の会」「護憲○○の会」といったところでの憲法学習会講師によんでいただくという機会が何度かありました。そういう場合、参加者は憲法にある程度関心があり、9条改正を「改悪」と称したり、もともと憲法、特に9条は護らないといけないとお考えの方がほとんどで、「今日は更に深く勉強したいと思って弁護士を講師に頼みました」ということが多いのです。
このような学習会を否定しているわけでは決してありません、むしろ、そういう問題意識を既にお持ちの方々にはますます改憲阻止の牽引力になっていただくことを強く期待しています。
しかし、多くの場合そういう学習会主催者の方は「なかなか若い方が来てくれなくて」「初参加の方が少なかった」と残念そうにおっしゃるのです。
思うに、おそらく、ちょっと関心を持ち始めたくらいの初学者の方だと、そういう「意識の高そうな集まり」には気後れしてしまうのではないでしょうか。シャイな日本人気質も影響しているかもしれません。「公民館第二会議室で午後6時から○○護憲の会の『憲法改悪阻止』学習会」というだけで、参加者はある程度スクリーニングされてしまうという傾向があるようです。
これでは憲法への関心は「高まり、深まるが、拡がらない」と感じました。高まり・深まりも大事だけれど今足りないのは拡がり。シャイな人も憲法に関心をもったことがない人も少しでも憲法情報に接する機会を増やしたい。これが私の問題意識の出発点です。
●憲法学習会の「営業」~ 食の安全・放射能汚染・こども関係者は反応がよい
そこで、私は勝手に自分の役割分担を「拡げる」ことに決め、誰かが企画した憲法学習会に講師として呼ばれるのを待っているのではなく、何か人の集まりがあったら、そこに「憲法学習会やりませんか」と自ら売り込むというのを、今年の初めくらいから始めました。
たとえば、放射能汚染、原発事故、食の安全、などを気にしているネットワークは、それぞれその関心事を切り口に、他の社会問題にも広く関心をもちやすい傾向があります。そういうところに「関係がありますから、番外編で憲法学習会もどうですか」とご案内をしました。
また、子育て現役世代にとって「こども」は関心の大きなスイッチです。「こどもの未来に関係があるらしい」と得心がいくと、憲法にも関心を持ちやすいようです。参加者が母親たちばかりだったある学習会の際に「皆さん、こどもの学校や塾、習い事は真剣に選ぶでしょう。それと同じ気持ちで、こどもが将来生きていく社会をどういうものにしたいか考えましょう、憲法を今考えるのはそういうことです」と伝え、共感頂いたことがありました。
このため、今後も、子育てサークル、幼稚園、保育園、小学校保護者会、などには特に積極的に働きかけたいと思っています。
●カフェで憲法、商店で憲法、病院で憲法
今年の初夏頃、ある学習会参加者の方がカフェにお勤めだった関係で、そのカフェで憲法学習会をする機会を頂きました。
その際大変多くの参加者があり、その多くが「こういう学習会には初めてきました」とおっしゃっていたこと、後日頂いた、大変嬉しかった感想に「あまり深い考えもなく、ご近所だということもありなんとなく来てみたところ、憲法が変えられようとしていることの意味が大変よくわかり怖くなり、親戚にも電話して参議院選挙の投票ではよく考えるようにと伝えた」というものがあったことから、日常生活に密着した、カフェのような場所で憲法学習会をやるというのは、憲法情報へのアクセスの敷居を下げる良い手段だと気付きました。このカフェでの学習会は、神奈川新聞で記事にして頂きました。
そこで、近所の、社会問題諸々に関心がある飲食店経営者の方に「憲法学習会のチラシを置かせてくれたり、学習会の開催に関心があるようなお店を教えてほしい」と相談し、飲食店のほか助産院、接骨院、自然食料品店などを含め20軒以上の情報を頂き、そこに「お宅のお店で憲法学習会をしませんか」とお手紙を添えて、学習会の売り込みを始めました。
このご縁で、今年の秋頃、ある自然食料品店の店舗奥の事務室で学習会を実施することができました。
このときの学習会は東京新聞湘南版で記事にして頂き、その記事を読んだとおっしゃって、ある病院の院長先生が「当院での憲法学習会をお願いしたい」とリクエストしてこられ、病院での憲法学習会に結びついたこともありました。
諸々で知り合ったカトリック教会で憲法学習会をしたこともあります。
●不特定多数の人が出入りする「場」に憲法情報を
カフェ、病院、商店、教会・・・など、憲法に関係ない理由で不特定多数の人が出入りする「場」、かつ、「なんでまたこんなところに憲法が」という意外な場所に憲法の情報をしのびこませると、憲法情報の拡散には効率がいいのではと考えています。
例えば病院には、患者、患者の家族、製薬会社の方、会計事務所の方など、結構多くの方が出入りされるものです。そして、待合室で待っているヒマな時間というのは、たいして興味が無い雑誌でも読んでみたり、掲示板のポスターを熟読してしまったりするものですので、そこに憲法学習会の告知を貼れたら半ば強制的に憲法情報をお知らせできてしまうチャンスがあるといえます。
また、カフェに憲法情報チラシが置いてあったら、コーヒーが出てくるまでの間、なんとなく、置いてあるそのチラシを見てみたりするものではないでしょうか。ここにもチャンスがあります。
なお、自前のチラシには、むこう1、2か月くらいの、近隣エリアでの憲法学習会などのイベントを掲載しており、時々駅頭で配布したりもしています。これを見て学習会に来てみた、とおっしゃった方がいたときは本当に嬉しく思いました。
そんな感じで、「なんだか最近あちこち憲法っていう言葉をよく見聞きする」と多くの方が思うような効果を生じさせられないものか、と思っています。
目指しているのは、「ランチをしにカフェに入ったら憲法のチラシがあった。病院に行ったら待合室の掲示板に憲法学習会の告知があった。髪を切りに美容院に行ったらそこにも告知があった。切ってもらいながら女性誌を読んでいたらそこにも憲法に関する時事解説記事があった。夕飯の買い物をしに商店に寄ったらちょうど憲法学習会をやっていた」というような状況です。
こんなこと、ドンキホーテのような試みかもしれない、あまりに細々とした草の根かもしれないと思いつつですが、学習会の都度、参加者の方に、「こういう学習会に関心がありそうなお店や病院など知っていたら教えて下さい」とお願いし、情報を頂いたら、チラシとお手紙を送って憲法学習会の営業に努めています。
憲法学習会は、それまで憲法に関心が無かった方に情報を届ける有力な方法と実感することが多い一年を過ごしてきました、
●「憲法は自分の日常生活に関係がある」「憲法を語るっておしゃれ。憲法を語れるって、モテる」
さて、そうはいっても、憲法学習会に行ってみようとも思わない方には情報を届けられないというのが憲法学習会の限界でもあります。
どうすれば、身近なところでやるのなら、憲法学習会というものに一度行ってみるかと思う方を増やせるのか。
「憲法は自分の日常生活に関係があるかも」と何かで感じて、「それならば行ってみよう」となることを目指したいですし、実際そのような理由で憲法学習会にいらした方も結構います。でも、どうしても「憲法」というと日常から遠いものと感じてしまう方も少なくないようですね。
それについて「こんなに憲法が危機的なのにみんな、のんきすぎる」「本当はみんなの生活に関係があることなのに」というように焦ってみても始まらないのかなと私は思っています。
いっそ、「憲法を語るのっておしゃれ。憲法を語れる男子(女子)ってモテる」というような空気をつくれないものかと、夢想しています。荒唐無稽なことを言っているかもしれません。しかし、「アンポ、ハンタイ」とデモに大挙していた数10年前の学生たちも、結構多くの割合で、日米安保条約の条文を読んだこともなく内容をよくわかっていなかったというではありませんか。
「アンポ、ハンタイ」と叫ぶのが一部ではファッションであったように、誤解を招く表現かもしれませんが、「憲法のことほんとはよく知らないけど、流行だからちょっと語ってみる」くらいの空気をつくれないものか。初めはファッションから入ったんだけど、段々勉強して深くわかるようになった、というような関心の持ち方もあっていいと思います。今の日本社会において、あらゆる年代で、政治、社会問題について日常生活の中で普通に語る機会が少ないことはわかっています。ですが、希望を込めて、「ミーハーだけど最近憲法の本を買ってみた」「憲法を語れるってかっこいいよね」というような会話が街中で聞かれるような空気ができたらいいのに、と書くことと致します。
そのためにも、例えば人気芸能人やミュージシャンが、かっこよく、素敵に、おしゃれに、憲法への関心を語ってくれたりしたらいいのにな、とも夢想しています。
●関心がありそうなお店などの情報を募集します
以上が憲法情報拡散の現状報告でした。
拙文をお読み頂いた方で、「憲法学習会開催に関心がありそうなカフェ/病院/美容院・・・ を知っている」という情報をお持ちの方がいらっしゃいましたら、ぜひご一報頂けませんでしょうか(kkotokr@gmail.com)。
もし場所の関係などで私が行けなそうな所であっても、改憲に問題意識を持っている弁護士有志ネットワークの「明日の自由を守る若手弁護士の会」(ブログ)メンバーなど、全国の知り合いの弁護士を講師として派遣できると思います。
よろしくお願い致します。
◆太田啓子(おおた けいこ)さんのプロフィール
国際基督教大学卒業。2002年弁護士登録(横浜弁護士会)。離婚・相続・後見などの家族関係事件、解雇・残業代請求などの雇用関係事件、セクシャルハラスメント・性犯罪などの各種損害賠償請求事件を主に扱っています。 |
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