「毎日メイクをしてストッキングを履き、きちんと整った髪で出勤する」「雑談を大事にする。静かすぎてはいけないが一人で話しすぎてもいけない」「周囲全体を適度かつ的確に観察し、気を利かせて細やかな配慮をする」「仕事をしながら家事・育児の中心的役割を果たしマルチタスクをこなす」……これらは発達障害の人の多くが苦手としていることであり、かつ、日本に住む女性が「ある程度以上のレベルで『普通』にできること」として、求められていることでもある。

かなり努力をして特性を隠しているけれど、普通に働くのはかなり困難

私は大学院修了後に自閉スペクトラム症・ADHDと診断された、いわゆる「大人の発達障害者」である。
発達障害はざっくり説明すると、

・空気を読むのが苦手。他人に興味関心が向きにくい。適度な距離感がわからない
・感覚の過敏さから、苦手な音や臭い、感触等がある
・マルチタスクが苦手
・集中力の向き方にクセがあり、適度に全体に注意するのが苦手
・注意してもミスをなくせない
・多動性や衝動性が強く、計画的な行動や自己コントロールが困難

などの「普通」から外れた特性のため、生きづらさがある生まれつきの障害で「自閉スペクトラム症」「ADHD」といった種類がある。
(これら以外に『学習障害』というものもあるが、主旨から外れるため申し訳ないが割愛させて頂く)
なお、特性の現れ方には個人差があるが、私の場合は上に挙げた特性のうち、多動性・衝動性を除く全てを、極端なレベルではないがもつタイプだ。
かなり努力をして特性を隠しているため「とても障害者には見えない」とよく言われるが、共に数週間・数ヶ月と過ごすうちにボロが出てくるため、普通に働くのはかなり困難だ。

意気込んで「社会生活」に臨んだけれど、集団から浮きまくった

さて、私には周りの女性が「普通」にできるのに、自分にはできないことが多くある。
まず、メイクがかなり苦手だ。化粧品が肌に触れる感触や臭いが苦手で、さらにその上にマスクが触れるとゾワゾワする。
ストッキングも苦手だ。レースのついた可愛いブラジャーもチクチクしてしまうので着られず、下着はユ◯クロのブラトップを着ている。
髪は通勤中に乱れると気づかないことが多いため、ダサさ承知でひっつめ髪にシュシュをつけている。
コミュニケーション面はもっとひどい。特に職場での雑談が難しく、もとから関心のない相手の近況にはかける言葉が見つからないし、いざ頑張ってコメントしようとすると冗長で分析的で距離感の近すぎるものとなり、面食らわせてしまう。愛想良くにこやかに接するのも苦手で、相手が仕事上の関係だと真顔がデフォだ。
勤務時間中も役割が決まっている時は良いが、飲み会や行事のような「明確に役割は決まっていないが気を利かせて動く」ような場面はかなり戸惑ってしまう。

こんな特性をもちながらも、大学院を出た自負もあったので「障害をもっているからこそ、働けるうちにお金を貯めて、可能な限り早く専門性を身につけるのだ」と意気込んで「社会生活」に臨んだ。
その結果、集団から浮きまくりトラブルを起こし仕事は全くできず、敗走する結果となったのだが。

しかし、これまでの経過を振り返って、どうしても感じてしまうことがある。
「もし私が男なら、ここまで激しく周囲から浮かなかったのではないか?」と。

「普通」のコミュニティから締め出されるほどのものだっただろうか?

男性なら、私よりひどいレベルの人がそこそこにいる

まず外見面だが、女性の「普通」は明らかに男性のそれよりレベルが高い。
学生時代、寝癖をつけて登校してくる男子は何度か覚えがあるが、寝癖の女子は見た記憶がない。
また男性ならば(中には「メンズメイク」をする人もいるらしいが)社会人になってもメイクは必須ではない。身だしなみにおいても「細かい失点があってなんか微妙にだらしない」程度のレベルだと、女性ではかなり浮いてしまうが、男性なら正直結構いるのではないか。
コミュニケーション面も、女性に求められる「普通」はなかなかレベルの高いものがある。
会話が苦手といっても、作業上必要なやりとりに致命的な問題があるタイプではなく、雑談が必要なければなんとか乗り切れる部分もある。
前職で、私と同じように真顔で無口な男性がいたが、彼がそれで大きく浮いていたとは思えない。
お喋りが一方通行なのも気が利かないのも、女性ならレアだが、男性なら私よりひどいレベルの人がそこそこにいる。

たしかに私は、たとえ男性だったとしても完全な「普通」ではなかっただろう。
だけどその「普通じゃない」は企業をはじめとする「普通」の人たちのコミュニティから締め出されるほどのものだっただろうか?
生活に明らかな支障をきたし「それなりに重度の発達障害だ」と診断されるほどのものだっただろうか?
男性に生まれていれば「ちょっと変わってるけど、寡黙で実直な職人気質の真面目な男」として、社会に居場所があったのではないだろうか?

社会の大通りから外れ、障害者雇用で就活をしていく中で、そんなことばかりを考えている。
2ついいことがあるとしたら、スーツが社会人の標準装備じゃないことと、非正規雇用でも婚活で足切りされないことくらいじゃないだろうか。