<この記事を要約すると>

  • 2018年、「サントリー天然水 奥大山ブナの森工場」が“水の恵みを守ること”の国際基準であるAWS認証を取得
  • 工場周辺流域に対する持続可能な水利用への貢献が、グローバルでも認められた
  • 厳しい水質基準のクリアを可能にしたのがパナソニック環境エンジニアリングの技術力
  • そこには、純水製造技術を排水処理設備に活用したチャレンジがあった

ミネラルウォーターのトップブランドとして君臨する「サントリー天然水」。2018年末、生産地の1つである鳥取県の「サントリー天然水 奥大山ブナの森工場」が国際基準「アライアンス・フォー・ウォーター・スチュワードシップ(AWS)」の認証を取得した。工場周辺流域への持続可能な水利用への貢献が認められたもので、日本初の快挙となる。AWS取得に向けた排水処理設備の改善には、パナソニック独自のノウハウが採用されている。環境保全への意識改革が進む昨今、貴重な水資源をいかに活用していくか。サントリーグループ、パナソニック環境エンジニアリング双方の担当者の言葉から浮き彫りにする。

水こそすべての基本、サントリーグループが貫く水理念とは

「人と自然と響きあう」を企業理念に掲げるサントリーグループは、以前から高い環境意識を持つ企業として知られる。根底には1899年の創業以来受け継がれてきた「利益三分主義」の考え方がある。利益三分主義は得られた利益の再投資、お客様や取引先へのサービス、社会への貢献の3本柱から成るものだ。この歴史からも、創業時から社会貢献を理念の一部として取り組んできたことが分かるだろう。

2015年に国連で「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択されて以降は、企業として持続可能(サステナブル)な姿勢を強めてきた。2019年7月にはサントリーグループの「サステナビリティ・ビジョン」を策定。水、CO2、原料、容器・包装、健康、人権、生活文化と7つの重点テーマを設け、人と自然が相互に良好な関係を保ちながら永続していく社会の実現をめざす。

中でも特に重要と位置付けているのが“水”である。水に対する向き合い方は、2017年1月に策定した「水理念」に集約されている。水理念は「水循環を知る」「大切に使う」「水源を守る」「地域社会と共に取組む」の4つから構成するもので、グループ全体で共有する指針となっている。事業活動を通じての節水や高度な水の再循環はもちろんのこと、2003年からは豊かな水源を守るため、「天然水の森」活動と名づけた水源涵養活動を開始。「天然水の森」は全国21か所に拡大し、国内工場で汲み上げる地下水量の2倍以上の水を涵養するという目標を、2019年に達成した。

1991年に発売したミネラルウォーターの「サントリー天然水」は、まさに水理念を凝縮した製品と言える。発売以来躍進を続け、2018年には「サントリー天然水」ブランドが国内清涼飲料市場で年間販売数量のトップを記録。今ではグループの中核製品に成長した。

2018年には「サントリー天然水」の年間販売数が1億1730万ケースを記録した

サントリー天然水は、現在3つの工場で生産されており、その一つが鳥取県日野郡江府町の「サントリー天然水 奥大山ブナの森工場」だ(以下、奥大山工場)。奥大山工場は鳥取県の名峰、大山(だいせん)の山懐に抱かれた風光明媚な場所にあり、周囲を大自然に囲まれている。そのため2008年の操業当初から工場周辺流域に配慮した運営を徹底。それらの取り組みが認められ、経済産業省の「新エネ百選」や「日本緑化工学会賞(技術賞)」など数々の賞を受けてきた。

鳥取県日野郡江府町「サントリー天然水 奥大山ブナの森工場」

2018年12月には、日本初となる「アライアンス・フォー・ウォーター・スチュワードシップ(以下、AWS)」認証を取得した。AWSとはWWF(世界自然保護基金)らのNGO、投資家団体のCDP、飲料・酒類企業を構成員とする“水の持続可能性”をグローバルに推進するための機関。AWS認証は世界中の工場を対象にサステナブルな水利用を審査するもので、奥大山工場の水の保全とスチュワードシップ (管理する責任)が評価された。言わば世界基準が認めた“自然と地域と共生する工場”なのである。

新製品発売に伴い、より強力な排水処理設備が必須に

貴重な水資源を活かしたサントリー天然水の製造を主力としてきた奥大山工場。2017年にはラインを増設し、「サントリー奥大山スパークリング」などの炭酸製品や「ヨーグリーナ&サントリー天然水」「朝摘みオレンジ&サントリー天然水」など、いわゆるフレーバーウォーターの製造を開始した。

「サントリー天然水 奥大山ブナの森工場」で生産している製品の代表例

フレーバーウォーターの発売を機に、奥大山工場では新規ラインの排水処理設備を増設。パナソニック環境エンジニアリングによる設備を導入した。その経緯を、サントリープロダクツの楠見真隆氏は次のように語る。

「もともと奥大山工場で扱っているのがサントリー天然水のみだったので、それまではミネラルウォーター向けの設備で排水基準をクリアしていました。しかしフレーバーウォーターの新ラインでは水以外の成分が入ってくるため、負荷の高い処理に耐えうる設備の導入が不可欠になりました。これまでの設備では、我々の方針に沿った排水基準に到達できなかったからです。そこでラインの増設に際してパナソニックに相談し、RO処理設備と組み合わせることで達成できるのではないかとの提案をいただきました」(楠見氏)

サントリープロダクツ株式会社
天然水奥大山ブナの森工場
エンジニアリング部門
課長
楠見 真隆 氏

RO処理とは、RO膜(逆浸透膜)を通じてほぼ水分子のみを抽出する純水製造技術で、通常は飲料水や食品、半導体製造に適用されるものだ。楠見氏も「排水処理に活用するのはかなり特殊ではないか」と感想を漏らす。排水のフローとしては生物処理を経た上でRO処理を行ない、水道水レベルまで放流水をきれいにする。奥大山工場がここまで純度の高い排水にこだわるのは、工場周辺を流れる細谷川という渓流域に放水するためだ。

細谷川にきれいな水を流すためにRO膜を活用した技術を導入している

「奥大山工場では、水質汚濁防止法や江府町との環境保全協定よりも厳しい自主基準値を設けて排水を管理しています。パナソニックの設備のおかげで、濁った排水の原水が透き通った水になり、自然の水と見分けがつかないほどの水質になって放流されるようになりました。過去、さまざまな工場の排水処理設備の運転管理を経験してきましたが、とにかく安心して見ていられる。“手離れの良い”設備だと実感しています」(楠見氏)

AWS認証の取得に尽力したのが、サントリーホールディングスの内藤寛氏だ。

「我々は2003年から『天然水の森』活動として森林の整備を続けてきました。水資源の大切さ、有効性にフォーカスしながら粛々と活動を継続してきた結果、サントリーグループの強みにまで発展しました。

その観点で見ると、AWSの思想はサントリーグループの水理念と非常に近い。ただしSDGs以降は、環境に対するアプローチもますますグローバル化が進み、国内の基準だけで測ることが難しくなってきました。そのため、グローバルスタンダードできちんとサントリーグループの取り組みを評価してほしいとの思いからAWS認証の取得に向けて動いたのです。

奥大山工場はAWS認証の取得に本当に相応しい場所でした。ストイックな管理基準はもとより、建設当初から強固な地域との連携基盤を築いていましたから。国立公園に隣接していることもあり、地域住民の“きれいな水”に対する意識は以前から高い土地柄。そこにRO処理という高度な排水処理設備の導入も重なり、タイミングが良かったことも奏功しました」(内藤氏)

サントリーホールディングス株式会社
コーポレートサステナビリティ推進本部
サステナビリティ推進部 
部長
内藤 寛 氏

奥大山工場では年に1度のペースで、自治体や有識者、地域住民を交えたモニタリング委員会を開催しており、AWS認証の取得も好意的に受け止められたという。奥大山の取り組みを活かし、2019年12月には「サントリー九州熊本工場」が国内2例目となるAWS認証を取得した。

「我々が先駆けて2つの工場でAWS認証を取得しましたが、こうした取り組みが日本でもっと広がってほしいとの思いがあります。水というのは当たり前が詰まっている製品。無味無臭で透明だからこそ細部までしっかりと管理しなければならない。これからも自然の恵みをそのままお客様にお届けしていきたいですね」(内藤氏)