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辺境ぐらしの魔王、転生して最強の魔術師になる 〜愛されながら成り上がる元魔王は、人間を知りたい〜 作者:千月さかき

第3章

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第58話「元魔王、古い洞窟を見つける」

『ここが「装甲をまといし大鬼(アームド・オーガ)」のにおいが、一番強い場所ですー』


 子犬のガルムは、岩山の頂上近くで立ち止まった。

 岩壁に鼻を近づけて、必死ににおいをかいでいる。


 ここは岩山の山頂近く。

 俺とオデットはナターシャ=トーリアスたちを助けたあと、『アームド・オーガ』の巣を探しに、ここまでやってきた。

 コウモリのディックとクリフ、子犬のガルムも一緒だ。


 海岸にいるナターシャ=トーリアスたちには、夜明けまでに戻ると言ってある。

 今ごろ向こうは、出港の準備をしているはずだ。


「このあたりに『アームド・オーガ』の巣があるのか」

『わうぅ』


 俺はガルムの頭をなでた。

魔力血(ミステル・ブラッド)』で嗅覚(きゅうかく)を強化してるとはいえ、短時間で探し当てるとは、たいしたもんだ。


「においはどこから来てる? 正確な位置はわかるか?」

『岩部の向こうからにおいがするです。このあたりですー』


 ガルムは岩壁の一角に、顔を近づけた。。

 行き止まりに見えるけど──違う。

 細い隙間(すきま)があって、ガルムはそこに鼻をつっこんでる。


「においがそこから出ているとなると、(かく)(とびら)か」

「隠し扉? 魔術的なものですの?」

「珍しい技術じゃないよ。まわりの壁そっくりの扉を作って、魔術で固定──ってのは、俺も前世でやってた」

「確かに、そういうものもありますわね」

「簡単なものなら、魔術具で実現できるからな。男爵家(だんしゃくけ)の家庭教師が、俺に嫌がらせをするのによく使ってた。本棚(ほんだな)を開かないようにしたりとか」

「技術の無駄遣いですわね」

「本人に会ったら伝えておくよ」


 魔術としては、そんなに難しいものじゃない。

 俺も前世では、古城に隠し部屋を作っていたからな。


 中身は、村人の体質や持病なんかを記した記録だった。

 アリスに場所を特定されてからは移動したけどな。


「でも……この先にあるのは、そんな平和的なものじゃなさそうだな」


 俺は手の平を切って、岩肌に血をこすりつけた。

 ただの岩肌なら、『魔力血(ミステル・ブラッド)』は効果がないはずだが……。


「『侵食(ハッキング)』開始──」


 やっぱり、魔術の反応がある。

『古代魔術』じゃない。

 予想通り、教師カッヘルが使っていた、ロック魔術と同じだ。

 これなら解除できる。



 内部魔術──解析完了。

 岩壁への接着魔術(せっちゃくまじゅつ)──および移動用の魔術を確認。


 接着魔術(せっちゃくまじゅつ)の妨害を開始──成功。

 岩壁を移動させる魔術への魔力供給──成功。



 この隠し扉は、決まった人間──あるいは魔物の魔力を注ぐことで、開くようになってる。

 あのオーガの魔力は設定されてるとして、他の魔力は誰のものだろう?


 とりあえず、魔力を注ぐための場所を変更しておこう。

 岩の隙間に魔力を注ぐためのポイントがあるから、それを思いっきり変更して、と。


 ちょっとトラップも仕掛けておこう。

 ここを作った奴が、二度と自分では開けないように。


「悪い、オデット、ちょっと手伝ってくれ」

「わかりましたわ。『身体強化(ブーステッド)』!!」


「「せーの!」」『がるるっ!』



 しゅるっ。



 俺たちが押すと、岩壁が真横にスライドした。


「すごい……開きましたわ」

「この扉は、特定の人間と魔物の魔力を感知して開くようになってた」

「ということは、やはりここは、あのオーガの巣ですの?」

「たぶんな。しかも、魔術師が関わってる」


 俺とオデットは、岩壁の向こうへ足を踏み入れた。

 内部は整備された洞窟(どうくつ)だった。

 天井が高い。これなら、あのオーガも余裕で入れるだろう。


 でも、中は荒れ果ててる。

 地面にはボロボロのヨロイと、折れた剣が落ちてる。

 食べ物の残りかす。動物の骨のようなものもある。


『「アームド・オーガ」のにおいがすごいですー』


 がるる、と、ガルムが不快そうな声をあげる。


「ここがあの『アームド・オーガ』の巣ってことか」

「……獣の骨に、肉に……武器もありますわね」

「机があるけど……()ちてるな。引き出しもこわれて落ちてる」


 机の下には、本の残骸(ざんがい)があった。

 ページはすべてなくなって、表紙だけが残っている。

 これは……。


「『聖域教会 第一教典』か……」


 引き出しの中に、羊皮紙(ようひし)のかけらがある。

 文字がなんとか読み取れる。えっと。


「『八王戦争はまもなく終わる』『再起を期する』『ここに武具を』……?」

「まさか……本当にここは『聖域教会』の隠れ家、ですの!?」

「作られたのは200年以上前だろうな」


 遠い昔『聖域教会』はここの重要性に気づいて、港町を整備していた。

 隠れ家くらい作っててもおかしくない。


「ガルム。ここにあるのは『アームド・オーガ』のにおいだけか? 人間のにおいは?」

『あります。ごしゅじんー』


 わぅん、と、子犬のガルムが()えた。


『ひとり……いえ、ふたりなのですー。「アームド・オーガ」と一緒に、人間がふたり、ここに入っています』

「最近、ここに人が入ってるってさ」


 俺はオデットに、ガルムの言葉を伝えた。


「それが『アームド・オーガ』に、ヨロイと盾を与えた誰かだ」

「誰がですの!?」

「ドロテア=ザミュエルスと……それ以外の誰かだろうな。そのあたりは『魔術ギルド』に調べてもらおう」


 ドロテアと何者かが、ここで『アームド・オーガ』の研究をしていた。

 ドロテアが捕まったあと、オーガを解き放ったか、あるいは、あるじを失ったオーガが暴走した、ってところだろうか。

 このあとは時間をかけて調べる必要があるな。


『ガザノンの町』に戻ったら、アイリスに手紙を出そう。

 盾を手に入れたことと、この場所のことを伝えれば、彼女が『魔術ギルド』に報告してくれるはずだ。そうすれば、調査の手が入るはず。


『聖域教会』の隠れ家が、王家の直轄領にある状況はやばい。

 さっさと片付けてもらおう。


「それでガルム、お前はこれからどうする? 村の人のところに戻るなら、俺の使い魔をやめることもできるけど」

『ついていきますー』


 わぅんわぅん、と、ガルムは可愛い声で鳴いた。


『恩は返すように、と、母から教わりましたのでー』

「わかった。じゃあ、これからもよろしくな」


 頭をなでると、ガルムは勢いよく尻尾(しっぽ)を振った。

 一応、ステータスを確認しておこう。




『ガルム

 種族:リトル・モースドッグ

 レベル:1

 体力:E

 腕力:E

 敏捷:D

 魔力:E

 器用:D


 スキル:嗅覚(きゅうかく)


 従魔スキル:強化嗅覚。知性。高速移動。防御力上昇。再生能力上昇』




『……そういえば、ごしゅじんの荷物からも、「アームド・オーガ」のにおいがしますよ?』

「ああ、奴と戦ったとき、変な結晶体を見つけたっけ」


 俺は革袋から、赤い結晶体を取り出した。


『アームド・オーガ』を倒したら出てきたものだ。

 形は球状。半透明で、表面には黒い線が走ってる。


「これも調べてみるか──『侵食(ハッキング)』」


魔力血(ミステル・ブラッド)』を注ぐと……結晶体の中にある魔術と、魔力の流れが分かる。

 わかるけど……なんだこれ。


 結晶体そのものは、高濃度の魔力を固めたものだ。

 だけど、なかに妙な魔術が仕込んである。



 内部魔術──解析完了。

 魔術構造──『凶暴化(バーサーク)』と判明。

 解析続行──完了。



「その結晶体はなんでしたの?」

「簡単に言うと、生物を強化して、暴走させる魔力結晶だ」

「──暴走!?」

「これを取り込んだ生き物は凶暴化する代わりに、魔力と生命力が強くなる。要は、リスクありのクラスアップアイテムって感じだ」

「正気を失う代わりに、強くなるアイテムですの……?」

「あの『アームド・オーガ』もこれを取り込んで、『オーガ・改』とか『セカンド・オーガ』とか、そんな生き物になってたんだろうな」

「道理であのオーガ、大きすぎると思いましたわ」

「これも『魔術ギルド』に提出した方がいいんだろうけど……」


 ……いじってみたいな。この素材。

 この施設のものはすべて『魔術ギルド』に提供するんだから、ドロップアイテムくらいもらってもいいよな。


「生物を凶暴化させる素材なんて……危険すぎますわ」

「だよな。オデット、すごくいいこと言った!」

「そ、そうですか?」

「だから、とりあえず浄化しとこう」

「え? あれ? ユウキ?」 

「俺の『魔力血』は病原体を消せるから、同じ要領で『凶暴化』の効果だけを解除できるはずだ」


 手の平に『魔力血(ミステル・ブラッド)』を注ぎ、結晶体を浸していく。

 結晶体が淡い光とともに、浄化された。

 表面にあった黒いラインが消えて、きれいな赤色になっている。


 これでもう、取り込んでも凶暴化はしないはずだ。


「もう、ただの高濃度魔力の結晶体だ。生き物が食べると、普通にパワーアップする(たぐ)いの」

「あなたの『魔力血』を使ってしまったら、『魔術ギルド』に提出できないじゃありませんか……」

「いやぁ、うっかりしてた。こまったなー。どうしよう」

「なんで棒読みなのですか、ユウキ」

「いつまで保存できるかもわからないし、使った方が──」


 ぺたぺた。ぺた。


 足元を見ると、ガルムが俺の靴を叩いてた。


『わぅわぅ!』

「欲しいのか? ガルム」

『つよくなれるのでしょう? 欲しいです!』

「んー」


 俺はガルムを抱き上げて、もう一度ステータスを確認した。

 手で触れて、ガルムの体内魔力と、俺の『魔力血』で満たした結晶体の魔力を確認する。


 前世で村人や、家畜(かちく)の体調管理をやってた知識で考えると……。

 ……大丈夫そうだな。


 ガルムは俺の使い魔で、俺の魔力になじんでいる。

 でもって、この結晶体は俺の『魔力血』を注いで浄化している。


 もう一度『侵食(ハッキング)』すると──やっぱり完璧に別物になってるな。

 俺の使い魔用の魔力源に変化してる。

 これなら、ガルムの身体にもなじむはずだ。


「……ゆっくり消化しろよ?」

『わーい』

「ちょ、ユウキ?」

「大丈夫だ」


 俺は『魔力血』にひたした結晶体を、手の平に載せた。

 ガルムがそれを小さな舌で、ぺろり、と舐めた。


 すると──すぅ、と、結晶体が溶けていく。

 俺の魔力と一体化したらしい。そして、そのままガルムの中へ入っていって。


『わぅわぅわぅわぅ!!』


 ガルムの身体が、赤く光った。

 子犬だったガルムが、少しずつ、大きくなっていく。

 そのまま、ひとまわり成長して──




『ガルム

 種族:ハイ・モースドッグ

 レベル:10

 体力:C

 腕力:C

 敏捷:B

 魔力:B

 器用:C


 スキル:嗅覚。


 従魔スキル:超嗅覚。知性。超高速移動。防御力上昇。再生能力上昇。ダッシュアタック』





『進化しましたー』

「よっしゃ」

「よっしゃじゃありませんわよ……」


 オデットは額を押さえてる。


「『アームド・オーガ』をあっという間に倒して、巣と『聖域教会』のアジトを見つけて、使い魔を進化させるって……あなたは一晩でどれだけのことをしてるんですの!?」

「悪い。面白そうな素材があったから」


 魔術師の悪いくせだよな。

 自分の研究分野で使えそうな素材を見つけると、ついいじりたくなるのは。


 この『高魔力結晶』は、生き物の生命力と魔力を高める効果がある。

 これを研究して、俺の『魔力血(ミステル・ブラッド)』と組み合わせれば──



 俺以外の人間を、不老不死にできるかもしれない。



「それと、ガルムを進化させれば、オデットの護衛にできると思ったんだ」

「…………どうしてわたくしに?」

「また『アームド・オーガ』レベルの敵と出会わないとも限らないし、それに、ガルムの名付け親はオデットだろ?」

「も、もう……わかりました!」


 オデットは頬をふくらませて、言った。


「確かに、ガルムさんを進化させるのも、『アームド・オーガ』がドロップしたものを調べるのも重要ですものね……わかりました。それより、そろそろ戻りましょう」

「そうだな。ナターシャ=トーリアスを待たせてる」

「ですわ。これから行く辺境領のお姫さまですもの。失礼のないように……って、あら?」


 不意に、オデットが足元を見た。

 片足を上げて、なにかを確認しているようだ。


「どうした? オデット」

「なにか固いものを踏んだような……あ、これですわね」


 オデットは地面から丸いものを拾い上げた。

 金属製の……コインだ。


「銅貨、ですわね。見たことないものですわ」

「王国のものじゃないのか?」

「地方領主が時折、自分の領土のみで使える通貨を鋳造(ちゅうぞう)することはありますが、それにしては出来が良すぎるような……?」

「ここに来た魔術師の持ち物か……それとも、200年前のものか……」

「回収しておきますわ。なにかの手がかりになるかもしれません」


 オデットはコインを、革袋に入れた。

 洞窟(どうくつ)の中をもう一度チェックしてから、俺たちは外に出て、隠し扉を閉じた。


 隠し扉をロックしていた魔術は、俺が書き換えた。

 部屋の持ち主が来ても、中に入ることはできないはずだ。


「長い夜でしたわね」

「船に戻ったら一眠りしようか」


 内海の東側から、陽が昇りはじめている。


 それから俺とオデットはゆっくりと岩山を(くだ)り、船のところへ戻ったのだった。

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