先日アップしたユーチューブの 「ヤメ判弁護士 喜多村勝徳のWEB講座」 の第1章において、「法的拘束力のない約束とはどんなものか」 と題して、昭和10年のカフェー丸玉事件判決というものを紹介しました。
これはほとんどの民法の教科書に載っている有名な判例ですが、本ブログで紹介したことはなかったので、若干の補足説明をしたいと思います。
大審院の判決によれば、問題となった事案とは、ある男性が、大阪市南区道頓堀「カフェー」丸玉において女給として勤めていた女性と遊興の上、昭和8年1月ころから昵懇となり、同年4月ころ、その歓心を買うため、将来当該女性が独立して自活するための資金として400円を与える約束をしたというものでした。なお、「大審院」は最高裁判所、「カフェー」はクラブ、「女給」はホステスと理解して貰えればよいと思います。
男性が約束したお金をくれないので、女性が支払を求める訴訟を提起したところ、原審が女性の請求を認容したので、男性が大審院に上告しました。大審院は、次のとおり判示し、原判決を破棄して事件を原審に差し戻しました(なお、原文は旧字旧仮名の文語体ですが、ここでは新字新仮名の口語体で表記します)。
上告人が被上告人と昵懇になったのは、被上告人が勤めていた「カフェー」において比較的短期間同人と遊興した関係にすぎず、ほかに深い縁故があってのものではない。であるなら、このような環境において、たとえ一時の興に乗じて被上告人の歓心を買うために判示のような相当多額な金員の供与を約束したとしても、これをもって被上告人に裁判上の請求権を付与する趣旨に出たものと速断することは相当でない。むしろ、そのような事情の下における約束は、諾約者が自ら進んでこれを履行するときは債務の弁済であることを失わないが、要約者においてその履行を強制することはできない特殊の債務関係を生ずるものと解するのが、原審の認定する事実に沿うものというべきである。原審のように、民法上の贈与が成立したと判断するためには、贈与意思を基礎づける事情につき更に首肯するに足る格段の事由を判示する必要がある。したがって、原審が何ら格段の事由を判示することなく、安易に右契約に基づく被上告人の本訴請求を容認したのは、未だもって審理を尽くさないものか、少なくとも理由を完備したものと言うことはできない。
この判決によれば、当事者間の約束のうちには、契約として法的拘束力を有するものとそうでないものがあることになります。契約というにはそれなりのしっかりしたものでなければならないということです。
このような考え方は、何も我が国に限ったことではありません。例えば、英米法では、契約とは「法が履行を強制する約束」であるとか、「法がその違反に対して救済を与える約束又は法律上の義務の生ずることを法が認める約束」であるなどとされているようです。
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この記事に関連して、YouTube のWeb講座でも解説しています。
ご参考にしていただければ幸いです。
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弁護士 喜多村 勝徳
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