琉球と奄美の“架け橋”という大役を担って、

晴天に、赤く大きな2つの帆を掲げて大海原へ。

琉球王国時代から伝わる「マーラン船」という木造船をご存知ですか?

18世紀初頭に中国大陸から伝わった、真っ赤な2つの帆が特徴の交易船です。

何トンもの生活物資を積載し、一度に子牛200頭を運んだという説もあるほど。

明治、大正から戦前にかけて、沖縄本島と奄美を結ぶ、

人々の生活には欠かせない輸送手段でしたが、

陸路の発達によって、1960年頃にその姿を消しました。

明治期に急速に普及しましたが、

木造船の技術を伝える船大工が希有の存在になっている昨今、

当時から伝わる精巧な技術で、沖縄で唯一、

マーラン船を後世に伝え続けているのが、

うるま市平安座島(へんざじま)にある「越来(ごえく)造船」です。

今回、造船所内を案内してくれたのが四代目の越來勇喜さん。

生まれた時から身の回りには、船の材料である木材があり、

「廃材をおもちゃにして遊ぶうちに、自然と木目が読めるようになりました」

と、幼少期から職人としての“素養”が育まれていきました。

高校卒業後は船大工の道へ進み、現在は父親で三代目の越來治喜さんの手元(弟子)として活躍。

木造船の技術を承継する貴重な若手人材の1人です。

こちらは船の材料となる杉の丸太を製材したもの。

マーラン船に使われる木材は、宮崎県日南市で採れた、スギの一種・飫肥杉(おびすぎ)です。

丈夫で耐久性に優れていることから、西日本で作られている木造船のほとんどが飫肥杉を使用しています。

越來さん自ら宮崎の山中に入り、自分の目で木を選ぶことから、造船造りは始まります。

使用する木材は真っ直ぐなものばかりではありません。

曲がっている部分は船の曲線部分として使用します。

実は、曲がった木を見つけるのがこれまた大変!

伐採を行う山師にも在り処が分からないので、

理想の木材を見つけるまで1週間以上滞在することもしばしば。

そのように苦労して仕入れた材木は、

割れを防ぐために全てに波釘(なみくぎ)を打って、1年以上乾燥させ、やっと船の材料となります。

船の一番の目的は、人と物資を“安全に”運ぶこと。

わずかな妥協や見逃しも禁物なのです。

次に指矩(さしがね)を使って、作りたい大きさや形になるように慎重に線を引いていきます。

勇喜さん曰く、船大工にとって必要なものは「指矩」と「柔軟な頭」。

特に工具の指矩は命なのです。

ほんのわずかでもゆがんでいたら、水平に浮かぶ船は作れません! 繊細ですね。

勇喜さんと指矩の相性も抜群で、10年近く使っている自分専用の指矩には、

「どんなに正確と言われているものよりも信頼がある」といいます。

ほかにも、一隻のマーラン船には、思わず膝を打ってしまうような先人たちの知恵と工夫が。

採寸された木は、隙間をなくす“摺(す)り合わせ”や“木殺し”といった、木を密着させる技術を施してつなぎ合わせます。

「摺り合わせ」は、板と板を合わせた時のわずかな隙間にのこぎりを引き、より密着させる技。

「木殺し」は、つなぎ合わせた部分を叩いて板を圧縮させ、

元の形状に戻ろうとする木の特性を利用して密着度を上げる技です。

マーラン船は一般的な大きさで10m、大きな船だと30mにもなります。

木材、採寸、つなぐ…先人たちが知恵を絞って築いた高い技術で、

安全で丈夫なマーラン船が造られていきます。

越来造船は2014年、帆船としては戦後初めてのマーラン船「希進丸」を建造しました。

青い海に映える赤と黒のフォルムがとっても鮮やかです。

普段は、海中道路にある海の文化資料館で展示されています。

この日は、特別に行われる見学会。海に浮かべてマーラン船の素晴らしさを伝えました。

中国から伝わった技術を活かしながらも、船内は和船の造りに近いのが希進丸の特徴。

船体は深さが1m以上、奥行きもあり、もちろん船頭さんが寝泊りする部屋も。

かつて、たくさんの牛や馬を運んでいた話にも納得です。

また、船の先にある“目”は船籍や船の種類を表わしていて、

平安座島のマーラン船はまん丸で少し寄り目。とても愛嬌のある表情ですね。

ほかに、楕円形は与那原(よなばる)など“目”で地域が分かるそうです。

三代目の越來治喜さん(左)と四代目・勇喜さん(右)。

治喜さんは、2005年にうるま市指定無形民俗文化財(マーラン船造船技術保持者)としてその技術を認定されました。

現在、ただ1人のマーラン船造船技術保持者。貴重な存在です。

そんな治喜さんを父として、棟梁として尊敬し、傍らで日々奮闘する勇喜さんは

「棟梁の頭の中の展開図が理解できていないと、作業はスムーズに進みません。

作業に合わせて適切な助言と合理的な考え方ができないと手元にはなれないのです」としみじみ。

息子だからこそできるフォローの仕方と、

木造船の技術を最大限に発揮できる親子ならではの信頼関係が、今も船造りを支えています。

受け継いできた木工の技術を活かして、家具や小物などの制作も手掛ける勇喜さん。

勇喜さんが作る子ども用の玩具は、防腐剤や塗料を使っていないので、安心・安全。

自然の木ならではの温かみがあります。

越来造船では、琉球王朝時代からの高い造船技術を見学することができます。

機械化や自動化により発展する現代の裏側で、減少しつつある伝統文化。

ここには、その伝統を今もなお伝え、続けようとする人がいます。

琉球王朝時代からの造船技術を後世に伝える 合資会社 越来造船

合資会社 越来造船

所在地/うるま市平安座417-5

電話/098-977-7421※見学の際は要連絡

http://goekuzousen.ti-da.net/