『圧力(あつりょく)』という言葉は、物理だけでなく日常生活でも使われていますね。
「次のテストは20点アップしろってプレッシャー(=圧力)かけられたー」なんて言っていませんか?
こういう発言を聞くと、『圧力』も力の一種かな?と思ってしまいますね。
でも、物理学的には『圧力』は重力(じゅうりょく)や弾性力(だんせいりょく)のような力そのものではありませんよ。
『圧力』とは、1 m2あたりにかかる力(力の種類は何でも良い)のことなんです。
なぜこんな定義が生まれたのでしょう?
そして、空気から受ける圧力は『大気圧(たいきあつ)』、水の重さによって生じる圧力は『水圧(すいあつ)』と呼ばれているんですよ。
では、『圧力』『大気圧』『水圧』について見ていきましょう。
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圧力
圧力とは
物体を持ったとき、物体の面によって力のかかり方が違う、と感じることがありますね。
辞書のように分厚い本をクッションの上に置いてみますよ。
同じ本であれば重さも同じなので、本がクッションを押す力の大きさは同じですね。
ところが、面積が大きい表紙よりも、面積が小さい背表紙を下にするとクッションの沈み具合は大きくなります。
これは、面積が小さい背表紙の方が、本の重さを集中的に受けるからですね。
図1 本の置き方によるクッションの沈み具合の違い
昔の科学者たちは、このような面積による力のかかり方の違いを数値で比べられるようにしたい!と思いました。
そこで、『圧力』というものを考え出したのですね。
では、圧力はどのように求めるのでしょうか?
圧力の単位と公式
圧力とは単位面積1 m2(平方メートル)あたりに何N(ニュートン)の力を受けるかということで、P(圧力”pressure”に由来)という記号を使いますよ。
圧力の単位は[N/m2](ニュートン毎平方メートル)または[Pa](パスカル)と表します。
つまり、1 N/m2=1 Paとなるわけです。
天気予報でよく聞く[hPa](ヘクトパスカル)は100 Paにあたりますよ。
面積S[m2]に垂直方向に力F[N]がかかるとき、圧力P[N/m2]はこうなります。
P=\(\frac{F}{S}\) [N/m2]
図2 面積S[m2]が受ける力F[N]
圧力Pは面積Sに反比例していますね。
なので、同じ力でも受ける面積が小さい方が圧力が大きくなりますよ。
では、100 Nの力が縦20 cm×横20 cmの正方形の板と縦10 cm×横50 cmの長方形の板にかかるとします。
どちらの圧力が大きいでしょうか?
図3 正方形の板と長方形の板にかかる圧力
正方形の面積は0.2×0.2=0.04 m2、長方形の面積は0.1×0.5=0.05 m2ですね。
なので、正方形の板にかかる圧力=100÷0.04=2500 N/m2=2500 Pa
長方形の板にかかる圧力=100÷0.05=2000 N/m2=2000 Pa
面積が小さい正方形の板の方が、圧力が大きくなっていますね。
このように、圧力を計算すれば、同じ大きさの力を加えても面積によって力のかかり方が違う、ということを数値で比べられるわけです。
画びょうのようなピンは、ピン先を針にすることで力が働く面積をとても小さくしています。
つまり、圧力が大きくなる形なので、手で押すくらいの弱い力で壁に刺すことができるのですね。
逆に、スキーやスノーボードの板は、雪に接する面積を人間の足よりもかなり大きくしています。
圧力を小さくすることで、雪にめりこむのを防いでいるのですね。
さて、圧力の単位[Pa]ですが、この単位に関わる『パスカルの原理』について見ておきましょう。
圧力とパスカルの原理
ゴム風船を膨らませるときのことを思い出してくださいね。
風船の口から空気を吹き込むと、風船全体が上下左右均等に膨らみます。
吹き込んだ空気による圧力は、風船の口にしか加わっていませんね。
ところが、吹き込んだ空気の圧力は、風船の中の空気、それから風船のあらゆる点へと伝わっていきますよ。
これが『パスカルの原理』です。
図4 風船が膨らむ様子
もう少し物理学的に『パスカルの原理』を書くと、
- 密閉容器中の流体の1点に圧力を加えると、容器の形に関係なく流体のあらゆる点に同じ大きさで圧力が伝わる
この原理は、フランスの科学者ブレ―ズ・パスカルさんが発見しました。
『流体(りゅうたい)』とは、気体と液体のことを指します。
次は、気体から受ける代表的な圧力『大気圧(たいきあつ)』について見ていきましょう。
大気圧
大気圧とは
地球を取り巻く厚さ約10 kmの空気のことを「大気」と言います。
この大気、いわゆる空気があるおかげで、私たちは呼吸できるわけですね。
大気の中では、膨大な数の分子が飛び回っていますよ。
分子は飛び回りながら地上の色々な物体に衝突します。
分子が物体に衝突するときには力が加わりますよ。
1つの分子が衝突して加える力はほぼ0ですが、大気中の膨大な数の分子が衝突すると、とても大きな力になりますね。
大気中の分子が衝突して受ける力を1 m2あたりの圧力として計算したものが、『大気圧』です。
そして、『パスカルの原理』は、大気圧でも成り立ちますよ。
部屋の中のあらゆる点の空気とあらゆる面に大気圧が働きます。
壁には横向きに、床には下向きに、天井には上向きに大気圧を受けているのですね。
大気圧の大きさは、どれくらいなのでしょうか?
大気圧の大きさ
地表面で受ける平均の大気圧の大きさは、
P0=1.013×105 N/m2=1.013×105 Pa=1013 hPa
であることが分かっています。
つまり、これが1 atm(気圧)で、1 m2あたり約105 Nの力を受けることを表していますね。
質量1 kgの物体が受ける重力が約10 Nです。
すると、105 Nの力は10000 kg=10 t(トン)の物体が受ける重力と同じですね(1000 kg=1 t)。
なので、1 atmは1 m2の面積の上に10 tの物体を乗せたときに受ける圧力になるわけです。
超大型のアフリカゾウ1頭が1m2の面積の上に乗っているようなものですね。
図5 大気圧
それから、高い山の山頂では、大気圧は小さくなりますよ。
標高0 m地点にかかる大気よりも、標高5000 m地点にかかる大気の厚さの方が5000 m少ないですね。
なので、大気圧も小さくなるんですよ。
山の麓で密封された食品の袋が、山頂でパンパンに膨れているのを見たことがありますか?
内側から袋を押す気圧は山の麓の大気圧と同じですね。
でも、山頂での大気圧は小さいので、袋を外側から押す気圧が内側から押す気圧よりも小さくなりますよ。
なので、袋がパンパンに膨れてしまったのですね。
図6 袋の内側と外側にかかる気圧
次は、液体の代表である水から受ける圧力『水圧』について見ていきましょう。
水圧
水圧とは
水中で受ける圧力を『水圧』と言いますよ。
簡単に言えば、水の重さによる圧力です。
「重さ」とは物体に働く重力の大きさのことで、単位は[N]ですよ。
つまり、重さ[N]=重力の大きさ[N]=質量[kg]×重力加速度[m/s2]なので、覚えておいてくださいね。
さて、水深(すいしん)が深い方が多くの水の重さを受けるので、水圧は大きくなりますよ。
では、大気圧P0[N/m2]の大気の下で、水深h[m]での水圧P[N/m2]がいくらになるか求めてみましょう。
水圧の公式
底面積が1 m2で深さh[m]の水の柱を考えましょう。
この水が底面1 m2を押す圧力が求める水圧Pになりますよ。
つまり、P=大気圧P0+底面1 m2を押す水の重さ、となるわけですね。
底面積を1 m2としたので、水の重さの値がそのまま水圧になります。
図7 底面積が1 m2で深さh[m]の水の柱と底面にかかる水圧
大気圧は分かっているので、底面1 m2を押す水の重さ(重力の大きさ)を求めましょう。
水の体積は1 m2×h[m]=h[m3](立方メートル)なので、h[m3]の水の重さを考えます。
水の密度をρ[kg/m3](キログラム毎立方メートル)としますよ(ρはローと読みます)。
密度とは、単位体積あたりの質量のことですね。
単位体積が1 cm3(立方センチメートル) の場合は、密度は1 cm3あたりの質量になります。
なので、質量=密度×体積というわけですね。
そうすると、水の質量[kg]=ρ[kg/m3]×h[m3]=ρh[kg]ですよ。
重力加速度をg(重力”gravity”に由来)とすれば、
この質量の水に働く重力の大きさが、水の重さ[N]=ρh[kg]×g[m/s2]=ρgh[N]ですね。
これより、水深h[m]の地点での水圧Pは、
P=大気圧P0+ρgh [N/m2]
水圧は水深h[m]に比例するので、水深が深いほど水圧は大きくなるというわけですね。
穴を空けたペットボトルに水を入れてみます。
穴がボトルの底に近いほど、水が出る勢いが強くなりますよ。
これは、ボトルの底に近づくほど水深が深くなって水圧が大きくなるからですね。
図8 穴を空けたペットボトルから出る水
水圧の式は丸暗記せず、いつでも自分で導けるようにしておきましょう。
図7のように、底面積が1 m2で深さh[m]の水の柱を描くと良いですよ。
それから、水圧は下向きだけにかかるわけではありません。
水中にある物体は、全方位つまり横向きや上向きの圧力も受けていますよ。
図9 水中にある物体に働く水圧(矢印の長さは水圧の大きさを表す)
例題で理解!
(2)圧力が1.5 Paのとき、面積30 m2の板に対して働く力F[N]を求めよ。
圧力[Pa]=力[N]/面積[m2]の公式を理解していれば解けますね。
(1)P=80/50=1.6 Pa
(2) 力=圧力×面積なので、F=1.5×30=45 N
次は、水圧を求める問題を解いてみましょう!
容器の底面にかかる圧力の大きさP[N/m2]を求めよ。
ただし、大気圧P0=1.0×105 N/m2、水の密度ρ=1.0×103 kg/m3、重力加速度g=9.8 m/s2とする。
図10 例題2の容器
問題文に出てくる数値が有効数字2桁なので、答えも有効数字2桁にしてくださいね。
<圧力の公式を使う>
(容器の底面にかかる圧力)=(大気圧)+(水の重さによる圧力)となります。
大気圧は与えられているので、水の重さによる圧力を求めましょう。
図11 容器の底面にかかる圧力
圧力の公式から、(水の重さによる圧力[N/m2])=(水の重さ[N])÷(底面積[m2])ですね。
そして、(水の重さ[N])=(水の質量[kg])×(重力加速度g[m/s2])なのですが、水の質量は与えられていませんよ。
ですが、容器に入った水の体積と水の密度は分かるので、
(水の質量[kg])=(水の密度[kg/m3])×(水の体積[m3])=(1.0×103)×10×20=2.0×105
なので、(水の重さ[N])=9.8×2.0×105ですね。
すると、(水の重さによる圧力[N/m2])=9.8×2.0×105÷10=1.96×105なので、
(容器の底面にかかる圧力)=1.0×105+1.96×105=2.96×105=3.0×105 N/m2
<水圧の公式を使う>
水深h[m]の水圧P=P0+ρghでしたね。
P0=1.0×105 N/m2、ρ=1.0×103 kg/m3、g=9.8 m/s2、h=20 mを代入すると、
P=1.0×105+(1.0×103)×9.8×20=1.0×105+1.96×105=2.96×105=3.0×105 N/m2
どちらの方法で解いても、当たり前ですが答えは同じになります。
水圧の公式を丸暗記しなくても、圧力の意味が分かっていれば問題は解けるということですね。
それでは、理解度チェックテストにチャレンジしましょう!
圧力と大気圧と水圧理解度チェックテスト
【問1】
水深10 mの水圧は何Paか求めよ。
ただし、大気圧P0=1.0×105 Pa、水の密度ρ=1.0×103 kg/m3、重力加速度g=9.8 m/s2とする。
まとめ
今回は、圧力と大気圧と水圧についてお話しました。
圧力は、
- 1 m2あたりにかかる力のことでPと表す
- 単位は[N/m2]または[Pa]
大気圧は、
- 大気から受ける圧力
- 地表面で受ける平均の大気圧P0=1.013×105 N/m2
水圧は、
- 水中で受ける圧力
- 水深h[m]の水中で受ける水圧P=P0+ρgh(P0:水面が受ける大気圧、ρ:水の密度、g:重力加速度)
水圧を求める式は、自分で導けるように練習しましょう!
言葉の意味もしっかり理解できるまで、何度も記事を読んでくださいね。