あちこち過小評価

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シャープさんさんの作品:あちこち過小評価

日陰に咲く花は美しいと思いがち、 @SHARP_JPです。過小評価という残念な現象が、さまざまな世界にはある。知られざる名曲とか死後に見出される絵とか、それは目利きによって価値が定められる芸術の世界でよく目にするが、サラリーマンが吐く会社への愚痴だって、たいていは「おれの仕事は会社から過小評価されている」という印象に基づくわけで、そう考えると主観的な過小評価はいたるところにある。私も給与明細を見るたびに、主観的な過小評価への苛立ちがむくむくと立ち上る。


ただし会社というものは、そこで働く人を過小評価してその上前をはねることが利益の源泉だから、会社員にとって「自分が過小評価される設定」はデフォルトなのだろう。すべての人の仕事を過大に評価し、多めに給料を払えば、その会社はたぶん存続できない。それが行き過ぎれば搾取という、今度は人間の尊厳に関わる問題になるのだが、いずれにしろ私たちのほとんどは、うっすら過小評価されながら生きるのだ。もやもやするけど、リアリティはある。


一方、過小評価は自分の仕事や作品に対する葛藤だけを指すものでもない。彼や彼女の歌声はもっと売れるべきだとか、推しの良さがまだ知られていないだとか、あの作品が受賞しないのはおかしいだとか、他人やモノの不遇を嘆く場合もある。そして私には、常日頃から過小評価を憂うモノがある。


ふとん乾燥機だ。


ふとん乾燥機はいい。ふとんを外で干せない代わりに、室内で乾燥させる。熱によってダニを死滅させ、ふとんを清潔に保つ。機能的な効果はそこにある。だがふとん乾燥機には、ふとんをふわふわふかふかにするという、機能を超えた効果があるのだ。潜りこむ瞬間から、もうほかほかなのである。ふとんが。



ちょこっとマンガのつめあわせ(トケイ 著)


ふとんへの愛を語る人は多いだろう。この作品を読んでうなずく人もたくさんいるにちがいない。私も同意する。ふとんは最高だ。寝苦しい日も凍えるような日も、うれしい夜も悲しい夜も共にして、自分に馴染んだふとんこそ、世界でいちばんの場所だと言える。だからこのマンガのように、電車でも職場でも帰り道でも、「ずっとお布団にいたい」という願いは、まさにわれわれの夢だろう。


だがふとんへの愛に続けて、ふとん乾燥機の魅力を語る人がどれほどいるだろうか。「ずっとお布団にいたい」と宣う人のうちに、ふとん乾燥機を取り出す者が何人いるだろうか。


ここを読む人で、ふとん乾燥機を使用している人はおそらくわずかだろう。家電メーカーで働く私には経験的にわかる。ふとん乾燥機こそ、過小評価された家電だ。私は、私よりふとん乾燥機の製造に関わる社員こそ、もっと評価すべきだと思うほどに、ふとん乾燥機の過小評価を嘆く者なのである。


おふとん、最高。ふとん乾燥機をかけたおふとん、至高。どうかだまされたと思って使ってみてほしい。過小評価されて悔しい夜も、ふかふかでほかほかのふとんが、あなたをそっと包んでくれるから。


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コミチ オリジナル 11時間前
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